火星、木星方面、そして太陽圏の外へ進んだVoyagerのような遠方探査機は、地球と主に電波でデジタル情報を送受信しています。地球側でその通信を支える主要インフラが、NASA/JPLのDeep Space Network(DSN)です。
DSNは、米国のGoldstone、スペインのMadrid、オーストラリアのCanberraという3地域に複数の大型アンテナを配置しています。地球が自転して一つの施設から宇宙船が見えなくなる前後に、別の施設へ通信機会を引き継げる配置です。
通常はNASA/JPLのDSN Nowを開くと、どのアンテナがどの宇宙船と通信しているかを、その時点のネットワーク状態として確認できます。通信相手は時刻によって変わるため、「NASAは今、宇宙の誰と通信している?」という問いの答えも常に入れ替わります。
2026年8月23日現在、DSN NowはJPLの更新作業のため一時利用できません。公式ページには利用停止の案内が表示されています。DSNそのものの運用停止を意味するものではなく、公開用Web可視化の更新作業です。通常時のDSN Nowは地上局の実データで動作し、5秒ごとに更新され、予定された通信スケジュールを表示する仕組みではありません。
「地球と宇宙のオンライン体験シリーズ」のこれまでの記事では、第1回:NASA Eyesで系外惑星を3D探索、第2回:NASA Eyes on Asteroidsで接近天体を3D追跡を扱いました。宇宙探査全体の流れは宇宙開発の歴史を初心者向けに解説|ISS・はやぶさ・ボイジャーでも整理しています。
NASAはどうやって遠い宇宙船と通信している?
月、火星、外惑星、星間空間へ向かう宇宙船にはアンテナ、送受信機、通信系が搭載され、地球側のアンテナとの間で電波を送受信します。地球から宇宙船へ送る情報と、宇宙船から地球へ戻す情報の両方が必要です。
地球側では巨大なパラボラアンテナと高感度の受信設備が使われます。距離が何億、何十億キロメートルにもなると、宇宙船から届く信号は非常に弱くなるためです。受信だけでなく、地球から深宇宙へ正確に電波を向けて命令を送る役割も担います。
NASAにはNear Space Network(NSN)もあります。地球近傍や月周辺を含む幅広い領域の通信・航法を支えるネットワークで、任務によってDSNと連携します。2026年4月1日に打ち上げられたArtemis IIでは、打上げ直後はNear Space NetworkがOrionとの通信を主に担当し、その後にDeep Space Networkへ引き継がれました。有人宇宙船との深宇宙通信をDSNが担当するのは50年以上ぶりでした。
Deep Space Network(DSN)とは
Deep Space Networkは、NASAのSpace Communications and Navigation(SCaN)プログラムの一部としてJPLが管理する国際的な深宇宙通信・追跡ネットワークです。1963年、各地の深宇宙通信施設がJPLのSpace Flight Operations Facilityにつながり、統一されたネットワークとして正式に発足しました。
DSNの仕事は通信だけではありません。宇宙船へコマンドを送り、科学データや機体状態のテレメトリを受信し、電波の周波数変化や測距データから宇宙船の位置・速度を求めます。さらに電波科学、惑星や小天体を調べるレーダー科学にも使われます。NASAの探査機に加え、条件に応じて他機関の宇宙機も支援します。
DSNは「巨大アンテナが世界に3本ある」仕組みではありません。Goldstone、Madrid、Canberraの3つの通信施設があり、それぞれに複数のアンテナがあります。Network Operations Control Centerを中心に、24時間体制でネットワーク全体を運用しています。
なぜアンテナ基地が世界に3か所ある?
- Goldstone Deep Space Communications Complex:米国カリフォルニア州Barstow近郊
- Madrid Deep Space Communications Complex:スペインMadrid近郊
- Canberra Deep Space Communication Complex:オーストラリアCanberra近郊
3施設は経度方向におよそ120度ずつ離れています。地球が自転すると、一つの施設から見ていた宇宙船はいずれ地平線の下へ沈みます。その前後に別の施設が信号を受け取ることで、地球の自転をまたいで通信機会を確保できます。
各施設は外部の電波干渉を減らしやすい半山地の盆地状地形に置かれています。遠方探査機から届く微弱な電波を扱うため、周囲の人工電波を抑えやすい立地も重要です。

巨大アンテナはどれくらい大きい?
