1972年、フランスの核燃料工場で、ガボンから届いたウラン鉱石を調べていた人たちは、小さな違和感に気づきました。
天然ウランに含まれるウラン235は、ふつう約0.72%。ところが、その鉱石では0.7171%しかありませんでした。
差はほんのわずかです。それでも、天然ウランの同位体比はどこでもほぼ同じです。となれば、減ったウラン235はどこへ消えたのか。
調査の先にあった答えは、人間の活動ではありませんでした。
約20億年前、この場所では自然に核分裂の連鎖反応が起きていたのです。
人類が原子炉をつくるより、はるか昔のことです。なぜ20億年前の地球には、そんなことができたのでしょう。
20億年前、自然が原子炉を動かしていた
場所はアフリカ・ガボンのオクロ。調べると、ウラン235が減っているだけでなく、核分裂で生まれる元素の痕跡まで残っていました。
そこには、天然の原子炉が動く条件がそろっていました。ウランが集まり、地下水が入り込み、その水が中性子の動きを遅くします。遅くなった中性子がウラン235に吸収されると、核分裂が続きやすくなります。
面白いのは、その動き方です。鉱物に残ったキセノン同位体を調べた研究では、少なくとも一部の反応領域で、約30分動いて約2時間半休む周期が推定されました。
反応が進むと水が熱せられて減り、核分裂が弱まる。冷えると水が戻り、また始まる。自然の仕組みだけで、オンとオフを繰り返していたと考えられています。
しかも、この天然原子炉は発見より前に予想されていました。日本出身の核化学者・黒田和夫は1956年、太古の地球なら自然の核分裂連鎖反応が起こり得ると論じています。オクロが見つかったのは、その16年後でした。
オクロは発見から半世紀たった今も研究対象です。2026年には、名古屋大学やJAEAなどの研究者が、最新の質量分析で天然原子炉領域に残る同位体を読み直す研究を発表しました。20億年前の原子炉は、まだ調べ終わった遺跡ではありません。
なぜ20億年前にはできて、今はできないのか
答えは、ウランそのものが昔と今で少し違うからです。
天然ウランの大半はウラン238で、核分裂を起こしやすいウラン235は現在約0.72%です。ただし、昔はもっと多く含まれていました。
放射性元素は時間とともに少しずつ別の元素へ変わります。その量が半分になるまでの時間が「半減期」です。
ウラン238の半減期は約44.7億年。ウラン235は約7.04億年。ウラン235の方がずっと速く減ります。
現在の比率からさかのぼると、約20億年前の天然ウランにはウラン235が約3.7%ありました。太陽系が生まれた約45.7億年前なら約24%です。
オクロが動けた理由は、ここにあります。当時は今よりウラン235が多く、そこへ地下水などの条件が重なりました。
では、そのウランはどこから来たのでしょう。地球ができたとき、すでにここにあったのなら、話は地球の誕生より前へ進みます。
そのウランは、地球で生まれたわけではない
星の中では、軽い原子核が結びつく核融合によって新しい元素が作られます。水素からヘリウム、さらに炭素や酸素へ。星は長い時間をかけて、少しずつ重い元素を生み出します。
ところが、鉄やニッケルのあたりまで来ると、同じやり方でエネルギーを得ながら先へ進むのが難しくなります。
ウランの原子番号は92。鉄の26よりはるか先です。普通の恒星核融合だけでは届きません。
そこで登場するのが「r過程」です。原子核が短時間に大量の中性子を取り込み、その後の崩壊を経て、金やプラチナ、ウランのような重い元素へ変わっていきます。
では、宇宙のどこでそんなことが起きるのか。ここから先は、いまも研究が続いている話です。
中性子星の衝突で、重い元素が生まれる
有力な現場の一つが、中性子星どうしの合体です。
2017年8月17日、LIGOとVirgoは二つの中性子星が合体した「GW170817」を捉えました。重力波が検出されたあと、世界中の望遠鏡が同じ方向を追いかけます。
そこで観測されたのが、合体後に輝く「キロノバ」でした。
2019年、その光からストロンチウムが同定されました。中性子星の合体で、中性子を取り込んで重い元素を作る反応が実際に起きていることを示す大きな証拠でした。
2023年には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が別のキロノバを観測し、テルルの特徴も捉えています。
では、ウランも見つかったのでしょうか。
まだです。キロノバからウランそのものが直接確認されたわけではありません。2026年現在も、中性子星どうしの合体のほか、中性子星とブラックホールの合体や、特殊な大質量星の爆発などが候補として研究されています。
ウランがどの現場で、どれほど作られてきたのか。その答えはまだ一つに決まっていません。
手がかりは空だけにあるわけでもありません。2026年には、太平洋の深海で育ったマンガン鉄クラストから、星間起源のプルトニウム244が一原子ずつ数える方法で調べられました。同時に生まれるキュリウム247が見つからなかったことから、地球の近くで最後にアクチノイドを多く作ったr過程イベントは、少なくとも約9000万〜1億年以上前だった可能性が示されています。ウランの故郷を探すために、科学者は望遠鏡だけでなく海底の石まで調べています。
宇宙で作られたウランが、若い地球に入った
太陽系が生まれたのは約45.67億年前です。
それより前の宇宙で作られた元素は、ガスや塵に混ざり、その一部が太陽や惑星の材料になりました。ウランも、その中に含まれていました。
つまり、地球にあるウランの原子は、地球より古い来歴を持っています。
ウラン238の半減期は約44.7億年と長いため、太陽系ができたころのウランのかなりの部分が今も残っています。一方、ウラン235はその間に大きく減りました。
その時間差が、20億年前には動けた天然原子炉を、今ではほとんど生まれないものにしました。
ウランはいまも地球の中で熱を出している
ウランの物語は、太古の地球だけでは終わりません。いまこの瞬間も、地球の内部ではウランがゆっくり崩壊しています。
地球内部の熱には、地球ができたときから残る熱と、ウラン、トリウム、カリウムなどの放射性元素が崩壊するときに生まれる熱があります。
その様子を直接見ることはできません。代わりに科学者たちは、地球内部から飛び出してくる反ニュートリノを捕まえています。
東北大学などのKamLAND実験では、18年以上にわたる観測から、ウランとトリウムに由来する地球ニュートリノを分けて調べられる段階まで進みました。観測結果は、地殻とマントルを合わせた放射性発熱をおおむね10〜20テラワットとする地球モデルと整合しています。
