2026年8月16日(日)、ゆる歴史散歩会では東京都江東区豊洲の「がすてなーに ガスの科学館」で、体験型展示を楽しみながら都市ガス、炎、エネルギー、環境の仕組みを学ぶイベントを開催しました。参加は12名。15:30に集合して自己紹介をしたあと、歴史ギャラリー、炎のふしぎギャラリー、1階・2階の展示室を巡りました。
この日は15:00からサイエンスショーも行われていたため、希望者は集合前に鑑賞しました。話がとても面白く、知らなかった内容も多くて、大人にも学びの多い時間になりました。サイエンスショーでは、極低温にしたゴムボールが粉々に割れる実験から始まり、LNGの「冷たさ」がどのように利用されているのかをクイズ形式で学びました。
とくに面白かったのが、都市ガスの「におい」の話です。天然ガスはもともとほとんど無臭のため、漏れたときに気づけるよう人工的ににおいを付けています。ショーでは「そのにおいはどこで作っている?」というクイズがあり、瀬戸内海の無人島にある工場で作られているという話が登場しました。ガス会社によってにおいが少しずつ違うため、引っ越したときには新しい地域のガス臭を覚えておくとよい、という話も印象に残りました。
最後は、家庭までガスを運ぶ黄色いガス管の丈夫さへ話がつながります。工事などで出たガス管の切れ端が動物園で再利用され、シロクマが踏んだり噛んだりしても壊れにくいほか、ゾウ、ミーアキャット、カンガルーなどの遊具として使われている例も紹介されました。集合前の希望者のみの鑑賞でしたが、ここで知った「LNGの冷たさ」「着臭」「ガス管」という話題が、このあと館内で実際に見る展示とそのままつながっており、見学の予習としても非常に分かりやすい内容でした。
展示室では昔のガス器具、LNG、ガス管、防災、環境、食とエネルギーまで話題が広がり、気になった展示を見つけては立ち止まりながら、みんなでにぎやかに鑑賞しました。

「がすてなーに ガスの科学館」とは|豊洲でエネルギーを体験する企業館
現在の「がすてなーに ガスの科学館」は2006年6月、同じ豊洲地区にあった旧「ガスの科学館」を引き継ぐ形で開館しました。東京ガスは、科学と暮らしの視点からエネルギーの「?」を学び「!」を実感する体験・参加型施設として整備したと説明しています。東京ガスは同館を2026年9月23日で閉館すると公表しており、今回の見学は閉館直前の時期の記録にもなりました。
施設公式の紹介によると、丸い屋上は地球の約2万分の1の大きさの丸みを表すよう設計されています。天然芝の屋上緑化は、夏の熱の侵入と冬の熱の流出を抑える省エネの仕掛けでもあり、建物そのものが学習教材になっています。
当日は15:00から希望者でサイエンスショーを鑑賞し、15:30に集合・自己紹介。その後、歴史ギャラリー、炎のふしぎギャラリー、1階・2階の体験展示、屋上芝生広場と見て回り、17:00に終了しました。
館内では、展示の気球がふわっと上がっていく様子も見ることができました。静止画では伝わりにくい動きを、短い動画で見ると展示の楽しさがよく分かります。
歴史ギャラリーでは、暮らしの道具からガスの歴史をたどりました。 昔の冷蔵庫や調理器具、ガス機器などを眺めると、エネルギーの歴史は技術だけではなく、家庭の暮らし方そのものの歴史でもあることが分かります。


炎のふしぎギャラリーでは、実際の炎の動きを観察しました。 炎は身近な現象ですが、温度や空気の流れ、燃料との混ざり方によって形や動きが変化します。実際に動く炎を見ることで、静止画ではつかみにくい現象を直感的に理解できます。
炎の形や揺れ方は、写真より動画のほうがはるかに分かりやすい展示です。まずは、炎が変化していく様子を短い動画でご覧ください。
1階・2階では、黄色い配管を使った展示などを通して、都市ガスが家庭へ届く仕組みを体験しながら学びました。見えない地下インフラを立体的に見られるのは、科学館ならではの面白さです。

とくに目を引いたのが、黄色いポリエチレン管の展示です。写真の説明では、20cmの管が60cm以上まで伸びる例が示されていました。地震で地盤が動いたとき、変形に追随できる材料はガス供給設備の安全性を高めます。普段は地中に埋まって見えないインフラの防災技術を、具体的に実感できる展示でした。
現在の都市ガスの主原料となる天然ガスは、海外から液化天然ガス(LNG)として船で運ばれます。展示では、東京ガスのLNG基地が千葉県袖ケ浦市、神奈川県横浜市の根岸と扇島、茨城県日立市にあり、高圧ガス導管で結ばれていることが紹介されていました。
