高田馬場駅から池袋駅まで、高田・雑司が谷を抜けて歩く歴史散歩コースです。山手線では2駅の区間に、江戸の馬場に由来する地名、昭和初期の立体交差、都電の専用軌道、鬼子母神堂の門前、池袋駅南側の鉄道景観が連続します。
中心となる見どころは、東京初の道路立体交差として知られる千登世橋、東京都指定天然記念物の鬼子母神大門ケヤキ並木、国の重要文化財である雑司ヶ谷鬼子母神堂です。高低差、道路、鉄道、参詣の道を一緒に見ると、現在の街路がどのように形づくられたかを立体的にたどれます。
高田馬場から池袋までの散歩コース
高田馬場から高田へ|駅名の由来と街の境界を歩く
高田馬場駅は明治43年(1910)9月15日に開業しました。「高田馬場」の名は、江戸時代に武士の馬術演習場として整備された高田馬場に由来します。史跡としての高田馬場は現在の新宿区西早稲田3丁目付近にあり、駅そのものとは少し離れています。
駅から北東へ進むと、新宿区から豊島区高田へ入ります。沿道の大正製薬は大正元年(1912)創業で、現在の本社は豊島区高田3丁目にあります。駅前の学生街からオフィス・住宅が混じる高田へ移るにつれ、街の表情も変わります。
高田馬場周辺の水辺と江戸の都市基盤をさらに歩くなら、高田馬場から神田上水跡をたどる歴史散歩もつながりの深いコースです。
千登世橋|1933年完成、東京初の道路立体交差
千登世橋は、目白通りが明治通りと都電荒川線をまたぐアーチ橋です。豊島区の資料では、明治通りが完成した昭和8年(1933)に当時の東京市が架橋したとされ、東京初の道路立体交差として紹介されています。橋長27.96メートル、幅員18.18メートルで、「東京都の著名橋」の一つです。

橋の上では目白通りがほぼ水平に続き、橋の下には明治通りと東京さくらトラム(都電荒川線)が通ります。交差点を平面で処理するのではなく、高低差を利用して交通を上下に分けた構造が、昭和初期の都市道路整備を今に伝えています。橋上と橋下の両方から見ると、地形と交通網の関係がよく分かります。
都電荒川線は三ノ輪橋―早稲田間12.2キロを結ぶ路線で、現在は「東京さくらトラム」の愛称で運行されています。鬼子母神前停留場から雑司が谷駅へは東京メトロ副都心線も接続し、この一帯では古い参詣路と近現代の鉄道が重なっています。

雑司が谷|谷地形と参詣の道が残る街
雑司が谷は豊島区南部にあり、江戸時代から鬼子母神の参詣人でにぎわった地域です。豊島区の資料では、延享2年(1745)に鬼子母神門前の町屋が町奉行支配となり、目白通りや旧鎌倉街道沿いに市街地が広がりました。
地名の「谷」は、かつて流れていた弦巻川に沿う低地と関係します。現在は川の多くが暗渠となりましたが、坂や曲がる道、台地との高低差に地形が残っています。弦巻川跡を歩く|池袋・雑司が谷の暗渠と川跡をたどる歴史散歩では、この谷筋を別の角度から追っています。
鬼子母神大門ケヤキ並木|江戸の参道景観を伝える天然記念物
鬼子母神前から堂へ向かう参道には、鬼子母神大門ケヤキ並木が続きます。法明寺では、天正年間(1573~1592)に雑司ヶ谷の長島内匠が土地とともに数十本のケヤキを植えたと伝えています。現在残る古木は樹齢400年を超え、昭和15年(1940)4月18日に東京都指定天然記念物となりました。
江戸時代の参道周辺には料亭や茶屋が並び、文人や画家、茶人が集う場所でもありました。境内だけでなく、参道の並木と門前の道筋まで含めて歴史的景観が残る点が雑司が谷らしさです。
雑司ヶ谷鬼子母神堂|1664年の本殿を核とする重要文化財
雑司ヶ谷鬼子母神堂は日蓮宗法明寺に属します。寺伝では永禄4年(1561)に鬼子母神像が清土で見つかり、天正6年(1578)に雑司ヶ谷の村人が建てた堂へ安置されたことが始まりです。
現在の本殿は寛文4年(1664)に建立され、のちに相の間と拝殿が加わり、三つの部分を連結した権現造の社殿となりました。関東大震災と第二次世界大戦の戦災を免れ、平成28年(2016)に国の重要文化財へ指定されています。国指定文化財等データベースでも、江戸前期の建築とその後の増築がまとまって残る点が評価されています。

