会社の登記事項証明書を取得すると、会社名、本店所在地、役員など、その会社について国が確認した情報を調べられます。
株式会社では、代表取締役の氏名だけでなく住所も登記事項です。かつては登記事項証明書を取得すれば、取引関係のない第三者でも代表取締役の住所を確認できました。
2024年10月1日、「代表取締役等住所非表示措置」が始まりました。一定の要件を満たして申し出た株式会社について、登記事項証明書などに表示される代表取締役等の住所を市区町村までとし、それより細かな部分を表示しない制度です。
住所登記そのものを廃止した制度ではありません。法務局には完全な住所が登記されたままです。
会社の本店所在地だけでなく、代表者個人の住所まで公示してきた背景には、会社代表者の特定、裁判管轄、訴状等の送達、取引安全という商業登記の役割があります。

- 30秒でわかる結論
- そもそも商業登記は何のために公開されている?
- なぜ会社の住所だけでなく、代表者の自宅住所まで必要だった?
- 明治時代は取締役全員の住所を登記していた
- 1950年、「代表取締役」が制度として登場した
- 1962年、一般取締役・監査役の住所登記をやめた
- 2000年、登記情報を自宅のパソコンから確認できる時代へ
- 住所表示を制限する議論は2000年代から続いていた
- 2019年、法制審議会は住所表示の制限を求めた
- 2022年、まずDV被害者等の住所から非表示に
- 2024年、代表取締役等住所非表示措置が始まった
- 何が隠れる?市区町村までは残る
- 法務局には完全な住所が残る
- 非表示の申出は登記申請と同時が原則
- 過去の住所は自動的に消えない
- 完全非公開にすると、なぜ困るのか
- 官公署や利害関係人が完全住所を確認できる場合もある
- 2026年、制度はもう一段変わろうとしている
- 年表|取締役全員の住所公開から一部非表示へ
- よくある質問
- まとめ
30秒でわかる結論
| 疑問 | 答え |
|---|---|
| 代表取締役の住所はいまも登記事項? | はい。住所登記義務は残っています |
| 2024年に何が変わった? | 一定要件で、市区町村より細かな住所を一般向け証明書等に表示しない制度が始まりました |
| 誰でも利用できる? | 2026年9月時点の現行制度は、一定要件を満たす株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人が対象です |
| なぜ住所を登記する? | 代表者の特定、取引安全、裁判管轄、訴状等の送達などに利用されてきました |
| 法務局にも住所が残らない? | 完全住所は法務局の登記記録に残ります |
| 過去の住所も全部消える? | 現行制度では自動的に遡って非表示にはなりません |
| 今後変わる? | 2026年7月の規制改革実施計画で対象拡大・運用改善が政府方針に入りました |
そもそも商業登記は何のために公開されている?
商業登記は、会社に関する重要事項を国が登記簿へ記録し、社会へ公示する制度です。法務局は、会社等の信用維持と取引の安全を支える制度として説明しています。
登記情報から、会社が本当に存在するか、正式な商号は何か、本店はどこか、誰が会社を代表できるかを確認できます。商業登記法では、原則として何人も手数料を納めて登記事項証明書の交付を請求できます。
株式会社そのものの仕組み、株主・取締役・代表取締役の違いは「株式会社とは何か|株主・社長・取締役・上場の仕組みを歴史から理解する」で紹介しています。
なぜ会社の住所だけでなく、代表者の自宅住所まで必要だった?
