「テンパる」「リーチ」「連チャン」は麻雀由来?日常語になった言葉を史料でたどる

「テンパる」「リーチ」「連チャン」「アンパイ」「メンツ」。日常会話で聞くこれらの言葉には、麻雀で使われてきた語が含まれています。辞書や古い出版物をたどると、麻雀での意味を保ったまま比喩になった語もあれば、意味が大きく変わった語、似た音の別語と混同しやすい語もあります。

麻雀語から日常語へ――7語を史料で整理

言葉麻雀での意味日常語での使われ方史料上のポイント
テンパる聴牌になる切羽詰まる、余裕を失う1931年に「聴牌」の比喩義、1997年に麻雀外の「テンパっている」
リーチ聴牌を宣言する役成立・達成まであと一歩1954年の麻雀入門書、1997年に麻雀外の「リーチかかっている」
連チャン同じ親が続く同じことが続く1933~34年に麻雀用法の実例、辞書が比喩義への転用を記載
アンパイ相手に上がられない安全牌危険が少ない人・選択肢辞書が麻雀義から比喩義への転用を記載
メンツ麻雀をする人員/牌の組み合わせ集まりの顔ぶれ/体面「体面」と「顔ぶれ」は経路を分けて考える必要がある
パイ麻雀牌「市場のパイ」など市場の「パイ」は英語 pie の比喩
ノーテン聴牌していない状態麻雀外では限定的一般語化を示す有力な用例は今回確認した資料では乏しい

「テンパる」は「聴牌」から生まれた

「テンパる」は「聴牌(テンパイ)」を動詞化した語です。麻雀の聴牌は、必要な牌があと1枚入れば上がれる状態を指します。精選版『日本国語大辞典』も「テンパる」を聴牌の動詞化として扱い、麻雀で聴牌になる意味と、俗に切羽詰まる意味を載せています。

1931年には「準備が整う」という比喩があった

精選版『日本国語大辞典』の「聴牌」には、1931年の『モダン語漫画辞典』が早い用例として挙げられています。そこでは麻雀の上がり直前という意味に加えて、「十分に用意が整うこと」への転用も記録されています。国立国会図書館の書誌でも『モダン語漫画辞典』は1931年刊行と確認できます。

現在の「テンパる」は焦りや混乱を表すことが多いため、1931年の「用意が整う」という意味とは印象が異なります。共通しているのは、どちらも「あと一歩で結果が出る段階」に近い点です。

1997年には「限界直前」の学生語として使われた

早稲田大学文学部国語学研究班が編集した1997年版『早稲田大学キャンパス言葉辞典』には、「テンパっている」が収録されています。意味は、あと一回欠席すると単位が得られなくなる状態です。同辞典は麻雀用語からの転用と記し、類義表現に「リーチかかっている」を挙げています。

この用例では、準備完了よりも「もう後がない」という切迫感が前面に出ています。麻雀の上がり直前という位置関係が、日常生活の限界直前へ移された例として読めます。

2001年には精神的な動揺を表す用例が確認できる

JapanKnowledge「日国友の会」には、2001年刊『風俗ゼミナール お客編』の「頭がテンパっている」という用例が投稿されています。投稿時の語釈は、精神的な圧力を受けて動揺するというものです。

確認できる資料を年代順に並べると、聴牌の「上がり直前」から「準備が整う」、さらに「限界直前」「精神的な切迫」へ意味が広がった経路をたどれます。2001年は誕生年を表す数字ではなく、その用法を確認できる年代の一例です。

「リーチ」は1950年代の麻雀本に現れる

現在の麻雀では、立直(リーチ)は門前で聴牌したときに宣言して成立させる役です。日本プロ麻雀連盟の採用役一覧でも「立直(リーチ)」として掲載されています。

国立国会図書館には、天野大三著『リーチ麻雀を始める人のために――リーチ麻雀の遊び方とリーチのかけ方』が所蔵されています。刊行年は1954年です。少なくとも1950年代前半には、「リーチ麻雀」が書名になるほど定着していました。

1997年版『早稲田大学キャンパス言葉辞典』では、単位取得が危うい状態を表す「リーチかかっている」が「テンパっている」の類義表現として記録されています。麻雀の「上がりまであと一歩」という位置が、日常語では「結果が出る直前」「限界の直前」に置き換わっています。

カタカナの「リーチ」には英語 reach に由来する語もあります。麻雀の立直と英語由来のリーチは、個々の用例ごとに区別する必要があります。

「連チャン」は親の連続から「同じことが続く」へ

麻雀の「連荘(レンチャン)」は、親が上がるなどして同じ親が続くことです。精選版『日本国語大辞典』は、広津和郎『風雨強かるべし』(1933~34年)を早い実例として挙げています。