NASAが2026年6月に更新したDSN公式ページでは、各DSN施設に直径70mのアンテナが1基、26mのアンテナが1基、複数の34mアンテナがあると説明されています。70mは約230フィート、34mは約112フィートです。
大型化する最大の理由は、遠い宇宙船から届く弱い信号をできるだけ多く集めるためです。受信系には高感度機器や低雑音技術が組み合わされます。送信時にも、巨大な反射面で深宇宙の宇宙船へ電波を高精度に向けます。

さらにDSNでは、複数のアンテナで受けた信号を組み合わせるarrayingも使われます。1基では受信が難しいほど弱い信号に対し、複数のアンテナを協調させて感度を高める方法です。
地球から何を送り、宇宙船から何が返ってくる?
uplink:地球から宇宙船へ
uplinkは地球から宇宙船へ向かう通信です。コマンド、観測計画、ソフトウェアや設定の更新、航法・測距に必要な信号などを送ります。宇宙船は受信した命令を機上コンピューターで処理し、決められた手順に従って動作します。
downlink:宇宙船から地球へ
downlinkは宇宙船から地球へ向かう通信です。カメラ画像、科学観測データ、温度・電圧・姿勢など機体状態のテレメトリ、追跡や航法に使う情報が送られます。画像そのものが空間を飛んでくるのではなく、画像や計測結果をデジタルデータへ変換し、電波に載せて送ります。
宇宙船は受信直後に電話のような返事をする仕組みではなく、ミッション運用計画と搭載システムの手順に沿って通信します。この違いを押さえると、DSN Nowに表示される送信・受信やデータ速度の意味を読みやすくなります。
宇宙との通信はなぜすぐ返事が来ない?
電波は真空中を光と同じ速度で進みます。それでも距離が大きくなるほど到着までの時間は長くなります。地球から信号を送り、宇宙船に届き、宇宙船から返した信号が地球へ戻る往復には、片道通信時間のおよそ2倍以上が必要です。
- 月:片道およそ1.3秒
- 火星:地球との位置関係によって片道数分から20分以上
- Voyager 1:2026年11月18日に地球から「1光日」、つまり光が24時間かかる距離へ達する予定
NASAは2026年8月3日更新のVoyager位置情報ページで、Voyager 1が11月18日に地球から約259億km、1光日に到達する予定と案内しています。8月23日現在はまだ1光日未満ですが、片道だけでほぼ1日という規模に近づいています。地上から映像を見ながら操縦桿を動かすようなリアルタイム操縦が成立しない理由です。
DSN Nowとは
DSN Nowは、Deep Space Networkの現在の活動を可視化するNASA/JPLのWebツールです。通常時はDSN地上局から提供されるリアルタイムデータで動作し、5秒ごとに更新されます。予定表を読み込んでいるのではなく、利用可能な実データに基づく表示です。
「リアルタイム」はWeb表示が地上局データを5秒ごとに反映する意味です。火星やVoyagerとの電波そのものには距離に応じた光速の遅延があります。
2026年8月23日に公式ページを確認したところ、JPLによる更新作業中で「Deep Space Network Now website is not available during this period」という案内が表示されています。利用再開後は、このページを開くとその瞬間のアンテナ活動を確認できます。
DSN Nowの画面はどう読む?
現在は更新作業中のため、2026年8月23日時点の操作ボタン名や現行画面を推測して説明できる状態ではありません。NASA/JPLが通常仕様として説明している確認ポイントは次の通りです。
- Goldstone・Madrid・Canberraのうち、どの施設でアンテナが活動しているかを見る。
- 活動中のアンテナを選び、接続先として表示される宇宙船名を確認する。
- 送信と受信の状態を見て、地球から送っているのか、宇宙船から受け取っているのかを確かめる。
- 表示されるデータ速度や通信情報を確認する。
- 宇宙船名や略称が分からなければNASA/JPLのミッションページで調べる。
DSN Nowが復旧した後は、表示内容が時刻とともに変わる様子そのものが重要です。同じアンテナでも時間が変われば別の宇宙船を支援していることがあります。
NASAは今、宇宙の誰と通信している?
