H3ロケット10号機・MMXとは?2026年打上げからフォボス探査・2031年帰還まで

火星衛星探査機MMXの2分の1スケール模型

2026年10月、種子島たねがしまから火星へ向かう探査機が出発します。打上げに使う輸送手段がH3ロケット10号機、火星圏で観測と試料採取を担う宇宙探査機がMMX(Martian Moons eXploration)です。2026年8月24日時点のJAXA発表では、打上げは10月20日4時41分03秒(日本標準時)を予定しています。

H3ロケット10号機でMMXが火星圏へ

JAXAは2026年8月20日、H3ロケット10号機による火星衛星探査機MMXの打上げ予定を発表しました。10月20日に種子島たねがしま宇宙センターの大型ロケット発射場から打ち上げ、MMXを火星へ向かうための軌道へ投入します。

項目2026年8月24日時点の予定
ミッション火星衛星探査計画MMX
ロケットH3ロケット10号機(H3-24L)
予定日2026年10月20日(火)
予定時刻4時41分03秒(JST)
予備期間2026年10月21日~11月7日
場所種子島宇宙センター 大型ロケット発射場・第2射点
目的地火星圏・火星衛星フォボス
地球帰還2031年度予定

打上げ後、MMXはH3から分離して独立した探査機として航行します。約1年で火星圏へ到達し、2027~2030年にフォボスを中心に観測と試料採取を実施する計画です。2030年に火星圏を離れ、2031年度に試料を収めたカプセルを地球へ帰還させます。

まず整理|H3ロケットとMMX探査機は何が違う?

H3は地上から宇宙へ運ぶロケット、MMXは火星圏で科学観測を行う探査機です。MMXはH3の先端にあるフェアリングの内部に搭載され、打上げ時にはロケットの「ペイロード(運ぶもの)」になります。人工衛星や探査機など宇宙機の種類を広く知る場合は、人工衛星の歴史も参照できます。

言葉役割
H3ロケットMMXを地上から加速し、火星へ向かえる所定の軌道へ投入する輸送手段
MMXH3から分離後、自ら航行して火星圏へ向かい、観測・着陸・試料採取・地球帰還を行う探査機
ペイロードロケットが運ぶ衛星や探査機など。10号機ではMMX
フェアリング大気中の風圧や摩擦熱などからMMXを守る先端のカバー

流れは「地上 → H3で上昇 → SRB-3や第1段、フェアリングを順次分離 → 第2段で加速 → MMXを火星遷移軌道へ分離 → MMXが約1年かけて火星圏へ」です。打上げ映像でロケットの一部が離れていく場面の多くは、燃焼を終えた部品や不要になったカバーを計画どおり切り離す工程です。

H3の役割はMMXを所定の火星遷移軌道へ分離するまでです。MMXの科学ミッションはその後も約5年間続くため、「ロケット打上げ」と「探査ミッション」では成功を確認する時間軸が異なります。

H3ロケットとは?開発から10号機まで

H3ロケットとは?

H3はH-IIAの後継として開発された日本の大型基幹ロケットです。日本が自国の宇宙輸送手段を持ち続け、大型衛星、宇宙ステーション補給機、深宇宙探査機など多様なペイロードを運ぶ基盤を担います。日本のロケット開発全体の流れは、日本の宇宙開発史でペンシルロケットからH-IIA、H3までたどれます。

開発は2014年に本格始動しました。三菱重工業がプライムコントラクタとして機体開発を取りまとめ、JAXAと国内企業が主要技術や地上設備を含むシステムを開発しています。H-IIA/H-IIBで蓄積した技術を使いながら、第1段エンジンLE-9や固体ロケットブースターSRB-3などを新たに開発しました。

なぜH3は開発された?

