日銀が利上げすると国の借金はどうなる?国債費・利払費が増える仕組みを解説

東京都霞が関の財務省本庁舎

2026年9月1日、日本の10年国債利回りは一時3.0%に達しました。約30年ぶりの水準です。そこで出てくるのが、「国の借金が1,000兆円を超えているなら、金利が1%上がるだけで利払いも10兆円以上増えるのでは」という疑問です。

財務省の試算は、その単純計算とは大きく違います。金利が基準より1%ポイント高い場合、国債費の増加は2027年度+0.8兆円、2028年度+2.1兆円、2029年度+3.8兆円です。差が生まれる理由は、既に発行した固定金利の国債の利率が満期まで変わらず、新しい金利が借換えを通じて数年かけて政府財政へ入ってくるからです。

金利上昇の本当の論点は、長く続いた低金利で発行した国債が高い金利の国債へ置き換わるほど、政府の利払い負担が予算へ戻ってくる点にあります。その一方で、日銀は物価安定のために必要なら利上げを続ける立場です。金融政策と巨額の政府債務を何年間両立できるかが、これからの焦点になります。

金利が1%上がると国の利払いも11兆円増える?

2026年度末の普通国債残高見込みは約1,145.4兆円です。これに1%を掛けると約11.45兆円になります。しかし、この計算は「残っている国債すべての利率が同じ日に1%上がる」という仮定です。

実際の日本国債では、すでに発行した固定利付国債の表面利率は償還しょうかんまで維持されます。市場金利が上がった影響は、新しく発行する国債と、満期を迎えた国債を借り換えるときに入ってきます。

金利が基準より+1%ポイント国債費の増加額
2027年度+0.8兆円
2028年度+2.1兆円
2029年度+3.8兆円
財務省「令和8年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」。一定の経済前提に基づく機械的試算です。

時間がたつほど増加額が大きくなるのは、低い金利で発行された国債が満期を迎え、より高い金利の国債へ少しずつ入れ替わるためです。

そもそも「国の借金」はいくらあるのか

国の借金をめぐっては、1,346兆円、1,110兆円、1,145兆円と複数の数字が出てきます。対象範囲と基準日が違うためです。

数字対象基準意味
約1,346.7兆円国債・借入金・政府短期証券2026年6月末中央政府の広い現在高
約1,110.9兆円普通国債2026年6月末同日時点の普通国債実績
約1,145.4兆円普通国債2026年度末見込み2026年度予算ベースの年度末見込み
財務省資料をもとに整理。異なる数字は対象範囲と時点が異なります。

2026年6月末の広い現在高1,346.7兆円には、普通国債のほか、財政投融資特別会計国債、借入金、政府短期証券などが含まれます。国際比較で使うIMFなどの一般政府債務も、さらに別の定義です。

国債費31.3兆円のうち利息は13.0兆円

2026年度当初予算の一般会計歳出は約122.3兆円。そのうち国債費は約31.3兆円で、歳出全体の約25.6%を占めます。

2026年度当初予算金額
国債費31.3兆円
うち債務償還費18.2兆円
うち利子及割引料13.0兆円
財務省2026年度当初予算。国債費には利払いと償還関係費用が含まれます。

ニュースで「国債費31兆円」と聞くと、31兆円すべてが利息のように見えます。実際の利子及割引料は約13.0兆円です。残りの大きな部分は債務償還費です。

税や社会保険料の負担と国の財政余力は別の指標ですが、国債費が大きくなるほど一般会計の中で他の政策に使える余地は狭くなります。税・社会保険料の負担を示す「国民負担率」は、国民負担率45.7%の意味を整理した記事で詳しく解説しています。

市場金利3%でも昔の国債の利率は変わらない

国債には「表面利率」と「市場利回り」があります。表面利率は、国が額面に対して支払う利子率です。固定利付国債では発行時に決まり、満期まで変わりません。

市場利回りは、国債が市場でいくらで売買されるかによって毎日変わります。2026年9月1日に10年国債利回りが一時3.0%になっても、過去に0.5%などで発行した固定利付国債の表面利率が翌日3%へ変わることはありません。

