板橋区宮本町の稲荷神社境内には、地域の人々が農具や生活用具を保存するために建てた「清水資料館」があります。昭和59年(1984)、旧家の納屋に残っていた125点の民具・農具を守るため、地元の有志が資金を出し合って建設しました。資料群は昭和62年(1987)2月27日に板橋区登録有形民俗文化財となっています。
納屋の取り壊しから始まった資料の保存
清水地域の旧家、板橋弥一家の納屋が解体される際、収納されていた農具や民具125点を保存することになりました。昭和59年、地元の有志が寄付を集め、稲荷神社の境内に資料館を建てました。昭和61年度には保存資料が「清水資料館収蔵品一括」として区の登録文化財になりました。
農具は使われなくなると処分されたり、素材が別の用途に転用されたりすることがあります。実際に地域で使われた道具が一括して残ったことで、農作業の種類や道具の構造、暮らしの変化を調べられるようになりました。
清水夏大根と種子の商い
江戸時代の清水から志村にかけては、「清水夏大根」とその種子の産地として知られていました。大根そのものを栽培するだけでなく、栽培に使う種子も商品として扱われ、中山道を通じて上方まで販路が広がっていました。
文化8年(1811)、旅の記録を残した釈敬順は清水を訪れ、「出井の泉」で煎茶をいれた後、種子を商う清水権右衛門家へ立ち寄っています。清水地域が農産物の生産と種子の取引を担っていたことを、同時代の記録から知ることができます。資料館に残る農具は、そうした農村の仕事を伝える道具です。
出井の泉と清水の地名
清水は旧前野町の一部にあたります。古くは文安5年(1448)の「米良文書」に「しミつ」という地名が現れる可能性があります。当地には「出井」と呼ばれる湧水があり、清水という地名も湧水に由来すると伝わっています。
稲荷神社は、以前は泉町の出井の泉のほとりにあり、後に現在の宮本町へ移ったとされています。寺社や湧水の位置が変わっても、地域の人々は稲荷神社を鎮守として祀り続けました。
雨乞いに使われたイチョウ
稲荷神社の社殿に向かって左側には、大きなイチョウがあります。大正時代頃までは、雨乞いの祭りで藁製の竜神を町内で練り歩かせ、最後にこのイチョウへ巻き付けたと伝わっています。農業に必要な雨を願う行事は、土地の水と作物の生育が人々の生活に直結していたことを伝えています。
資料館の所在地と見学方法
清水資料館は板橋区宮本町54-1、稲荷神社の境内にあります。都営三田線板橋本町駅から徒歩約8分です。資料館の見学には予約が必要で、板橋区は問い合わせ先として電話03-3966-2935を案内しています。現地では神社の祭礼や地域の活動に配慮して見学してください。
周辺の文化財と地域史については、志村・小豆沢周辺の歴史と文化財でも紹介しています。
参考資料
- 板橋区「稲荷神社(宮本町)のご案内」
- 板橋区「志村地区所在文化財 解説カード」
- 板橋区『令和7年度版 板橋区文化財マップ』
