築地から明石町へ歩くと、立教、女子学院、明治学院、慶應義塾、聖路加へつながる近代史が数百メートルの範囲に重なっています。明治初年に置かれた築地外国人居留地は、東京の外交、キリスト教、学校教育、医療が交わった場所でした。現在は洋館街こそ残っていませんが、教会、記念碑、発祥地の碑からその輪郭をたどれます。

築地外国人居留地とは
江戸の開市に伴い、現在の中央区明石町一帯に外国人居留地が設けられました。横浜のような開港場とは性格が異なり、築地は東京の「開市場」に置かれた居留地でした。貿易商社の街というより、公使館、教会、学校、病院が集まったことが大きな特徴です。
居留地以前の一帯は築地鉄砲洲と呼ばれ、武家屋敷が広がっていました。現在の明石町10・11番付近には赤穂藩主浅野長矩の上屋敷がありました。江戸の武家地が、明治になると外国人居留地へ転換したのです。
慶應義塾と蘭学――居留地より前から始まった西洋学問
築地の西洋文化受容は、外国人居留地の開設より前に始まっています。1858年、福澤諭吉は築地鉄砲洲の中津藩中屋敷で蘭学塾を開きました。これが慶應義塾の起源です。さらにこの中津藩屋敷では、江戸時代に前野良沢らが『ターヘル・アナトミア』の翻訳に取り組み、『解体新書』へつながる仕事を進めました。
アメリカ公使館――明石町が外交の舞台だった時代
アメリカ公使館は1874年から1890年まで築地外国人居留地に置かれました。現在の聖路加ガーデン周辺には、当時の建物に使われていた白頭鷲、星条旗、星などを刻んだ石造物が記念碑として残ります。現在の住宅街に、東京の外交拠点だった痕跡が残る場所です。
カトリック築地教会――居留地の面影を残す建築
フランス・カトリック教会は1874年に居留地36番を借り、1878年に築地聖ヨゼフ天主堂を建てました。初代聖堂は関東大震災で焼失し、現在の聖堂は1927年の再建です。正面に列柱を並べた古典主義的な外観は、明石町の近代史を建築として伝えています。



立教・女子学院・明治学院――学校発祥の地が集まる理由
1874年、米国聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズが築地で聖書と英学を教える立教学校を開きました。現在の立教大学の起源です。
女子学院の起源の一つも築地にあります。1870年、ジュリア・カロゾルスが居留地6番にA六番女学校を開設しました。明治学院につながる東京一致神学校も1877年に築地で設立され、ヘボン塾も後に築地へ移っています。明石町に学校の発祥碑が集中する背景には、居留地に来た宣教師や教育者の活動がありました。
聖路加――外国人居留地から近代医療へ
居留地制度は1899年に廃止されました。その直後の1901年、米国聖公会の宣教医ルドルフ・ボリング・トイスラーが築地で病院を開設します。これが聖路加国際病院へ発展しました。教育と宗教だけでなく、西洋医学の拠点も明石町に根づいていきます。
聖路加国際病院の歴史を伝える建物として、トイスラー記念館も残されています。周囲の緑と赤い屋根の外観が印象的で、現地には中央区指定有形文化財の案内板が設けられています。

聖路加タワーのオフィス棟28階にある渡り廊下からは、周辺の街並みを高い位置から見渡せます。築地・明石町の歴史を地上でたどったあと、高層階から現在の東京の姿を眺めた場面も写真に残しました。


地下から見つかった外国人の暮らし
明石町遺跡の発掘では、西洋産のティーカップやソーサー、ワインボトル、ジンボトル、ソーダボトル、牛骨、パリ製のクレイパイプなどが出土しています。発祥碑だけでなく、実際に外国人が暮らしていた生活用品が地下に残っていました。
関東大震災で変わった居留地の街並み
外国人居留地は1899年の条約改正で廃止されましたが、洋館や教会はその後も残りました。1923年の関東大震災で街並みは大きく変わり、現在は建物そのものより発祥碑や石造遺物が多く残っています。明石町を歩くときは、点在する碑をかつての居留地の街区と重ねると歴史がつながります。
築地本願寺――築地という土地の成立から近代建築へ
築地本願寺は1617年に浅草付近で創建され、明暦の大火後に現在地へ移りました。海を埋め立てて土地を「築いた」ことが築地の地名と結びついています。現在の本堂は伊東忠太の設計で1934年に竣工しました。古代インドなどの仏教建築を参照した外観を持ち、国の重要文化財です。


築地・明石町を歩くコース
- 築地本願寺
- 慶應義塾発祥の地・蘭学事始の地
- カトリック築地教会
- 女子学院発祥の地
- 立教学院発祥の地
- 明治学院発祥の地
- アメリカ公使館跡
- 聖路加国際病院周辺
京橋・八丁堀から築地へ歩きながら江戸から明治への変化をたどるコースは、京橋~八丁堀~築地の歴史散歩で紹介しています。銀座から築地を経て月島まで、埋め立てと都市拡張を追うコースは、銀座~月島の歴史散歩をご覧ください。