境内では本殿だけでなく、参道側から社殿の軸線を見通し、ケヤキ並木から境内へ空間が切り替わるところも見どころです。文化財名称で使われる「鬼子母神」の「鬼」は、正式には上の点がない字体とされています。
上川口屋|門前の商いを今に残す駄菓子屋
境内にある上川口屋は、天明元年(1781)創業とされる駄菓子屋です。参詣地には祈りの場だけでなく、茶屋や土産物を扱う店が集まりました。ケヤキ並木、鬼子母神堂、上川口屋を続けて見ると、雑司が谷が江戸以来の参詣地として育った様子を現在の景観の中で追えます。
花のはしからダイヤデッキへ|鉄道の街・池袋に入る
鬼子母神堂から池袋へ向かう途中の「花のはし」は、JR目白―池袋間の線路をまたぐ跨線橋です。橋上からは山手線など複数の列車が行き交う様子を見渡せ、寺社の門前から巨大ターミナルへ景観が切り替わっていきます。
終盤のダイヤデッキは、2019年開業のダイヤゲート池袋2階に設けられた公開空間です。線路をまたぐように建つ高層ビルから西武線のホームと列車を眺められ、千登世橋で見た「交通を立体化する都市」の発想が、現代の池袋では建築と歩行者空間へ広がっています。
池袋駅周辺をさらに歩くなら、池袋の歴史散歩|駅周辺8スポットを巡るモデルコースで、池袋の地名ゆかりの池や駅周辺の歴史を続けてたどれます。
このコースで見るべき3つのポイント
- 地形:高田から雑司が谷へ続く坂と、弦巻川が刻んだ谷。
- 交通:1933年の千登世橋、都電荒川線、池袋の線路上空利用。
- 門前文化:ケヤキ並木、鬼子母神堂、上川口屋がつなぐ江戸以来の参詣景観。
関連コース|弦巻川暗渠を地図でたどる
雑司が谷周辺では、現在地と史跡を地図で照らし合わせると、暗渠となった川筋や坂の位置関係が分かりやすくなります。TimeWalkの「弦巻川暗渠」コースでは、雑司が谷周辺の川跡や歴史スポットを地図上で確認できます。今回の開催ではTimeWalkは利用していませんが、同じ地域を個人で歩く際の予習や復習に使えます。
開催レポート|2025年6月1日、高田馬場から池袋へ
2025年6月1日18時、「高田馬場駅から池袋駅まで歩いてみよう!裏路地散策を楽しみます」を開催しました。参加者は10人。高田馬場駅を出発し、高田・雑司が谷を抜け、池袋駅へ向かいました。明るさの残る夕方から夜景の時間へ移っていくなか、水辺、寺社の門前、線路沿いの裏路地、高層ビルのデッキと景色が大きく変わる散歩になりました。
神田川から高田へ|夕景の水辺を出発
高田馬場周辺では神田川の流れを眺めました。神田川は井の頭池を源とし、善福寺川や妙正寺川を合わせて隅田川へ注ぐ全長24.6キロメートルの一級河川です。高田馬場周辺には治水施設として高田馬場分水路も整備され、高戸橋から新堀橋まで約1.46キロメートルを結んでいます。現在の護岸景観には、都市河川として長く続いてきた治水の歴史も重なっています。