2026年8月23日はDSN Nowが更新作業中のため、「今この瞬間に通信している宇宙船」をWeb画面から確認できません。JPLのCurrent Mission Setに載る宇宙船はDSNが支援する対象であり、現在通信中という意味とは区別します。
利用再開後は、DSN Nowを開いた時点で表示された宇宙船が、その瞬間の答えになります。5秒ごとに状態が更新されるため、記事に特定の1機を固定して「今通信中」と書くより、実際の表示から確かめる方が正確です。

上の画像はDSN NowのWeb画面ではなく、JPLのSpace Flight Operations Facilityにある実際の管制表示です。2026年4月1日、MadridのDSS-54とDSS-56がArtemis IIと通信し、表示上ではEM2またはART2という名称が使われました。JPLは、DSN Nowでも同種の通信状況を視覚的に追えると説明しています。
知らない探査機が出たら、その場で調べてみる
DSN Nowには一般には馴染みの薄い宇宙船名や略称も現れます。その名前からミッションを調べると、通信表示がそのまま宇宙探査の入口になります。
- DSN Nowに表示された宇宙船名・略称を確認する。
- NASAまたはJPL公式サイトで名称を検索する。
- 正式なミッション名を確認する。
- 現在の目的と運用状況を調べる。
- 宇宙船がどこを飛んでいるか確認する。
- 打上げ年を確認する。
- DSN Nowへ戻り、どの地上局・アンテナとつながっているかもう一度見る。
火星周回機、月探査機、太陽観測機、外惑星探査機など、表示される相手によって次に調べるテーマは変わります。予定された「今日の探査機一覧」を覚えるより、その日の実際の通信相手からミッションを追う方がDSN Nowらしい使い方です。
なぜVoyagerの電波まで地球で受け取れる?
Voyager 1・2は1977年に打ち上げられ、2026年現在も太陽圏の外の星間空間から通信を続けています。距離が極端に遠いため、地球へ届く電波は非常に弱くなります。
受信には70m級を含む大型アンテナ、高感度受信器、低雑音技術、信号処理、長時間の追跡を組み合わせます。Canberraの70mアンテナDSS-43はVoyager 2へのコマンド送信で特に重要な役割を担っています。
Voyagerの現在位置、太陽圏、RTG、科学機器は、シリーズ第4回ボイジャーはいまどこ?NASA Eyesで太陽系の果てを3D追跡で詳しく扱っています。NASAのWhere Are Voyager 1 and 2 Now?でも最新状況を確認できます。宇宙開発史の流れは宇宙開発の歴史を初心者向けに解説も参照できます。
1本の巨大アンテナだけで全部と通信している?
DSNは多数のミッションが共有する通信インフラです。各ミッションが必要とする通信時間、距離、重要イベント、使用周波数などを考慮してアンテナ利用を調整します。重要イベントや緊急時には運用上の優先順位も調整されます。
一つのアンテナが永続的に一つの宇宙船だけを担当する固定関係ではなく、時間帯や目的に応じて支援先が変わります。条件が合えば一つのアンテナで複数宇宙船を追跡する運用や、複数アンテナをarrayingして感度を上げる運用もあります。
探査機が増え、より多くのデータを地球へ戻すようになるほどDSNへの需要も増えます。NASAは34mアンテナの増設や設備更新を進め、ネットワーク容量の拡大を続けています。
電波の次はレーザー?深宇宙通信の未来
DSOCは2025年に実証を完了
Deep Space Optical Communications(DSOC)は、Psyche探査機に搭載されたNASA初の地球―月系を越える深宇宙光通信技術実証です。2023年に開始し、2025年9月に最終通信パスを終えて実証を完了しました。
NASA/JPLは、同等サイズ・電力の最先端電波通信と比べて少なくとも10倍のデータレートを実証したと説明しています。2023年には深宇宙から超高精細動画を送り、2024年には約4億9,400万km級の距離から光通信を成立させ、最終段階では約3億700万マイル級の距離まで実証範囲を広げました。
Artemis IIのO2Oは有人深宇宙で実証
2026年4月のArtemis IIには、Orion Artemis II Optical Communications System(O2O)が搭載されました。NASAは、有人深宇宙ミッションで初めてレーザー通信を実運用規模で実証したシステムと位置づけています。最大260Mbpsで、高解像度映像、画像、手順、科学・工学データ、音声などを送受信しました。
NASAの2026年更新資料では、O2OはArtemis IIから484GBを超えるデータを送信しました。光通信は大量データを高速に送る有力な手段ですが、Artemis IIでもNear Space NetworkとDeep Space Networkの電波通信が主要な通信基盤でした。レーザー通信はDSNを一気に置き換えるのではなく、電波通信を補完してデータ量を増やす方向で発展しています。
DSN Nowに何も表示されないことがあるのはなぜ?
