東京大学本郷キャンパスでは、戦前の赤茶色の校舎群の間に、ガラス、コンクリート、木材を使った現代建築が建てられています。槇文彦の法学政治学系総合教育棟、安藤忠雄の情報学環・福武ホール、隈研吾のダイワユビキタス学術研究館とHASEKO-KUMA HALLが代表例です。
正門、赤門、春日門といった入口の周辺にそれぞれの建築が置かれ、古い門や樹木、キャンパスの歩行動線との関係を重視した計画が採用されました。竣工年と設計者だけでなく、建物が周辺の環境へどのようにつながるかを確認できます。
戦前から現代までの配置と年代は東京大学本郷キャンパス建築ガイドにまとめています。
槇文彦の法学政治学系総合教育棟――2004年、正門脇のガラス棟
法学政治学系総合教育棟は2004年完成、設計は槇文彦と槇総合計画事務所です。同年4月の法科大学院開設に合わせて、正門脇に研究・教育施設として整備されました。東京大学法学部では「ガラス棟」と呼ばれています。
槇総合計画事務所の作品資料では、鉄骨造・一部鉄筋コンクリート造、地上4階・地下1階、建築面積713平方メートル、延床面積2,905平方メートルと記録されています。外側は半透過性のスクリーンのような表層で覆われています。
槇は法科大学院の将来の用途変更を想定し、内部の固定要素を絞って柔軟に使用できる構成を採用しました。周囲のクス並木や歴史的なゴシック建築群との共存を重視して建物の量感を抑えています。
1912年の正門と2004年の校舎――二つの建築を比べる
本郷正門は1912年に伊東忠太が設計した冠木門です。その近くに槇のガラス棟が置かれました。門と法文校舎の重厚な意匠に対して、法学系教育棟はガラス越しの光の透過と控えめな量感で景観に加わります。
正門付近で両方を同じ視野に入れると、近代の大学の入口と、2000年代の法科大学院施設が並ぶ様子を見られます。法文校舎については内田ゴシック建築完全ガイドに詳しい建築史を掲載しています。
安藤忠雄の情報学環・福武ホール――2008年3月26日竣工
福武ホールは福武總一郎の寄附を受け、安藤忠雄が設計した施設です。大学の公式案内によると、2008年3月26日に竣工しました。赤門近くの細長い敷地に建ち、研究室のほか、ホール、ラーニングシアター、学際的な交流空間を備えます。
安藤の設計者コメントには、敷地の奥行き約15メートル、長さ約100メートルという条件が示されています。本郷通り側の樹齢100年以上のクスの木と緑を遮らないよう建物の高さを抑え、長い正面の比率を三十三間堂に参照したと記されています。

長さ100メートルの「考える壁」と地下の交流空間
福武ホールのキャンパス内側には、約100メートルにわたるコンクリートの「考える壁」が配置されています。安藤はこの壁を、既存の大学空間と壁の背後に広がる地下空間をつなぐためのものとして計画しました。
施設の公式案内では1階にカフェとテラス、地下2階に福武ラーニングシアターとラーニングスタジオを配置しています。建物を高く積み上げる代わりに地下空間を使い、地上の樹木と歩行空間を残しました。公開施設と研究室が縦方向につながる構成です。
伊藤国際学術研究センター――2011年、桜広場の下の講堂
伊藤国際学術研究センターは伊藤雅俊・伸子夫妻の寄附によって整備された大学の国際交流・社会連携施設です。設計は香山壽夫。赤門近くの桜広場の下に約500人収容の講堂を設け、地上部の広場と地下の大空間を組み合わせています。
大学の施設紹介によると、広場へ突き出す二つのトップライトが地下講堂へ自然光を取り込みます。キャンパスと本郷通りの接点で緑地と歩行空間を確保しながら、会議や社会人教育のための施設を設けた建築です。
隈研吾のダイワユビキタス学術研究館――2014年竣工
ダイワユビキタス学術研究館は大和ハウス工業の寄贈によって建設され、2014年4月に完成、5月に竣工記念の内覧会が開かれました。建物のプロデュースを東京大学の坂村健が担い、意匠設計は隈研吾が担当しました。情報技術とユビキタスコンピューティングの研究拠点です。
外壁は杉板などの鱗状のパネルを波打たせた形で、土を使った仕上げも組み合わせています。東京大学学内広報は、波打つ杉板の外観や地下の資料展示空間を写真とともに紹介しています。コンクリート主体の福武ホールとは異なり、素材の細かな繰り返しが建物の表面をつくっています。

HASEKO-KUMA HALL――2020年、1960年代の校舎を改修
2020年1月、工学部11号館の1・2階にHASEKO-KUMA HALLが完成しました。工学部11号館は吉武泰水が設計し1969年に竣工した校舎で、隈研吾は既存建物の内部を新しい交流空間へ改修しています。
「nest of wisdom」は、ラウンジとホールの二層に木の箱を組み合わせた内装です。施設の設計資料には木の箱が全体で76個と記録され、ラウンジの展示用41個とホールの吊り下げ式32個が紹介されています。ラウンジの箱は研究成果の展示や映像・音の演出に利用され、ホール側は天井から箱を吊る構成です。1960年代の躯体を残し、木製の立体的な造形によって内部の用途と印象を更新しました。
現代建築の年代と設計者
| 年 | 建物 | 設計・計画の特徴 |
|---|---|---|
| 2004 | 法学政治学系総合教育棟 | 槇文彦/半透過性の外壁 |
| 2008 | 情報学環・福武ホール | 安藤忠雄/「考える壁」と地下空間 |
| 2011 | 伊藤国際学術研究センター | 香山壽夫/桜広場下の講堂 |
| 2014 | ダイワユビキタス学術研究館 | 隈研吾/杉板などの鱗状外装 |
| 2020 | HASEKO-KUMA HALL | 隈研吾/木製の箱による既存棟改修 |
現代建築を見て歩く
正門脇の槇文彦による法学系教育棟から始め、赤門近くの福武ホールと伊藤国際学術研究センターを見ます。春日門側へ進むとダイワユビキタス学術研究館を観察できます。工学部11号館のHASEKO-KUMA HALLでは、建築の外側と内部の設計年代が異なることを確認できます。各施設の内部利用には個別の条件があるため、公開情報と現地表示に従ってください。