高田馬場周辺の水辺をさらにたどるなら、高田馬場から神田上水跡をたどる歴史散歩も関連します。現在の神田川と、江戸の上水道として使われた神田上水の関係を別のルートから追えます。
雑司が谷へ|夕暮れの鬼子母神参道
高田から雑司が谷へ進むころには、街灯が目立ち始めました。鬼子母神の案内看板の先には大門ケヤキ並木が続きます。豊島区によると、この並木は天正年間(1573~1592)に雑司ヶ谷の住人・長島内匠が奉納したと伝わり、『江戸名所図会』にも多くの参詣人と料理茶屋が並ぶ様子が描かれています。江戸時代から続く参詣路を、夕暮れの街並みの中でたどりました。

鬼子母神堂とケヤキ並木の歴史は前半で詳しく紹介したとおり、信仰の場と門前のにぎわいが一体となって形成されてきました。現在も豊島区は鬼子母神堂周辺と大門ケヤキ並木道沿道を景観形成の重点地域として扱い、歴史的な景観を街づくりの資源として位置づけています。
目白駅を望む|線路が刻む池袋南側の風景
雑司が谷から池袋へ向かう途中、線路をまたぐ場所から目白駅方面を望みました。山手線の線路は、寺社と低層住宅が続く雑司が谷側と、巨大ターミナルを中心に建物が密集する池袋側の景観をつなぎます。夕暮れの線路を正面から見ると、池袋が鉄道によって発展してきた都市であることを視覚的に感じられます。

池袋の駅周辺史を続けて歩くなら、池袋の歴史散歩|駅周辺8スポットを巡るモデルコースもあわせて読むと、現在のターミナルができるまでの街の変化を追いやすくなります。
ダイヤゲート池袋|線路上空から夜の池袋を見る
散歩の終盤はダイヤゲート池袋へ。2019年に開業したこの建物は、西武鉄道の旧本社ビル敷地に加え、西武池袋線の線路上空と線路西側の用地を活用して建てられました。2階の公開空地「ダイヤデッキ」は線路の真上にあり、西武池袋線のホームや列車、池袋駅周辺のビル群を見渡せます。西武ホールディングスは竣工時、この建物を「日本初の線路を跨ぐ超高層ビル」と紹介しています。

建物の外周に見える斜めのブレースは、列車の運行を表すダイヤグラムをイメージした意匠です。線路上空という限られた空間を使いながら、鉄道施設とオフィス、一般に開かれたデッキを立体的に重ねています。


昼間の史跡巡りとは違い、この日は18時出発だったため、終盤には駅と線路の照明が際立つ時間帯になりました。門前町の静かな道から巨大ターミナルの夜景までを一度の散歩でつなげられるのが、高田馬場から池袋へ歩くルートの特徴です。

参考資料
- 豊島区「橋の世界~その3(線路・道路にかかる橋)」
- 文化庁 国指定文化財等データベース「雑司ヶ谷鬼子母神堂」
- 法明寺「雑司ヶ谷鬼子母神 由来と歴史」
- 豊島区「鬼子母神大門ケヤキ並木」
- 豊島区「雑司が谷景観形成特別地区 鬼子母神堂周辺・大門ケヤキ並木道沿道」
- 東京都交通局「都電荒川線」
- 東京都建設局「東京都の分水路」
- 東京都建設局「神田川水系の概要」
- 西武ホールディングス「日本初の線路を跨ぐ超高層ビル『ダイヤゲート池袋』の竣工式典を実施」
- 西武リアルティソリューションズ「ダイヤゲート池袋 2階線路上空デッキ」
TimeWalkで自分の歴史散歩を楽しむ
今回の開催ではTimeWalkは利用していません。TimeWalkは、現在地や指定した場所の近くにある歴史スポットを地図で探し、自分のペースで歴史散歩を楽しめるWebアプリです。高田馬場・雑司が谷・池袋をあらためて歩くときは、現在地から歩ける史跡をTimeWalkで探すことができます。

