世界の中央銀行はみんな同じ?日銀・Fed・ECBから特殊な通貨制度までQ&Aで解説

「中央銀行」と聞くと、一つの国に一つあり、自国通貨を発行し、政策金利を決める組織を想像しがちです。日本銀行や米国の連邦準備制度(Federal Reserve System、Fed)はその理解の入口になりますが、世界を見ると制度は驚くほど多様です。

21か国で金融政策を共有する欧州中央銀行(European Central Bank、ECB)、8か国で一つの中央銀行を持つ西アフリカ、主要紙幣を商業銀行が発行する香港、独自通貨を発行しないモンテネグロ、政策金利より為替レートを金融政策の中心に置くシンガポールなどがあります。中央銀行制度は、管轄範囲、通貨主権、金融政策手段、発券制度、所有形態などの軸で比較できます。

本文で使う主な略称は、米国の連邦準備制度(Federal Reserve System、Fed)、欧州中央銀行(European Central Bank、ECB)、西アフリカ諸国中央銀行(Banque Centrale des États de l’Afrique de l’Ouest、BCEAO)、中部アフリカ諸国銀行(Banque des États de l’Afrique Centrale、BEAC)、東カリブ中央銀行(Eastern Caribbean Central Bank、ECCB)です。

このほか、シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore、MAS)、スイス国立銀行(Swiss National Bank、SNB)、南アフリカ準備銀行(South African Reserve Bank、SARB)、連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee、FOMC)、香港上海銀行(The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited、HSBC)、欧州連合(European Union、EU)、ユーラシア経済連合(Eurasian Economic Union、EAEU)という略称を使います。CFAは、西アフリカではCommunauté Financière Africaine(アフリカ金融共同体)、中央アフリカではCoopération Financière en Afrique Centrale(中央アフリカ金融協力)を指します。

そもそも中央銀行は何をする?

Q1. 世界の中央銀行には共通する仕事がありますか?

多くの中央銀行は、物価・通貨価値の安定、金融政策、金融システムの安定、決済、外貨準備、通貨発行などを担います。ただし、どこまで担当するかは国・地域によって異なります。

銀行監督を中央銀行が全面的に担当する国もあれば、別の監督機関と分担する国もあります。自国通貨を発行しない中央銀行も存在します。「中央銀行なら必ず同じ仕事をする」と考えないことが世界比較の出発点です。

Q2. 中央銀行は「一国に一つ」が普通ですか?

日本、韓国、カナダなどのように、一つの国家に一つの中央銀行を置く制度は広く見られます。世界には、複数国で中央銀行を共有する制度や、複数の中央銀行を束ねる通貨同盟もあります。

米国には連邦準備制度理事会と12地区連銀から成るFedがあり、ユーロ圏では21か国の中央銀行とECBが一つのユーロシステムを構成します。西・中央アフリカや東カリブ海では、複数の国・地域が一つの中央銀行を共有します。

世界の中央銀行はどう分類できる?

中央銀行を一つの物差しだけで分類するのは困難です。少なくとも「誰の中央銀行か」「自国通貨を持つか」「何を金融政策の手段にするか」「誰が紙幣を発行するか」「政府や株主とどういう関係にあるか」を分けて見る必要があります。

分類軸主なタイプ代表例
管轄範囲一国型/連邦分権型/多国間型日銀/Fed/ECB・BCEAO・BEAC・ECCB
通貨主権自国通貨/共通通貨/外国通貨利用日本/ユーロ圏/モンテネグロ
金融政策の中心金利/為替レート/通貨委員会日銀・Fed/シンガポール/ボスニア・香港
発券制度中央銀行発券/商業銀行発券/自国発券なし日銀/香港・マカオ/モンテネグロ
所有・法的形態国有/公的特殊法人/株式・出資制度あり中国人民銀行/日銀・Fed/スイス・南アフリカ
銀行監督中央銀行中心/他機関と分担国・地域によって異なる

複数の国で一つの中央銀行を使うことはある?

Q3. ECBは一つの国の中央銀行ではないのですか?

ECBはユーロを採用した21か国の金融政策の中心です。各国中央銀行はなくならず、ECBと21か国中央銀行で「ユーロシステム」を構成します。ECB政策理事会には各国中央銀行総裁も参加します。

つまり「21国家+21国立中央銀行+ECB+一つの通貨・金融政策」という多層構造です。詳しくはECBとは?EUの中央銀行?各国の中央銀行はなくなった?ユーロの仕組みをQ&Aで解説をご覧ください。

Q4. 「8か国で中央銀行一つ」という制度もありますか?

