
夏の夜、木の幹に登ったセミの幼虫の背中がゆっくりと割れ、白く柔らかな成虫が姿を現します。何年ものあいだ土の中で成長してきたセミが、空を飛ぶ姿へと変わる瞬間です。セミの羽化は、特別な山奥へ行かなくても、東京の公園や身近な緑地で観察できます。ただし、羽化中のセミは非常に弱く、触ったり強い光を当て続けたりすると、正常に羽を伸ばせなくなることがあります。この記事では、セミの羽化観察会に参加する前に知っておきたい基礎知識、見つけ方、おすすめの時期と時間帯、持ち物、観察マナーを分かりやすく紹介します。
- 最初に知っておきたい5つのポイント
- 「羽化」とは何をしているの?
- セミの羽化では何が起きる?
- おすすめの時期はいつ?
- おすすめの時間帯は?
- どういう場所で観察できる?
- 東京で観察場所を探すなら
- 昼間に下見をすると見つけやすい
- おすすめの持ち物
- 服装の注意
- 羽化観察で守りたいルール
- セミとはどんな昆虫?
- 日本でよく見られる代表的なセミ
- セミの一生
- よくある質問
- Q.セミは土の中でずっと眠っているのですか?
- Q.成虫は本当に1週間しか生きないのですか?
- Q.セミの口はどのような形ですか?
- Q.セミはおしっこをするのですか?
- Q.セミの目はいくつありますか?
- Q.大きな声で鳴くのはオスだけですか?
- Q.なぜセミは夜に羽化するのですか?
- Q.羽化に失敗することはありますか?
- Q.抜け殻からセミの種類は分かりますか?
- Q.セミの仲間は恐竜時代にもいたのですか?
- Q.東京でクマゼミが増えているのはなぜですか?
- Q.羽化中に触ってもよいですか?
- Q.羽化は何時ごろ見られますか?
- Q.雨の日でも羽化しますか?
- Q.羽化を最初から最後まで見るには何時間必要ですか?
- Q.木に登れば見つけやすいですか?
- Q.観察中にセミを助けたほうがよいですか?
- Q.抜け殻を持ち帰ってもよいですか?
- まとめ
- 参考文献
最初に知っておきたい5つのポイント
- おすすめの時期は、東京近郊では7月中旬~8月中旬
- 観察しやすい時間は、日没前後から21時ごろ
- 大きな木、柔らかい土、抜け殻の多い場所を探す
- ライト、飲み物、虫よけ、長袖・長ズボンを用意する
- 羽化中のセミには絶対に触らない
羽化は自然現象なので、条件がよくても必ず見られるとは限りません。見つからない日があることも含めて、自然観察として楽しみましょう。
「羽化」とは何をしているの?
羽化とは、昆虫が幼虫やさなぎの殻を脱ぎ、羽のある成虫になることです。セミは、チョウやカブトムシのような「さなぎ」の時期を持ちません。卵 → 幼虫 → 成虫という順に育つ「不完全変態」の昆虫です。土の中で成長した幼虫が地上へ出て、最後の脱皮によって成虫になることを、セミの羽化と呼びます。なお、卵から幼虫が出ることは「孵化」、幼虫から成虫になることは「羽化」です。
セミの羽化では何が起きる?

1.幼虫が地上へ出る
日が暮れ始めると幼虫が土の中から姿を現し、羽化しやすい木、低い枝、葉、柵、建物の壁などを探します。歩いている幼虫を見つけても、進路を変えたり持ち上げたりせず静かに見守ります。
2.羽化する場所を決める
幼虫は脚がしっかり掛かり、体を支えられる場所につかまります。すぐに羽化を始めるとは限らず、何度も場所を変えることがあります。
3.背中が割れる
動きが止まってしばらくすると、幼虫の背中に縦の割れ目ができ、成虫の頭や胸が少しずつ現れます。
4.体を反らせて殻から出る
白っぽい成虫が体を大きく後ろへ反らせながら殻から出てきます。途中で逆さまにぶら下がったような姿になりますが、正常な羽化の過程です。
5.腹部を引き抜く
しばらくすると体を起こし、前脚で抜け殻につかまり、最後に腹部を殻から引き抜きます。
6.羽を伸ばす
出てきた直後の羽は小さく折りたたまれています。体液が送り込まれると、羽がゆっくりと広がります。羽化直後は乳白色や淡い緑色で、透き通った美しい姿です。
7.体と羽が硬くなる
時間がたつにつれて体に色が付き、羽も硬くなります。羽化を始めてから羽が伸びるまでには、1~2時間ほどかかることがあります。
おすすめの時期はいつ?
最もおすすめ
7月中旬~8月中旬。アブラゼミやミンミンゼミが増え、羽化する幼虫を見つけやすい時期です。
少し早め
6月下旬~7月上旬。小型のニイニイゼミが現れ始めます。
少し遅め
8月中旬~9月上旬。ツクツクボウシが増える時期です。発生時期は地域、標高、その年の気温や天候によって前後します。
おすすめの時間帯は?
