乃木神社「第五十二回管絃祭」2026|乃木将軍と馬と雅楽、演目を解説

長府乃木神社の乃木希典夫妻と名馬寿号の像

東京・赤坂の乃木神社で、2026年10月8日(木)午後6時から「第五十二回 管絃祭」が斎行されます。今年の題は「乃木将軍と馬と雅楽と」。観覧は無料です。

雅楽と聞くと難しそうに感じますが、今回は「楽器の合奏を聴く前半」と「舞を見る後半」と考えると分かりやすくなります。前半では「双調音取」「催馬楽 山城」「武徳楽」、後半では舞楽「萬秋楽」と「貴徳」が奉納されます。

第五十二回管絃祭の開催概要

項目内容
名称第五十二回 管絃祭「乃木将軍と馬と雅楽と」
日時令和8年(2026年)10月8日(木)午後6時
会場乃木神社(東京都港区赤坂8-11-27)
雅楽奉納乃木雅楽会
演奏協力雅楽道友会
観覧無料
アクセス東京メトロ千代田線「乃木坂駅」1番出口から徒歩1分

管絃かんげんは、笙・篳篥・龍笛などの管楽器に、琵琶や箏、打楽器を加えて合奏する雅楽の演奏形式です。舞を伴う「舞楽」に対し、管絃は楽器の響きそのものを味わいます。乃木神社の管絃祭は1974年に「観月祭」として始まり、1983年から現在の名称となりました。2024年に第50回を迎え、2026年で第52回です。

屋外の舞台で雅楽を演奏する楽人たち
雅楽の演奏風景。撮影:KENPEI/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0

2026年はどんな雅楽が見られる?

今年の前半は、双調音取そうじょうねとり催馬楽さいばら「山城」、武徳楽ぶとくらくの順に進みます。

最初の「双調」は、雅楽で使われる代表的な六つの音の型の一つです。西洋音楽のGに近い音を中心にし、明るく優美な響きが特徴です。「音取」は、その日の演奏で使う音の高さや雰囲気を、各楽器が短く示す前奏のようなもの。つまり「双調音取」は、これから始まる雅楽の音に耳を慣らす短い導入と考えると十分です。

その後に歌を伴う「山城」、楽器の合奏による「武徳楽」が続きます。専門用語を追わなくても、短い導入→歌のある雅楽→合奏という変化を聴くだけで、前半の流れがつかめます。

後半の「舞楽」は、雅楽の演奏に舞が加わるものです。舞楽には「左方」と「右方」という大きな分け方があり、伝わってきた地域や音楽の系統、装束、楽器編成などが異なります。今回は左方の「萬秋楽」と、右方の「貴徳」が舞われます。

催馬楽「山城」――平安時代の歌を雅楽で聴く

催馬楽さいばらは、平安時代に宮廷で歌われた歌物です。当時の民謡や風俗歌を、雅楽器の伴奏にのせて歌います。「山城」は現在の京都府南部にあたる山城国を背景とし、狛の瓜作りや男女のやり取りを思わせる内容が歌われます。

「催馬楽」という字から馬の歌を想像しやすいものの、「山城」の内容は馬ではありません。今回の前半では、楽器だけの雅楽とは違う「人の声が入る雅楽」を聴ける演目です。

武徳楽――管絃の合奏をじっくり聴く

武徳楽ぶとくらくは、前半の締めくくりに演奏される管絃の曲です。笙や篳篥、龍笛、琵琶、箏、打楽器が重なり、雅楽らしい厚みのある響きをつくります。

題名に「武徳」とあるため、「乃木将軍と馬と雅楽と」を掲げる今年の雰囲気にもよくなじみます。ここでは曲名の由来を考えるより、前の「山城」と比べて、歌のない合奏がどのように聞こえるかに注目すると楽しみやすくなります。

萬秋楽――ゆったり始まる格調高い舞

萬秋楽まんじゅうらくは、ゆったりとした大きな流れを持つ雅楽の曲です。今回は全曲ではなく、「序」と「破」の一部が舞楽として奉納されます。

「序」は拍をはっきり刻まず静かに始まり、「破」になると一定の拍子が感じられるようになります。難しい理論を知らなくても、静かに始まった舞と音楽が、少しずつ形を整えて進んでいく変化が見どころです。

