中国・韓国・台湾・北朝鮮の中央銀行はどう違う?東アジア4地域をQ&Aで比較

中国、韓国、台湾、北朝鮮は地理的には近接していますが、中央銀行の成り立ちと政府との関係、金融政策の決め方は大きく違います。その違いには、中国内戦、朝鮮半島の分断、冷戦、計画経済と市場経済という20世紀東アジア史がそのまま残っています。

本文で使う主な略称は、中国人民銀行(People’s Bank of China、PBOC)、米国の連邦準備制度(Federal Reserve System、Fed)、連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee、FOMC)です。

まず4地域の中央銀行を整理

Q1. 中国・韓国・台湾・北朝鮮の中央銀行は何という?

地域中央銀行主な通貨
中国本土中国人民銀行(PBOC)人民元
韓国韓国銀行(Bank of Korea)韓国ウォン
台湾中華民国中央銀行(Central Bank of the Republic of China (Taiwan))ニュー台湾ドル
北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国中央銀行北朝鮮ウォン

同じ「中央銀行」でも、4地域は制度上かなり異なります。中国人民銀行は国務院の指導下、韓国銀行は金融通貨委員会が金融政策の最高意思決定機関、台湾中央銀行は行政院の下にある国営銀行で理事会が最高意思決定機関です。北朝鮮では中央銀行が計画経済の金融・国家資金管理と密接に結びついてきました。

いつ、なぜ作られた?

Q2. 4地域の中央銀行はいつ成立したのですか?

  • 中国人民銀行:1948年12月1日成立。解放区の銀行・通貨を統合し、人民元を発行しました。
  • 韓国銀行:韓国銀行法が1950年5月5日に公布され、6月12日に業務を開始しました。
  • 台湾中央銀行:前身は1924年に広州で発足。1949年に中華民国政府とともに台湾へ移り、1961年に台北で業務を再開しました。
  • 北朝鮮:1946年にソ連軍管理下の朝鮮銀行支店網を基盤として北側の中央銀行制度が整えられ、同年10月に北朝鮮当局へ移管・再編されました。1947年には新通貨による貨幣改革が行われました。

Q3. なぜ成立時期がこんなに違うのですか?

中央銀行史がそれぞれの国家形成史と結びついているからです。中国人民銀行は国共内戦のなかで共産党側の通貨圏を統一するために成立しました。台湾の中央銀行は中華民国の中央銀行が中国大陸から台湾へ移ったものです。

朝鮮半島では1945年の日本統治終了後、北側はソ連、南側は米国の占領下に置かれ、金融制度も別々に再編されました。韓国銀行は大韓民国成立後の金融・経済混乱のなかで、独立した通貨信用政策を担う現代的中央銀行として設立されました。

政府から独立している?

Q4. 中国人民銀行は政府から独立していますか?

いいえ。日銀やECBと同じ意味で政府から制度的に切り離された中央銀行ではありません。中国人民銀行法では、中国人民銀行を国務院の指導下に置き、重要な金融政策事項には国務院の承認が関わると定めています。同法は一方で、地方政府や各政府部門などから干渉を受けず、法に基づいて金融政策を執行することも定めています。

詳しくは中国人民銀行とは?共産党・政府から独立している?人民元と金融政策をQ&Aで解説をご覧ください。

Q5. 韓国銀行は政府から独立していますか?

はい。現在の韓国銀行は金融政策の中立性と自主性を重視する制度です。金融政策の決定は韓国銀行の金融通貨委員会が行い、基準金利も同委員会が決定します。

韓国銀行の独立性は時期によって変化しました。1950年の創設当初は政治的中立性を重視しましたが、1962年の韓国銀行法改正では政府主導の経済開発を支える方向に制度が変わり、政府推薦委員が増えました。1997年以降の改革で独立性が再び強化され、委員会議長も政府閣僚から韓国銀行総裁へ移りました。

Q6. 台湾中央銀行は政府から独立していますか?

