東京都文京区の本郷・湯島には、江戸時代の寺社と明治・大正・昭和の近代建築、東京大学につながる教育・医学史が徒歩圏内に重なっています。今回は本郷三丁目駅周辺の櫻木神社から、春日局ゆかりの麟祥院、東京大学の鉄門、湯島の講安寺まで10スポットを巡ります。
見どころは、徳川家光の乳母・春日局と麟祥院の関係、本郷に残る国登録有形文化財の教会・住宅・ビル、東洋大学の前身「哲学館」が麟祥院で始まった歴史です。建物の外観を見るだけでも、本郷が江戸の武家地から近代の文教地区へ変わっていった過程をたどれます。


今回のコース概要|本郷三丁目から麟祥院・東京大学・湯島へ
主な訪問先は次の10か所です。既存のGoogleマップリンクも残しています。
出発地・到着地、実際の所要時間、歩行距離は現在の記録から確認できないため記載していません。
本郷三丁目の寺社と近代建築を歩く
櫻木神社|太田道灌の江戸築城に由来する本郷の天神さま
櫻木神社は本郷4丁目に鎮座し、菅原道真を祀る神社です。文京区によると、文明年間(1469~1487年)、太田道灌が江戸城を築いた際に京都・北野から菅原道真の神霊を勧請したことに始まります。その後、徳川綱吉が昌平校を設けることになり、現在地へ移りました。本郷三丁目駅から近く、今回の街歩きでは境内と烏骨鶏も見どころになりました。
弓町本郷教会|1926年築、中村鎮の特殊ブロック造
日本基督教団弓町本郷教会は1926年に建てられた国登録有形文化財です。設計者の中村鎮が開発した鉄筋コンクリートブロック構造を使った4階建てで、茶色の外壁、半円アーチ窓、角地に立つ塔屋が特徴です。本郷の街路から、近代建築の構造と教会建築の意匠を一緒に観察できます。
瀬川家住宅(旧古市家住宅)|日本近代土木の祖・古市公威の旧邸
瀬川家住宅の主屋と蔵はいずれも国登録有形文化財です。主屋は1887年頃、日本近代土木の祖とされる古市公威の邸宅として建てられました。端正な和風住宅を基本に、応接間のトップライトや寄木張りの床など近代的な要素を取り入れています。蔵は昭和初期の鉄筋コンクリート造です。本郷が大学・研究者と深く結びついた地域だったことを住宅からも確認できます。
エチソウビル|本郷通りに残る越惣商店の近代商業建築
エチソウビルは国登録有形文化財で、本郷通り沿いに建つ糸物商・越惣商店の自社ビルです。大正期の既存部分を取り込み、昭和初期に増築された鉄筋コンクリート造3階建てで、頂部の歯形装飾や窓上のアーチが外観を特徴づけています。寺社や大学だけでなく、商業の近代化を伝える建築が残るのも本郷散歩の面白さです。
本郷中央教会|関東大震災後に再建されたゴシック様式の会堂
日本基督教団本郷中央教会は1929年築の国登録有形文化財です。明治期の「中央会堂」を受け継ぐ震災復興建築で、鉄筋コンクリート造3階建て。春日通り側に重厚な角塔を立ち上げ、ゴシック様式を取り入れています。弓町本郷教会と続けて見ると、同じ本郷に残る二つの近代教会建築の違いが分かります。
さかえビル|1934年築のアール・デコ建築
さかえビルは1934年に建てられた国登録有形文化財です。もとは薬学研究所を兼ねた事務所ビルで、角地の隅切り部分を正面として見せています。スクラッチタイルの外壁とテラコッタ装飾を使ったアール・デコ建築で、本郷三丁目周辺に残る昭和初期の都市景観を伝えています。
春日局ゆかりの本郷・湯島を歩く
春日局之像|春日通り・春日駅に名を残す家光の乳母
春日局(1579~1643)は、明智光秀の重臣・斎藤利三の娘として生まれ、徳川家光の乳母となった人物です。のちに朝廷から「春日局」の号を受け、大奥の制度整備にも関わりました。文京区には春日通りや春日駅など、その名を伝える地名があります。今回のルートでは春日局之像を見てから、菩提寺の麟祥院へ向かいます。
