板橋区蓮根一丁目の蓮華寺(れんげじ)には、江戸時代前期の客殿や庫裡の工事を記した二枚の棟札が伝わっています。元禄7年(1694)と宝永2年(1705)の札には、住職の名だけでなく、建物の工事に費用や人手、馬を提供した村人たちの名前も残されています。「蓮華寺客殿・庫裡棟札」は板橋区登録有形文化財(歴史資料)です。
荒川沿いから移ったと伝わる蓮華寺
蓮華寺は医王山東光院と号する真言宗智山派の寺院です。創建年代は詳しく分かっていませんが、江戸時代前期には存在していました。もとは荒川に近い場所に建っていたと伝わり、繰り返す洪水と村の移転に伴って現在地へ移ったと考えられています。
江戸時代、現在の蓮根周辺には上蓮沼村や根葉村などがありました。荒川の低地では洪水によって土地の利用や集落の位置が変わることがあり、寺院の移転も村の暮らしと深く結び付いていました。棟札に記された工事の年月は、寺が移転した時期を検討する手がかりにもなっています。
1694年の客殿修理と1705年の庫裡再建
文化財の登録審議で扱われた二枚の棟札には、元禄7年(1694)の客殿の萱替えと、宝永2年(1705)の庫裡再建に関する記録が残ります。客殿は来客や法要などに使われる建物、庫裡は住職や寺の関係者の生活と寺務を担う建物です。
棟札とは、建物の新築や修理の際に年月日や関係者を記して納める木札です。建築部材が後に修理された場合でも、当時の棟札が保存されていれば工事の時期と関係者を具体的に調べられます。蓮華寺の棟札は、蓮根地域に残る近世の記録として貴重な資料です。
住職宥賢と村人の労力・寄進
棟札には工事を担った住職として宥賢(ゆうけん)の名が記されています。さらに、上蓮沼村と根葉村の人々が工事のために出した人足、金銭、馬などの記録が含まれています。
寺院の建物を整えるためには、大工の仕事だけでなく、木材や屋根材の運搬、工事現場での作業、費用の負担が必要でした。棟札に村人の名前や提供したものが書かれているため、蓮華寺が地域の人々によって支えられていた様子を具体的に知ることができます。
『新編武蔵風土記稿』が記した蓮華寺
江戸時代後期に編まれた『新編武蔵風土記稿』は、蓮沼村の蓮華寺を新義真言宗の寺院として記し、本尊を薬師如来としています。また、宝永2年に宥賢が堂宇を再建した棟札があることにも触れています。
江戸後期の地誌に残った記録と、現存する棟札の内容を比べることで、寺が長く地域の人々に受け継がれていた歴史を確かめられます。板橋区内でも蓮根地域には古い文書が多く残っているとはいえず、蓮華寺の棟札は土地の歴史を知る重要な手がかりです。
所在地と見学の注意
蓮華寺の所在地は板橋区蓮根1丁目10番15号です。寺院の境内は地域の信仰の場所です。棟札は建物の内部などで保存される資料のため、通常の参拝で自由に見ることを前提とせず、公開状況については寺院または区の文化財担当部署へ確認してください。
周辺の志村・蓮沼地域に残る中山道の遺構や寺社は、志村・小豆沢周辺の歴史と文化財でも紹介しています。
