企業物価指数と消費者物価指数はなぜ違う?輸入物価29.1%でもCPI1.8%の理由

日本のスーパーマーケットの食品売場

2026年7月、日本の物価を示す数字には大きな開きがありました。輸入物価指数は円ベースで前年同月比29.1%上昇、国内企業物価指数は7.2%上昇。一方、全国の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く総合)は1.8%上昇です。

同じ「物価」という言葉でも、3つの統計は測っている場所が違います。輸入物価は日本へ入る段階、企業物価は企業間で売買される段階、CPIは家計が購入する段階の価格です。品目構成も異なるため、29.1%、7.2%、1.8%は、それぞれ別の段階を測った数字です。

CPIが賃金の購買力にどう使われ、実質賃金がプラスでも生活実感とずれる理由は、実質賃金と手取り・物価の違いで詳しく整理しています。

まず「3つの物価」は何を測っているのか

指標誰の価格か主な対象含まれる例含まれない例公表機関
輸入物価指数海外から日本へ輸入する段階の価格輸入品原油、原材料、機械、製品など国内サービス日本銀行
国内企業物価指数国内企業間で取引される財の価格企業間取引の財素材、中間財、資本財、最終消費財など家賃、外食など多くのサービス日本銀行
消費者物価指数(CPI)家計が購入する財・サービスの価格消費財とサービス食品、家賃、外食、授業料など企業用の原材料・設備など総務省統計局
各指数の対象範囲。日本銀行・総務省統計局の説明をもとに整理。

輸入品が企業の仕入れに使われ、その一部が商品やサービスの価格へ転嫁され、最終的に家計の支払いへ届くことはあります。商品ごとに経路は異なり、転嫁される割合や時間も変わります。

なぜ企業物価7.2%でもCPIは1.8%なのか

大きな理由は、指数を構成する品目の違いです。国内企業物価指数には、原油、鉄鋼、電子部品、建設機械など、家計が直接買わない財が多く含まれます。

CPIには食品や家電などの財に加え、家賃、外食、授業料などのサービスが含まれます。総務省によると、サービスはCPIのウエイトのおよそ半分を占めます。原材料価格が大きく上昇しても、家賃や多くのサービス価格が同じ率で動くことはありません。

物価による家計負担とは別に、税と社会保険料を国全体で捉える指標が国民負担率です。2026年度見通しの45.7%が何を表すかは、「日本の税金・社会保険料は45.7%」は本当?国民負担率の意味を財務省資料で調べてみたで整理しています。

2026年7月前年同月比前月比
輸入物価指数(円ベース)+29.1%+1.3%
輸入物価指数(契約通貨ベース)+17.7%+0.3%
国内企業物価指数+7.2%+0.1%
CPI・総合+1.9%
CPI・生鮮食品を除く総合+1.8%
CPI・生鮮食品・エネルギーを除く総合+1.9%
日本銀行「企業物価指数(2026年7月速報)」、総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年7月分」。

さらに、指数の基準年も違います。国内企業物価指数は2020年基準、全国CPIは2026年7月分から2025年基準です。指数水準そのものを並べて「どちらの物価が高いか」と比べる用途には向きません。

似た商品だけ比べると、企業物価とCPIは近い動きをする

総合指数では構成差が大きい一方、対象範囲を近づけると関係が見えやすくなります。総務省は、CPIの「生鮮食品を除く財」と国内企業物価指数の「最終消費財」など、比較対象を近づけると、おおむね似た動きになると説明しています。

企業物価とCPIにはつながりがありますが、総合指数同士をそのまま一対一で比べると、原材料・資本財・サービスの構成差が混ざります。比較する品目の範囲をそろえることで、企業段階から家計段階への価格波及を見やすくなります。

輸入価格はどうやってスーパーの値札まで届くのか

東京港の大井コンテナターミナルとコンテナ群
東京港・大井コンテナターミナル。撮影:Christophe95 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

海外の資源や製品の価格が上がると、まず輸入段階の価格に表れます。輸入企業やメーカーの仕入れコストが増え、その後の価格改定を通じて卸売、小売、サービスへ波及することがあります。

途中で効く要因価格への影響
在庫安い時期に仕入れた在庫が残れば値上げを遅らせられる
長期契約仕入れ価格や販売価格の改定時期を遅らせる
為替ヘッジ為替変動の影響を一時的に和らげる
企業の利益率コスト上昇を企業が吸収すれば販売価格への転嫁が弱まる
競争・需要値上げで販売量が落ちる懸念が強ければ転嫁しにくい
人件費・物流費原材料以外のコストも価格改定の理由になる
政府の補助家計が実際に支払う電気・ガス・燃料価格を下げることがある
輸入価格から家計価格までの間にある主な調整要因。

物価は「輸入物価29.1%→企業物価7.2%→CPI1.8%」という固定された一本のベルトコンベアで動きません。同じ輸入コスト上昇でも、企業が利益で吸収する場合、取引先と価格交渉する場合、すぐ小売価格へ転嫁する場合では結果が変わります。

過去にはどれくらい価格転嫁されたのか

日本銀行は2026年1月の展望レポートで、輸入物価上昇が国内価格へどの程度波及したかを、2012~14年と2022~24年で比較しています。ここでいう価格転嫁は、輸入コスト上昇が国内企業物価や消費者物価へ波及する「パススルー」です。