観測は次の世代へ進みつつあります。2026年の研究では、中国の巨大ニュートリノ観測施設JUNOが、1年未満でこれまでの世界全体に匹敵する規模の地球ニュートリノを集め、10年で総流束を約8%の精度まで測れる可能性が示されました。ウラン238とトリウム232の寄与も、これまで以上に詳しく分けて調べられる見込みです。
地球の奥へ行けなくても、そこから飛んでくる粒子を見れば、内部で何が起きているのかを探れます。
人類がウランの力に気づいたのは、つい最近だった
地球では20億年前に核分裂が起きていましたが、人類はもちろん知りませんでした。
ウランが元素として知られるようになったのは1789年です。ドイツの化学者マルティン・ハインリヒ・クラプロートが新しい元素の酸化物を見つけ、発見されて間もなかった天王星Uranusにちなんで名付けました。
1896年にはアンリ・ベクレルが、ウランから目に見えない放射線が出ていることを発見します。
そして1938年。オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンが、ウランに中性子を当てた実験からバリウムを検出しました。
なぜ、重いウランからずっと軽いバリウムが出てくるのか。
その結果を聞いたリーゼ・マイトナーとオットー・フリッシュは、ウランの原子核そのものが二つに割れたと考えました。フリッシュは、この現象を「核分裂(fission)」と名付けます。
自然界ではとうの昔に起きていた現象を、人間が理解したのは20世紀になってからでした。
ウランは、46億年前を測る時計にもなった
ウランにはもう一つ、まったく違う顔があります。時間を測る時計です。
ウラン238は長い崩壊の連鎖を経て、最後は鉛206になります。ウラン235は鉛207になります。
鉱物の中に残ったウランと鉛の同位体を調べると、その鉱物ができた時期を推定できます。これがU-Pb年代測定です。
西オーストラリアのジャック・ヒルズでは、この方法などによって約44億年前のジルコンが見つかっています。地球ができてから、まだ1〜2億年ほどしかたっていない時代です。
隕石に含まれる古い物質を調べれば、太陽系の始まりが約45.67億年前だったことも分かります。
しかも、ウランを使う年代測定は今も更新されています。2025年、東京大学などの研究チームはウラン234の半減期を245,670±260年と測り直し、U-Th年代測定の実用範囲を約60万年前から約80万年前へ広げました。46億年前を測る時計もあれば、人類史に近い時代を測る時計もあります。
20億年前には天然原子炉を動かし、いまは地球内部で熱を出し、その崩壊をたどれば46億年前の時間まで測れる。
同じウランを追っているだけなのに、地球の歴史は宇宙の歴史へつながっていきます。
46億年以上前の元素を、いまも調べ続けている
ウランは、とっくに解明された昔の元素ではありません。
中性子星の合体で重い元素が作られることは見えてきました。それでも、ウランそのものが宇宙のどこで、どれほど作られてきたのかは、まだ分からない部分があります。
地球の内部にどれだけウランやトリウムがあり、どれだけ熱を生んでいるのかも、観測が続いています。
46億年以上前に生まれた元素を、私たちは今も追いかけています。
参考資料
- 日本原子力研究開発機構 ATOMICA「天然原子炉(オクロ原子炉)」
- Physical Review Letters, “Record of Cycling Operation of the Natural Nuclear Reactor in the Oklo/Okelobondo Area in Gabon”
- 黒田和夫「天然原子炉の可能性に対する解析」
- CIAAW “Atomic Weight of Uranium”
- IAEA Reference Materials IAEA-493
- KEK「なぜ宇宙にはウランが存在するのか―重元素誕生の謎を追う」
- Thielemann & Cowan, “The r-process: history, required conditions, astrophysical sites, and observations” (2026)
- Nature, “Identification of strontium in the merger of two neutron stars”
- NASA Science “Webb Makes First Detection of Heavy Element from Star Merger”
- KamLAND Collaboration, “Abundances of Uranium and Thorium Elements in Earth Estimated by Geoneutrino Spectroscopy”
- Nature, “Evidence from detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago”
- NASA Astrobiology “Using Isotopes to Probe the Earliest History of the Solar Nebula”
- Royal Society of Chemistry “Uranium”
- American Physical Society “Discovery of Nuclear Fission”
- Hidaka et al., “New insights into the Oklo natural fission reactors elucidated from isotopic studies using state-of-the-art analytical techniques” (2026)
- Nature Astronomy, “The timing of the last r-process event near Earth from interstellar 60Fe, 244Pu and 247Cm deposition on Earth” (2026)
- Chinese Physics C, “Prospects for geoneutrino detection with JUNO” (2026)
- 東京大学大気海洋研究所「ウラン234の半減期を再定義し、地球史・人類史の年代測定に新たな可能性を提示」
