ソメイヨシノも彼岸花もクローン?身近なクローン植物7選と増え方を解説

ソメイヨシノの花と枝

春の桜並木、秋のヒガンバナ、家庭菜園のイチゴ、台所で芽を出したジャガイモ。見た目も生態も違う植物ですが、「親とほぼ同じ遺伝的背景を受け継ぐ個体を増やす」という共通点があります。

植物の世界では、種子を作って子孫を残す有性生殖のほかに、茎、根、葉、球根などから新しい個体を作る方法が広く見られます。人間も接ぎ木や挿し木、株分け、種いもなどを利用して、同じ品種を長く維持してきました。

ソメイヨシノとヒガンバナは、ともに「クローン植物」の代表例として紹介されます。ソメイヨシノは主に人の接ぎ木で増え、ヒガンバナの日本で一般的な三倍体系統は鱗茎を分けながら増えてきました。同じクローンでも、成立までの事情は大きく異なります。

クローン植物とは?植物では「コピー」が身近にある

植物の葉、茎、根などの一部から新しい個体が生まれる繁殖を栄養繁殖えいようはんしょくと呼びます。この方法で生じた個体は、もとの植物と基本的に同じ遺伝的背景を受け継ぐクローンです。

日本植物学会は、地下茎、匍匐枝、塊根、無性芽など多様な栄養繁殖の仕組みを紹介しています。被子植物のおよそ7割が栄養繁殖能力を持つという報告もあり、クローン増殖は植物界では広く見られる生存戦略です。

有性生殖では、両親から受け継いだ遺伝情報が組み合わさり、子の遺伝子組成に違いが生まれます。栄養繁殖では、親の体の一部が次の個体へつながるため、その系統を同じ性質のまま増やしやすくなります。

「クローン」という言葉自体も植物と深い関係があります。1903年、アメリカの植物生理学者・育種家ハーバート・J・ウェバーは、球根、塊茎、挿し木、接ぎ木、芽などの栄養器官から増やされた植物群を表す語として「clon」を提案しました。語源になったギリシャ語の「klōn」は「枝」「小枝」を意味します。現在の綴り「clone」が定着し、動物や細胞、DNAにも使われる言葉へ広がりました。

身近な7例を並べると、同じ「クローン」の中にも複数の仕組みがあることが分かります。

植物主なクローン増殖の方法何が起きているか
ソメイヨシノ接ぎ木など同じ品種の枝を台木につなぎ、同じ遺伝的背景の穂木を増やす
ヒガンバナ鱗茎の分球日本で一般的な三倍体系統が地下の鱗茎を増やす
イチゴランナー親株から伸びた茎の先に子苗を作る
ジャガイモ塊茎・種いも地下茎が太ったいもから芽を出し、同じ品種を増やす
バナナ吸芽・組織培養など種子を作りにくい栽培品種を栄養的に増やす
タケ地下茎地下でつながりながら複数の地上部を作る
セイヨウタンポポなど無融合生殖受精せずに種子を作り、母株由来の個体を増やす

葉、花、実、生えている場所など、観察の基本を先に押さえたい場合は、街歩きがもっと楽しくなる植物の見方で実物を見るポイントを整理しています。

有性生殖と無性生殖の対比をさらに広げると、生きものの生殖には性決定、性転換、求愛など多様な仕組みがあります。「生きものたちの性」の解説では、その多様性を具体例から紹介しています。

ソメイヨシノ―人が接ぎ木で増やしたクローン

ソメイヨシノの花と枝
ソメイヨシノの花。撮影:Oh-moo/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0

ソメイヨシノは、日本で最もよく知られたクローン植物の一つです。国立科学博物館は、ソメイヨシノがふつう接ぎ木によって増殖され、多くの木が一本の木から増やされたクローン植物であると説明しています。

接ぎ木では、増やしたいソメイヨシノの枝である「穂木」を、根を持つ「台木」につなぎます。穂木側は元のソメイヨシノと同じ系統として育ちます。台木には別の個体や種類が使われることがあり、一本の木でも穂木側と台木側で遺伝型が異なる場合があります。