H3は、国際的な打上げ市場で使える価格とサービス、ミッションに応じた柔軟な機体構成、高い信頼性、打上げ機会の拡大を目標に設計されました。第1段LE-9を2基または3基、SRB-3を0・2・4本、フェアリングを複数サイズから選ぶ方式で、必要な打上げ能力に合わせて構成を変えます。

機体形態の「H3-abc」は、aがLE-9の基数、bがSRB-3の本数、cがフェアリングの種類を表します。たとえばH3-30SはLE-9が3基、SRB-3なし、ショートフェアリングです。MMXを運ぶ10号機はH3-24Lで、LE-9が2基、SRB-3が4本、ロングフェアリングを使います。

種子島宇宙センターから打ち上げられるH3ロケット5号機
H3ロケット5号機の打上げ(2025年2月、種子島宇宙センター)。撮影:Senior Airman Jacob Wood/U.S. Air Force/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。

試験機1号機の失敗

2023年3月7日10時37分55秒、H3ロケット試験機1号機は先進光学衛星「だいち3号」を載せて種子島宇宙センターから打ち上げられました。第1段の飛行と第1段・第2段の分離までは計画どおりでしたが、第2段エンジンLE-5B-3が着火しませんでした。衛星を所定の軌道へ投入できないと判断したJAXAは、打上げ約14分後の10時51分50秒に地上から指令破壊信号を送り、飛行を終了させました。事故で自然に爆発したという経過ではなく、安全のためロケットを意図的に破壊して落下させる措置です。JAXAの解析では、指令破壊後の破片はあらかじめ設定されていた第1段落下予想区域内に落下しました。

結末として、「だいち3号」は第2段とともに失われ、回収・再利用されませんでした。費用の目安は、H3ロケットの総開発費が2,197億円、定常運用のH3-30Sで標準打上げ価格の目標が約50億円、「だいち3号」のプロジェクト総開発費が282億円です。試験機1号機はH3-22Sで、試験機1号機単体の価格として50億円が公表されているわけではありません。

JAXAは第2段の推進系コントローラと着火系の電気回路を中心に故障のシナリオを調べ、過電流に関係する3つのシナリオすべてへ対策を実施しました。絶縁・検査の強化、部品選別、回路の見直しなどを行い、試験機2号機へ反映しました。

試験機2号機で初成功

2024年2月17日の試験機2号機は、ロケット性能確認用ペイロードVEP-4と小型副衛星を搭載しました。第2段を所定の軌道へ投入し、小型副衛星の分離や第2段の制御再突入などを実施。試験機1号機の失敗から約1年後、H3として初めて計画した飛行を達成しました。

3号機から9号機まで何を打ち上げた?

試験機2号機の成功後、H3は実用ミッションへ移りました。号機番号と実際の打上げ順は一部一致していません。6号機は8号機より後の2026年6月に飛び、9号機は同年8月に続きました。

号機打上げ日主な搭載物結果この飛行の意味
試験機1号機2023年3月7日だいち3号失敗第2段エンジン不着火。原因究明と対策へ
試験機2号機2024年2月17日VEP-4、小型副衛星成功H3初の打上げ成功
3号機2024年7月1日だいち4号成功実用衛星を所定軌道へ投入
4号機2024年11月4日きらめき3号成功実用ミッションを継続
5号機2025年2月2日みちびき6号機成功準天頂衛星を投入
7号機2025年10月26日HTV-X1成功新型宇宙ステーション補給機を輸送
8号機2025年12月22日みちびき5号機失敗所定軌道への投入に失敗
6号機2026年6月12日VEP-5、小型副衛星6基成功30形態を飛行実証
9号機2026年8月11日みちびき7号機成功衛星を正常分離し所定軌道へ投入

8号機では飛行中に衛星搭載構造PSSが破損し、その後、第2段エンジンの第2回燃焼が正常に立ち上がらず早期停止しました。2026年7月にまとまった原因究明では、PSS内部に製造工程で生じた剥離がフェアリング分離時の衝撃などで進展し、構造破損に至ったことが主要因とされました。JAXAはPSSの方式変更などの対策を進め、6号機と9号機の飛行を実施しています。

「10号機」とは何を意味する?

「10号機」はH3シリーズの機体を識別する号機番号です。世代やバージョンを表す数字とは用途が異なります。同じH3シリーズでも、運ぶペイロードや目標軌道に応じてLE-9の基数、SRB-3の本数、フェアリングなどを選びます。10号機のペイロードがMMXで、機体形態は公式打上げ計画書に記載されたH3-24Lです。

H3ロケット10号機はどんな構成?

