東京都あきる野市二宮東に、自動車を持ち上げる油圧ジャッキを作り続ける工場があります。株式会社マサダ製作所です。自動車整備工場で使う大型の機器から、車載工具として使われる携行式ジャッキ、災害時にがれきなどを持ち上げる機器まで製造しています。東京都の企業紹介は、同社を「日本で唯一、自動車用油圧ジャッキを製造している」メーカーと紹介しています。
発足したのは1946年(昭和21年)、戦後間もない府中市でした。1950年には自動車メーカー向けの車載ジャッキ納入を開始し、1963年に現在の工場所在地へ移転しました。ジャッキの部品を溶接して小型軽量化した1963年の製品は、国立科学博物館の産業技術史資料データベースにも記録されています。
「国内唯一」は自動車用のどの製品を指すのか
マサダ製作所の社長メッセージは、同社を「自動車搭載用のオイルジャッキを生産する日本で唯一の会社」と説明しています。東京都の2023年の企業紹介でも、対象を自動車用油圧ジャッキとしています。車体に備え付けて使う油圧式の製品が、希少性を示す中心です。
国内には、機械式のパンタグラフジャッキ、工場設備向けの油圧シリンダー、建設機械向け油圧装置など、多様な持ち上げ装置を扱う会社があります。マサダ製作所自身も約200種類の自動車用・産業用製品を案内しています。「日本のジャッキ製造業が一社だけ」という数え方とは対象が異なります。また、唯一性は企業・自治体が公表した時点の説明であり、2026年の国内全事業所を独自に調査した統計値ではありません。
1946年、府中市の正田製作所から始まった
会社沿革では1946年2月、東京都府中市で有限会社正田製作所として発足し、同年4月に油圧ジャッキの生産を始めています。終戦翌年の日本では、自動車や工場設備を修理して使い続けるための工具が必要でした。重い車体を少ない力で上げるジャッキは、整備に欠かせない装置です。
1950年5月には、油圧ジャッキについて当時の通商産業省から優良自動車部品の認定を受け、同年9月から自動車メーカーの搭載ジャッキとして納入を開始しました。1955年にはジャッキのJIS表示許可工場となります。修理現場向けの工具を製造するだけでなく、自動車メーカーが車に積み込む部品の供給先になったことが、事業拡大の節目でした。
油の圧力で、なぜ重い車を持ち上げられるのか
油圧ジャッキは、密閉された油を通じて圧力を伝える仕組みを利用します。小さなポンプ側のピストンを動かし、油を逆流防止弁を介して大きなシリンダーへ送ると、作動油に加わった圧力が大きなピストンにも伝わります。同じ圧力でも、力を受ける面積が大きい側では、より大きな持ち上げ力を得られます。ポンプの小さな動きを繰り返して油を送り、荷重をゆっくり上げる構造です。
自動車を持ち上げる道具では、最大荷重だけでなく、必要な最低高さ、上昇できる距離、作動油の漏れにくさ、バルブの動作、倒れにくい形状が製品選びに関係します。油圧ジャッキは持ち上げ作業用の装置であり、車体の下で整備作業をする場合には、用途に合ったジャッキスタンドなどで支持する安全対策が必要です。
1963年の携行ジャッキは、溶接で小型化した
国立科学博物館の産業技術史資料データベースには、製造年1963年の「自動車用油圧式携行ジャッキ」が登録されています。所蔵先はマサダ製作所、製作者として正田容章の名が記されています。過去に一般的だった主要部品のねじ固定組立に対し、部品を溶接で固定する方式を採用して小型軽量化した製品として記録されています。
自動車に積み込むジャッキでは、狭い収納場所へ収まる寸法と重さが重要です。さらに、小さな油圧室へ高い圧力がかかるため、接合部分の強度も必要です。国立科学博物館の記録には、当時の製品が高圧に耐える構造として開発されたことが明記されています。持ち運びやすさを追求しながら、密閉性と強度を確保した技術でした。
1963年、工場をあきる野へ移した
1959年に自動車整備用機器、1961年に車検用機械の生産を始めた同社は、1961年2月に株式会社マサダ製作所へ組織変更しました。1963年9月には本社工場を現在地へ移転しています。現在の住所は東京都あきる野市二宮東2丁目1番1号です。
会社概要が示す工場用地は2万7,500平方メートル、工場建物は1万550平方メートルです。東京都の2023年の企業取材では、敷地内に4棟の工場が隣接すると紹介されています。部品加工から組立・検査まで複数の工程を置くための製造拠点です。府中から移った個別の土地取得事情や、周辺企業との用地比較は公表資料から確認できていません。
自動車メーカー向けから整備工場・産業用へ広がった
1964年には海外取引を開始。1965年に自動車整備部門を分離してマサダ自動車工業を設立し、1970年には昭島市にマサダ工機を設立しました。1973年には油圧シリンダーの生産、1975年にはサービスジャッキの量産を始めています。大阪支店は1972年に開設しました。