あります。西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)は8か国、中央アフリカのBEACは6か国を担当します。東カリブ中央銀行(ECCB)もアンギラ、アンティグア・バーブーダ、ドミニカ国、グレナダ、モントセラト、セントクリストファー・ネービス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーンという8つの国・地域の通貨当局です。

このタイプでは「国家ごとに中央銀行」という対応関係そのものが崩れます。CFAフランについてはCFAフランとは?なぜアフリカ14か国に2つの中央銀行がある?フランスとの関係をQ&Aで解説で詳しく扱っています。

中央銀行なのに自国通貨を発行しないことがある?

Q5. モンテネグロ中央銀行はユーロを発行していますか?

いいえ。モンテネグロは2002年からユーロを唯一の法定通貨として使用しています。ユーロ圏の外にあるため、ユーロ発行権はユーロシステムに属します。

モンテネグロ中央銀行は、銀行制度の安定、監督、決済、外貨準備などを担います。

「お金を自由に増やせない中央銀行」もある?

Q6. 通貨委員会(Currency Board)とは何ですか?

通貨発行を外貨準備と厳格に結びつけ、固定為替レートを維持する制度です。典型的な中央銀行より裁量を狭くし、「どれだけ通貨を発行できるか」をルールで強く制約します。

Q7. ボスニア・ヘルツェゴビナ中央銀行は何が特殊ですか?

ボスニア・ヘルツェゴビナ中央銀行は通貨委員会制度を採用し、自国通貨の発行を外貨準備で最低100%裏付けることを基本ルールとしています。

通貨委員会制度では、固定為替レートと外貨準備の裏付けルールが中央銀行の裁量を強く制約します。通貨発行や最後の貸し手機能にも厳しい制限があります。

中央銀行が政策金利を中心に使わない国もある?

Q8. シンガポールの金融政策はなぜ特殊なのですか?

シンガポール金融管理局(MAS)は、金融政策の中心に金利ではなくシンガポールドルの為替レートを置いています。MAS自身が、貿易依存度の高い小規模開放経済では為替レートの方が物価へ影響しやすいためだと説明しています。

MASは1981年以降、主要貿易相手国通貨のバスケットに対するシンガポールドルの名目実効為替レートを政策の中間目標として管理しています。国内金利を直接の政策目標として操作する日銀・Fed型とは大きく違います。

中央銀行ではなく商業銀行がお札を発行する?

Q9. 香港では民間銀行がお札を発行するのですか?

はい。香港の主要銀行券はHSBC、スタンダードチャータード銀行(香港)、中国銀行(香港)の3商業銀行が発行します。ただし自由に発券できるわけではなく、米ドルを裏付けとして差し入れる通貨委員会型の制度に拘束されます。

マカオでも中国銀行と大西洋銀行が主要紙幣を発行します。詳しくは中国なのになぜ人民元を使わない?香港ドル・マカオパタカと中央銀行の仕組みをQ&Aで解説をご覧ください。

中央銀行に民間の株主がいることもある?

Q10. 中央銀行は政府100%所有が普通ですか?

いいえ。中央銀行の所有形態は多様です。日本銀行には政府以外の出資者が存在し、Fedの地区連銀には加盟銀行の出資制度があります。出資者の権利は法律・制度上限定され、金融政策決定は日銀政策委員会やFOMCなどの意思決定機関が担います。

Q11. スイス国立銀行の株式は本当に市場で買えるのですか?

はい。スイス国立銀行(SNB)は連邦法の特別規定に基づく株式会社で、記名株式が証券取引所に上場しています。株式の約55%は州や州立銀行などの公的株主が保有し、残りの多くは私人が保有します。

ただしSNBは普通の営利企業ではなく、株主権には法律上の制限があります。株式会社という法的形式と、中央銀行としての公的使命を組み合わせた特殊な例です。

Q12. 南アフリカ準備銀行にも民間株主がいるのですか?

います。ただし南アフリカ準備銀行(SARB)は、株主には金融政策、金融安定政策、金融規制・監督を決める権利がないと明記しています。株主の権利は財務諸表の検討や一部理事の選任などに限定されます。

「民間株主がいる」ことと「民間株主が中央銀行の金利を決める」ことは別問題です。これはFedや日銀を理解する際にも重要な区別です。

政府からの独立性も世界共通ではない?