種子から育てた子は遺伝情報の組み合わせが変わります。同じ園芸品種の特徴を保ったまま各地へ増やす方法として、接ぎ木が大きな役割を果たしました。

ソメイヨシノの名称には東京の地域史も残っています。江戸の染井村、現在の東京都豊島区駒込周辺は植木の産地として知られ、幕末から明治初期にかけてこの桜が「吉野桜」の名で売り出されました。奈良の吉野山で見られるヤマザクラとの混同を避けるため、1900年に藤野寄命が「染井吉野」と名付けました。

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ソメイヨシノの多くは、同じ祖先の穂木に由来する遺伝的背景を共有しています。枝が伸び、細胞分裂が続く間には体細胞に突然変異が生じることがあり、この小さな違いが、2024年の研究で増殖の系譜を追う手掛かりになりました。

ヒガンバナ―種を作りにくい三倍体が鱗茎で広がる

赤いヒガンバナの花
ヒガンバナ(Lycoris radiata)。撮影:Offnfopt/Wikimedia Commons/CC0 1.0

日本で一般的に見られるヒガンバナの三倍体系統は、三組の染色体を持ち、正常な減数分裂が進みにくいため不稔です。種子による繁殖の代わりに、地下の鱗茎りんけいが分かれて新しい株を作ります。

2005年に『Genes & Genetic Systems』へ掲載された研究では、日本11地点から採取した三倍体ヒガンバナについて、核ゲノムのレクチン遺伝子と葉緑体ゲノムのマチュラーゼ遺伝子の塩基配列が比較されました。調べた11系統では、対象とした両遺伝子領域の塩基配列が完全に一致しました。

続く研究では、日本の三倍体系統が遺伝的に非常に均一であることから、中国から入った限られた系統が鱗茎による栄養繁殖で急速に広がった可能性が示されています。

この説明が当てはまるのは、日本で一般的な三倍体系統です。中国には有性生殖できる二倍体系統も分布します。「ヒガンバナ」という種名だけで一律にクローン性を説明するより、どの倍数体系統を扱っているかが重要になります。

ソメイヨシノでは、人が園芸品種を接ぎ木でコピーしてきました。ヒガンバナでは、日本で広がった三倍体系統が鱗茎を分けながら増えてきました。見た目はまったく異なる二つの植物が、別々の経路で大規模なクローン集団を作っています。

イチゴ―ランナーで親株の分身をつくる

イチゴ畑や家庭菜園では、親株から細い茎が横へ伸び、その先に新しい株ができます。この茎がランナーです。

農研機構によると、現在栽培されているイチゴ品種のほとんどは、親株から伸びるランナーを利用して子苗を作る栄養繁殖型です。子苗は親株と同じ遺伝子組成を持つクローンに当たり、同じ品種の性質をそろえた苗を増やせます。

ランナーでつながったイチゴの親株と子株
ランナーを伸ばすイチゴ(Fragaria 'Lipstick')。撮影:Dr U/Wikimedia Commons/Public Domain

一方、イチゴには種子で増やす栽培方法もあります。農研機構などが開発した「よつぼし」はF1の種子繁殖型品種で、種から苗を大量に育てられます。

同じ「イチゴ」でも、ランナーでクローン増殖する品種と、種子繁殖を利用する品種があります。植物をクローンかどうかで固定的に二分するより、品種と繁殖方法の組み合わせを見る方が実態に近くなります。

ランナーによる増殖には、苗を均一にそろえやすい利点があります。親株が病害虫に侵されている場合、その影響を子苗へ引き継ぎやすいことも農研機構が指摘しています。種子繁殖型の開発は、この課題を軽減する技術としても利用されています。

ジャガイモ―食べている「いも」が次世代をつくる

ジャガイモの「いも」は根ではなく、地下の茎の一部が太った塊茎かいけいです。表面にある「芽」から、新しい茎と葉が伸びます。

農業ではジャガイモの種子をまく方法より、塊茎を「種いも」として植える栄養繁殖が一般的です。種いもを切り分け、それぞれの断片に芽が残るように植えると、新しい株が育ちます。

芽を出したジャガイモの塊茎
芽を出したジャガイモ。撮影:Sarang/Wikimedia Commons/Public Domain

同じ品種の種いもを使えば、その品種の性質を維持したまま増殖できます。スーパーや台所でジャガイモから芽が伸びる現象は、地下茎に次世代の株を作る能力が残っていることの身近な例です。

