香港とマカオは中国の一部ですが、中国本土の人民元とは別の通貨を使っています。香港は香港ドル、マカオはマカオ・パタカです。さらに、主要紙幣を中央銀行的な当局自身ではなく商業銀行が発行するという、世界的にも珍しい制度を持っています。
本文で使う主な略称は、香港金融管理局(Hong Kong Monetary Authority、HKMA)、澳門金融管理局(Monetary Authority of Macao、AMCM)、香港上海銀行(The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited、HSBC)、大西洋銀行(Banco Nacional Ultramarino、BNU)です。米国のFedは連邦準備制度(Federal Reserve System)の通称、ECBは欧州中央銀行(European Central Bank)の略称です。
中国本土の金融制度については、中国人民銀行とは?共産党・政府から独立している?人民元と金融政策をQ&Aで解説もあわせてご覧ください。
香港・マカオはなぜ人民元を使わない?
Q1. 香港とマカオは中国なのに、なぜ人民元ではないのですか?
香港とマカオは中国の特別行政区で、中国本土とは別の貨幣・金融制度を維持しています。香港基本法は香港特別行政区が自ら貨幣・金融政策を制定すると定め、香港ドルの継続を認めています。マカオ基本法も同様に、マカオ特別行政区が自ら貨幣・金融政策を制定し、マカオ・パタカを法定通貨として継続すると定めています。
これは「一国二制度」の経済面に現れた大きな特徴の一つです。中国本土の中央銀行である中国人民銀行が、香港ドルやパタカを人民元へ置き換えて直接運営しているわけではありません。
Q2. 香港とマカオには「中央銀行」があるのですか?
はい。香港とマカオには中央銀行的な機関がありますが、名称も制度も一般的な中央銀行とは少し違います。香港では香港金融管理局(Hong Kong Monetary Authority、HKMA)が中央銀行的機関として機能しています。HKMA自身も「Hong Kong’s central banking institution」と説明しています。
マカオでは澳門金融管理局(Monetary Authority of Macao、AMCM)が中央銀行機能と金融監督機能を担います。AMCMは自らを「Macao’s central banking and integrated financial regulatory institution」と位置づけています。
Q3. 中国人民銀行は香港・マカオの金融政策を直接決めるのですか?
いいえ。香港基本法第110条は香港特別行政区政府が自ら貨幣・金融政策を制定すると規定し、マカオ基本法第107条も同様の仕組みを定めています。中国本土とは別の制度です。
そのため、中国人民銀行、HKMA、AMCMは同じ中国の中にありながら、担当する通貨圏と制度が分かれています。
香港ドルはどういう通貨?
Q4. 香港ドルは誰が発行していますか?
香港では、主要な銀行券を3つの商業銀行が発行しています。
- 香港上海銀行(HSBC)
- スタンダードチャータード銀行(香港)
- 中国銀行(香港)
これは「中央銀行がお札を発行する」という一般的なイメージとは大きく違います。なお、10香港ドル紙幣や硬貨などには香港特別行政区政府が発行するものもあり、すべての現金を3銀行だけが発行しているわけではありません。
Q5. 商業銀行が好きなだけ香港ドル紙幣を発行できるのですか?
いいえ。香港基本法第111条は、香港通貨の発行に100%の準備を必要とすると定めています。
発券銀行が銀行券を発行するときは、指定レートで米ドルをExchange Fundへ差し入れ、Certificate of Indebtedness(負債証明書)を受け取ります。銀行券の発行量を外貨準備と結びつける仕組みです。
Q6. 香港ドルは米ドルと固定されていますか?
はい。香港はLinked Exchange Rate System(聯繫匯率制度)を採用しています。制度の中心となるレートは1米ドル=7.80香港ドルで、HKMAは現在、7.75から7.85香港ドルの範囲に兌換保証を設けています。
香港ドルは完全な自由変動相場ではなく、米ドルとの関係を安定させることを金融制度の中心に置いています。
Q7. なぜ香港は米ドルに連動させたのですか?
現在のLinked Exchange Rate Systemは1983年10月に導入されました。当時は香港の将来をめぐる中英交渉のなかで通貨への信認が揺らぎ、香港ドルが大きく不安定になっていました。
香港政府は通貨への信頼を回復するため、Currency Board型の制度を復活させ、香港ドルを1米ドル=7.80香港ドルで結びつけました。現在の制度はその延長線上にあります。
Q8. 香港では中央銀行が政策金利を自由に決められないのですか?