法務省は代表取締役等住所非表示措置の制度説明で、代表者住所を登記する趣旨として、会社代表者の特定、訴訟の管轄、訴状などの送達を挙げています。
会社と取引した相手が代金を回収できなくなった場合や、会社を相手に裁判を起こす場合には、正式な代表者を特定して法的手続きを進める必要があります。代表者住所は、会社と第三者を結ぶ公示情報として使われてきました。
明治時代は取締役全員の住所を登記していた
1899年、明治32年に施行された商法では、株式会社の取締役や監査役について氏名だけでなく住所も登記事項として扱われていました。
当時は現在の代表取締役制度がなく、取締役各人が会社を代表する権限を持つ仕組みでした。1990年の国会審議で法務省は、1950年改正以前は取締役各人が代表権を持っていたため、その住所を登記していたと説明しています。
現在の「代表取締役だけ住所を登記する」基本形は、明治以来の制度をそのまま残したものではなく、会社の代表制度が変わる過程で対象を絞ってきた結果です。
1950年、「代表取締役」が制度として登場した
1950年、昭和25年法律第167号による商法改正で、取締役会制度などとともに現在につながる代表取締役制度が導入されました。
改正以前は原則として取締役一人ひとりが会社を代表できましたが、改正後は取締役会が会社を代表する取締役を選ぶ仕組みになります。一般の取締役と、対外的に会社を代表する代表取締役の役割が分かれました。
1962年、一般取締役・監査役の住所登記をやめた
1962年の商法改正では、代表取締役以外の取締役と監査役について住所登記が廃止され、氏名だけを登記する形に変わりました。
国会審議で法務省は、代表権を持たない取締役・監査役の住所まで登記しても「さしたる実益」がない一方、住所変更のたびに変更登記が必要となり、会社と登記所の事務負担になると説明しています。
| 時代 | 主な役員住所の扱い |
|---|---|
| 1899年商法 | 取締役・監査役の氏名と住所を登記 |
| 1950年 | 代表取締役制度を導入 |
| 1962年 | 一般取締役・監査役は住所登記を廃止、氏名を残す |
| 2024年 | 代表取締役等の住所登記は維持しつつ、一定要件で一部非表示 |
2000年、登記情報を自宅のパソコンから確認できる時代へ
1999年に「電気通信回線による登記情報の提供に関する法律」が制定され、2000年にはインターネットを通じて登記情報を確認する制度の運用基盤が整いました。現在は一般利用者が自宅や事務所のパソコンから商業登記簿の情報を確認できます。
住所は以前から公開情報でしたが、紙の登記簿を調べる時代からオンラインで短時間に取得できる時代へ変わり、検索・収集・転用の容易さは大きく変化しました。住所公開の意味が紙とインターネットでどう変わったかは「昔は他人の住所を簡単に調べられた?紳士録・電話帳から見る日本の個人情報史」でも扱っています。
住所表示を制限する議論は2000年代から続いていた
2000年代には、会社代表者の個人住所を登記簿で公開することと、身辺の安全やプライバシーとの関係が規制改革の場で議論されました。インターネットによって住所を取得しやすくなると、営業活動への利用、私生活への接触、ストーカー被害、起業への心理的抵抗などが問題として意識されます。
完全な住所を法務局に残しながら、一般向けの表示を制限する方向が検討されるようになります。
2019年、法制審議会は住所表示の制限を求めた
2019年、法制審議会の会社法制部会では、会社代表者住所の公示方法が議論され、DVなどの被害者への配慮や、登記情報提供サービスでの住所表示制限が検討されました。
住所を登記事項から削除するのではなく、国は完全住所を保持しつつ一般への表示方法を変えるという考え方が具体化していきます。
2022年、まずDV被害者等の住所から非表示に
2022年9月1日、商業登記規則等の改正により、DV被害者等である会社代表者等から適式な申出があった場合、登記事項証明書等で住所を非表示にできる措置が始まりました。
同時期に検討された登記情報提供サービス上で会社代表者住所を一律に非表示とする案は施行が延期され、その後も制度設計が続きました。
2024年、代表取締役等住所非表示措置が始まった

2024年10月1日、「代表取締役等住所非表示措置」が施行されました。法務省は、インターネットやSNSの普及、住所公開への抵抗感、ストーカー等の被害、過度な営業行為などへの懸念を制度創設の背景として挙げています。
2026年9月時点の現行制度では、一定要件を満たす株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人が対象です。
何が隠れる?市区町村までは残る
非表示措置を利用すると、代表取締役等の住所は最小行政区画まで表示されます。東京都では特別区まで、指定都市では区まで表示されます。
たとえば「東京都千代田区丸の内一丁目○番○号」であれば、一般向けの登記事項証明書等には「東京都千代田区」までが表示されます。
法務局には完全な住所が残る
代表取締役等住所非表示措置を利用しても、会社法に基づく住所登記義務は残ります。住所変更時には変更登記が必要で、登記申請書には完全な住所を記載します。
