建築は、完成した建物を設計することだけなのでしょうか。2026年9月13日(日)15時20分から16時まで、参加者とともにTOTOギャラリー・間で「ラウムラボア・ベルリン展:Water Works – in the Flow of Making」を鑑賞しました。
会場にあったのは、整った完成模型だけではありません。空気で膨らむ白い構造体、竹で組んだ足場、水をたたえた容器、泥に触れて形を変えられる模型、制作途中の図面や写真。見て、座って、寝転んで、回り込みながら、建築を「みんなで場所をつくり続ける行為」として考える展覧会でした。

開催概要
- 展覧会:ラウムラボア・ベルリン展:Water Works – in the Flow of Making
- 訪問日時:2026年9月13日(日)15:20〜16:00
- 会場:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
- 会期:2026年9月10日(木)〜11月29日(日)
- 開館時間:11:00〜18:00
- 休館日:月曜・祝日(展示替えなどの休館あり)
- 入場料:無料・事前予約不要
- 今回の参加人数:15名
- 今回の滞在時間:約40分
- 入場待ち:なし
- ほかの来場者:約5名
現地レポート―見るだけでは終わらない展示
ギャラリー1では、半透明の壁面に図面や記録写真が重なり、その上を映像の光が横切ります。情報を順番に読むというより、異なる場所と時間の記録が同時に立ち上がる構成です。大きな白い空気構造体は椅子やソファのようでもあり、参加者は腰掛けたり、実際に寝転んだりしながら空間を体験しました。身体を預けると想像以上に心地よく、展示の面白さを触覚でも味わえました。
入場待ちはなく、ほかの来場者は約5名でした。15名で訪れた私たちも、それぞれの場所から展示を眺めたり、構造体へ身体を預けたりできました。柔らかな構造体は、人が座るたびに形を変えます。ここでは利用者の身体が展示を完成させる一部になっていました。「作品に近づいてはいけない」という一般的な展示とは違い、使いながら意味を理解できる点が印象的です。


壁いっぱいの絵には、橋、浴場、池、小屋、足場など、各地のプロジェクトが雲のような輪郭でつながっていました。水を単なる素材や景観として扱うのではなく、人が集まり、交渉し、共同で場所を使うきっかけとして捉えていることが伝わります。

中庭でつながる水・泥・竹・空気
ギャラリー1から外部の中庭へ出ると、展示の手触りが一気に変わります。竹の骨組みの中央には泥と水の模型が置かれ、周囲には水をためた容器があります。泥の造形は整然と並ぶ建築模型ではなく、触れた跡や崩れた形も残る風景でした。完成と未完成を分けず、変化そのものを見せています。


見上げると、白い浮体のような構造が竹組みの上を覆っています。これは東京で行われた事前ワークショップの材料を再利用したものです。展示室の外へ出て階段を上る移動そのものが、水が高低差を移動する流れにも重なって感じられました。

ラウムラボア・ベルリンとは
ラウムラボア・ベルリンは、ベルリンを拠点に活動する建築家9人を中心としたコレクティブです。1999年に活動を始め、建築家だけでなく、アーティスト、パフォーマー、発明家、キュレーターの役割を横断してきました。
一般的な設計事務所が依頼を受け、図面をつくり、恒久的な建物を完成させることを主な仕事にするのに対し、ラウムラボアは都市の空き地や水辺に仮設の場をつくり、ワークショップや対話を通じて使い方そのものを育てます。その実践をUrban Practice(アーバン・プラクティス)と呼んでいます。建築家なのかアーティストなのかという問いには、「建築を出発点に、両方の領域を使って都市へ働きかける集団」と考えると分かりやすいでしょう。
「建物を建てない建築」とは
ここでいう「建物を建てない」は、構造物を一切つくらないという意味ではありません。竹の足場や空気構造体のような物をつくりながら、重点を置くのは完成後の形より、誰が参加し、どのように使い、何を学ぶかという過程です。
仮設物やワークショップが建築展になるのは、空間の形だけでなく、空間を生む合意、作業、利用、維持も建築の一部と考えるからです。共有資源を共同で手入れし利用する「コモンズ」という考え方も、公共空間を行政か所有者だけが決めるのではなく、利用者が関わり続ける仕組みとして具体化されています。
なぜテーマが「水」なのか
水辺は、陸地のように境界や用途を固定しにくい場所です。交通、治水、生態系、遊び、入浴、居住が重なり、誰が使えるのかという問題が表れます。本展が示すベルリンの水辺や共同浴場の実践も、水を媒介にして公共空間の所有と利用を問い直すものです。
ギャラリー2では竹組みに多数の写真と映像が吊られ、港、川、池、浴場など異なる場所の活動が同じ視界へ入ります。青い樹脂製の容器や仮設材も展示台へ転用され、ものを使い切らず、別の役割へ流していく姿勢が見えました。


