2026年9月13日14時から15時まで、東京ミッドタウン・デザインハブで第120回企画展「ゼミ展2026 デザインの学び方を知る」を見学しました。会場に並んでいたのは、完成作品だけではありません。先生が出した課題、学生が調べた資料、試作、失敗を含む制作過程までが展示され、全国8組9校の「デザインをどう教えるか」を比較できました。

現地レポート―会場で分かった「8通りの学び方」
入口を抜けると、白い展示台と課題説明パネルが一続きに配置されていました。14時台は各区画に来場者が入り、作品を囲んで説明を読んだり、手を動かす展示を試したりする様子が見られました。写真には参加者も写っています。入場待ちの有無と会場の撮影規定は確認できていないため、ここでは断定しません。

会場を1時間で一巡すると、学校ごとの差は作品の見た目以上に「どんな問いを学生へ渡すか」に表れていました。早稲田大学の展示では装置を操作し、予想外の機能や価値を見つける方法を体験できます。芝浦工業大学では小さな立体を手で作る行為が思考そのものになり、弘益大学と千葉大学の共同制作では文字・画像・遊びを往復しながらアイデアを育てていました。

ゼミ展とは何か
「ゼミ展」は2018年に始まったデザイン教育の展覧会です。東京ミッドタウン・デザインハブの公式説明では、社会でどのようなデザインやデザイナーが必要とされ、学生が課題へどう向き合っているかを、課題と作品を通して紹介するとされています。2026年は全国公募から選ばれた8組9校が参加しました。
卒業制作展では、学生が到達した作品が中心になります。ゼミ展では、その手前にある授業設計が主役です。調査対象の選び方、試作の方法、共同作業の組み立て方を見ると、デザインが見た目を整える技術に限らず、問題を発見して考え方を形にする営みだと分かります。
8組9校を一つずつ理解する
木更津高専―情報工学をデザインへつなぐ
木更津工業高等専門学校情報工学科メディアデザイン実験室(吉澤陽介研究室)の課題は「発想からデジタルの理解と展開」です。ドットのロゴマークから入出力装置へ進み、発想をデジタルデータに置き換え、動く仕組みへ発展させます。学生は造形とプログラムを別々に学ぶのではなく、入力・処理・出力が人へどう伝わるかを一つの設計として考えます。

京都芸術大学大学院―常滑の土を調べ、音へ広げる
文化企画構想研究室(久慈達也、高橋孝治)の「常滑:土から始まるプロジェクト」は、愛知県常滑市で土を採り、野焼きまで経験するフィールドワークです。常滑は中世から陶器生産が続く日本六古窯の一つ。2026年度は「音」を手掛かりに、土地、素材、産業、暮らしを読み直しました。課題から見えるデザイン観は、机上で形を決める前に、場所へ行き、素材に触れ、文化の成り立ちを調べることです。

慶應義塾大学―地図の投影法から世界の見方を問い直す
環境情報学部の鳴川肇研究室は「オーサグラフマップ&ビジョン」を展示しました。一般的なメルカトル図法は高緯度ほど面積が大きく表れます。オーサグラフは陸地の面積比をほぼ保ち、海を分断せず長方形へ収める投影法です。学生は地球全体を描くグラフィックスや映像を通じ、情報の配置方法が認識を変えることを学びます。

芝浦工業大学―デジタル時代に手で形を考える
山嵜一也研究室(建築観光デザイン研究室)の課題は「TeDe.てで。ヤマゼミ『カタチについて手で考えるドリル』」。建築を単体で扱わず、都市、環境、観光、メディアとの関係から捉えます。会場に並ぶ模型は、手を動かして素材の抵抗や寸法を確かめる過程を見せていました。完成図を先に決めるのではなく、作る途中で見つけた形を次の判断へつなぐ授業です。

多摩美術大学大学院―版画を編集・出版するメディアとして学ぶ
版画領域の版画集制作合同プロジェクト(佐竹邦子)は「版画集2026」を制作しました。伝統的な版種、写真、デジタル表現、アートブックを含み、学生自身が部数を示すエディションを設定します。個々の作品を刷る技術に加え、複数の作品を束ねる企画、編集、装丁まで担当するため、版画を出版と流通を備えたメディアとして学ぶ課題です。

