館蔵の茶碗100撰|国宝《卯花墻》から樂・高麗・手造茶碗まで見どころを解説

桃山時代の志野茶碗《神橋》The Met所蔵

三井記念美術館で2026年9月12日に始まる「館蔵の茶碗100撰―国宝から手造茶碗まで―」は、同館が所蔵する200件を超える茶碗から100件を選び、三井家300年以上の茶の湯の歴史をたどる展覧会です。

最大の注目作は国宝《卯花墻うのはながき》。唐物、高麗、和物、樂、永樂、そして三井家当主らによる手造茶碗まで、茶碗の産地や技法だけでなく「誰が使い、誰が伝えたか」を一続きで見ることができます。

アイキャッチに使用している志野茶碗《神橋》はThe Metropolitan Museum of Art所蔵の参考画像です。本展出品作とは異なる作品です。

「館蔵の茶碗100撰」とは

三井家から寄贈された美術品では茶道具が大きな割合を占め、茶碗だけでも200件を超えます。館蔵品による茶碗展は、1995年に三井文庫別館で開催された「三井家の名碗三十撰」以来、約30年ぶりです。

今回の展示は第1章「唐物茶碗」、第2章「高麗茶碗」、第3章「和物茶碗」、第4章「樂の茶碗」、第5章「永樂の茶碗(保全・和全)」、第6章「手造茶碗」で構成されます。中国、朝鮮半島、日本という産地の違いから、三井家と陶家・茶人の交流へと視点が移っていきます。

国宝《卯花墻》|志野茶碗の到達点

国宝《志野茶碗しのちゃわん 銘卯花墻うのはながき》は、桃山時代の美濃で焼かれた茶碗です。三井記念美術館によると、美濃の牟田洞窯むたぼらがまで焼かれ、轆轤で成形した器を撫三角形に歪め、胴に箆削りを施し、鉄絵で垣根のような文様を描いて志野釉を掛けています。

日本で焼かれた和物茶碗で国宝に指定されている二碗の一つです。もう一碗は本阿弥光悦ほんあみこうえつ作の白樂茶碗《不二山》。形の整った器を目指すのではなく、歪み、削り、釉薬の変化を景色として味わう桃山茶陶の美意識が凝縮されています。

付属する小色紙には茶碗の景色から詠んだ和歌が記され、箱書と小色紙は片桐石州かたぎりせきしゅう筆とされています。器の造形だけでなく、銘、和歌、伝来が一体となって一碗の価値をつくっています。

唐物・高麗・和物の違い

唐物茶碗は中国で焼かれ、日本へ渡った茶碗です。高麗茶碗は朝鮮半島で焼かれた茶碗で、日本の茶人が茶の湯の器として見いだしたものが多くあります。和物茶碗は日本で焼かれた茶碗です。

第1~3章では、この三つを時代順に比べられます。高麗茶碗には大井戸茶碗や三島茶碗、和物には瀬戸黒、志野、高取、伊賀、仁清などが並びます。産地名を暗記するより、形、土、釉薬、高台、歪みの違いを見比べると、それぞれの魅力がつかみやすくなります。

古田織部と《須弥》|茶碗を割って作り直す発想

大井戸茶碗《須弥しゅみ》には、古田織部ふるたおりべが大きく歪んだ茶碗を十文字に割り、小さく継ぎ直したという伝承があります。後に大徳寺の天祐紹杲てんゆうじょうこうが《須弥》と改銘しました。

茶碗を「傷のない完成品」として保存する発想とは対照的です。切る、継ぐ、形を変えるという操作そのものが見どころとなり、織部の「破格の美」と結び付けて語られてきました。

如庵の写しで茶道具の取り合わせを見る

展示室3は、織田有楽おだうらくの国宝茶室「如庵じょあん」を写した空間です。明治41年から北三井家が所有した茶室で、戦後に名古屋鉄道へ移り、現在は犬山市にあります。

ここでは伝有楽所持の大井戸茶碗、有楽作の竹茶杓、千利休直書の黒中棗、利休好の雲龍釜などが組み合わされます。茶碗だけを単独で見る展示から、実際の茶席で道具同士がどう関係するかを見る展示へ視点が変わります。

樂の茶碗|三井高利から現代まで

樂家は千利休せんのりきゅうの美意識を背景に、初代長次郎以来、代々茶碗を焼いてきた陶家です。本展では歴代の樂茶碗12点がほぼ時代順に並びます。

なかでも赤樂茶碗《再来》は、三井越後屋創業者・三井高利みついたかとしが所持した茶道具として伝わる重要な一碗です。三井家の茶の湯は越後屋創業期から生活と家の文化に深く組み込まれ、近代まで受け継がれました。

永樂の茶碗|三井家との長い交流

永樂保全えいらくほぜんと永樂和全えいらくわぜんは、江戸後期から明治期に活躍した京焼の陶工です。三井家と永樂家の交流は長く、三井記念美術館には永樂家の作品が200件以上あり、保全・和全だけでも約150件に達します。

家紋を配した茶碗や、祝いの席に贈られた茶碗、明治天皇への献茶で使われた作品など、茶碗が家の儀礼や人間関係に組み込まれていたことが分かります。美術品であると同時に、贈答、記念、茶会の記録でもあります。

手造茶碗|当主や数寄者自身が土を触る

第6章の「手造茶碗」は、専門の陶工ではなく、茶の湯を嗜む三井家当主、表千家家元、紀州徳川家の人物らが自ら作った茶碗です。三井高平みついたかひら作の青樂茶碗は享保10年(1725)の作で、三井家伝来の手造茶碗として最古級です。

最後に手造茶碗を置くことで、「名工の名品」から始まった視線が、茶を点てる人自身の創作へ戻ります。100碗を通して、茶碗が鑑賞品、道具、贈り物、記念品、自作の器という複数の役割を持っていたことが分かります。

日本橋の三井家とあわせて歩く

三井記念美術館は日本橋の三井本館7階にあります。ゆる歴史散歩会の築地・銀座・日本橋を歩く記事でも三井記念美術館と三井家の茶道具を紹介しています。越後屋から近代の三井本館へ続く日本橋の歴史と合わせると、茶碗が三井家の事業史と並行して受け継がれたことが見えます。

開催情報・料金

展覧会名館蔵の茶碗100撰―国宝から手造茶碗まで―
会期2026年9月12日(土)~11月23日(月・祝)
会場三井記念美術館
開館時間10:00~17:00。入館は16:30まで
休館日月曜日。9月21日、10月12日、11月2日・23日は開館。10月13日は休館
一般1,200円
大学・高校生700円
中学生以下無料
障害者手帳本人と介護者1名は無料。ミライロIDも利用可
予約不要。混雑時は入場制限の場合あり

参考資料