はい。金融政策の策定・実施では独立した役割を持ちます。ただし、台湾中央銀行法では、中央銀行は「国営銀行」であり行政院の機関とされています。資本も国庫から拠出され、中央政府が全額所有します。

一方、台湾中央銀行自身は行政院の下にありながら、金融政策の策定・実施では独立した役割を維持していると説明しています。最高意思決定機関は理事会で、総裁、財政部長、経済部長は職権上の理事を務めます。政府との制度的なつながりが見える一方、金融政策の決定機関も法律上明確に置かれています。

Q7. 北朝鮮の中央銀行は政府から独立していますか?

いいえ。少なくとも日銀や韓国銀行のような金融政策上の独立性を前提とする制度ではありません。北朝鮮の銀行制度は社会主義計画経済の一部として形成され、中央銀行は通貨発行だけでなく、国家資金の管理、企業への資金供給、決済などを広く担ってきました。

ただし北朝鮮の最新の制度運用を外部から詳細に確認することは困難です。公開されている法律・北朝鮮文献を分析した韓国銀行の研究を中心に、「制度上確認できること」と「実際の運用を確認できないこと」を分けて見る必要があります。

誰が金融政策を決める?

Q8. 中国にも日銀政策委員会やFOMCのような会議がありますか?

はい。中国人民銀行には貨幣政策委員会があります。ただし、日銀政策委員会やFedのFOMCのような最終決定機関ではなく、金融政策について討議・提案する「諮問議事機関」です。

Q9. 韓国では誰が政策金利を決めますか?

韓国銀行の金融通貨委員会です。金融通貨委員会は金融政策に関する最高意思決定機関で、総裁・副総裁を含む7人で構成されます。韓国銀行の基準金利は定例会合で決定されます。

Q10. 台湾では誰が金融政策を決めますか?

台湾中央銀行の理事会が最高意思決定機関です。理事会は通貨、信用、外国為替に関する政策を審議・承認します。法律上は11~15人の理事で構成され、2026年時点では15人です。

韓国の7人の金融通貨委員会とは構成がかなり違い、政府閣僚が職権上の理事に含まれる点も台湾の特徴です。

Q11. 北朝鮮にも政策金利を決める独立委員会がありますか?

いいえ。公開資料では、日韓米型の独立した金融政策委員会が政策金利を決定する仕組みは確認されていません。北朝鮮では金融が国家計画と密接に結びつき、銀行の役割も市場経済国とは異なってきました。

そのため、「北朝鮮の政策金利はいくらか」という問いだけでは制度の実態を捉えにくく、国家の資金計画、銀行による企業資金管理、現金・無現金決済、外貨利用まで含めて見る必要があります。

中央銀行と普通の銀行の役割は同じ?

Q12. 中国・韓国・台湾では中央銀行と商業銀行は分かれていますか?

はい。現在はいずれも中央銀行と商業銀行が分かれた二層型の銀行制度です。ただし中国人民銀行も計画経済期には中央銀行と商業銀行的機能を幅広く一体化しており、1983年に中央銀行機能へ専念する体制へ移りました。

Q13. 北朝鮮は「中央銀行=普通の銀行」だったのですか?

はい。長く、中央銀行が主要な銀行機能を一体的に担う「モノバンク型」が基本でした。社会主義計画経済では、中央銀行が通貨発行だけでなく、企業の預金・融資や国家資金管理まで広く扱う仕組みが採られました。

ところが韓国銀行が北朝鮮文献を分析した研究では、金正恩政権期に中央銀行と商業銀行を組織的・機能的に分離する改革が進められたとされています。商業銀行による信用創造が部分的に可能になるなど、従来のモノバンク型から変化する動きが確認されています。

ただし同研究は、こうした変化が北朝鮮全域でどこまで実施されているかを外部から確認できないという限界も明記しています。

通貨と為替制度はどう違う?