金利の種類意味
政策金利日銀が金融政策で操作する短期金利の中心
市場利回り国債価格などから決まる市場の収益率
表面利率国債発行時に決まり、固定利付債では満期まで維持
積算金利予算で将来の国債費を計算するための前提
「3%」と書かれていても、何の金利かで意味が異なります。

日銀の利上げと長期金利上昇の関係は、日銀利上げ・米金利・円安をつないだ解説で整理しています。

金利上昇の影響がすぐ財政に出ない理由

財務省によると、普通国債の発行残高ベースの平均償還年限は2026年度末で約9年4か月になる見込みです。2年債、5年債、10年債、20年債、30年債、40年債などが混在した残高の平均です。

この長い平均年限が、金利上昇の影響を和らげるクッションになります。政府は毎年、残高全体を借り換えるのではなく、満期を迎えた部分と新たに必要な資金の分だけ、その時点の市場金利で調達します。

一方、時間がたつほど高金利の国債が残高に増えます。短期では負担増が小さくても、高金利が何年も続けば利払費への影響は大きくなります。

新しい借金32.7兆円なのに国債を183.8兆円発行する理由

2026年6月の補正後国債発行計画では、国債発行総額は約183.8兆円です。その大部分を占めるのが借換債かりかえさいです。

2026年度補正後国債発行計画金額
新規国債32.7兆円
財投債13.0兆円
借換債135.8兆円
GX経済移行債等約2.3兆円
総額183.8兆円
財務省、2026年6月3日変更後の国債発行計画。

借換債は、満期を迎える既存国債を返すための資金を調達する国債です。新しい政策支出をまかなう新規国債とは役割が違います。

国債発行総額183.8兆円の大部分は既存債務の借換えです。日本財政の特徴は、巨大な既存債務を毎年の借換えで回し続けている点にあります。この借換えこそ、金利上昇が時間差で財政へ入る入口です。

日本の「60年償還ルール」とは

普通国債には「60年償還ルール」という考え方があります。国債を満期ごとに全額現金で返すのではなく、一部を現金で償還し、残りを借換債でつなぎながら、長期間で償還していく仕組みです。

600億円の10年国債を発行
↓ 10年後
100億円を現金償還
500億円を借換債で調達
財務省が示す60年償還ルールの考え方を簡略化。

10年国債が10年後に満期を迎えても、政府債務全体から同額が消えるとは限りません。借換債を発行すれば、債務は新しい国債へ引き継がれます。

財務省試算では利払費13兆円が21.6兆円へ増える

財務省の2026年度予算に基づく後年度試算では、経済成長3.0%ケースで利払費が2026年度13.0兆円から2029年度21.6兆円へ増える姿が示されています。

年度国債費利払費
2026年度31.3兆円13.0兆円
2027年度34.7兆円15.5兆円
2028年度38.0兆円18.5兆円
2029年度41.3兆円21.6兆円
財務省「令和8年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」の経済成長3.0%ケース。将来予算を拘束する予測ではなく、一定の前提を置いた機械的試算です。

同じ資料の金利前提は2026年度3.0%、2027年度3.2%、2028年度3.4%、2029年度3.6%です。9月1日に市場の10年国債利回りが一時3.0%になったことと、予算の積算金利3.0%は別の数字です。

2027年度概算要求で国債費36.6兆円まで増えた

財務省が2026年8月28日に公表した2027年度概算要求では、国債費は36兆6,386億円です。2026年度当初予算から5兆3,628億円増えました。

内訳では、債務償還費が約20.0兆円、利子及割引料が約16.59兆円です。36.6兆円は国債費全体で、利息に当たる部分は利子及割引料です。この数字は2027年度の概算要求段階の金額です。

低金利時代の国債が借り換わるにつれ、利払い負担が実際の予算へ入り始めていることは、この増加からも確認できます。

日銀が国債の約半分を持っているなら問題ない?

