新宿駅の地下空間は、鉄道の改札、地下街、公共地下道、民間ビルの通路がつながる巨大な歩行者ネットワークです。都営新宿線新宿駅から東京都庁、西新宿駅、新宿駅西口を経て新宿三丁目駅へ。地下道をたどると、1885年の新宿駅開業、1960年代の西口広場と副都心開発、2020年の東西自由通路、現在の再開発まで、約140年の都市形成が一続きに見えてきます。
2026年8月時点では新宿駅西口で再開発工事が続き、2026年6月23日以降も駅前広場の通路が一部変更されています。工事区間の経路は変動するため、当日の現地表示と東京都「新宿駅直近地区工事情報ポータル」が最新の目安になります。
新宿駅が「世界一」と呼ばれる理由
ギネス世界記録は、新宿駅を利用者数が世界で最も多い鉄道駅として掲載しています。記録の対象となった2022年の1日平均利用者数は270万4,703人です。JR東日本、京王電鉄、小田急電鉄、都営地下鉄、東京メトロが集まり、駅の周囲には西武新宿駅や新宿三丁目駅もあります。
ギネス世界記録「Busiest railway station」
新宿駅の複雑さは、複数の鉄道会社がそれぞれ改札や通路を整備し、その外側へ地下街、地下駐車場、ビルの地下階、歩行者専用道が段階的に接続したことから生まれました。通路ごとに管理者、開放時間、高さ、案内表示が異なり、地上の道路と地下の方向感覚が一致しにくい構造です。
新宿の地下がダンジョン化した三つの理由
鉄道会社と駅が集中している
新宿駅にはJR、京王、小田急、都営地下鉄、東京メトロが集まります。さらに、都庁前駅、西新宿駅、新宿西口駅、新宿三丁目駅、西武新宿駅が徒歩圏にあります。駅名が違っても地下通路で近接し、同じ「新宿」の地下に複数の駅空間が重なっています。
公共通路と民間ビルが連結している
新宿の地下では、駅のコンコースから公共地下道へ進み、ビルの地下階を通って別の通路へ抜ける経路があります。便利な一方、ビルの開館時間や工事の影響を受けます。新宿区も、地下通路が連続しない場所や、管理上の通行時間に制限がある場所を課題として挙げています。
再開発で歩行経路が変わり続けている
新宿駅西口と西南口では大規模な再開発が進み、駅前広場、地下通路、デッキ、建物内の動線が段階的に組み替えられています。かつての通路が閉鎖され、仮設動線へ切り替わる時期もあります。工事中は現地の案内表示と出口番号が、その時点の経路を知る手掛かりになります。
新宿地下ダンジョンはこうしてできた|1885年から現在まで
新宿の地下空間は、鉄道の開業、駅の立体化、西口副都心の造成、地下道の延伸が約140年にわたって積み重なって形成されました。異なる時代の交通施設と都市計画が接続したことが、現在の複雑なネットワークにつながっています。
- 1885年 日本鉄道の新宿駅が開業。現在の巨大ターミナルの出発点です。
- 1915年 京王電気軌道が新宿へ乗り入れ、1927年には小田原急行鉄道が新宿―小田原間を開業しました。
- 1959年 営団地下鉄丸ノ内線が新宿へ到達。新宿駅と新宿三丁目を結ぶ地下空間の骨格が広がります。
- 1963~1964年 京王線の新宿駅が地下化され、小田急新宿駅も立体化。限られた駅前空間を上下に使う構造が進みました。
- 1966年 新宿駅西口広場が供用開始。地上はバスターミナル、地下1階は広場、地下2階は駐車場という三層構造がつくられました。
- 1978~1980年 京王新線新宿駅、都営新宿線が開業し、新宿駅南西側にも地下鉄動線が加わりました。
- 1991年 東京都庁が新宿へ移転。西新宿の地下歩行者ネットワークは官庁街と高層ビル群を結ぶ役割を強めました。
- 1996~1997年 丸ノ内線西新宿駅と都営12号線(現在の大江戸線)の新宿方面が開業。地下の結節点がさらに増えました。
- 2020年7月19日 新宿駅東西自由通路が開通し、改札外で西口側と東口側を行き来できる動線が大きく変わりました。
- 2020年代 「新宿グランドターミナル」の再編が進行中です。駅前広場や歩行者動線は工事の進捗に合わせて更新されています。
鉄道各社の駅、公共地下道、民間ビルの地下階が異なる時代に接続されたことが、新宿独特の「地下ダンジョン」を生みました。
新宿区「新宿駅周辺のターミナル形成に関する資料」/東京都建設局「新宿副都心エリア」/京王電鉄「新宿駅東西自由通路開通に伴うご案内」
今回歩く地下ダンジョンの全体像
出発地点は都営新宿線新宿駅の「6」出口付近です。西へ進んで新宿プロムナードギャラリー、東京都庁、都庁前駅へ向かい、タイムズ・アベニューを通って西新宿駅、新宿野村ビル、新宿センタービルを巡ります。その後、新宿駅西口の「新宿の目」を経て東側へ進み、新宿三丁目駅を目指します。
地下道を中心に歩けるルートですが、接続するビルの開館時間、工事、エレベーターの位置によって地上への迂回が必要になる場合があります。東京都庁、都庁前駅、西新宿駅、新宿駅、新宿三丁目駅が途中の離脱地点です。
新宿地下ダンジョンを歩く11地点
① 都営新宿線新宿駅「6」出口
都営新宿線新宿駅は京王線新宿駅と一体的に使われ、JR新宿駅の南西側に位置します。ここから西新宿方面の案内をたどると、駅のコンコースから地下歩行者空間へ移る過程を確認できます。駅名よりも「東京都庁」「中央通り」「ワンデーストリート」など、次の目的地を示す案内を追います。
② 新宿プロムナードギャラリー
新宿プロムナードギャラリーは、西新宿の地下歩道を展示空間として利用した場所です。通勤路や移動経路として造られた地下道に文化展示を組み込み、長い通路を単なる移動設備から公共空間へ変えています。
③ 東京都庁都民広場
東京都庁は1991年に丸の内から西新宿へ移転しました。第一本庁舎と議会議事堂に囲まれた都民広場は、地下の都庁前駅、中央通りの地下道、地上の街路、歩行者デッキが異なる高さで交差する場所です。かつて浄水場だった広大な土地を副都心へ造り替えた結果、道路と建築と地下歩道が一体になった西新宿特有の立体都市が生まれました。