Q14. 4地域はそれぞれ自分の通貨を持っていますか?

はい。中国本土は人民元、韓国は韓国ウォン、台湾はニュー台湾ドル、北朝鮮は北朝鮮ウォンを使います。

なお中国には例外があります。香港とマカオは中国の特別行政区ですが、香港ドルとマカオ・パタカという別の通貨制度を維持しています。詳しくは中国なのになぜ人民元を使わない?香港ドル・マカオパタカと中央銀行の仕組みをQ&Aで解説をご覧ください。

Q15. 為替レートへの関わり方も違いますか?

はい。大きく違います。中国人民元は市場取引を認めながら当局が強く関与する管理変動相場制です。韓国ウォンとニュー台湾ドルも市場で取引されますが、各中央銀行は為替市場の安定に関与します。

北朝鮮では公定レートだけで経済の実態を説明しにくく、市場での外貨利用や非公式レートも重要です。北朝鮮の通貨制度については、中央銀行だけでなく市場経済化や外貨利用を含めた別の論点として扱う必要があります。

4地域を比較すると何が見える?

Q16. 一番「日本銀行に近い」のはどこですか?

制度比較だけなら韓国銀行が最も比較しやすいでしょう。一国の中央銀行として政策委員会が政策金利を決定し、物価安定を中心に金融政策を行うという枠組みが日銀に近いためです。

韓国銀行は現在、資本金を持たない特殊法人で、所有形態や政策委員会の構成、政府との歴史的関係は日本銀行と異なります。

Q17. 4地域で最も制度が特殊なのは北朝鮮ですか?

はい。日米欧の中央銀行を基準にすれば、北朝鮮の金融制度が最も異質です。中央銀行が国家計画と企業金融を一体的に担ってきたモノバンク型の歴史を持つためです。

一方、中国も党・国務院との関係、台湾も行政院の下にある国営銀行という法的地位を持ちます。4地域を比べると、「中央銀行の独立性」には一つの世界標準があるわけではなく、それぞれの政治制度と歴史の中で形作られてきたことが分かります。

Q18. 東アジアの中央銀行史から何が分かりますか?

中国と台湾では国共内戦、韓国と北朝鮮では日本統治終了後の分断と冷戦が、それぞれ別の中央銀行と通貨制度を生みました。

その後も中国の改革開放、韓国の政府主導型成長から中央銀行独立性強化への変化、台湾の政府機関としての中央銀行と独立した金融政策、北朝鮮のモノバンク型からの部分的改革という違いが生まれています。中央銀行を比較すると、東アジアの近現代史を金融制度から読むことができます。

4地域の違いを一覧で比較

項目中国本土韓国台湾北朝鮮
中央銀行中国人民銀行韓国銀行中華民国中央銀行朝鮮民主主義人民共和国中央銀行
現在につながる成立1948年1950年1924年創設、1961年台湾で業務再開1946年に北側で中央銀行制度を再編
創設・形成の背景国共内戦下で銀行・通貨を統一解放後の経済混乱と現代的中央銀行制度の構築中華民国の国家建設、中国内戦後に台湾へ移転日本統治終了後、ソ連占領下で社会主義金融制度を形成
政府との制度上の関係国務院の指導下金融政策の中立性・自主性を重視行政院の機関である国営銀行国家計画と密接に一体化
主な意思決定人民銀行・国務院等の制度体系。貨幣政策委員会は諮問機関金融通貨委員会理事会日韓型の独立金融政策委員会は確認できない
銀行制度二層型二層型二層型モノバンク型から分離改革の動き
情報の確認可能性公式資料が豊富公式資料が豊富公式資料が豊富外部からの実態確認に大きな制約

世界の中央銀行制度全体を比較する場合は、世界の中央銀行はみんな同じ?日銀・Fed・ECBから特殊な通貨制度までQ&Aで解説もあわせてご覧ください。

参考文献・公式資料