18時ごろ~21時ごろが目安です。日没前から探し始めるのがポイントで、18時台には地面を歩く幼虫、19時以降には羽化が始まった個体を見つけやすくなります。
- 幼虫が歩くところから見たい:日没30分ほど前に到着
- 背中が割れるところを見たい:18時30分~20時ごろ
- 羽が伸びた姿を見たい:19~21時ごろ
大雨、強風、急激な気温低下がある日は観察に向きません。
どういう場所で観察できる?
セミには、幼虫が何年も過ごせる土と、根から水分を吸える樹木の両方が必要です。
観察しやすい場所の特徴
- 成熟した大きな木が何本もある
- 木の根元に舗装されていない土がある
- 落ち葉や腐葉土が残っている
- 昼間に抜け殻がたくさん見つかる
- 地面に直径1~2センチほどの穴がある
- 夜でも立ち入りが認められ、安全な園路や照明がある
ケヤキ、サクラ、エノキ、クヌギ、コナラなどがある公園や雑木林では、セミを見つけられることがあります。木の根元、低い幹、低木、柵など、大人の腰より低い場所にも注目しましょう。
見つけにくい場所
- 地面全体がコンクリートやアスファルト
- 木が植木鉢や小さな植え込みだけにある
- 土が極端に乾いている
- 人通りが激しく幼虫が踏まれやすい
- 夜間閉鎖される庭園
- 殺虫剤が頻繁に使用される場所
東京で観察場所を探すなら
過去に羽化観察会や夜の昆虫観察会が行われた公園には、東村山中央公園、小山内裏公園、小金井公園、舎人公園、武蔵野中央公園などがあります。代々木公園、光が丘公園、北の丸公園、猿江恩賜公園、水元公園、芝公園なども候補になります。開園時間、夜間利用のルール、団体利用の届け出、立入禁止区域は公園ごとに異なるため、出発前に公式情報を確認してください。
昼間に下見をすると見つけやすい
- 抜け殻が集まっている木
- 木の根元にある穴
- 幼虫が登れそうな低木や柵
- 舗装されていない柔らかい地面
- 安全に立ち止まれる園路
- トイレと出入口、街灯の位置
抜け殻が多い場所は、その周辺で羽化が行われている有力な手掛かりです。
おすすめの持ち物
必ず用意したいもの
- 懐中電灯またはヘッドライト:足元の安全確認に必要です。観察対象には弱い光を短時間だけ当てます。
- 飲み物:夜でも熱中症になることがあります。
- 虫よけ:羽化しているセミへ直接スプレーをかけてはいけません。
- 長袖・長ズボン:蚊、植物、枝、毛虫などから肌を守ります。
- 歩きやすい靴:サンダルではなく運動靴を選びます。
あると便利なもの
- 予備の電池
- タオル
- 小型の救急用品
- 雨具
- スマートフォンまたはカメラ
- モバイルバッテリー
- メモ帳と筆記具
- セミや抜け殻の見分け表
- 小さなルーペ
服装の注意
薄手の長袖、長ズボン、靴下、運動靴、帽子、首に巻けるタオルがおすすめです。黒一色の服は夜の公園で見えにくいため、子どもには明るい色の服や反射材を付けると安全です。
羽化観察で守りたいルール
羽化中のセミに触らない
羽化直後の体と羽は非常に柔らかい状態です。触る、抜け殻を動かす、枝を揺らすといった行為は避けます。
幼虫を別の場所へ移動させない
歩いている幼虫は自分で羽化場所を探しています。原則として手を出さず見守ります。
強い光を当て続けない
ライトは足元の確認と短時間の観察に使い、複数人で一斉に照らすことは避けます。
木や枝を揺らさない
木へ登る、枝を引っ張る、柵を揺らすといった行為はやめましょう。
大声を出さない
羽化を発見しても走ったり大声で呼んだりせず、静かに知らせます。
採集より観察を優先する
羽化前の幼虫や羽化直後の成虫は持ち帰らず、その場で観察します。
セミとはどんな昆虫?
セミは、カメムシ、アブラムシ、アメンボなどと同じカメムシ目に分類される昆虫です。世界では約3,000種、日本では約30種が知られています。都心の公園でよく出会うのは、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシなどです。
日本でよく見られる代表的なセミ

アブラゼミ
東京の公園で特に身近なセミです。成虫の羽は茶色く不透明ですが、羽化直後は白っぽく、羽が乾くにつれて茶色くなります。
ミンミンゼミ
「ミーンミンミンミン」と鳴き、緑と黒の模様、透明な羽が特徴です。
ニイニイゼミ
初夏から現れる小型のセミで、抜け殻は小さく、表面に泥が付いていることが多い種類です。
ツクツクボウシ
夏の後半になると増える小型のセミで、抜け殻は細身です。
ヒグラシ
朝夕の薄暗い時間に「カナカナカナ」と鳴き、木が多くやや暗い林を好む傾向があります。
クマゼミ
日本最大級のセミで、透明な羽と黒い体を持ちます。西日本で多い種類ですが、東京都内でも記録されています。
セミの一生

卵 → 地中の幼虫 → 地上へ出る → 羽化 → 成虫 → 交尾・産卵の順に進みます。幼虫は木の根へ口を刺し、液体を吸いながら成長します。地中生活の長さは種類や環境によって異なり、すべてのセミが7年間土の中にいるわけではありません。
よくある質問
Q.セミは土の中でずっと眠っているのですか?