日本大学―身体が読み取る「見えない線」を可視化する
芸術学部デザイン学科・大学院芸術学研究科の笠井則幸研究室は、身体の動きや物の輪郭から「見えない線」を可視化しました。人は物に触れなくても、形から重さや動き方を予測します。展示作品は、その無意識の読み取りを線や立体へ置き換える試みです。視覚言語を作り、身体感覚を他者へ伝えるコミュニケーションデザインとして理解できます。

弘益大学+千葉大学―日韓の言葉と遊びをIconotextで再構成する
韓国の弘益大学デザインコンバージェンス学部と千葉大学工学部デザインコースは、国際ワークショップ「AI x Iconotext」に取り組みました。Iconotextは文字の意味と図像の働きを重ねる表現です。日韓の学生が伝統的な遊びを調べ、言語・グラフィック・身体感覚を結ぶ学習ゲームへ作り替えました。AIは発想を広げる補助として使われ、共同制作や文化理解を置き換えるものではありません。

早稲田大学大学院―予想外の価値に出会う方法を装置にする
基幹理工学研究科表現工学専攻の橋田朋子研究室は「予想外な在り方に出会うための方法論と実践『引っ越しに乗って』」を展示しました。物や出来事をいつもの用途からずらし、まだ表れていない機能や価値を見つける方法を装置として示します。会場では手を動かす体験を通じ、作品そのものより、発見を生む手順がデザインの対象になることが伝わりました。
8つを比較すると「デザイン」の意味が変わって見える
木更津高専と慶應義塾大学はデジタル技術や幾何学から情報の形を考え、芝浦工業大学と多摩美術大学は手で作る行為を思考へ結びつけます。京都芸術大学大学院は教室の外で土地と素材を調べ、弘益大学と千葉大学は国境を越えた共同作業を授業に組み込みました。日本大学は身体感覚、早稲田大学は価値を発見する方法そのものを扱います。
筆者の比較では、2026年のデザイン教育に共通するのは、正解の形を教えることより、問題の見つけ方、調べ方、試し方を学生に経験させる姿勢です。完成品とプロセス、個人制作と共同制作、地域文化とグローバルな対話が対立せず、一つの課題の中で行き来しています。
AIはデザイン教育をどう変えている?
AIを明示した展示は8組のうち弘益大学と千葉大学の国際ワークショップです。ここでAIは、言葉と図像の組み合わせを試す発想補助として位置づけられていました。遊びの由来を調べ、日韓の学生が互いの文化を説明し、実際に遊べる形へ調整する工程は人が担います。ゼミ展全体から読み取れる変化は、AIへの一本化ではなく、手仕事、素材調査、幾何学、身体感覚と並ぶ一つの道具が教育へ加わったことです。
東京ミッドタウン・デザインハブとは
東京ミッドタウン・デザインハブは、東京ミッドタウン開業と同じ2007年3月30日にミッドタウン・タワー5階へ開設されました。当初は日本産業デザイン振興会(現・日本デザイン振興会)、日本グラフィックデザイナー協会、九州大学芸術工学東京サイトで構成。現在は日本デザイン振興会、JAGDA、多摩美術大学TUBが運営に関わります。
第1回企画展は2007年の「Good Design Good Life―日本のデザイン」、2022年に第100回へ到達し、ゼミ展2026が第120回です。デザイン団体、大学、産業をつなぎ、社会の課題と教育の実践を一般の来場者へ開く拠点として機能しています。
見学情報・所要時間
- 展覧会:東京ミッドタウン・デザインハブ 第120回企画展「ゼミ展2026 デザインの学び方を知る」
- 会期:2026年8月30日~9月26日
- 時間:11:00~19:00(最終日は16:00まで)
- 休館:会期中無休
- 料金:入場無料
- 会場:東京ミッドタウン・デザインハブ(東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5階)
- 今回の見学:2026年9月13日14:00~15:00、約60分
1時間で全体を見られましたが、課題説明を読み、体験展示を試し、プロセス資料まで追うなら余裕を持つと見比べやすくなります。会期や開館時間、撮影条件は変更される場合があるため、来場前に展覧会公式ページをご確認ください。
まとめ
ゼミ展2026で見比べられたのは、地図、土、情報工学、建築、版画、身体、言語、AIという多様な対象と、それを学びへ変える課題の設計でした。学生作品を見ると、教育現場が社会の何を問題として捉え、どのような方法で答えを探そうとしているかまで伝わります。展覧会や展示空間の裏側に関心がある方は、美術館・展覧会を支える企業と仕事の解説も合わせてご覧ください。