④ 都庁前駅
都庁前駅は都営大江戸線の駅です。東京都庁、都民広場、新宿中央公園、西新宿の高層ビル群へ向かう地下動線の結節点になっています。駅構内にはエレベーターがあり、東京都交通局の駅ページで出入口とバリアフリー経路を確認できます。
⑤ 西新宿駅
東京メトロ丸ノ内線西新宿駅は、東京都庁方面から続く新宿歩行者専用道第2号線の途中にあります。この地下歩道は「タイムズ・アベニュー」と呼ばれ、東京都庁第一本庁舎から青梅街道を経て小田急ハルク前付近へ至る約1キロの計画路線です。
東京都庁から西新宿駅までの区間は1997年12月、西新宿駅から新宿野村ビルまでの区間は2011年5月に供用を開始しました。地下道を歩くと、西新宿の高層ビル群が一度に造られた都市ではなく、長期間かけて接続されてきたことが分かります。
⑥ タイムズ・アベニューの整備区間
タイムズ・アベニューは、西新宿の駅、庁舎、高層ビルをつなぐ基幹的な地下歩道です。2023年1月には、新宿警察署前交差点付近から新都心歩道橋下交差点までの約140メートルが交通開放されました。完成済み区間と事業中区間が混在するため、地下道の端や仮設動線そのものが都市整備の途中経過を示しています。
⑦ 新宿野村ビル
新宿野村ビルは1978年6月竣工、地上50階・地下5階、高さ約210メートルの超高層ビルです。タイムズ・アベニューが地下階へ接続し、公共地下道から民間ビルの内部へ歩行動線が連続します。1970年代に高層ビルが相次いで建った西新宿では、建物の地下階も街路ネットワークの一部として機能するようになりました。
⑧ 新宿センタービル
新宿センタービルは1979年10月31日竣工、地上54階・地下4階の超高層ビルです。前年に完成した新宿野村ビルと並び、1970年代末の西新宿に高層街が急速に形づくられた時代を伝えます。周辺では道路、地下通路、ビル地下が別の高さで交差し、浄水場跡地を大規模に再編した副都心計画の立体構造を体感できます。
⑨ 「新宿の目」
「新宿の目」は、彫刻家の宮下芳子が1969年に制作した大型のパブリックアートです。作品が置かれた西口地下広場は1966年に供用を始め、地上のバスターミナル、地下1階の広場、地下2階の駐車場を重ねた三層構造でつくられました。1969年には反戦フォーク集会の舞台となり、「広場」の表示が「通路」へ書き換えられたことから公共空間をめぐる議論も起きています。交通施設でありながら人が集まる都市の広場でもあった、西口地下の歴史を象徴する場所です。
新宿区「新宿駅西口広場の歴史」/新宿区史年表「昭和44(1969)年」
⑩ 新宿駅西口から東側へ
新宿駅の東西移動を大きく変えたのが、2020年7月19日に開通した「東西自由通路」です。以前はJR改札内を通る経路と駅外の通路が分かりにくく、西口側から東口側への移動は新宿駅の難所の一つでした。現在は改札外の東西自由通路が西口側と東口側を結び、東口、新宿三丁目、丸ノ内線方面へ続く動線の軸になっています。
西口側は再開発で通路変更が続いているため、東西自由通路へ入る位置も工事状況の影響を受けます。2026年6月23日以降も西口駅前広場の利用通路が一部変更されています。
京王電鉄「新宿駅東西自由通路開通に伴うご案内」/東京都「新宿駅直近地区工事情報ポータル」
⑪ 新宿三丁目駅
新宿三丁目駅には東京メトロ丸ノ内線・副都心線と都営新宿線が乗り入れます。追分交差点の地下を中心に、伊勢丹、新宿通り、明治通り方面へ通路が広がっています。西新宿の地下道が官庁街と高層ビルを結ぶのに対し、新宿三丁目側は百貨店や商業街との結びつきが強い空間です。
淀橋浄水場から西新宿副都心へ
現在の東京都庁と高層ビル群がある場所には、淀橋浄水場が広がっていました。1898年12月1日、淀橋浄水場から神田・日本橋方面への給水が始まり、東京の近代水道が本格的に動き始めます。