現在の製品群には、自動車の下へ差し入れて車体を上げるサービスジャッキ、重量物を下側の小さな爪に載せて上げる爪付ジャッキ、門型プレス、変速機の取り外し作業などに用いるハイミッションジャッキ、油圧シリンダーがあります。爪付ジャッキは、災害時の人命救助で重量物を動かす用途にも使われます。同じ油圧技術が整備、製造設備、救助作業へ展開しています。
昭島市のマサダ工機は、マサダ製作所向けの部品を加工する関連企業です。同社の説明によると、油圧ジャッキに用いるねじの熱間鍛造や転造、鋼管の特殊プレス加工を手掛けています。本社工場だけで完結する製造ではなく、東京西部の関連工場や協力先の加工技術も組み合わさっています。
「26秒に1個」は、2013年に取材された生産体制
東京都の産業紹介資料「東京カイシャハッケン伝」の旧版には、創業初期のジャッキ生産は月10~20個程度だったと記されています。当時の常務取締役・横溝修さんは、各工程で専用の製造装置を独自に開発し、月3万個、26秒に1個の生産ペースを実現したと説明しています。
自動車用ジャッキは、重量に耐える強度と作動油の密閉が求められる一方、量産品として価格競争にもさらされます。独自設備を作って加工時間を短縮し、製品ごとの品質を揃えることが、国内工場を続けるための取り組みでした。月3万個と26秒という数字は過去の取材時点の実績で、2026年現在の製造数量として扱う数字ではありません。
金属加工、溶接、組立、検査をあきる野に残す
2026年9月17日受け付けの青梅公共職業安定所の求人票には、現在の製造部門の業務が具体的に記されています。NC旋盤などによる金属加工と測定、ロボット溶接と手作業の溶接、部品の組付けと締付け、塗装の下地処理、検査・測定です。同年10月には、完成品の梱包と出荷に関する求人も出ています。
東京都の2023年の工場取材では、作動油への異物混入や溶接の仕上がりを確認する工程が紹介されました。油圧機器では、油に混じった異物が弁の動きを妨げたり、シールに傷を付けたりすることがあります。荷重を安全に維持するために、加工後の洗浄、組立、出荷前の検査が製品の性能に関わります。
同じ東京都の取材では、製造現場の新人が一つの工程で独り立ちするまで5年程度かけて習熟する例も紹介されました。油圧機器は製品の寸法、溶接状態、作動油、弁の動作を組み合わせて品質を作るため、現場での判断と測定の習熟が必要です。2023年の従業員紹介には、生産管理の栗谷川主任や総務部の芳村さんも登場しています。
海外メーカーとの価格競争で何を選んだのか
日本国内で自動車用油圧ジャッキを作る事業者が減った背景には、海外からの製品供給と価格競争があります。東京都の過去の取材で横溝常務は、中国や台湾で製造した製品が価格面で競争相手になっていたと述べ、耐久性と製造工程の改善を重視していました。ただし、過去に存在した国内各メーカーの社名、廃業年、撤退理由を網羅した資料は確認できていません。
マサダ製作所は2001年に品質管理のISO 9001認証を取得し、2006年には環境マネジメントのISO 14001認証を取得しました。2001年には中国に生産関連会社を設立した沿革もあります。国内自社工場で製造工程を続けながら、海外との取引や拠点展開も進めた経緯です。
髙橋正彦社長の時代、品質と技術者育成を続ける
現在の代表取締役社長は髙橋正彦さんです。2023年10月発行の東京都の企業取材では取締役として登場し、安全性を最優先する製造の考え方を説明していました。現在の会社概要と社長メッセージでは、代表取締役社長として掲載されています。2023年の取材にある社長名や従業員数は当時の情報であり、現在の役員情報とは区別する必要があります。
会社の沿革は戦後の府中に始まり、1950年の自動車メーカー向け供給、1963年の工場移転と溶接構造の改良、1970年代の産業用製品の拡充へ続いています。2026年の求人資料でも、あきる野の工場で機械加工、溶接、組立、塗装、検査に携わる人材を募集していることが確認できます。
参考資料
- マサダ製作所「会社情報・沿革」
- マサダ製作所「社長メッセージ」
- マサダ製作所「マサダのものづくり」
- 東京都「東京カイシャハッケン伝」第34号(2023年10月)
- 東京都「東京カイシャハッケン伝」旧版 マサダ製作所
- 国立科学博物館「産業技術史資料データベース:自動車用油圧式携行ジャッキ」
- マサダ工機「会社概要」
- マサダ工機「製造事業と加工技術」
- 厚生労働省ハローワークインターネットサービス、マサダ製作所製造職求人(2026年9月17日受付・求人番号13160-08548661)
- 厚生労働省ハローワークインターネットサービス、マサダ製作所梱包・出荷職求人(2026年10月1日受付・求人番号13160-08939161)
