上方舞・吉村流とは?「みなみ乃会」の歩みと見どころ|代々木能舞台で楽しむ日本舞踊

2015年に撮影された東京都渋谷区の代々木能舞台

三味線の一音に合わせて、扇の向きが変わる。足を運ぶわずかな間に、ためらいや恋心が浮かびます。京都・大阪の座敷文化から育った上方舞かみがたまいは、細やかな所作に物語を託す日本舞踊です。

東京・代々木の歴史ある能舞台では、吉村花南が主宰する舞踊教室の発表会「みなみ乃会」が開かれています。吉村流よしむらりゅうが受け継いできた舞と、地唄じうたの生演奏が近い距離で響き合います。

2026年・第8回「みなみ乃会」の開催情報

  • 開催日:2026年11月15日(日)
  • 開場:12時30分/開演:13時
  • 会場:代々木能舞台(東京都渋谷区代々木)
  • 入場料:無料
  • 主宰:上方舞吉村流・吉村花南日本舞踊教室
  • 特別出演:吉村三鈴/地唄「山姥」

第8回には、吉村三鈴よしむらみすずが特別出演し、地唄「山姥やまんば」を舞う予定です。開催日時と無料入場は吉村花南の公式開催案内、特別出演と演目は吉村三鈴の公式告知に掲載されています。来場時の最新の案内は主催者サイトで確認できます。

上方舞とは――京阪の座敷文化で育った舞

上方かみがたとは、京都・大阪を中心とする地域の歴史的な呼び名です。上方舞は江戸時代の京阪地域で発展し、芸能を楽しむ座敷や花街と深く結びついてきました。広い劇場を想定した大きな身振りより、視線、肩、手首、足取りの変化を生かす舞が発達しました。

座敷で舞う芸として発展したため、上方舞は座敷舞ざしきまいとも呼ばれます。また、三味線音楽の地唄に合わせる舞は地唄舞じうたまいと呼ばれ、上方舞を語るうえで重要な位置を占めます。井上流・楳茂都流・山村流・吉村流は、京阪の座敷舞を代表する流派です。

京都の川村能舞台で二本の舞扇を手に日本舞踊を披露する芸妓
京都・川村能舞台での日本舞踊(2018年)。みなみ乃会の公演写真とは異なります。撮影:Sawai Susao/Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)。

地唄と舞い手の呼吸

地唄じうたは、関西で発展した三味線音楽の系統です。歌の詞章が情景や登場人物の心情を運び、その言葉に舞い手の所作が重なります。地唄舞では、歌の意味を知ると、同じ手の動きから異なる感情を読み取れるようになります。

吉村花南の教室は、舞い手と演奏家が呼吸を合わせる生演奏を重視しています。伴奏する演奏家は地方じかた、舞う人は立方たちかたと呼ばれます。長い間の静けさから動き出す瞬間にも、音と身体のやり取りがあります。

金沢市西茶屋資料館に展示された三挺の三味線
金沢市西茶屋資料館に展示された三味線。撮影:Midori/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)。

三味線や箏こと、胡弓こきゅうなどの邦楽器については、関連記事「日本音楽史まるわかりガイド」で成立と特徴を紹介しています。

吉村流の歴史――京都の舞から大阪、そして東京へ

吉村流が源流に位置づけるのは、京都御所に関わる舞の指南役、山ノ内ふくです。初世吉村よしむらふじは明治時代に大阪へ移り、南地の「芦辺あしべ踊り」などで活動しました。京都に由来する舞が、大阪の花街の芸能とも結びついて発展しました。

吉村流の振付には、能の仕舞しまいを基礎として、謡うたい、壬生狂言みぶきょうげん、人形浄瑠璃などの要素が取り入れられています。姿勢を崩さずに情感をにじませる動きや、引き締まった構成が特色です。

二世吉村ゆう、三世吉村雄光は古くから伝わる型を継承しました。四世吉村雄輝よしむらゆうきは戦後、活動を東京へ広げ、古典作品の継承と新たな舞台づくりに取り組みました。1986年には重要無形文化財「上方舞」の保持者として認定されています。吉村流の歩みと歴代の継承については吉村流公式の歴史記録に詳しく記されています。

吉村花南が主宰する「みなみ乃会」

吉村花南よしむらかなは東京都新宿区生まれ。3歳から日本舞踊を学び、吉村三鈴に師事しました。国立劇場などへの出演経験を重ね、2018年から代々木能舞台で「みなみ乃会」を定期的に開催しています。

会は、吉村花南日本舞踊教室で稽古を積んだ人たちの発表の場です。小さな所作と生演奏を大切にする上方舞を、代々木能舞台の空間で上演しています。2024年と2025年には、箏・三絃奏者の安嶋三保子が出演した記録も残ります。