貴徳――武人が大きく舞台を動く、力強い一人舞

貴徳きとくは、一人の舞人が舞台を大きく動く力強い舞です。国立劇場は、古代中国の前漢の時代に、北方の騎馬民族・匈奴きょうどの日逐王が漢に降り、帰徳侯となった故事に基づくと紹介しています。舞人は面と武人を思わせる装束を身につけ、鉾を持つ場面もあります。

今年の題「乃木将軍と馬と雅楽と」と最も結びつきを感じやすい演目です。騎馬民族の王を表す舞を、馬との縁が深い乃木希典を祀る神社で見るというのが、第52回ならではの見どころになります。

乃木将軍と馬――白馬「壽号」の物語

乃木希典のぎまれすけと馬の関係を象徴するのが、白馬の壽号すごうです。日露戦争の旅順攻囲戦後、水師営すいしえいで乃木とロシア軍のステッセル将軍が会見し、その後ステッセルからアラビア産の白馬が贈られました。乃木神社は、この馬が後に壽号と名付けられたと伝えています。

軍服姿の乃木希典の肖像写真
乃木希典。『近代名士之面影 第1集』所収、国立国会図書館/Wikimedia Commons(Public Domain)

東京・赤坂の旧乃木邸には煉瓦造りの厩が残り、乃木が馬を大切にしていたことを今に伝えています。旧乃木邸や乃木神社、乃木坂の歴史は、関連記事「旧乃木邸・乃木神社・乃木坂の歴史|2026年一般公開で歩く明治の記憶」で詳しく紹介しています。

2026年は午年です。乃木と壽号の記憶に、騎馬民族の王を表す「貴徳」が重なり、「馬」が今年の管絃祭を理解する大きな手がかりになっています。

第50回・第51回はどんな内容だった?

乃木神社の管絃祭は、毎年演目が変わります。近年の2回を見ると、それぞれの年で舞の雰囲気が大きく違いました。

第50回(2024年)――子どもが舞う華やかな「迦陵頻」と「胡蝶」

第50回の中心は、迦陵頻かりょうびん胡蝶こちょうという二つの童舞でした。迦陵頻は鳥を思わせる羽を、胡蝶は蝶の羽をつけて舞う華やかな演目です。50回の節目に、色鮮やかで親しみやすい舞が並びました。

第51回(2025年)――動きと物語を楽しむ「退走禿」と「還城楽」

第51回は、退走禿たいしょうとく還城楽げんじょうらくが舞われました。還城楽は、蛇を見つけて喜ぶ姿を表すと伝わる一人舞で、木で作った蛇を使います。第50回の可憐な童舞とは違い、舞台上の動きと物語を楽しむ内容でした。

第52回は、ゆったりと格調高く舞う萬秋楽と、武人を思わせる力強い貴徳が並びます。前2回と比べても、「乃木将軍と馬」という今年の題が舞の印象にはっきり表れています。

初めて見るなら、この3つだけ知っておけば楽しめる

雅楽の用語をすべて覚える必要はありません。第五十二回は、次の三つを知っておくだけで流れを追いやすくなります。

  • 管絃:舞のない楽器合奏。笙・篳篥・龍笛などの音を聴きます。
  • 催馬楽:雅楽器の伴奏で歌う古い歌。今回は「山城」です。
  • 舞楽:雅楽の演奏に合わせて舞うもの。今回は萬秋楽と貴徳です。

前半は耳で音の違いを楽しみ、後半は装束や動きも含めて見る。そう考えると、雅楽が初めてでも入りやすい構成です。

当日の見学情報

第五十二回管絃祭は2026年10月8日(木)午後6時から。会場は乃木神社、観覧は無料です。東京メトロ千代田線「乃木坂駅」1番出口から徒歩1分の場所にあります。

2026年の告知チラシには、雅楽奉納「乃木雅楽会」、演奏協力「雅楽道友会」とあります。第51回は午後5時30分から受付が行われましたが、第52回のチラシには受付開始時刻の記載がありません。最新案内は乃木神社の公式情報で確認できます。

参考資料