クローン増殖では、植物本体と一緒に病原体も受け継がれる場合があります。農林水産省は、種いもに虫や病気があると収量などへ影響するため、検査を通った種いもが使われることを説明しています。栄養繁殖作物では、健全な繁殖材料を確保することが生産の重要な部分になります。

バナナ―種なし品種をクローンで維持する

私たちが食べるバナナの多くは、野生のバナナのような硬い種子が果肉の中に並んでいません。国連食糧農業機関(FAO)は、栽培バナナが栄養繁殖されるクローンで、一般に三倍体で不稔であると説明しています。

従来は親株の地下部から出る吸芽などを利用して増やし、現在の大規模生産では茎頂を使った組織培養も広く利用されています。種子を使わなくても、選ばれた栽培系統を大量に増やせます。

クローンは品種・系統ごとに成立しています。食用バナナ全体には複数の栽培品種やゲノム構成があり、それぞれの系統が栄養繁殖で維持されています。

同じ遺伝的背景を持つ個体を広い面積に植えると、果実の品質や栽培特性をそろえやすくなります。その一方で、特定の病原体に対する感受性も共有しやすくなります。バナナの育種や組織培養では、病害抵抗性の確保も大きな課題になっています。

タケ―何本も見える竹が地下で一つにつながる

竹林では、地上に何本もの竹が立っています。その地下では地下茎が横へ伸び、別の場所から新しい地上部を出します。

京都大学生態学研究センターは、タケやイチゴのようなクローン植物について、一つの種子から生まれた遺伝的な個体全体を「ジェネット」、地下茎や匍匐茎などから生まれ、生理的に独立して成長できる株を「ラメット」と呼んでいます。

マダケの地下茎と芽
マダケ(Phyllostachys bambusoides)の地下茎。撮影:Armin Kübelbeck/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0

一本のジェネットが多数のラメットを作れば、目には多数の植物が並んでいるように見えても、遺伝的には一つのクローンが広い範囲を占めることがあります。

一つの竹林には複数のジェネットが混在することがあります。京都大学の解説でも、多くのクローン植物では一つの集団内に多数のジェネットが存在し、それぞれの占有面積やラメット数が異なることが示されています。

この区別を知ると、「植物一個体をどこからどこまでと数えるのか」という感覚も変わります。地上に見える一本を単位にする動物的な数え方では、クローン植物の実態を捉えにくい場合があります。

タンポポ―「種から生まれたクローン」もある

クローン植物の中でも意外性が大きいのが、セイヨウタンポポなどに見られる無融合生殖むゆうごうせいしょく(アポミクシス)です。

通常の有性生殖では、減数分裂で作られた配偶子が受精し、遺伝情報が組み合わさって種子ができます。セイヨウタンポポの無融合生殖では、配偶子形成時に通常の減数分裂を行わず、受精も経ずに種子が形成されます。

種子を飛ばして新しい場所へ移動できる一方、その子は母株由来のクローンとして増えていきます。「クローン=種子を使わずに増える」というイメージを超え、植物では種子形成とクローン増殖が組み合わさる仕組みも進化しています。

タンポポ属には有性生殖を行う系統もあり、倍数性や系統によって繁殖様式が異なります。地下茎や球根に加え、受精を経ない種子形成もクローン繁殖の仕組みになります。

クローン繁殖はなぜ広がったのか

栄養繁殖えいようはんしょくには、すでにその環境で生き残っている個体の性質を維持しながら、短期間に新しい株を増やせる利点があります。花粉相手や受粉を待たずに広がれる植物では、安定した環境で場所を占有するうえでも有効です。

人間にとっても、果実の味、花の色、樹形、収量など望ましい性質を持つ品種を同じ状態で増やせることは大きな利点でした。ソメイヨシノの接ぎ木、イチゴのランナー、ジャガイモの種いも、バナナの栄養繁殖は、いずれもこの性質を利用しています。

均一性には弱点も伴います。同じクローンは共通した遺伝的特徴を持つため、ある病原体に弱い遺伝型が大量に栽培されていると、その弱点も広い範囲で共有されます。さらにイチゴのランナーやジャガイモの種いものように親株の体の一部を直接使う方法では、病害虫やウイルスが繁殖材料とともに次世代へ移ることがあります。

