向島百花園「虫ききの会」2024現地レポート|鳴く虫・萩のトンネル・夜の庭園を歩く

向島百花園の虫ききコーナー

2024年8月22日、ゆる歴史散歩会の活動で向島百花園むこうじまひゃっかえんの「虫ききの会」を訪れました。参加は12人、現地集合。19時30分から20時45分まで、鳴く虫の展示や夜の庭園を見ながら園内を歩きました。

向島百花園の虫ききの会の入口
2024年8月22日の向島百花園。虫ききの会の提灯が灯る入口から入園しました。

2024年の虫ききの会は8月22日から25日まで

2024年の「虫ききの会」は8月22日(木)から25日(日)まで開催され、期間中は9時から21時まで開園、最終入園は20時30分でした。公式プログラムでは、鳴く虫の展示、放虫式、茶会、虫細工教室、絵行灯の点灯が組まれていました。

参加日2024年8月22日
参加時間19:30~20:45
参加人数12人
集合現地集合
2024年開催期間8月22日~25日
夜間開園21:00まで(最終入園20:30)

鳴く虫の展示――声と姿を間近で見る

売店前の四阿あずまやには、日本鳴く虫保存会の協力による展示が並びました。2024年8月22日に撮影した展示では、スズムシ、ツヅレサセコオロギ、カンタン、クサヒバリ、クツワムシ、キリギリス、ウマオイなどを確認できます。虫ごとに鳴き声を文字で表した「聞きなし」が添えられ、声と姿を結びつけて見られる展示でした。

向島百花園の虫ききの会で展示された鳴く虫
虫ききの会の虫展示。スズムシ、カンタン、クサヒバリなど、鳴く虫を間近で観察できます。
2024年の展示で確認できる虫鳴き声の聞きなし音の特徴
スズムシリーンリーン鈴を振るような澄んだ音が間を置いて続きます。
ツヅレサセコオロギリーリーリーリー細かな音を切れ目少なく連続させます。
カンタンルルルルル…細く柔らかな音が長く続きます。
クサヒバリチリリリリ…高く細かな連続音が続きます。
クツワムシガチャガチャ金属を打ち合わせるような強い音で鳴きます。
キリギリスギーチョン長い「ギー」と短い音を組み合わせた鳴き方です。
ウマオイスイーチョン伸びる前半と短い後半が一組になって聞こえます。

スズムシなどコオロギの仲間では、オスが左右の前翅をこすり合わせて音を出します。スズムシの翅にはヤスリ状の部分と摩擦器があり、その振動を発音鏡で増幅します。姿を見てから耳を澄ますと、種類ごとのリズムと音色の違いが分かりやすくなります。

2024年の公式案内では、虫の展示は期間中毎日16時から21時まで、日本鳴く虫保存会の協力で行われました。2025年の公式報告でも、キリギリス、カンタン、クツワムシ、マツムシなどが展示されています。

向島百花園の虫ききコーナー
虫ききコーナーでは、キリギリス類などの鳴く虫を展示。来園者が鳴き声や姿を観察していました。

虫ききの会の始まり――佐原鞠塢の供養と放虫式

江戸では「虫聞」が夏から秋の行楽だった

江戸では、野外へ出かけて虫の声を味わう「虫聞」が季節の行楽として親しまれていました。東京都立図書館の解説では、道灌山どうかんやま、隅田川東岸、王子、飛鳥山あすかやまなどが虫聞の名所として知られ、スズムシなら飛鳥山、マツムシなら道灌山というように、聞きたい虫で場所を選ぶ人もいました。名所では、むしろや毛氈もうせんを敷いて虫の音に耳を傾けました。市中では、マツムシやスズムシ、クサヒバリなどを竹籠に入れて売る虫売りもいました。天保5~7年(1834~1836)刊の『江戸名所図会』には「道灌山聴虫」が描かれ、元治元年(1864)の錦絵『江戸自慢三十六興 道灌やま虫聞』にも夜の虫聞が残されています。

1831年の放生会から虫放会へ

初代園主の佐原鞠塢さはらきくうは天保2年(1831)に亡くなりました。近親者は追善供養の放生会ほうじょうえとして虫を放したと伝えられ、旧暦8月29日の命日に虫を放つ慣例があったとする記録も残ります。現在の放虫式は、この供養の行為を受け継いだものです。

その後、供養として虫を放す行事に、鳴き声を楽しむ虫聞の文化が重なりました。百花園の年表では明治中頃に「虫放会(虫ききの会)」が行われたとされ、日本テレビの解説では明治39年(1906)頃から「虫はなち会」として続いたと紹介されています。一方、近代の新聞を調べた研究では明治40年(1907)の開催が確認され、大正10年(1921)の新聞には虫放会の「15周年」を伝える記事が残ります。開始年そのものより、明治後期には現在につながる催しが定着していたことを具体的に追えます。