Floating Universityは本当の大学?
Floating University Berlinは、2018年に旧テンペルホーフ空港の雨水調整池で始まった実験的な学びの場です。正式な大学ではありません。学生、研究者、アーティスト、近隣住民らが集まり、ワークショップ、講義、パフォーマンスを通して都市の将来を考えました。
2019年以降は、ベルリンの法律上、正式な大学だけがUniversityを名乗れることから「Floating University」と表記しています。この取り消し線自体が、制度と自律的な学びの関係を示す名前になっています。
2021年の第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では、ラウムラボア・ベルリンの《Instances of Urban Practice》が国際展の最優秀参加者に贈られる金獅子賞を受賞しました。対象はFloating University単独ではなく、同プロジェクトとHaus der Statistikを示した展示全体です。
東京湾のワークショップ「Islands – Performing on Water」
本展に先立ち、2026年5月25日から6月7日まで、芝浦工業大学建築学部とTOTOギャラリー・間が共同でワークショップを開催しました。建築学部4年生から修士2年生まで40名が参加し、豊洲運河を舞台に制作。6月6日の「豊洲水彩まつり2026」で、1日限りのパフォーマンス「アメンボ丸」を完成させました。
会場の白い浮体や竹などは、その過程から持ち込まれ、再利用・再構成されています。ベルリンで完成した思想を東京へ輸入したのではなく、東京湾で学生たちと試し、失敗や変化も含む制作の流れを展覧会へ接続した点が重要です。
丹下健三「東京計画1960」と比べると
展示では、東京湾へ都市軸を伸ばす丹下健三の「東京計画1960」も参照されます。高度成長期の人口集中に応答し、巨大な構造で都市を再編しようとした提案です。
ラウムラボアの実践は規模も方法も異なります。先に全体像を描く大計画に対し、現地に入り、仮設物をつくり、参加者との対話から次の使い方を探る小さな実験を重ねます。両者を並べると、東京湾を「都市を載せる面」と見る視点と、「人が関係をつくる共有空間」と見る視点の違いが見えてきます。
参加して分かった見どころ
約40分でも会場全体を一巡できましたが、映像や図面を丁寧に読むなら60分ほど確保するとよさそうです。初心者には、まず素材を見ることをおすすめします。空気、竹、泥、水、再利用された容器は、どれも恒久建築では脇役になりやすい素材です。しかし本展では、軽く、動かせ、直せることが、人と一緒に空間を変える力になります。
壁面には、水から連想した小さなスケッチブックも並んでいました。一人の建築家が示す唯一の正解ではなく、多数の発想が並存する展示です。開催レポートとして振り返ると、参加者同士で「これは建築なのか」と話す時間まで含めて、作品の狙いを体験できたように思います。

TOTOギャラリー・間という会場
TOTOギャラリー・間は、住宅設備メーカーのTOTOが社会貢献活動として1985年に開設した建築専門ギャラリーです。名称の「間」は、人間・時間・空間と、それぞれの間合いに由来します。出展者自身に展示設計を委ね、約240平方メートルの空間全体を作品にする方針を採っています。
ギャラリー1から外部中庭を通り、ギャラリー2へ移る独特の構成が、今回は特によく生かされていました。TOTO出版は1995年から展覧会と関連書籍を連動させています。無料のギャラリーを40年以上運営する活動は、製品の展示ではなく、建築家の思想や実験を社会へ開く企業メセナとして位置づけられます。
見学情報・撮影ルール
乃木坂駅3番出口から徒歩約1分。入場無料で予約も不要です。訪問時は荷物を無料で預かってもらえたため、身軽な状態で展示を体験できました。公式案内では、ほかの来場者の鑑賞を妨げない範囲で撮影できます。フラッシュと三脚は使用できません。3階から4階への移動にエレベーターが必要な場合は、受付へ相談できます。
訪問時は日曜午後でしたが、入場待ちはなく、ほかの来場者は約5名でした。白い構造体や泥の模型は人の動きで見え方が変わるため、周囲に配慮しつつ、少し離れて全体を見る時間と、近づいて素材を見る時間の両方を取ると楽しめます。最新の開館日や展示固有の注意事項は公式サイトで確認してください。
まとめ
「Water Works」は、水辺の建築を集めた作品展であると同時に、建築を誰が、どうつくるのかを問い直す展覧会でした。空気構造体へ身体を預け、泥の変化を眺め、竹の骨組みをくぐると、建築が完成図だけでは理解できないことが分かります。
建物の知識がなくても、素材と人の動きを追えば十分に楽しめます。参加者と一緒に歩いた今回の約40分は、「都市の場所は使う人もつくっている」というラウムラボアの考え方を、身体で確かめる時間になりました。