浄水場は、周辺の市街化と新宿副都心計画の進展を背景に1965年3月31日に閉鎖されました。跡地では道路、地下道、高層ビルが一体的に整備され、1991年には東京都庁が完成しました。

浄水場跡は広大で、既成市街地より大きな区画をまとめて再開発できました。西新宿に幅の広い道路、立体交差、地下歩道、高層ビルが並ぶ理由は、この土地利用の転換にあります。


淀橋浄水場と西新宿の歴史は、関連記事「街道、玉川上水、浄水場から見る新宿・西新宿・初台の歴史」でも詳しく紹介しています。
新宿地下ダンジョンで迷いにくくなる歩き方

出口番号より次の大きな目的地を見る
出口番号は鉄道会社や駅ごとに付けられています。同じ数字が別の駅にもあるため、「都庁」「西新宿駅」「東口」「新宿三丁目」など、次の大きな目的地と組み合わせて確認します。
最終目的地は中継点に分ける
案内板に最終目的地が出ていない場合は、途中の駅、広場、大型ビルを中継点にします。今回のルートでは「都庁」「西新宿駅」「新宿駅西口」「新宿三丁目」の順に区切ると、進行方向を修正しやすくなります。
公共地下道とビル内通路を区別する
公共地下道は長時間通行できる区間が多く、ビル内通路は施設の開館時間に左右されます。シャッターや閉鎖表示がある場合は、駅や公共地下道へ戻り、地上経路を選びます。
工事案内を最新情報として扱う
新宿駅周辺では再開発が続いています。現地の仮設案内、鉄道会社の構内図、施設の公式案内は、過去の地図より新しい情報です。特に西口と西南口は経路変更が起こりやすいため、曲がる前に案内表示を確認します。
新宿駅の地下通路はこれからどう変わるか
新宿区と東京都は、駅、地下通路、駅前広場、地上道路、歩行者デッキを一体的に再編しています。新宿駅西口地区と西南口地区の開発に加え、西武新宿駅と新宿駅を結ぶ南北の地下歩行者ネットワークも都市計画に位置づけられました。
2021年11月には、従来の新宿歩行者専用道第4号線を廃止し、新宿駅北東部地下通路線を追加する都市計画変更が行われました。既存計画をそのまま延長するのではなく、周辺の建替えと接続しやすい通路計画へ組み替えたものです。
再編は長期事業です。新宿駅直近地区では2022年3月から工事が始まり、関連事業は2046年度まで続く計画です。西口駅前広場では2026年6月23日以降も利用通路が一部変更されており、完成形へ向かう途中の動線そのものを現在見ることができます。
東京都「新宿駅直近地区工事情報ポータル」では、通路切替と案内動画が更新されています。
公式資料
新宿駅周辺の主な開発動向等について(2024年11月時点):新宿駅周辺で進む主要な開発事業の位置と進捗を確認できます。
新宿歩行者専用道第2号線(タイムズ・アベニュー):路線の計画範囲と整備区間を確認できます。
都市計画変更案(新宿駅周辺の地下歩行者ネットワーク):地下通路再編の全体像を示す資料です。
新宿歩行者専用道第4号線の廃止:旧計画を廃止した理由と範囲を確認できます。
新宿駅北東部地下通路線の追加:新宿駅と西武新宿駅方面を結ぶ新たな計画を確認できます。
あわせて歩きたい新宿の歴史散歩
西新宿の地上を歩き、玉川上水、淀橋浄水場、高層ビル街の成立をたどるなら「街道、玉川上水、浄水場から見る新宿・西新宿・初台の歴史」が関連します。
新宿三丁目から歌舞伎町へ進み、戦後の繁華街形成をたどるなら「歌舞伎町一丁目・二丁目―ネオンの裏に刻まれた戦後東京史」へ続けて歩けます。
新宿駅南口から国立競技場・神宮外苑へ抜ける地上の都市景観は「新宿駅南口からドコモタワー、国立競技場、神宮外苑などをお散歩」で紹介しています。