同じ辞書には、麻雀の意味から転じて「同じことが続く」という俗語の意味も載っています。「会議が連チャン」「飲み会が連チャン」といった現在の使い方は、麻雀で同じ親番が続く状態を、出来事の連続へ広げたものです。一般語側の最古級年代は、今回確認した公開資料からは絞り込めていません。

「アンパイ」は安全牌の略

「アンパイ」は「安全牌」の略として使われます。麻雀の安全牌は、捨てても相手に上がられる危険がない牌を指します。

デジタル大辞泉は、安全牌について麻雀の意味から転じて「危険がなく扱いやすいこと、またそのような相手」のたとえと説明しています。精選版『日本国語大辞典』も「益もなく害もない人や事柄」の比喩義を載せています。現在の「無難な選択」「危険の少ない相手」という感覚は、麻雀の安全性を人物や判断へ移した用法です。

一般語として広がった正確な時期は、今回確認した公開資料では未確定です。語義の派生関係と一般化の年代は分けて扱う必要があります。

「メンツ」は三つの意味を分けて考える

「メンツ」は語源を一括りにすると混乱しやすい語です。辞書には、中国語由来の「体面」、麻雀をするための「人員」から広がった「顔ぶれ」、麻雀で3個一組となる牌の「面子」という意味が並んでいます。

「面子を立てる」のメンツは中国語の体面

精選版『日本国語大辞典』では、「体面・面目」を表すメンツの早い実例として獅子文六『信子』(1938~40年)が挙げられています。世界大百科事典も、中国語の「面子」が顔・体面を意味し、日本語でも同じ意味で使われるようになったと説明しています。

「面子を立てる」「面子がつぶれる」のメンツは、この中国語の「体面」に属します。麻雀の人員を意味するメンツとは分けて考えるのが適切です。

「今日のメンツ」の流れは麻雀との関係を追える

JapanKnowledge「日国友の会」には、1962年刊『麻雀の入門書』から「メンツがあるかしら」という用例が投稿されています。ここでのメンツは麻雀をする人員です。

同サイトには、1981年9月の『スイングジャーナル』に掲載された「錚々たるメンツ」という用例もあります。こちらはジャズ演奏家の顔ぶれを指し、麻雀から離れた集まりの参加者という意味です。少なくとも1962年の麻雀人員と1981年の一般的な顔ぶれという二つの用例を比較できます。

「市場のパイ」は麻雀牌とは別系統

麻雀の「牌」は中国語の pái に由来し、日本語では「パイ」と読みます。一方、「市場のパイを奪う」「パイを分け合う」のパイは英語 pie に由来する比喩です。英和辞典でも pie には金銭などの「取り分」という意味が載っています。

同じ「パイ」という音でも、麻雀牌と市場の取り分は別の語源を持ちます。「麻雀で使う語だから、同音の日常語も麻雀由来」という結びつけ方は避けた方が安全です。

「ノーテン」は今も麻雀の専門語としての性格が強い

日本プロ麻雀連盟の用語辞典では、「ノー聴(ノーテン)」を聴牌していない状態と定義しています。今回確認した辞書・用例資料では、「テンパる」「連チャン」「アンパイ」のように麻雀外へ広く定着したことを裏づける材料は限られていました。

麻雀語には、日常語へ広く入った語と、専門語として使われ続ける語があります。ノーテンは後者の例として位置づけられます。

昭和の出版物から麻雀語の広がりを見る

語の変化を考えるとき、麻雀そのものがどの時期に出版文化へ現れたかも手がかりになります。1931年の『モダン語漫画辞典』には「聴牌」の比喩義が収録され、1954年には『リーチ麻雀を始める人のために』が刊行されました。国立国会図書館の書誌では、竹書房の雑誌『近代麻雀』が1973年1月に創刊されています。

こうした出版物から、麻雀用語が昭和の読者に触れる媒体の存在を確認できます。個々の俗語の普及時期は、別の用例資料から判断する必要があります。

参考文献・資料

この記事を書いた人
ゆる歴史散歩会 運営者
なかまつ

北海道大学工学部卒。現在はIT系会社員の傍ら、年間400回以上の街歩きイベントを企画し、これまで延べ25,000名以上の方にご参加いただいている、ゆる歴史散歩サークルを運営しています。東京の歴史・文化・建築・地形などを、初心者でも気軽に楽しめるイベントとして企画しています。

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