10号機のH3-24Lは、全長約63m、人工衛星を除く全備質量約575tです。機体を下から見ると、第1段のLE-9エンジン2基、その周囲のSRB-3が4本、第2段のLE-5B-3、最上部のロングフェアリングという構成です。フェアリング内にMMXが入ります。

部分10号機の構成打上げ映像での役割
第1段LE-9×2基、液体水素・液体酸素打上げから約5分近く機体を加速する主段
SRB-34本、固体推進薬発射直後に大きな推力を加え、燃焼後は2本ずつ分離
第2段LE-5B-3×1基、液体水素・液体酸素宇宙空間で2回燃焼し、MMXを火星遷移軌道へ送る
フェアリングロング大気中でMMXを保護し、高度約131kmで分離

LE-9は液体水素と液体酸素を使う第1段メインエンジンです。日本がLE-5系列で蓄積したエキスパンダーブリードサイクルを、大推力の第1段エンジンへ適用しました。第2段のLE-5B-3も液体水素・液体酸素を使い、宇宙空間で複数回着火できます。

SRB-3は固体推進薬を内蔵し、約110秒燃焼します。液体エンジンと組み合わせることで発射直後の大推力を確保します。MMXでは地球周回軌道に留まる衛星より大きなエネルギーを与え、地球の重力圏から火星へ向かう火星遷移軌道へ投入する必要があるため、4本のSRB-3と第2段の2回燃焼を使うH3-24Lが選ばれています。

種子島宇宙センター・大型ロケット発射場とは?

種子島たねがしま宇宙センターは鹿児島県の種子島南東部にあるJAXAの大型ロケット打上げ拠点です。H-IIA、H-IIB、H3など日本の大型ロケットがここから打ち上げられてきました。H3ロケット10号機は大型ロケット発射場の第2射点を使用します。

海に面したJAXA種子島宇宙センター周辺と灯台
種子島宇宙センター周辺、2014年2月23日。撮影:NASA/Bill Ingalls/Wikimedia Commons/Public Domain。

ロケットは大型ロケット組立棟(VAB)で組み立てられ、移動発射台に載ったまま発射地点へ運ばれます。発射場には射点のほか、ロケット組立棟、打上げを管制する施設、推進薬設備、追跡・安全関連設備が配置されています。上の写真は2014年に撮影された施設周辺の記録で、2026年の10号機打上げとは撮影時期が異なります。

種子島の発射場は東から南東側に太平洋が広がります。H3 10号機は打上げ後、機体を方位角90度へ向けて太平洋上を飛行する計画です。燃焼を終えたSRB-3、フェアリング、第1段の落下予想区域も海上に設定されています。

MMXとは?人類はなぜ火星の「衛星」を目指す?

MMXはMartian Moons eXplorationの略で、JAXAが主導する国際的な火星衛星探査ミッションです。火星にはフォボスとダイモスの2衛星があり、MMXは主にフォボスを詳しく調べ、表面から10g以上の試料を採取して地球へ持ち帰ります。JAXAは2031年度に「世界初の火星圏からのサンプルリターン」を実現する計画と位置づけています。

火星衛星探査機MMXの2分の1スケール模型
火星衛星探査機MMXの1/2スケール模型。2024国際航空宇宙展、2024年10月19日。撮影:Hunini/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。

写真はMMXの1/2スケール模型です。MMX本体は地球から火星へ向かう往路モジュール、火星圏で観測・着陸を担う探査モジュール、地球へ戻る復路モジュールで構成されます。主な着陸対象を火星衛星フォボスとし、衛星観測、着陸、試料回収を行う設計です。

惑星科学の目標は、火星衛星の起源と火星圏の進化を調べることです。同時に、火星圏への往還、微小重力天体への着陸・離陸、サンプリング、深宇宙通信など、将来の探査に必要な技術を実証します。

フォボスとダイモスとは?なぜ火星本体ではなく衛星を探る?