Q13. 中央銀行は政府から独立しているのが世界標準ですか?

多くの国では、短期的な政治圧力から金融政策を距離を置かせる制度が重視されています。しかし独立性の強さや法的な仕組みは国ごとに異なります。

ECBはEU条約で政府などから指示を受けないことを強く保障されています。日銀やFedにも金融政策上の自主性・独立性があります。一方、中国人民銀行は国務院の指導下に位置づけられ、重要事項には国務院の承認が関わるなど、制度設計が大きく違います。

中国については中国人民銀行とは?共産党・政府から独立している?人民元と金融政策をQ&Aで解説で詳しく解説しています。

東アジアだけでも制度はかなり違う?

Q14. 日本の周辺国は似た中央銀行制度ですか?

中国人民銀行は国務院の指導下、韓国銀行は金融通貨委員会を中心に金融政策の自主性を重視し、台湾中央銀行は行政院の機関である国営銀行という法的地位を持ちます。

北朝鮮は社会主義計画経済のモノバンク型制度を長く採ってきました。詳しくは中国・韓国・台湾・北朝鮮の中央銀行はどう違う?東アジア4地域をQ&Aで比較をご覧ください。

同じ通貨圏が国家分裂で崩れることもある?

Q15. ソ連崩壊後もルーブル圏が残ったのですか?

はい。1991年末にソ連が崩壊した後も、多くの旧ソ連共和国はしばらく同じルーブルを使いました。しかし複数の独立国家が自国の信用・財政政策を行いながら同じ通貨を共有する矛盾が生じ、1992~1993年に各国の独自通貨移行が進みました。

現在のEAEUでもロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスは独自通貨・独自中央銀行を維持しています。詳しくは旧ソ連はいまも「ルーブル圏」?ロシアと旧ソ連諸国の通貨・中央銀行をQ&Aで解説をご覧ください。

日銀・Fedは世界で見ると普通?特殊?

Q16. 日本銀行は世界的に普通の中央銀行ですか?

「一国に一中央銀行」「自国通貨を発行」「政策委員会が金融政策を決定」という意味では比較的理解しやすい型です。一方で、政府100%所有ではなく政府以外の出資者が存在する点など、法的・所有構造には日本独自の特徴があります。

日銀は“独裁”なのか?政府は口を出せる?中央銀行の独立性をQ&Aで解説では、政府との関係や政策決定の仕組みを詳しく扱っています。

Q17. Fedは世界で最も特殊な中央銀行ですか?

Fedは連邦準備制度理事会、12地区連銀、FOMCなどを組み合わせた連邦分権型で、確かに特徴的です。しかし世界には、複数国家で一つの中央銀行を共有する制度、自国通貨を発行しない中央銀行、商業銀行が紙幣を発行する制度まであります。

そのため「Fedだけが特殊」というより、中央銀行そのものが各国の歴史・政治制度・通貨制度に合わせて多様な形を取ると理解する方が正確です。FedについてはFRBとは何?民間企業?大統領は利下げを命令できる?FOMCをQ&Aで解説をご覧ください。

特殊な中央銀行・通貨制度を一覧で比較

何が特徴的か分類上のポイント
ECB・ユーロシステム21か国で一つの金融政策超国家的通貨同盟
BCEAO8か国で一つの中央銀行多国間共同中央銀行
BEAC6か国で一つの中央銀行多国間共同中央銀行
ECCB8つの国・地域の通貨当局小国・地域の共同中央銀行
ボスニア・ヘルツェゴビナ通貨発行を外貨準備で最低100%裏付けCurrency Board
モンテネグロ中央銀行が自国通貨を発行せずユーロを使用外国通貨利用型
シンガポール為替レートを金融政策の中心に置く為替レート中心型
香港・マカオ商業銀行が主要紙幣を発行特殊な発券制度+Currency Board
スイス国立銀行特別法上の株式会社で株式上場特殊な所有・法人形態
南アフリカ準備銀行民間株主がいるが金融政策権限はない所有と政策権限の分離

世界の中央銀行を見ると何が分かる?

Q18. 結局、中央銀行の「普通」とは何ですか?

中央銀行は複数の軸で分類できます。国、通貨、中央銀行の数の組み合わせは地域ごとに異なり、金融政策手段、発券主体、所有形態にも複数の制度があります。

現在の中央銀行制度には、金融危機、戦争、植民地支配、国家分裂、地域統合、貿易構造など各国・地域の近現代史が反映されています。

参考文献・公式資料