「入門!神奈川県立歴史博物館」|再開館で何が変わる?重要文化財と県博コレクション

再開館特別展「入門!神奈川県立歴史博物館」の会場となる旧横浜正金銀行本店の博物館外観

神奈川県立歴史博物館は、2026年10月17日に約1年9か月の休館を終えて再開します。再開館最初の特別展が「入門!神奈川県立歴史博物館―県博の守り伝えていくコレクション―」です。会期は12月13日まで。約8年ぶりに館蔵コレクションをまとまった形で紹介し、国指定重要文化財4件を約20年ぶりに同時展示します。

名品に加え、展示環境の改修、古代から現代までを扱う県博の収集方針、文化財の保存修理、1904年竣工の旧横浜正金銀行本店本館まで視野に入れると、「歴史博物館が何を集め、どう守り、どう伝えるのか」が具体的に分かる展覧会です。

なぜ「入門!」なのか―再開館最初の展覧会

神奈川県立歴史博物館の常設展は、原始・古代、中世、近世、近代、現代・民俗という流れで神奈川の歴史と文化をたどります。今回の特別展は、その各分野を支える館蔵資料から選りすぐりを集めた再開館記念のコレクション展です。

館蔵品をまとめて紹介する機会は約8年ぶりです。源頼朝の花押が残る県指定重要文化財「源頼朝袖判下文」、時宗の一遍上人像、五姓田義松《老母図》、小田原北条氏の虎の印判状、眞葛焼、仏像、刀剣、工芸品など、時代も材質も異なる資料が並びます。前期には丹波恒夫コレクションから、歌川広重《東海道五十三次》のうち神奈川県内の川崎から箱根まで9点が一堂に展示されます。

一つの時代や一人の作家を掘り下げる展覧会とは違い、県博の収集・研究分野そのものを横断できる構成です。「入門!」という題名は、神奈川史の入口であると同時に、博物館そのものを知る入口でもあります。

1年9か月の休館で何が変わった?

神奈川県立歴史博物館は2025年1月から改修工事のため休館し、2026年10月17日に再開します。今回の工事では、展示室照明のLED化、展示ケースのガラスへの反射低減フィルム設置、新しい展示台の導入、エレベーター更新などが行われました。館は、資料を見やすくする展示環境と、歴史的建造物を使い続けるための設備の双方を更新しています。

休館中も、館は資料の収集・保存、調査研究、学習支援、情報発信、図書資料の整備などを継続してきました。展示室が開いていない期間にも収蔵品を管理し、調べ、次の公開につなげる仕事が続いていたことは、今回の副題「県博の守り伝えていくコレクション」を理解する手掛かりになります。

約8年ぶりに館蔵コレクションをまとめて見る

今回の展示では、考古資料や古文書、仏教美術、武具、浮世絵、近代洋画、工芸まで、神奈川の歴史を異なる角度から示す資料が集まります。初心者が押さえやすいのは、「有名作品」だけを見るのではなく、資料がどの時代の神奈川と結び付くのかを意識することです。

源頼朝袖判下文―将軍の花押と鎌倉幕府の文書

県指定重要文化財の源頼朝袖判下文みなもとのよりともそではんくだしぶみは、建久3年(1192)9月12日、頼朝が御家人の小山朝政を地頭職に任じた文書です。「袖判」とは、文書の右端にあたる袖に発給者が花押を据える形式を指します。同館の解説によれば、この文書の花押は頼朝のものとして最大級です。

同じころ、鎌倉幕府では将軍個人の花押を据える文書から、政所の職員が署名する政所下文へと発給の仕組みが移っていきました。頼朝の署名を鑑賞するだけでなく、武家政権の組織が整えられていく過程を一枚の古文書から読める資料です。

五姓田義松《老母図》―明治初期の洋画を横浜から見る

五姓田義松ごせだよしまつ(1855~1915)は、日本で本格的に西洋画材を使い始めた最初期の画家の一人です。《老母図》は1875(明治8)年、20歳の義松が病床の母・勢子を紙に油彩で描いた作品です。幕末から明治初期の横浜は西洋文化が流入する窓口であり、義松の活動は近代日本の洋画形成と横浜の国際性を重ねて見る材料になります。

鎌倉時代の古文書と明治の油彩画が同じ展覧会に並ぶところにも、地域の歴史博物館ならではの収集範囲が表れています。

約20年ぶり、重要文化財4件が同時展示

今回の大きな見どころが、国指定重要文化財4件の同時展示です。十王図、色々威腹巻、二十八間四方白星兜鉢、二十四間四方白星兜鉢がそろうのは約20年ぶりです。指定文化財の名称は難しく見えますが、絵画一件、甲冑一件、兜鉢二件と分けると全体像をつかみやすくなります。

十王図―10幅で構成される南宋の仏画

国指定重要文化財「絹本著色十王図」は10幅一具で、文化庁は南宋時代の作品としています。十王は、死後の世界で亡者の罪を裁くと考えられた10人の判官です。中国で成立した十王信仰は日本にも伝わり、冥界のイメージを絵画として可視化する題材になりました。

この十王図は2012年度から2016年度まで5年間にわたる保存修理を受けました。同館と修理技術者、文化財行政の関係者による修理報告では、作品の状態調査から修理方針を定め、解体を伴う処置を進めた過程が記録されています。2021年には修理完成記念展も開かれました。本展でも十王図は展示替えが予定されています。

色々威腹巻―室町時代の精巧な武具

色々威腹巻いろいろおどしはらまきは、文化庁の指定名称では「色々威腹巻〈壺袖付〉」。室町時代の作で、同庁は胴の形が整い、鮫皮を用いた金具まわりの技法も精巧で、保存状態のよい優品と評価しています。腹巻は胴を守る甲冑の一形式で、細かな小札を威して組み上げた構造と色の取り合わせに注目すると、武具が防具であると同時に高度な工芸品だったことが分かります。