はい。香港の金融政策では、香港ドルと米ドルの為替関係の安定が最優先されます。
資本移動が自由な環境で米ドルとの固定的な関係を維持するため、香港の金利は米国の金利環境から大きな影響を受けます。香港の特殊性は、金融政策の主役が「独自金利」よりも「為替レートの安定」にある点です。
マカオ・パタカはどういう通貨?
Q9. マカオ・パタカはいつからあるのですか?
パタカの制度はポルトガル統治期に形成されました。1906年にパタカを基準とする通貨制度が整えられ、長くポルトガルの通貨との関係を持ちました。その後1970年代末から香港ドルとの連動が強まり、1983年9月以降は現在の1香港ドル=1.03パタカという関係が続いています。
金融当局の前身となる澳門発行機構(Instituto Emissor de Macau)は1980年に設けられ、1989年に現在のAMCMにつながる制度が成立しました。
Q10. マカオの紙幣は誰が発行していますか?
現在、マカオの主要紙幣は中国銀行と大西洋銀行(Banco Nacional Ultramarino、BNU)が発行します。こちらも中央銀行的な当局自身が主要紙幣を直接発券する一般的な制度とは異なります。
2023年のマカオ「貨幣発行法律制度」では、通貨発行権はマカオ特別行政区政府に属し、政府が許可された銀行へ発券の代理機能を委任できると定めています。
Q11. マカオでも100%の準備が必要ですか?
はい。マカオ基本法第108条と2023年の貨幣発行法は、通貨発行に100%の準備を求めています。代理発券銀行は、指定された自由交換可能な外貨を政府側へ差し入れて負債証明書を受け取る仕組みです。
Q12. パタカは人民元ではなく香港ドルに連動しているのですか?
はい。パタカは1香港ドル=1.03パタカで香港ドルに連動しています。香港ドル自体が米ドルとのLinked Exchange Rate Systemを採用しているため、パタカは結果として香港ドルを通じて米ドルとも強く結びつきます。
非常に単純化すると、「パタカ → 香港ドル → 米ドル」という連鎖で為替の安定を図る仕組みです。
香港とマカオは世界的に見ても特殊?
Q13. 香港とマカオの制度は何が珍しいのですか?
大きな特徴は三つあります。第一に、中国の一部でありながら中国本土とは別の通貨・金融制度を持つこと。第二に、主要銀行券を商業銀行が発行すること。第三に、通貨発行を外貨準備で強く裏付けるCurrency Board型の仕組みを採ることです。
日銀やFedのように、中央銀行が自国通貨を発行し、政策金利を景気に応じて調整する制度とはかなり異なります。
Q14. 香港とマカオは同じ仕組みですか?
いいえ。共通点はありますが、同じ仕組みではありません。香港ドルは米ドルを基準とし、香港の3発券銀行が主要銀行券を発行します。マカオ・パタカは香港ドルを基準とし、中国銀行と大西洋銀行の2行が主要銀行券を発行します。
| 項目 | 香港 | マカオ |
|---|---|---|
| 法定通貨 | 香港ドル | マカオ・パタカ |
| 中央銀行的機関 | 香港金融管理局(HKMA) | 澳門金融管理局(AMCM) |
| 現在の当局成立 | 1993年 | 1989年 |
| 主要紙幣の発券銀行 | HSBC、Standard Chartered、Bank of China (Hong Kong) | 中国銀行、大西洋銀行(BNU) |
| 通貨発行の裏付け | 100%準備を基本とする | 100%準備 |
| 為替制度 | 米ドルとのLinked Exchange Rate System | 香港ドルに固定 |
| 基準レート | 中心は1米ドル=7.80香港ドル | 1香港ドル=1.03パタカ |
| 中国人民銀行との関係 | 中国本土とは別の貨幣・金融制度 | 中国本土とは別の貨幣・金融制度 |
Q15. 「中国の通貨は人民元」とだけ覚えると間違いですか?
はい。中国全体の制度を指すなら、「中国の通貨は人民元」だけでは不正確です。中国本土では人民元を使いますが、香港・マカオでは返還後も香港ドルとマカオ・パタカという独自の通貨制度が基本法によって維持されています。
中央銀行制度を比較すると、「一つの国家には一つの中央銀行と一つの通貨がある」というイメージが必ずしも世界共通ではないことが分かります。香港とマカオは、その違いを理解する代表的な例です。
世界の中央銀行制度全体を比較する場合は、世界の中央銀行はみんな同じ?日銀・Fed・ECBから特殊な通貨制度までQ&Aで解説もあわせてご覧ください。