変わったのは登記事項そのものではなく、一般向けの登記事項証明書、登記事項要約書、登記情報提供サービスにどこまで表示するかです。
非表示の申出は登記申請と同時が原則
2026年9月時点の現行制度では、原則として代表取締役等の住所が登記される申請と同時に非表示措置を申し出ます。会社設立、代表取締役等の就任、住所変更、重任、管轄外への本店移転などが代表例です。
上場会社以外の株式会社では、本店所在地の実在性や代表取締役等の本人情報などを確認するための書類も必要です。
過去の住所は自動的に消えない
現行制度で非表示措置の対象になるのは、申出と併せて申請される登記によって記録される住所です。制度開始前に登記された住所や、過去の代表者住所が一括して遡及的に非表示になる仕組みではありません。
過去住所への対応は、2026年の規制改革実施計画で見直し対象に含まれました。
完全非公開にすると、なぜ困るのか
法務省は、非表示措置を利用した場合、金融機関から融資を受ける際や、不動産取引で追加書類が必要になる場合があると説明しています。完全住所は代表者本人の同一性確認にも利用されてきたためです。
2024年制度は、完全住所を登記から消さず、一般向け表示だけを制限することで、取引安全とプライバシーを調整する仕組みです。
官公署や利害関係人が完全住所を確認できる場合もある
住所非表示措置が講じられても、完全住所が法務局から消えるわけではありません。法務省は官公署からの請求などに応じ、対象住所の情報を提供する場合があるとしています。
商業登記の附属書類についても、法律上の利害関係を持つ人が一定の要件で閲覧できる仕組みがあります。
2026年、制度はもう一段変わろうとしている
2026年2月、内閣府の規制改革推進会議で「法人登記の代表者住所非表示措置の対象拡大及び運用改善」が議題となりました。7月21日に閣議決定された規制改革実施計画にも、この項目が盛り込まれています。
実施計画では、株式会社以外の法人等への対象拡大、法令上住所が登記事項となる他の者への拡大、過去に登記された住所への対応、申出方法の改善、本人や正当な理由を持つ第三者が完全住所を確認できる仕組みなどが検討・措置の対象です。
2026年9月時点では、これらすべてが現行制度として施行済みになった段階ではありません。現行制度と今後の改革は分けて扱う必要があります。
年表|取締役全員の住所公開から一部非表示へ
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1899年 | 明治商法。取締役・監査役の氏名・住所を登記 |
| 1950年 | 商法改正で代表取締役制度を導入 |
| 1962年 | 代表取締役以外の取締役・監査役について住所登記を廃止 |
| 1999年 | 電気通信回線による登記情報提供法制定 |
| 2000年 | インターネットを利用する登記情報提供制度の運用基盤が整う |
| 2019年 | 法制審議会で代表者住所の表示制限を議論 |
| 2022年 | DV被害者等である会社代表者等の住所非表示措置を導入 |
| 2024年10月 | 一定要件の株式会社を対象に代表取締役等住所非表示措置を開始 |
| 2026年7月 | 規制改革実施計画に対象拡大・運用改善を盛り込む |
よくある質問
代表取締役の住所はもう登記しなくていい?
現在も会社法上の登記事項です。非表示措置は、完全住所を登記しない制度ではなく、一般向けの登記事項証明書等で一部を表示しない制度です。
「社長」の住所が登記される?
会社法上、住所が登記される中心は代表取締役です。「社長」は会社内部で使われる役職名で、社長と代表取締役が同一人物とは限りません。違いは「株式会社とは何か|株主・社長・取締役・上場の仕組みを歴史から理解する」で説明しています。
取締役全員の住所も分かる?
現在の株式会社では、一般の取締役について通常は氏名が登記事項で、住所は登記事項ではありません。この区別は1962年の商法改正で成立しました。
非表示措置を使えば過去の住所も見えなくなる?
2026年9月時点の現行制度では、過去住所が一律に遡って非表示になる仕組みではありません。過去住所への対応は2026年の規制改革実施計画に盛り込まれています。
合同会社や一般社団法人も使える?
2026年9月時点の一般的な代表取締役等住所非表示措置は株式会社を対象とした制度です。2026年の規制改革実施計画では、株式会社以外の法人等への対象拡大が盛り込まれています。
誰でも登記簿を取得できる?
商業登記法では、原則として何人も手数料を納めて登記事項証明書の交付を請求できます。商業登記が会社情報を社会へ公示し、取引の安全を支える制度だからです。
まとめ
代表取締役の住所は、会社代表者を特定し、裁判や送達、取引安全を支える公示情報として登記されてきました。
1899年の商法では取締役・監査役の住所が広く登記事項とされ、1950年に代表取締役制度が成立、1962年には代表権を持たない取締役・監査役の住所が登記事項から外れました。
2024年の代表取締役等住所非表示措置は住所登記を廃止せず、一般向けの表示を制限する制度です。2026年には対象拡大や過去住所への対応などが規制改革実施計画に盛り込まれています。