明治・大正の虫放会は夜の娯楽でもあった

近代の虫放会は、虫を放して鳴き声を聞く行事に芸能や行楽が加わった催しでした。明治40年(1907)の虫放会には、向島を好んだ榎本武揚えのもとたけあきも来賓として参加したことが新聞資料から確認されています。

大正10年(1921)の虫放会では、長唄や庭唄、声色屋の流しなども披露されました。多数の来客を見込み、吾妻橋から汽船で客を運んだとも報じられています。虫の音を聞くことに加え、向島へ出かけて夜を過ごす行楽としても賑わっていました。

現在の「虫ききの会」は、庭師が育てたスズムシを園内へ放す放虫式と、草むらや展示で鳴き声を聞く催しを組み合わせています。2024年の公式案内でも、放虫式と虫の音を聞く催しを合わせて「虫ききの会」と説明しています。

2024年の放虫式

2024年は期間中毎日17時から17時30分に放虫式が行われ、各日30人が参加できる内容でした。向島百花園の庭師が育てたスズムシを受け取り、健康や幸福を願いながら園内へ放します。今回の参加は19時30分からだったため、放虫式の時間帯には間に合わず、園内の虫の音と展示を中心に楽しみました。

向島百花園の成立、佐原鞠塢と文人たち、御成座敷や福禄寿尊堂については、「向島百花園の歴史と見どころ」で詳しく紹介しています。

行灯が灯る萩のトンネル

夜の園内で印象的だったのが、行灯に照らされた萩のトンネルです。約30メートルの竹組みにハギを沿わせた園路で、昼の緑とは違い、夜は灯りの連なりが奥行きをつくります。

向島百花園の夜の萩のトンネル
夜の萩のトンネル。行灯の灯りが竹組みのトンネルを照らします。

風鈴と和傘、池に映る夜の庭園

池の周辺には風鈴や和傘が配され、虫の声に風鈴の音が重なります。照明を抑えた園内では、水面に行灯や樹木の影が映り、昼間とは別の庭園の表情を楽しめました。

向島百花園の夜の池と風鈴の演出
池のそばには風鈴や和傘が配され、夜の庭園らしい演出が見られました。

東京スカイツリーも園内から見える

園内の池越しには東京スカイツリーも見えます。夜は水面にも光が映り、古い庭園の植栽と現代の東京の景観が一枚の視界に収まります。

向島百花園から見える夜の東京スカイツリー
園内の池越しに見える東京スカイツリー。水面にも光が映ります。

虫の声をBGMに、夜の園内で過ごす

展示を見た後は、園内を歩きながら実際の虫の声を聞きました。ケースの中で聞く鳴き声と、草むらの中から聞こえる声では距離感が違い、場所によって音の重なり方も変わります。

向島百花園の虫ききの会で虫の声を楽しむ参加者
夜の園内で虫の声を聞きながら過ごしました。2024年8月22日の参加者は12人でした。

2026年の最新開催情報

2026年の虫ききの会は、8月27日(木)から30日(日)まで開催されました。期間中は9時から21時まで開園し、最終入園は20時30分。虫の展示は毎日16時から21時まで御成座敷で行われ、日本鳴く虫保存会が協力しました。

放虫式は毎日17時から売店前広場で実施され、先着30人が庭師の育てたスズムシを園内へ放しました。絵行灯とぼんぼりは18時から21時まで点灯。8月29日には竹の水てっぽう、30日には野草を使った虫細工教室も組まれました。

2025年には、キリギリス、カンタン、クツワムシ、マツムシなどの展示が行われました。展示する虫や催しの内容は年によって変わります。次回の開催日程は向島百花園の公式サイトで発表されます。

月見の会とは違う、音が主役の夜

向島百花園の夜間行事には「月見の会」もあります。月見の会が月、供物、絵行灯、箏などを中心に構成されるのに対し、虫ききの会では鳴く虫と園内の音が中心になります。

2026年の月見の会の様子は、「向島百花園『月見の会』2026現地レポート」で紹介しています。

基本情報

所在地東京都墨田区東向島3-18-3
通常開園時間9:00~17:00(最終入園16:30)
虫ききの会開催年は21:00まで夜間開園する場合があります
入園料一般150円、65歳以上70円
最寄り駅東武スカイツリーライン「東向島」駅から徒歩約8分

参考資料