東京ガスネットワークの高圧幹線パイプライン|群馬が離れて見える理由
東京ガスネットワークの広域図を見ると、首都圏から北関東へ伸びる赤い高圧幹線網に対して、群馬県の高崎・前橋周辺だけが離れて見えます。ここで大切なのは、赤線が「東京ガスネットワーク自社の高圧幹線」を示していることです。群馬の供給区域そのものがパイプラインから切り離されている、という意味ではありません。
群馬には東京ガス側の「群馬幹線」があり、東京ガスの2009年度供給計画では安中市から高崎市までの高圧幹線として整備されたことが確認できます。その西側では、現在のINPEXにつながる旧帝国石油が整備した「群馬ライン」が富岡市から安中市へ伸び、東京ガスの群馬幹線と接続する計画として建設されました。つまり、地図上で東京ガス自社の赤線が首都圏側と連続していなくても、他社の高圧パイプラインを介して天然ガスを受ける仕組みがあるため、「群馬だけLNGをローリーで運んで供給している」と理解するのは正確ではありません。
この群馬エリアには独自の歴史もあります。高崎では1913年に高崎瓦斯、前橋でも同年に前橋瓦斯が開業し、その後いくつかの会社を経て1945年に東京ガスへ合併しました。さらに2011年4月には、藤岡市・高崎市ガス企業団の事業を東京ガスが譲り受け、群馬支社の供給区域が広がりました。現在の地図が首都圏とは少し離れた形になっている背景には、こうした地域ごとに形成されてきたガス事業の歴史と、後から接続・拡張されたパイプライン網の成り立ちがあります。
高圧幹線は、都市ガスの「大動脈」です。 東京ガスの資料では、ガス圧が1MPa以上で、一般的な太さは直径65〜75cm程度と説明されています。実際、中央幹線では圧力7MPa・口径600mmという仕様例もあります。基地から基地、あるいは基地からガバナステーションまで大量のガスを送り、そこで圧力を下げて中圧・低圧の導管網へつないでいきます。
材質には、強度と柔軟性に優れた溶接接合鋼管が使われています。東京ガスネットワークは、高圧・中圧導管について阪神・淡路大震災や東日本大震災でも高い耐震性が確認されたと説明しています。普段は地中に埋まって見えない設備ですが、都市ガスの安定供給を支える重要なインフラです。
LNGは天然ガスを低温で液化して体積を小さくし、大量輸送しやすくしたものです。海外からLNG船で受け入れ、基地で気化した後、導管を通して需要地へ送ります。模型と映像を見ることで、「海外の資源」が日常の台所まで届く長い流れを想像できました。
展示はガスだけにとどまりません。食べ物がどこから運ばれてきたかを考えるフードマイレージのコーナーなど、食と輸送、環境負荷を結びつけて考える展示もありました。参加者それぞれが気になる展示を試し、説明を読んでは会話が広がる時間になりました。
館内には本物の石炭に触れられる展示もありました。黒い石炭を実際に手で触れると、ガスの歴史が抽象的な年表ではなく、具体的な「原料の歴史」として感じられます。
展示室を見終えたあとは、最後に屋上の芝生広場へ。水辺の向こうに高層住宅が並ぶ現在の豊洲の景色が広がります。施設公式によると、天然芝は断熱に役立つほか、屋根の傾斜で集めた雨水をろ過・消毒してトイレ洗浄水に再利用する仕組みも備えています。
日本のガスの歴史|ガス灯から家庭のエネルギーへ
日本のガス事業は1872年、横浜の馬車道でガス灯がともったことから本格的に始まりました。東京ガスの資料では、フランス人技師アンリ・プレグランの指導を受け、高島嘉右衛門が事業を進めたとされています。1874年には東京・銀座通りにも85基のガス灯が点灯しました。
1885年には渋沢栄一を中心に東京瓦斯会社が設立され、その後ガスの用途は街路照明から調理、給湯、暖房へ広がっていきました。かつては石炭を原料にした石炭ガスが長く使われ、現在は天然ガスが中心です。今回、本物の石炭や昔のガス器具を見られたことで、燃料の変化と暮らしの変化を一緒に考えることができました。
渋沢栄一と東京ガスの関係は、当サイトの「渋沢栄一が形づくった東京」でも紹介しています。
炎のオルガン(パイロフォン)|火で音が鳴る不思議な楽器
炎と音の関係で興味深い存在が「パイロフォン」です。管の内部で炎を燃やし、燃焼による周期的な圧力変化や振動を利用して音を出す楽器で、19世紀後半にフランスの物理学者・音楽家ジョルジュ・フレデリック・ウジェーヌ・カストナーが考案したとされています。