局面輸入物価指数(円ベース)国内企業物価指数CPI
2012~14年約+19.0%約+1.4%約+1.5%
2022~24年約+36.2%約+17.4%約+8.7%
日本銀行「経済・物価情勢の展望(2026年1月)」BOX 3。資料の定義に従い、消費税率引き上げの影響などを調整した計数を含む。

2022~24年は、2012~14年に比べて輸入コスト上昇が国内企業物価とCPIへ強く波及しました。転嫁率は企業の価格設定、需要、賃金、競争環境によって変わります。

なぜ日本企業は以前より値上げしやすくなったのか

日本銀行が2026年5月に公表した「地域経済報告(さくらレポート)別冊」では、企業の価格設定行動が長年の「賃金も価格も上がりにくい」状態から変化していると整理されています。

価格改定の理由は原材料費に限られません。人件費や物流費を販売価格へ反映する企業も増えています。最低賃金の上昇、賃上げ、大企業による値上げ、家計側の価格上昇への認識変化、政府による価格転嫁促進も背景に挙げられています。

一方、小売やサービスなどでは競争が強く、需要減への懸念から価格改定に慎重な企業もあります。価格設定は以前より積極化していますが、業種差・企業差が残っています。長い低インフレ期の背景は、バブル崩壊後の長期停滞とデフレの背景でも整理しています。

企業物価が上がってからCPIまで、どのくらい時間がかかるのか

日銀政策委員会の田村直樹たむら なおき審議委員は2026年6月25日の講演で、前回の物価上昇局面では、輸入物価のピークからおおむね半年後に国内企業物価がピークをつけ、その後にCPIがピークをつけたと説明しました。

これは田村委員による過去局面の分析です。田村委員は、これを過去局面で観察された時間差として説明しています。田村委員は同時に、企業や家計の価格設定行動が変化しているため、今回の価格転嫁が以前より迅速、大幅、広範になる可能性にも警戒を示しています。

政府の電気・ガス・ガソリン支援はCPIをどう動かすのか

2026年夏は政府の負担軽減策もCPIを動かしています。経済産業省の電気・ガス料金支援では、低圧電力への補助が7月3.5円/kWh、8月4.5円/kWh、9月3.5円/kWh。都市ガスは7月14円/㎥、8月18円/㎥、9月14円/㎥です。

内閣府は8月4日の会見で、標準的な家庭では3か月合計で約5,000円の負担軽減になると説明しました。ガソリン価格を全国平均170円/L程度に抑える措置も続いています。

CPIは家計が実際に支払う価格を測ります。補助によって電気・ガス・燃料の支払い額が下がれば、その低下がCPIへ反映されます。輸入段階や企業間段階で価格が上昇していても、家計段階では政策によって上昇が抑えられることがあります。

円ベース29.1%と契約通貨ベース17.7%は何が違うのか

輸入物価指数には円ベースと契約通貨ベースがあります。2026年7月は、円ベースが前年同月比29.1%上昇、契約通貨ベースが17.7%上昇でした。

契約通貨ベースは、ドルなど取引時の通貨で見た価格変化を表します。円ベースでは、それを円へ換算するため為替変動の影響も受けます。契約通貨ベースより円ベースの上昇率が大きいことから、為替が円建て輸入価格の上昇に寄与していることが分かります。

為替変動が輸入価格から企業物価、CPIへどの程度、どのくらいの時間をかけて伝わるかは、円安と物価の波及経路を一次資料で検証した記事で詳しく整理しています。

ただし、29.1%から17.7%を引いた11.4ポイントを、そのまま純粋な円安寄与とみなすことはできません。指数には品目構成、ウエイト、取引通貨、契約条件などが含まれるためです。

「企業物価7.2%」は今も猛烈に上がっているという意味か

2026年7月の国内企業物価指数は前年同月比7.2%上昇でしたが、前月比では0.1%上昇です。7.2%は「2025年7月と比べて高い」という意味です。7月だけの変化は前月比+0.1%でした。

前年比は1年前との水準差を見るのに向き、前月比は直近の勢いを見る材料になります。ニュースやSNSで物価の数字を見るとき、比較期間を確認すると「高い水準が続いている」のか「足元で急加速している」のかを分けて読めます。

この3つの数字は日銀の利上げとどうつながるのか

日本銀行は金融政策を決める際、現在のCPIだけでなく、輸入物価、企業物価、賃金、企業の価格設定、将来の物価見通しを確認します。輸入物価や企業物価の上昇が強くても、家計価格への転嫁が弱ければCPIへの影響は限られます。反対に、賃金上昇と価格改定が広がれば、国内で物価上昇が続く可能性が高まります。

2026年9月の金融政策決定会合で追加利上げが議論される背景は、日銀はなぜ9月に再び利上げする可能性があるのかで、政策金利、CPI、賃金、企業物価をまとめて検証しています。

29.1%、7.2%、1.8%は別々の場所を測る数字

輸入物価、国内企業物価、CPIは、同じ日本経済の中にありながら測定段階と品目構成が違います。輸入コスト上昇は企業を通じて家計価格へ波及しますが、在庫、契約、利益率、競争、需要、賃金、物流費、政府支援によって転嫁の割合と速度が変わります。

2012~14年と2022~24年を比べても、輸入物価から国内価格への波及の強さは大きく変わりました。2026年の物価を見る際も、ひとつの数字だけでなく、どの段階の価格を測る統計なのかを分けることで、企業のコスト上昇と家計の負担を同時に理解できます。

一次資料・参考資料