農業では、クローン繁殖の「同じものを増やせる」という強みと、遺伝的均一性や病原体の持ち越しという課題を同時に管理しています。

クローンでも時間とともに違いが生まれる

クローンは基本的に同じ遺伝的背景から始まります。枝や芽が成長して細胞分裂を重ねる過程では体細胞に突然変異が生じ、その変異が新しい枝や、そこから接ぎ木された次世代へ受け継がれることがあります。

2024年に『DNA Research』へ掲載されたソメイヨシノの研究では、日本各地から集めた46個体のゲノムが解析され、684か所の一塩基変異が検出されました。複数個体に共通する変異を使うと、46個体は8グループに分類されました。

上野公園から採取された4本も異なるグループに分かれ、そのうち1本は、解析対象の比較から祖先個体に最も近いと推定されました。クローンの中に蓄積した小さな突然変異が、接ぎ木で増殖してきた系譜を追う「目印」として使われた研究です。

「クローン=変化しないコピー」ではなく、同じ祖先からコピーされながら長い時間の中で小さな違いを蓄積する存在として捉えると、ソメイヨシノの全国的な広がりも別の角度から見られます。

約4万7000本の幹を持つ巨大クローン「Pando」

クローン植物の規模を極端に大きくした例が、アメリカ・ユタ州のフィッシュレイク国有林にあるアメリカヤマナラシのクローン「Pando」です。

2008年の遺伝学研究では、推定クローン域の内外にある209本の幹を7つのマイクロサテライト座で調べ、約43.6ヘクタールにわたる範囲が一つの遺伝的個体であることが確認されました。先行する形態学的調査では、このクローンに約4万7000本の幹があると推定されています。

地上では森のように多数の幹が立っていますが、地下では共通する根系から新しい幹が生じます。ジェネットとラメットという考え方を巨大なスケールで示す、世界的に有名なクローン植物です。

まとめ

ソメイヨシノは接ぎ木、ヒガンバナは鱗茎、イチゴはランナー、ジャガイモは塊茎、バナナは吸芽や組織培養、タケは地下茎、セイヨウタンポポなどは無融合生殖によってクローンを増やします。

同じ「クローン植物」という言葉の中に、人が品種を維持する仕組み、種子を作りにくい植物が生き残る仕組み、地下で空間を広げる仕組み、受精せず種子を作る仕組みが含まれています。

クローンでも、長い時間の中では体細胞の突然変異が蓄積します。ソメイヨシノでは、その変異が増殖の歴史を追う手掛かりとして利用されました。

身近な桜並木、ヒガンバナの群生、イチゴのランナー、芽を出したジャガイモは、植物が「同じ自分」を次の場所へ広げるさまざまな方法を目の前で見られる例です。

参考文献

  1. 日本植物学会「植物に見られる多様な栄養繁殖戦略」
  2. H. J. Webber, “New Horticultural and Agricultural Terms,” Science, 1903
  3. Merriam-Webster, “clone” Word History
  4. 国立科学博物館「桜-身近な花をどれだけ知っていますか?」
  5. Kenta Shirasawa et al., “Propagation path of a flowering cherry (Cerasus × yedoensis) cultivar ‘Somei-Yoshino’ traced by somatic mutations,” DNA Research, 2024
  6. Akiko Hayashi et al., “Genetic variations in Lycoris radiata var. radiata in Japan,” Genes & Genetic Systems, 2005
  7. Genes & Genetic Systems, “Possible origin of Japanese triploid, sterile strains of L. radiata var. radiata”
  8. 農研機構「《こぼれ話53》種子繁殖型イチゴ『よつぼし』の栽培と育苗の省力化」
  9. 農研機構「よつぼし」
  10. 農林水産省「ジャガイモができるまで」
  11. 農林水産省 aff「じゃがいも」栄養繁殖の解説
  12. FAO, “Banana Improvement”
  13. 京都大学生態学研究センター 工藤研究室「クローン植物におけるラメット生産の集団内多型」
  14. 日本植物生理学会「セイヨウタンポポの単為生殖の調べ方」
  15. DeWoody et al., “‘Pando’ Lives: Molecular Genetic Evidence of a Giant Aspen Clone in Central Utah,” Western North American Naturalist, 2008