逸翁美術館コレクション|蕪村・呉春と小林一三の茶の湯を解説

与謝蕪村の初烏句と松村呉春筆の老翁図 The Met所蔵

サントリー美術館で2026年9月16日に始まる「逸翁美術館コレクション 蕪村・呉春と茶の湯の名品」は、阪急電鉄、阪急百貨店、東宝などの基礎を築いた実業家・小林一三こばやしいちぞうが集めた美術品を、茶の湯、古筆、江戸絵画、俳諧という複数の角度から紹介する展覧会です。

見どころの中心は、与謝蕪村よさぶそんと呉春ごしゅん。重要文化財《奥の細道画巻》や《白梅図屛風》をはじめ、小林一三がなぜこの二人を好んだのか、茶人としてどのように作品を使い、見せたのかまでたどれます。

アイキャッチに使用している「与謝蕪村『初烏』句・松村呉春筆老翁図」はThe Metropolitan Museum of Art所蔵の参考画像です。本展出品作とは異なる作品です。

逸翁とは小林一三の雅号

小林一三こばやしいちぞうは1873年、山梨県に生まれました。慶應義塾に学び、三井銀行勤務を経て鉄道事業へ入り、阪急電鉄、阪急百貨店、東宝などへ事業を広げました。宝塚歌劇の創設にも深く関わり、近代日本の都市生活と娯楽の形を大きく変えた人物です。

「逸翁」は一三の雅号です。大阪府池田市の逸翁美術館は、その名を冠して1957年に開館しました。所蔵品は約5,500件。古筆、古経、絵巻、中近世絵画、陶磁器、漆芸など幅広く、蕪村・呉春・円山四条派の作品が大きな柱の一つです。

小林一三の鉄道と都市経営については、ゆる歴史散歩会の「東京圏を形づくった私鉄六社」でも、阪急の沿線開発モデルが東京の私鉄経営へ与えた影響と合わせて紹介しています。

小林一三はなぜ美術を集めたのか

逸翁美術館によると、一三は20代から美術品の収集を始め、茶の湯に入ることで審美眼を深めました。収集した作品は保管するだけでなく、茶会で実際に使い、客とともに鑑賞しました。

一三は伝統的な茶の湯に通じながら、近代の生活に合う新しい茶のあり方も考えました。自身が考案した茶室「即庵」は、三畳台目の畳席に椅子席を組み合わせ、畳に座らず同じ視点で喫茶と道具の拝見ができる構成です。美術収集と生活文化を切り離さず考えた人物でした。

見どころ1|与謝蕪村と《奥の細道画巻》

与謝蕪村よさぶそんは俳人であると同時に、江戸時代を代表する文人画家です。中国絵画を学びながら日本独自の文人画を発展させ、詩と絵を一つの画面で響かせる俳画にも優れました。

重要文化財《奥の細道画巻》は1779年の作品です。松尾芭蕉まつおばしょうの紀行文『奥の細道』を題材に、蕪村が本文と絵を組み合わせました。会期中は巻替えを行いながら全巻が展示される予定です。

『奥の細道』そのものの旅程、成立、代表句は、ゆる歴史散歩会の「忙しい人のための『奥の細道』」で詳しく解説しています。先に文学作品の流れを知ると、蕪村がどの場面を絵に選んだのかを追いやすくなります。

見どころ2|呉春《白梅図屛風》

呉春ごしゅんは蕪村に学び、のちに円山応挙まるやまおうきょとも交流した画家です。蕪村系の文人画と、応挙の写生的な表現をつなぎ、四条派の形成に重要な役割を果たしました。

本展の重要文化財《白梅図屛風》は通期展示の予定です。白梅の枝を大きく配した画面では、余白、枝の方向、花の密度によって静けさと動きが生まれます。蕪村の詩的な文人画と比べると、呉春がどこで師の表現を受け継ぎ、どこで新しい方向へ進んだかが見やすくなります。

蕪村から呉春へ|師弟関係を見る

呉春は若い頃、蕪村のもとで俳諧と絵を学びました。蕪村没後は円山応挙と接近し、写生的で穏やかな表現を取り入れます。そこから四条派へつながる画風が形成されました。

一三は俳諧への関心から蕪村・呉春を重視しました。同じ収集家の中で師と弟子の作品がまとまって残ったことで、個々の名品だけでなく、江戸絵画の流れを比較できるコレクションになっています。

茶の湯の名品|「見る」から「使う」へ

一三の収集では、絵画、古筆、茶碗、茶入、香合、掛物が茶会の中で組み合わされ、季節や客に応じて一つの場をつくりました。

展覧会では、作品の作者や年代だけでなく、茶の湯の場でどう選ばれたかを見ると、一三の美意識が分かります。近代の実業家が古美術を所有したという話から一歩進み、都市生活の中で伝統文化をどう再構成したのかを見る展覧会です。

展示替え|訪問日で見られる作品が変わる

本展は作品保護のため会期中に展示替えがあります。《白梅図屛風》は通期展示ですが、《花見句画賛》など一部作品は展示期間が限られます。特定作品を目当てに訪れる場合は、サントリー美術館の展示作品リストで日程を確認できます。

開催情報・料金

展覧会名逸翁美術館コレクション 蕪村・呉春と茶の湯の名品
会期2026年9月16日(水)~11月8日(日)
会場サントリー美術館
開館時間10:00~18:00。金曜日と11月7日は20:00まで、10月31日は21:00まで。入館は閉館30分前まで
休館日火曜日。9月22日、11月3日は18:00まで開館
一般当日1,700円、前売1,500円
大学生当日1,200円、前売1,000円
高校生当日1,000円、前売800円
中学生以下無料
障害者手帳本人と介助者1名は無料

参考資料