日本銀行本店本館の外観
日本銀行本店。Fg2撮影/Wikimedia Commons/Public Domain。

日銀は2026年3月末時点で長期国債を約530.9兆円保有しています。国債発行残高の5割程度を持つ巨大な保有者です。

政府が日銀へ支払った国債利息の一部は、日銀の利益を通じて国庫納付金として政府へ戻ります。この仕組みだけを見ると、「日銀保有分の利払いは政府内で回る」と考えたくなります。

しかし、利上げ局面では日銀自身の支払いも増えます。金融機関が日銀へ置く当座預金への利息です。2025年度の日銀決算では、国債利息収入が約2.52兆円だった一方、補完当座預金制度の利息支払いは約2.71兆円でした。日銀の国庫納付金は約1.83兆円です。

政府→日銀→国庫納付金という一方向だけでは、利上げ後の全体像を説明できません。政策金利が上がるほど、日銀から金融機関への付利も重くなります。

日銀が国債買入れを減らすと何が変わるのか

日銀は国債買入れを停止したのではなく、段階的に減らしています。日銀の2026年8月のレビューでは、買入れ減額のもとで国債市場の機能度が改善し、長期金利が市場でより自由に形成されるようになっていると分析しています。

長い間は、政府が大量の国債を発行し、日銀も大量に買う構造が続きました。買入れが減るほど、銀行、生保、年金、個人、海外投資家が「どの利回りなら国債を買うか」の重要性が高まります。

財政への市場評価が長期金利へ表れやすくなるのも、この正常化の一部です。

金利上昇だけでなく名目成長率も見る

財政の持続可能性は、金利だけでは決まりません。経済が名目でどれだけ成長するかも重要です。

財務省の同じ後年度試算では、名目経済成長率が基準より1%ポイント高い場合、税収は2027年度+1.0兆円、2028年度+2.1兆円、2029年度+3.4兆円増える機械的試算が示されています。

インフレや賃金、企業利益が伸びれば名目GDPや税収も増えます。政府債務の金利より名目成長率が高ければ、債務残高が増えてもGDP比は下がりやすくなります。逆に、高い金利が長く続き、成長率を上回る状態が続けば利払い負担は重くなります。

IMFの2026年対日審査は、日本の債務リスクを「中程度」と評価しています。平均満期の長さ、国内投資家層、円建て債務などが急激な危機を抑える一方、高齢化と利払い増加が中長期の課題になります。OECDも、金利が名目成長率を上回る状態が長期化すれば債務比率が再び上昇するリスクを指摘しています。

政府の利払いが増えると、日銀は利上げしにくくなるのか

ここで「財政ドミナンス」という言葉が出てきます。政府債務や財政事情が大きすぎて、中央銀行が物価安定のために必要な金融政策を取りにくくなる状態です。

たとえばインフレを抑えるには利上げが必要なのに、政府の利払い負担を増やさないため金利を低く維持するようになれば、財政事情が金融政策を縛る構図になります。

現在の日銀は政策金利を引き上げ、国債買入れも減らしています。現時点では、財政事情が日銀の金融政策を明確に縛っていると判断できる状況には至っていません。

ただし、国債費が増え続けても日銀が物価安定のために必要な利上げを続けられるかは、今後の重要な観察点です。金融政策が政府の利払い負担を理由に変わるようになったとき、財政ドミナンスの問題は現実味を増します。

政府が日銀へどこまで関与できるのか、総裁人事や日銀法、中央銀行の独立性の仕組みは、日銀と政府の関係をQ&Aで整理した記事で詳しく解説しています。

これから国債ニュースで見る数字

数字見る意味
10年国債利回り市場が要求する長期金利の代表値
政策金利日銀の金融政策の方向
積算金利予算上の国債費計算の前提
利払費政府が利子として支払う負担
国債費利払いと債務償還関係費を含む予算項目
借換債満期国債を借り換える規模
平均償還年限金利変化が財政へ浸透する速度の目安
債務残高/GDP経済規模に対する債務負担

日本国債の金利上昇が財政へ届く仕組みは、単純な「残高×金利」では説明できません。固定利付国債、借換債、平均償還年限、60年償還ルールを通じて、高い金利が数年かけて政府の調達コストへ入り込みます。

低金利時代には目立ちにくかった巨額債務のコストが、これからは予算上の制約として表面化しやすくなります。日銀の金融正常化が進むほど、政府には名目成長と税収、財政運営によってそのコストを吸収する力が求められます。

金利と財政を政権別に読む:石破茂政権高市内閣

一次資料・参考資料