フォボスとダイモスは火星の周囲を回る2つの小さな衛星です。どちらも球形から大きく外れた不規則な形をしています。NASA資料では、フォボスの大きさは約26.1×22.8×18.3km、ダイモスは約15.0×12.1×10.4kmです。

項目フォボスダイモス
大きさ約26.1×22.8×18.3km約15.0×12.1×10.4km
火星中心からの軌道半径約9,377km約23,460km
公転周期約7.66時間約30.3時間
MMXでの役割主探査対象、着陸・試料採取近接観測
NASAのMars Reconnaissance Orbiterが撮影した火星の衛星フォボス
火星の衛星フォボス。Mars Reconnaissance Orbiterが2008年3月23日に撮影。NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/Wikimedia Commons/Public Domain。

火星衛星の起源には大きく二つの仮説があります。小惑星が火星の重力に捕獲されたという「捕獲説」と、火星への巨大衝突で飛び散った物質から形成されたという「巨大衝突説」です。捕獲された小惑星なら太陽系の別領域から運ばれた物質の情報が残り、衝突起源なら火星とその周辺で起きた形成史の情報が残る可能性があります。

フォボスの表土には、フォボス自身の物質に加えて、火星やダイモスから飛来した微量の物質が混じると予想されています。MMXは現地観測と地球上での試料分析を組み合わせ、火星衛星の起源、水・有機物などが太陽系内を移動した過程、火星圏の進化を調べます。火星本体の岩石だけを狙う探査とは、研究する問いが異なります。

MMXはフォボスで何をする?

MMXは火星圏へ到着した後、フォボスとほぼ同じ周期で火星を回る擬周回軌道(QSO)を使って観測します。フォボスの形状、地形、表面組成、重力などを調べて着陸候補地点を絞り、小型ローバーIDEFIXを先に放出します。その後、MMX本体がフォボスへ着陸して試料を採取し、再び離陸します。

段階主な作業
火星圏到着火星周回軌道へ入り、フォボス近傍へ
QSOリモートセンシング観測、地形・組成・重力などを調査
着陸地点選定表面状態を評価し、サンプル採取地点を絞る
IDEFIXMMX本体より先にフォボス表面へ降り、地盤・表面特性を調査
MMX着陸フォボス表面へ降下し試料を採取
離陸・ダイモス観測フォボスを離れ、ダイモスも観測
火星圏離脱2030年に地球への帰路へ
地球帰還2031年度に再突入カプセルを分離

C-SamplerとP-Sampler

MMXは異なる仕組みのサンプリング装置を備えます。C-Sampler(C-SMP)はロボットアーム先端のコアラーで表面を掘り、深さ2cm以上の物質を含む試料を採取します。P-Sampler(P-SMP)はNASAが提供する空気圧式の装置で、窒素ガスを使って最表層の細かな粒子を取り込みます。異なる層・粒径の試料を得ることで、地球での分析に使える物質の幅を広げます。

採取目標は10g以上です。はやぶさ2が持ち帰った約5.4gより多く、JAXAの地球外物質研究グループは10gを超える地球外試料の受け入れを新しい規模の課題と位置づけています。量を確保すると、多数の分析手法へ配分し、将来の研究のために一部を保管する余地も増えます。

小型ローバーIDEFIX

IDEFIXはフランスのCNESとドイツのDLRが共同開発した小型ローバーです。MMX本体より先にフォボスへ降り、表面の組成、環境、力学特性などを調べます。得られる表面情報は科学観測に加え、MMX本体の着陸運用にも役立てられます。

MMXに搭載される小型ローバーIDEFIXの折り畳み状態
MMX搭載小型ローバーIDEFIX。日本への移送前の折り畳み状態。撮影:Ebottlaender/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。

JAXA、CNES、DLRは、はやぶさ2でも小型着陸機MASCOTで協力しました。IDEFIXはその国際協力を火星衛星探査へ広げた機器で、2026年時点でMMX探査機へ組み込まれ、打上げ準備が進められています。

はやぶさ・はやぶさ2とMMXは何が違う?