DSN Nowは通常のリアルタイム表示に加えて、保守・試験・復旧運用では特殊な表示が現れることがあります。公式ページは、次の例を説明しています。
- 一つまたは複数の施設の全アンテナが無活動に見える場合、global downtimeの保守やデータパイプラインの一時的問題が原因の場合がある。
- 宇宙船の復旧作業中、アンテナが別の宇宙船の信号へlockし、捜索対象の宇宙船を受信したように表示される場合がある。火星付近では複数宇宙機が一つのアンテナ視野に入りやすい。
- システム試験ではDOUG、SHANなど、実在しないテスト用名称が表示されることがある。
- 終了済みミッション向けハードウェアの試験でCassiniなどが一時的に「phantom spacecraft」として表示されることがある。
2026年8月23日はこれとは別に、DSN NowのWebサイト自体がJPLの更新作業で一時停止しています。復旧後も、通常の通信表示と保守・試験時の特殊表示を分けて読むと状況を理解しやすくなります。
よくある質問
DSN Nowは無料で使える?
NASA/JPLが公開するWebツールで、通常はブラウザから無料で利用できます。
DSN Nowはリアルタイム?何秒ごとに更新される?
通常時はDSN地上局の実データを使い、5秒ごとに更新されます。通信予定表の表示ではありません。
DSN Nowはいま使える?
2026年8月23日現在、JPLの更新作業のため一時利用停止中です。Deep Space Networkそのものは運用されています。
日本にDeep Space Networkの基地はある?
DSNの3つの主要施設はGoldstone、Madrid、Canberraにあり、日本にはありません。
なぜ3か所に分かれている?
約120度ずつ離して配置し、地球の自転に合わせて別の施設へ通信機会を引き継ぐためです。
70mアンテナはどれくらい大きい?
直径70m、約230フィートです。各DSN施設に1基ずつあります。
NASAはVoyagerともまだ通信している?
はい。Voyager 1・2は2026年現在も星間空間からデータを送り、DSNが通信を支えています。
火星へ信号が届くまで何分?
地球と火星の位置関係で変化し、片道で数分から20分以上かかります。
宇宙船と電話のように話している?
コマンド、画像、科学データ、機体状態などをデジタルデータとして電波で送受信します。
uplinkとdownlinkの違いは?
uplinkは地球から宇宙船、downlinkは宇宙船から地球へ向かう通信です。
知らない宇宙船名が出たらどう調べる?
表示名や略称をNASA/JPL公式サイトで検索し、正式名、目的、現在地、打上げ年、運用状況を確認します。
DOUGやSHANとは何?
DSNのシステム試験で使われる、実在しないテスト用名称です。
DSN NowにCassiniが表示されることがあるのはなぜ?
終了済みミッション向けに調整されたハードウェアを試験した際、phantom spacecraftとして表示されることがあります。
レーザー通信に変わったらDSNは不要になる?
現在のNASAの実証では、レーザー通信は電波通信を補完する位置づけです。Artemis IIでもDSNを含む電波通信が主要な基盤でした。
参考文献
- NASA, Deep Space Network
- NASA, Where is the DSN Located?
- NASA, What Does the DSN Do?
- JPL, Deep Space Network
- JPL, Deep Space Network Now
- NASA/JPL, DSN Now
- NASA/JPL, The Deep Space Network Acquires Artemis II Signal
- NASA, Where Are Voyager 1 and 2 Now?
- NASA, Deep Space Optical Communications
- NASA, Laser Communications
- NASA, Laser Communications Relay Demonstration Overview