炎を入れた管が「歌う」現象はそれ以前から知られており、燃焼と音響の関係を考える科学史上の面白い題材です。炎のふしぎギャラリーで実際の炎の動きを見たあとにこうした仕組みを知ると、燃焼が熱だけでなく音にもつながる現象であることが見えてきます。
岡山化学工業とガス着臭剤|なぜガスにはあのにおいがあるのか
都市ガスやLPガスで感じる「ガス臭」は、天然ガスそのもののにおいではありません。天然ガスはほとんど無臭のため、漏れたときにすぐ気づけるよう、強いにおいを持つ着臭剤を加えています。
曽田香料は、ガス漏れを警告するガス着臭剤を開発し、日本国内需要の50%以上を供給していると公式サイトで説明しています。そのグループ会社の岡山化学工業は岡山市東区犬島58に製造拠点を置き、香料や機能性化学品を製造しています。地理資料では、犬島諸島の無人島・犬ノ島に都市ガス付臭剤の香料工場があるとされています。
着臭剤はごく微量でも人が気づけるように設計された強いにおいの物質です。2014年には同工場でガス付臭剤原料TBMの漏洩があり、岡山市などで異臭が広がったと報じられました。なお、岡山化学工業の公式所在地表記は「岡山市東区犬島58」であり、「犬島」と「犬ノ島」は資料によって対象・表現が異なるため、ここでは公式所在地と地理資料を分けて記しています。
豊洲の歴史|海から工業地帯、そして住宅・市場の街へ
豊洲は1930年代の埋立によって生まれた人工島です。昭和期には造船所や東京ガスの工場などが立地する工業地帯として発展し、その後の大規模再開発で住宅、商業施設、オフィス、市場が集まる湾岸都市へ変化しました。
「がすてなーに」が豊洲にあることも、この土地が長くガス事業と結びついてきた歴史の延長にあります。屋上から見えた高層住宅と水辺の風景も、かつて工場や物流施設が中心だった湾岸の土地利用が大きく変わったことを実感させてくれました。
豊洲の埋立、造船所、東京ガス豊洲工場、豊洲市場までの土地利用の変化は、当サイトの「豊洲の歴史|海から生まれた街は工場・市場・タワマンへどう変わったのか」で詳しくまとめています。
ガスミュージアム|ガス灯と近代生活の歴史をさらに深掘り
ガスの歴史をもっと詳しく見たい人には、東京都小平市の「GAS MUSEUM ガスミュージアム」もおすすめです。公式サイトでは、都市ガス事業の歴史と暮らしとガスの関わりを紹介する歴史博物館と位置づけており、明治時代の錦絵やガス器具などを収蔵・展示しています。
「がすてなーに」が体験を通じて現在のエネルギーを学ぶ施設だとすれば、ガスミュージアムはガス灯から家庭用ガス器具へと続く近代生活史を歴史資料から深掘りするのに向いています。今回の見学で石炭や昔の器具が気になった人は、両方を見ると理解がつながります。博物館の見方を予習したい方は、当サイトの「美術館・博物館で鑑賞するときの注意点や楽しみ方」も参考にしてください。
今回の「がすてなーに」探検では、炎の動きから、ガス管の耐震性、LNGの輸送、ガスのにおい、食と環境、豊洲の都市史まで、身近なエネルギーを入口に話題が大きく広がりました。実際に触れて試せる展示が多く、自然に会話が生まれ、楽しみながら学べる見学会になりました。
今回のイベントではTimeWalkの専用コースは利用していませんが、豊洲のように土地の変化が大きい街では、周辺の歴史スポットを地図で見ながら歩くと理解が深まります。TimeWalkは、現在地や指定地点の近くにある歴史スポットを地図で探し、自分で歴史散歩を楽しめるWebアプリです。現在地から歩ける史跡をTimeWalkの地図で探すことができます。
参考資料
- 東京ガス「がすてなーに ガスの科学館 グランドオープン!」
- 東京ガス「がすてなーに ガスの科学館 閉館のお知らせ」
- がすてなーに公式「春といえば♪~がすてなーにの自己紹介」
- がすてなーに公式「景色だけじゃない?!屋上」
- 東京ガス「東京ガスグループ挑戦の歴史」
- 東京ガス「ガスとくらしの年表」
- 曽田香料「ケミカル事業」
- 曽田香料「岡山化学工業株式会社」
- 日本大百科全書「犬島諸島」
- Wikipedia「Pyrophone」
- GAS MUSEUM「ガスミュージアムについて」
- 東京ガス「藤岡市・高崎市ガス企業団の事業譲受について」
- 東京ガス「2009年度供給計画の概要」
- INPEX「新東京ライン延伸工事・群馬ライン建設工事の完工について」
- INPEX「パイプライン」
- 東京ガスネットワーク「耐震性の高いガス設備」