麟祥院|春日局の菩提寺と墓
麟祥院は文京区湯島4丁目にある臨済宗妙心寺派の寺院で、春日局を開基とします。春日局は家光から寺地を与えられ、1630年に渭川周劉を迎えて自身の菩提寺としました。1634年には春日局の法号にちなみ「麟祥院」と称するようになります。境内には1643年に亡くなった春日局の墓があります。
墓石の四方と台石には穴が開いています。麟祥院では、死後も天下の政道を見守れるよう「黄泉から見通せる墓」を望んだという春日局の遺言に基づくものと伝えています。現地では墓石そのものだけでなく、この独特な穴にも注目すると春日局の人物像を印象的にたどれます。

麟祥院は東洋大学発祥の地|井上円了が哲学館を創立
麟祥院には明治の教育史も重なっています。1887年、哲学者・井上円了は麟祥院境内の建物一棟を借り、私立哲学館を創立しました。これが現在の東洋大学の前身です。江戸前期には春日局の菩提寺となった場所が、明治には近代的な哲学教育の出発点になりました。麟祥院を歩くと、江戸幕府の歴史と近代教育史を同じ境内でたどれます。
本郷・東京大学側をさらに歩くコースは、東京大学本郷キャンパスを歴史散歩|赤門・安田講堂・三四郎池・ハチ公を巡るで詳しく紹介しています。上野公園から不忍池を越えて本郷・春日までつなげて歩くなら、上野公園から本郷・春日へ|不忍池・東京大学を巡る歴史散歩コースが続きのルートになります。
東京大学の鉄門から湯島・講安寺へ
東京大学の鉄門|医学部の歴史を伝える門
「鉄門」は東京大学医学部・医学部附属病院の前身にあたる種痘所の通称に由来します。東京医学校が本郷へ移った後、医学部正門は本郷キャンパスの正門として使われ、のちに鉄門と呼ばれるようになりました。旧鉄門は1918年に撤去され、現在の門は医学部・附属病院の創立150周年を記念して2006年に再建されたものです。現在の門を古い門そのものと考えず、医学部の歴史を伝える再建門として見るのがポイントです。
講安寺|江戸の火災対策を伝える土蔵造りの本堂
講安寺は1606年に湯島天神下で創建され、1616年に現在地へ移りました。本堂と庫裡は文京区指定有形文化財です。本堂は外壁を漆喰で塗り込めた土蔵造りで、火災の多かった江戸で建物を守る防火の工夫を伝えています。東京大学側から湯島へ歩くと、近代医学の象徴である鉄門から江戸の防火建築へ、時代の異なる都市史を続けて見ることができます。
本郷・湯島散歩で見えてくる3つの歴史
このルートでは、春日局と麟祥院に残る江戸幕府の歴史、弓町本郷教会やエチソウビルなどに残る近代建築、東京大学と東洋大学につながる教育・医学史を一度にたどれます。本郷三丁目周辺では、寺社、住宅、教会、商業建築が近い範囲に残っているため、建物の年代と用途を比べながら歩くと街の変化が分かりやすくなります。
ゆる歴史散歩会で東京の歴史を歩く
ゆる歴史散歩会では、東京周辺の史跡、神社仏閣、建築、地形などを初心者向けの解説付きで歩いています。現在募集中の街歩きはイベント一覧から確認できます。一人参加・初参加の方も参加できます。
TimeWalkで本郷・湯島周辺の歴史スポットを探す
TimeWalkは、現在地や指定地点の近くにある歴史スポットを地図で探し、自分で歴史散歩を楽しめるWebアプリです。本郷・湯島を自分のペースで歩くときや、今回のルート周辺で寄り道先を探すときに利用できます。
参考資料
- 文京区「櫻木神社」「講安寺」「国登録文化財」「区指定文化財」
- 文化庁「国指定文化財等データベース」「文化遺産オンライン」
- 麟祥院公式サイト
- 東洋大学公式サイト「創立者・井上円了について」
- 東京大学公式サイト・東京大学総合研究博物館「本郷キャンパスの歴史と建築」