いいえ。幼虫は土の中で木の根を探し、根を流れる液体を吸い、脱皮しながら少しずつ成長しています。
Q.成虫は本当に1週間しか生きないのですか?
「地上に出てから1週間」とよく言われますが、正確ではありません。野外では2~4週間ほど生きる例があり、条件がよければ1か月ほど生きることもあります。
Q.セミの口はどのような形ですか?
針を束ねたような細長い口を持っています。幼虫は木の根へ、成虫は幹や枝へ差し込み、植物の内部を流れる液体を吸います。
Q.セミはおしっこをするのですか?
木に止まったセミが飛び立つとき、水滴を出すことがあります。吸い込んだ液体のうち、余分な水分を体外へ排出したものです。
Q.セミの目はいくつありますか?
左右の大きな複眼が2個、複眼の間に小さな単眼が3個あり、合計5個です。
Q.大きな声で鳴くのはオスだけですか?
私たちがよく聞く大きな鳴き声を出すのは、基本的にオスです。腹部にある発音器官で膜を振動させて音を出します。
Q.なぜセミは夜に羽化するのですか?
羽化直後はすぐに飛べず、体も羽も柔らかい状態です。夜に羽化することには、日中に活動する鳥に見つかりにくい、乾燥しにくい、人や動物の動きが少ないといった利点があると考えられます。
Q.羽化に失敗することはありますか?
あります。落下、接触、不安定な足場、体力不足、天敵などによって、羽が正常に伸びない、殻から出られないといったことがあります。人が触ると、かえって危険を増やす可能性があります。
Q.抜け殻からセミの種類は分かりますか?
大きさ、形、触角、表面のつや、泥の付き方などを比べると、ある程度見分けられます。
- 小さくて全体に泥が付く:ニイニイゼミ
- 大きく、触角が太い:アブラゼミ
- 大きく、触角が比較的細い:ミンミンゼミ
- 小型で細身、つやが少ない:ツクツクボウシ
- 大型で腹部に突起がある:クマゼミ
- 細長く、表面につやがある:ヒグラシ
一つの特徴だけで断定せず、複数の部分を見比べましょう。
Q.セミの仲間は恐竜時代にもいたのですか?
セミ上科につながる古い仲間の化石は中生代から見つかっています。ただし、現在のアブラゼミやミンミンゼミが、そのまま2億年前から生きていたわけではありません。
Q.東京でクマゼミが増えているのはなぜですか?
植栽に伴う移動、都市部の気温上昇、冬の寒さの弱まり、利用しやすい樹木の増加など、複数の要因が考えられます。
Q.羽化中に触ってもよいですか?
触ってはいけません。羽や体が変形し、飛べなくなる可能性があります。
Q.羽化は何時ごろ見られますか?
東京近郊では日没前後から21時ごろが目安です。
Q.雨の日でも羽化しますか?
大雨や強風の日は観察に向きません。転倒、落枝、雷などの危険もあるため中止が安全です。
Q.羽化を最初から最後まで見るには何時間必要ですか?
個体差がありますが、1時間30分~2時間ほどを見込みます。
Q.木に登れば見つけやすいですか?
木に登る必要はありません。低い幹、木の根元、低木、葉、柵などでも羽化します。
Q.観察中にセミを助けたほうがよいですか?
基本的には手を出さず、自然のまま見守ります。
Q.抜け殻を持ち帰ってもよいですか?
場所によってルールが異なるため、管理者へ確認してください。
まとめ
セミの羽化を観察するなら、東京近郊では7月中旬~8月中旬、日没前後から21時ごろがおすすめです。木の根元、地面の穴、低い幹、低木の葉、柵、昼間に抜け殻が多かった場所に注目しましょう。見る側が触らず、動かさず、強い光を当てずに見守ることが最も大切です。
参考文献
- 公益財団法人東京都公園協会「舎人公園のセミハンドブック」
- 公益財団法人東京都公園協会「セミの羽化観察会」案内
- 東京都環境局・東京いきもの調査団「東京都のセミ」
- 東京いきもの台帳「セミ目録」
- 京都市生物多様性ポータルサイト「セミを調査してわかること」
- 熊本市環境政策課「熊本市指標種モニタリング・セミ類学習資料」
- 九州大学「ツクツクボウシの鳴き声の転調部に潜む生物学的意味」
- Smithsonian National Museum of Natural History “Periodical Cicadas”
- Jiang et al. “Mesozoic evolution of cicadas and their origins of vocalization and root feeding”