みなみ乃会の開催記録――2018年から2025年

吉村花南の公式プロフィールには2018年以降の演目が記されています。下記は主宰者の掲載作品を中心にまとめた記録です。作品名は公演全体の演目一覧ではなく、主宰者の活動記録として掲載されたものです。

2018~2023年の歩み

  • 2018年:「茶音頭」
  • 2019年:「山姥」
  • 2020年:公式プロフィールに演目の記載なし
  • 2021年:「水鏡」
  • 2022年:「鉄輪」
  • 2023年:「鐘ヶ岬」

「鉄輪かなわ」や「鐘かねヶ岬みさき」など、古典芸能に由来する題材が並びます。能の物語や舞台の約束事は、関連記事「日本音楽史まるわかりガイド」の能楽の章でも紹介しています。

2024年・第6回「みなみ乃会」

2024年11月10日(日)、代々木能舞台で第6回が開催されました。開場は12時30分、開演は13時、入場は無料。吉村花南の公式プロフィールには「小簾こすの戸と」が掲載されています。

箏・三絃奏者の安嶋三保子あじまみほこは、自身の2024年出演記録で同公演への参加を告知し、箏と三絃を演奏すると紹介しています。「小簾の戸」は恋の情景を描く地唄として知られ、詞章と細やかな所作の関係を味わえる作品です。

2025年・第7回「みなみ乃会」

2025年11月2日(日)、第7回が代々木能舞台で開かれました。開場は12時30分、開演は13時、入場は無料。吉村花南の公式プロフィールには演目「世界」が記されています。

安嶋三保子の2025年出演記録には、演奏に参加した作品として「袖香炉」「影法師」「尾上の松」「鐘ヶ岬」の4曲が挙げられています。生演奏を伴う舞台が前年に続いて開かれたことを伝える記録です。

代々木能舞台――座敷と能舞台が残る歴史的建築

「みなみ乃会」の会場となる代々木能舞台には、1933年に建てられ1950年に改修された敷舞台及び座敷と、1950年に建てられた本舞台・橋掛はしがかり・鏡かがみの間まがあります。いずれも2009年に国の登録有形文化財となりました。

本舞台はおよそ5.5メートル四方。橋掛は舞台と鏡の間を結ぶ通路です。座敷と舞台が近いこの建物では、手先の動き、足を運ぶ音、演奏の余韻が伝わります。座敷文化に根ざす上方舞と、能の形式を持つ建物が出会う場所です。

建造年代と登録内容は、文化庁の国指定文化財等データベースに掲載されています。能舞台の構造や用語は、「能・狂言まるわかりガイド」で詳しく紹介しています。

初心者向け・上方舞の用語集

  • 上方舞(かみがたまい):京都・大阪で発展した日本舞踊。細やかな所作と情感の表現を特色とします。
  • 座敷舞(ざしきまい):座敷など近い距離で鑑賞する場に育った舞です。
  • 地唄(じうた):関西を中心に発展した三味線音楽。歌と器楽が舞に寄り添います。
  • 地唄舞(じうたまい):地唄を伴奏に舞う形式です。
  • 地方(じかた):舞踊の伴奏を担う演奏者です。
  • 立方(たちかた):舞台で舞う人です。
  • 三絃(さんげん):地唄などで使われる三味線の呼び名です。
  • 箏(こと):張った弦を爪で弾く楽器です。
  • 胡弓(こきゅう):弓で弦をこすって音を出す楽器です。
  • 仕舞(しまい):能の一部分を、面や正式な装束を用いずに舞う形式です。
  • 謡(うたい):能の詞章を声で表現する芸です。
  • 橋掛(はしがかり):能舞台と鏡の間をつなぐ通路です。
  • 鏡板(かがみいた):能舞台の正面奥にある、通常は松が描かれた板壁です。
  • 見所(けんしょ):能舞台の客席です。
  • お浚い会(おさらいかい):稽古の成果を披露する発表の場です。
  • 名取(なとり)・師範(しはん):流派から芸名や指導資格を認められた人を指します。認定の仕組みは流派ごとに異なります。

会場へのアクセスと公式情報

代々木能舞台は東京都渋谷区代々木4丁目にあります。過去の公演案内では「代々木4-36-14」が来場者向け住所として掲載されています。道順や当日の入場方法は、吉村花南日本舞踊教室の公式サイトおよび代々木能舞台の公式サイトで案内されています。

周辺のまちの成り立ちについては、関連記事「西新宿・初台の歴史散歩」でも、玉川上水たまがわじょうすいや街道の痕跡を取り上げています。

主な参考資料