3ミッションはいずれも地球外天体の物質を地球へ持ち帰るサンプルリターンですが、目的地と規模が異なります。MMXの目的地は、火星の重力圏にある衛星フォボスです。

項目はやぶさはやぶさ2MMX
打上げ2003年2014年2026年度予定
探査対象小惑星イトカワ小惑星リュウグウ火星衛星フォボス
天体の種類小惑星小惑星惑星の衛星
サンプルイトカワ由来の微粒子約5.4g10g以上を目標
帰還2010年2020年2031年度予定
特徴小惑星からの世界初のサンプルリターン2回のタッチダウンと地下物質採取を実施火星圏からの世界初のサンプルリターンを目指す

MMXは、はやぶさ2で培った小天体への接近、表面物質の採取、再突入カプセルによる地球帰還などの経験を発展させます。一方、火星圏までの往復、フォボス近傍のQSO、火星重力圏からの離脱など、新しい航行・運用が加わります。

打上げ前、H3とMMXはどう準備される?

2026年8月13日、JAXAはMMXの機体公開を行いました。ISASの2026年7月の報告では、種子島たねがしま宇宙センターの第2衛星組立棟で射場試験中の往路モジュール、復路・探査モジュールが紹介されています。小型ローバーIDEFIXもMMXへ組み込まれ、探査機全体の試験に加わっています。

打上げまでの射場作業では、探査機側の点検や推進系作業、ロケット側の機体組立・点検、探査機とロケットの結合、フェアリングへの格納、VABでの最終準備を経て射点へ移動します。2026年8月24日時点で個々の工程の完了時期が発表されていない作業は、実施済みとして扱いません。

発射の瞬間から何を見る?H3 10号機・MMX打上げ観戦ガイド

JAXAの2026年度打上げ計画書には、10月20日に打ち上げる場合の飛行シーケンスが秒単位で示されています。第2段の1回目燃焼終了後は打上げ日によりイベント時刻が変わるため、下表の後半は10月20日ケースです。

打上げ後イベント何が起きる?
0秒リフトオフLE-9と4本のSRB-3で発射台を離れる
1分56秒SRB-3第1ペア分離燃焼を終えた2本を分離
1分58秒SRB-3第2ペア分離残る2本を分離
3分17秒フェアリング分離大気が十分薄くなり、MMXを覆うカバーを外す
4分52秒第1段エンジン燃焼停止LE-9の燃焼を終える
4分59秒第1段・第2段分離役目を終えた第1段を切り離す
5分12秒第2段第1回燃焼開始LE-5B-3でさらに加速
10分40秒第2段第1回燃焼停止長い慣性飛行へ
1時間3分57秒第2段第2回燃焼開始火星遷移軌道へ向けて再加速
1時間10分21秒第2段第2回燃焼停止MMX分離条件を整える
1時間11分12秒MMX分離MMXがH3から独立し、火星への航行へ移る

発射前からリフトオフ

発射直前、H3の第1段と第2段には極低温の液体水素・液体酸素が入っています。カウントダウン終盤で第1段LE-9が始動し、推力が立ち上がった後にSRB-3が点火してリフトオフします。固体ブースターは点火すると燃焼を途中で止められないため、ロケットが発射台を離れる直前のシーケンスは厳密に管理されます。

発射直後とSRB-3分離

リフトオフ後、H3は徐々に進行方向へ姿勢を傾けます。高度を上げながら地球を回る方向の速度もつけ、最終的に火星へ向かう軌道へ乗せるためです。約116秒と118秒でSRB-3を2本ずつ分離します。映像で左右の大きな筒が離れるのは計画された工程です。

フェアリング分離

約3分17秒、高度約131kmでフェアリングを分離します。フェアリングは大気中でMMXを風圧や空気との摩擦熱から守るカバーです。高度が上がって大気の影響が小さくなると役割を終えるため、余分な質量として持ち続けず切り離します。

第1段分離・第2段飛行

第1段LE-9は約4分52秒で燃焼を止め、約7秒後に第1段を分離します。第2段LE-5B-3は約5分12秒から第1回燃焼を行い、約10分40秒で停止。その後は約53分の慣性飛行を挟み、約1時間3分57秒から第2回燃焼を行います。宇宙空間でエンジンを再着火できる第2段の能力を使い、MMXに火星へ向かう速度を与えます。

MMX分離

10月20日ケースでは、打上げ約1時間11分12秒後、高度約592km、慣性速度約11.2km/sでMMXを分離する計画です。ここでH3の輸送任務とMMXの探査任務が分かれます。MMXは太陽電池や通信・姿勢制御系などを使い、惑星間航行へ移ります。

どこまで行けば「打上げ成功」と分かる?