二つの四方白星兜鉢―「星」は鉄板を留める鋲

二十八間四方白星兜鉢にじゅうはっけんよほうしろほしかぶとばちと二十四間四方白星兜鉢にじゅうよんけんよほうしろほしかぶとばちはいずれも鎌倉時代の重要文化財です。「間」は兜鉢を構成する鉄板の枚数を表し、二十八間は28枚、二十四間は24枚の鉄板を組み合わせています。

星兜の「星」は文様の名前ではなく、鉄板を留める鋲の頭を目立たせたものです。「四方白」は前後左右に鍍金した装飾を配する形式を指します。文化庁は二十四間の兜鉢について、鉄板と星の数が比較的少なく、鍍金した装飾などから鎌倉時代中期を下らない作と推定しています。二つを見比べると、鉄板の枚数、鋲の並び、鍍金装飾といった鎌倉武具の構造を具体的に観察できます。

神奈川の歴史を「5つのテーマ」で見る

神奈川県立歴史博物館の常設展は、テーマ1「原始・古代」、テーマ2「中世」、テーマ3「近世」、テーマ4「近代」、テーマ5「現代・民俗」で構成されています。3階から時代順にたどる展示で、旧石器時代から現代の県民生活までを扱います。

今回の特別展に並ぶ資料も、この長い時間軸の上に置くと関係が見えやすくなります。源頼朝袖判下文や星兜は中世、歌川広重の東海道五十三次は近世、五姓田義松や横浜正金銀行は近代に位置します。個別の名品が、神奈川の地域史のどこに接続するのかを確認できるのが県博の特徴です。

関連行事の連続講座「入門!神奈川県立歴史博物館の5つのテーマ」も、この区分に沿って古代・中世、近世・近代、現代・民俗を3回で扱います。

建物そのものが重要文化財―旧横浜正金銀行本店本館

神奈川県立歴史博物館の旧館部分は、1904(明治37)年に竣工した旧横浜正金銀行本店本館です。建築家妻木頼黄つまきよりなかの設計で、煉瓦造の躯体に石材を用いた外壁、コリント式の柱頭、大きなドームを備えるネオ・バロック様式の建築です。1969年に国の重要文化財、1995年には敷地を含め国の史跡に指定されました。

横浜正金銀行は1880(明治13)年に開業した国際金融機関で、外国為替や貿易金融を担いました。国際貿易港・横浜の発展と金融を結び付ける銀行の本店が、現在は地域の歴史を収集・展示する博物館として使われています。

1923(大正12)年の関東大震災では内部と屋上ドームを焼失しましたが、建物は復旧され、1967年にドームを復元して神奈川県立博物館として開館しました。1995年から神奈川県立歴史博物館として保存活用されています。同館は建物を「いちばん大きな資料とも言える」と位置付け、横浜国立大学大学院との共同研究で実測調査や活用方法の検討も続けています。

2026年11月7日には、関連行事として「1番大きな館蔵品を探検しよう!―国指定重要文化財 旧横浜正金銀行本店本館―」が予定されています。展覧会の作品と建物を別々に見るより、資料を保存する器そのものも保存対象である点まで見ると、今回の再開館の意味が分かりやすくなります。

博物館が資料を「守り伝える」とは何か

展覧会の副題にある「守り伝えていく」には、資料の受け入れ、状態調査、必要な修理、研究、展示や刊行物による公開までが含まれます。十王図の5年間の保存修理は、その過程を具体的に示す例です。

建物にも同じ考え方が当てはまります。旧横浜正金銀行本店本館は、関東大震災後の復旧、ドーム復元、博物館への転用、設備更新を重ねながら使われてきました。今回の長期休館と再開館には、歴史資料と歴史的建造物を同時に保存活用する館の仕事が表れています。

関連行事

  • 10月24日:館長トーク特別編「神奈川県立歴史博物館の過去・現在・未来」
  • 10月31日、11月6日・14日・28日、12月12日:学芸員による展示解説
  • 11月1日・8日・15日:連続講座「入門!神奈川県立歴史博物館の5つのテーマ」
  • 11月7日:建物見学会「1番大きな館蔵品を探検しよう!―国指定重要文化財 旧横浜正金銀行本店本館―」
  • 11月20日:19時まで開館時間延長

講座や建物見学会は事前申込制のものがあります。申込期限、定員、当日の参加条件は神奈川県立歴史博物館「催し物案内」で確認できます。

開催概要

展覧会名特別展「入門!神奈川県立歴史博物館―県博の守り伝えていくコレクション―」
会期2026年10月17日(土)~12月13日(日)
休館日月曜日(11月23日(月・祝)は開館)
開館時間9:30~17:00(入館は16:30まで)。11月20日は19:00まで
会場神奈川県立歴史博物館 1階 特別展示室・コレクション展示室
特別展観覧料一般600円、20歳未満・学生400円、65歳以上200円、高校生100円、中学生以下無料
特別展・常設展セット一般850円、20歳未満・学生550円、65歳以上250円、高校生200円、中学生以下無料
住所神奈川県横浜市中区南仲通5-60
アクセスみなとみらい線「馬車道」駅から徒歩1分、市営地下鉄「関内」駅9番出口から徒歩5分、JR「桜木町」駅新南口(ICカード専用)から徒歩5分
公式情報神奈川県立歴史博物館 特別展ページ

会期中には展示替えがあります。公式パンフレットでは前期を10月17日~11月15日、後期を11月17日~12月13日とし、十王図は展示替えあり、歌川広重《東海道五十三次》の県内9点は前期展示と案内されています。

参考文献・公式資料