リフトオフだけで打上げ全体の成否は決まりません。H3 10号機では、SRB-3の燃焼・分離、第1段飛行、第1段と第2段の分離、第2段の2回燃焼を経て、MMXを所定の火星遷移軌道へ正常に分離できるかがロケット側の大きな確認点です。

  1. リフトオフ
  2. SRB-3正常燃焼・2ペア分離
  3. 第1段の正常飛行と燃焼停止
  4. 第1段・第2段分離
  5. 第2段第1回燃焼
  6. 慣性飛行と第2回燃焼
  7. 火星遷移軌道でMMXを正常分離
  8. MMXとの通信確立と初期状態確認

JAXAの打上げ計画書でH3の目的は「MMXを所定の軌道に投入する」こととされています。ロケットから正常に分離した後はMMX側の初期運用が始まり、約1年後の火星圏到着、フォボス観測・着陸、2031年度の地球帰還へと別の成功条件が続きます。

ロケットから離れたあとMMXはどうやって火星へ行く?

H3から分離したMMXは、太陽の周囲を進みながら火星軌道と出会う惑星間軌道を飛びます。地球も火星も太陽の周囲を動いているため、将来火星が来る位置と探査機の軌道が合うように飛行経路を設計します。

時期MMXの計画
2026年度種子島からH3で打上げ、火星遷移軌道へ
2027年約1年の航行後に火星圏へ到達
2027~2030年フォボス観測、IDEFIX運用、MMX着陸・試料採取、ダイモス観測
2030年火星圏を離脱し、地球へ向かう
2031年度再突入カプセルを分離し、オーストラリアで回収予定

火星圏では約3年間活動します。火星周回軌道へ入り、フォボス近傍のQSOで観測を重ね、着陸・試料採取後にはダイモスも観測します。復路では約1年をかけて地球へ戻り、試料を収めた再突入カプセルだけを大気圏へ送り込みます。

MMXで何が分かる?持ち帰る10g以上のサンプルの価値

MMXの科学目標は、火星衛星の起源と火星圏の進化を調べることです。フォボスが捕獲小惑星なら、太陽系の外側から地球型惑星領域へ運ばれた水や有機物の手がかりを含む可能性があります。巨大衝突で形成された衛星なら、火星の形成後に起きた大規模衝突と火星圏の物質進化を調べる試料になります。

探査機上の分光計やカメラは広い範囲を観測できます。地球へ試料を持ち帰ると、質量分析計、電子顕微鏡など大型で高性能な装置を使い、微細な鉱物、同位体、有機物などを詳細に調べられます。試料の一部を保管すれば、将来開発される分析技術で再調査することもできます。

技術面では、火星圏への往還、微小重力天体への自律降下・着陸・離陸、複数方式のサンプリング、深宇宙通信、再突入カプセルの回収までを一つのミッションで経験します。科学成果と探査技術の両方がMMXの目的です。

H3ロケット10号機・MMX打上げの記録|2026年10月20日

2026年8月24日時点では打上げ前です。JAXAは8月20日、打上げ予定日を10月20日、予定時刻を4時41分03秒(日本標準時)、予備期間を10月21日~11月7日と発表しました。打上げ場所は種子島宇宙センター大型ロケット発射場です。

日付打上げへ向けた出来事
2026年6月12日H3ロケット6号機(30形態試験機)が打上げ成功
2026年8月11日H3ロケット9号機が「みちびき7号機」を正常に分離し、所定軌道へ投入
2026年8月13日JAXAがMMX機体公開の記者説明会を実施
2026年8月20日JAXAがH3ロケット10号機・MMXの打上げ日と時刻を発表
2026年10月20日4時41分03秒に打上げ予定

打上げ当日の実績は、予定と区別して記録できます。実際の打上げ日時、延期の有無、飛行経過、SRB-3・フェアリング・第1段の分離、第2段2回燃焼、MMX分離、MMXの初期通信、JAXAの公式結果が確定した時点で、この章の予定表と実績を対応させられる構成です。

H3ロケット10号機・MMXのよくある質問

H3 10号機の「10号機」とは?
H3シリーズの機体を識別する号機番号です。世代やバージョンを示す数字とは用途が異なります。

H3ロケット10号機はいつ打ち上がる?
2026年8月24日時点のJAXA発表では、2026年10月20日4時41分03秒(日本標準時)の予定です。予備期間は10月21日~11月7日です。

どこから打ち上げる?
鹿児島県の種子島たねがしま宇宙センター大型ロケット発射場・第2射点です。

延期することはある?
天候や機体・設備の状態などによって日程が変わる場合があります。JAXAは10月21日~11月7日を予備期間に設定しています。

H3とMMXは同じもの?
H3はロケット、MMXはH3が運ぶ火星衛星探査機です。MMXは打上げ約1時間11分後にH3から分離する計画です。

MMXは火星に着陸する?
主な着陸対象は火星の衛星フォボスです。

MMXはフォボスに着陸する?
フォボスへ着陸し、10g以上の試料採取を目指します。小型ローバーIDEFIXはMMX本体より先に表面へ降ります。

フォボスとは何?
火星の2衛星のうち内側を回る小天体です。大きさは約26×23×18kmで、約7.66時間で火星を一周します。

ダイモスにも行く?
MMXはフォボスを主対象にしながら、もう一つの火星衛星ダイモスも観測する計画です。

なぜフォボスの石を持ち帰る?
火星衛星の起源を調べ、太陽系内で水や有機物が移動した過程や火星圏の進化を研究するためです。

MMXはいつ火星へ着く?
打上げから約1年後の2027年に火星圏へ到達する計画です。

地球へ戻るのはいつ?
2030年に火星圏を離れ、2031年度に再突入カプセルを地球へ帰還させる計画です。

はやぶさ2との違いは?
はやぶさ2の対象は小惑星リュウグウ、MMXの主対象は火星衛星フォボスです。MMXは火星圏を往復し、10g以上の試料採取を目指します。

IDEFIXとは?
CNESとDLRが共同開発したMMX搭載の小型ローバーです。フォボス表面を先行調査します。

打上げはYouTubeで見られる?
JAXAはロケット打上げや記者会見をJAXA Channelで配信しています。2026年8月24日時点のH3 10号機打上げ発表には、MMX専用ライブ配信ページの案内は掲載されていません。

H3ロケットと「だいち3号」はいくら?
H3ロケットは総開発費2,197億円、定常運用のH3-30Sは標準打上げ価格の目標が約50億円です。「だいち3号」のプロジェクト総開発費は282億円でした。試験機1号機はH3-22Sで、試験機1号機そのものの価格として50億円が公表されているわけではありません。

H3ロケットは使い捨て?
現在のH3は各段を回収して再使用する方式を採用していません。10号機もSRB-3、フェアリング、第1段を分離し、第2段はMMX分離後に役目を終えます。

H3 8号機はなぜ失敗した?
2026年7月の原因究明報告では、衛星搭載構造PSS内部の剥離が飛行中に進展し、フェアリング分離時の衝撃などを受けて構造破損したことが主要因とされています。

H3 9号機は成功した?
2026年8月11日に打ち上げられ、みちびき7号機を正常に分離して所定の軌道へ投入しました。

まとめ|H3の打上げはMMXの約5年間の旅の出発点

MMXの旅は、種子島でH3ロケット10号機へ搭載されるところから始まります。H3が火星遷移軌道まで加速してMMXを分離し、MMXは約1年かけて火星圏へ向かいます。フォボス観測・着陸・サンプル採取、ダイモス観測を経て2030年に火星圏を離れ、2031年度に試料を地球へ戻す計画です。

種子島 → H3 10号機で打上げ → MMX分離 → 約1年で火星圏 → フォボス探査・試料採取 → 2030年火星圏離脱 → 2031年度地球帰還、という約5年間のミッションです。

参考文献