景気後退を、前年の春に予測できたのは153回中5回でした。63カ国・1992~2014年を対象にしたIMF Working Paperでは、民間予測は前年4月の時点で148回の景気後退を見逃しています。一方、景気後退ではない1153年のうち、誤って景気後退と予測したのは8回でした。早い段階で不況を乱発したのではなく、実際に来た転換点を直前まで見逃す傾向が強かったという結果です。
この研究でいうrecessionは「年次実質GDP成長率がマイナスになった年」で、NBERの景気循環判定とは定義が違います。IMF Working Paperは著者の研究で、IMF Executive Boardやmanagementの公式見解とは区別されます。平常時の1年予測には一定の情報価値がある一方、転換点と長期予測では誤差が大きくなります。
経済予測は何をもって「当たった」と言うのか
経済予測の評価でよく使うのが予測誤差です。実績値と予測値の差を測り、符号付きの平均を見ると楽観・悲観の偏り、絶対値の平均を見ると外れ幅の大きさが分かります。
- 予測誤差:実績値と予測値の差
- 平均予測誤差(MFE):誤差の符号を残した平均。biasを見る
- 平均絶対予測誤差(MAE / MAFE):外れ幅の大きさを見る
- forecast horizon:何カ月・何年先を予測したか
研究によって予測誤差の符号は逆になることがあります。森川正之のRIETI Discussion Paper 24-J-017は「実績値-予測値」なので、マイナスは予測が実績より高かったこと、すなわち上方バイアスを表します。
日本では誰が当てた?民間エコノミスト・政府・日銀

RIETI Discussion Paper 24-J-017は、民間エコノミストの翌年度予測を政府経済見通しや日本銀行「展望レポート」と比較しています。Discussion Paperは著者個人の研究で、RIETIや経済産業省の公式見解とは区別されます。
| 項目 | 民間 | 政府 |
|---|---|---|
| 実質GDP 予測誤差 | -0.82 | -1.28 |
| 実質GDP 絶対誤差 | 1.32 | 1.57 |
| 名目GDP 予測誤差 | -1.12 | -1.82 |
| 名目GDP 絶対誤差 | 1.69 | 2.25 |
単位は%ポイントです。この比較条件では、GDPについて民間エコノミストの方が政府より上方バイアスと絶対誤差の両方が小さくなりました。CPIは民間が「除く生鮮」、政府が「総合」で定義が異なるため、単純比較の対象から外れます。
| 項目 | 民間 | 日銀 |
|---|---|---|
| 実質GDP 予測誤差 | -0.88 | -1.18 |
| 実質GDP 絶対誤差 | 1.45 | 1.64 |
| CPI除く生鮮 予測誤差 | -0.17 | -0.45 |
| CPI除く生鮮 絶対誤差 | 0.86 | 0.97 |
民間と日銀の比較でも、この分析では民間の誤差がやや小さくなりました。対象期間と予測時点を固定した一つの比較結果で、他の期間や指標では序列が変わる可能性があります。
採点にはもう一つ難しさがあります。GDPの実績値は速報、二次QE、年次推計、基準改定などで後から変わります。同論文は各年1~3月期二次QEの年度計数を使っており、「予測を採点する正解値」自体にも版があることを前提にしています。
平常時の1年予測はどのくらい外れる?米民間32年の成績
Federal Reserve Bank of St. Louisは、Blue Chip Economic Indicatorsの1993~2024年予測を使って、民間専門家の長期的な成績を整理しています。
| 指標 | 平均絶対予測誤差 |
|---|---|
| 実質GDP成長率 | 1.0ポイント |
| CPIインフレ率 | 0.7ポイント |
| 失業率 | 0.5ポイント |
| 10年国債利回り | 0.6ポイント |
平均予測値だけを見ると誤差は小さく見えますが、専門家の下位10%から上位10%までの予測レンジに実績が入った年の割合は、GDP44%、CPI56%、失業率47%、10年国債47%でした。1年先予測には情報価値がある一方、一点予測には相応の不確実性が残ります。
一番知りたい「景気後退の入口」が最も難しい
IMF Working Paperの63カ国・153回のrecessionを見ると、景気後退へ近づくほど予測は改善します。
| 予測時点 | 153回のうち民間がrecession予測 |
|---|---|
| 前年4月 | 5 |
| 前年10月 | 14 |
| 当年4月 | 84 |
| 当年10月 | 118 |
前年4月では148回、前年10月では139回を見逃し、当年4月でも69回、当年10月でも35回を見逃しています。早期の景気後退予測を出すこと自体が少なく、状況が悪化してから下方修正が進む形です。
IMF forecastも同じ研究で、前年4月147回、前年10月136回、当年4月72回、当年10月40回を見逃しており、private sectorとofficial sectorのrecession予測はかなり似た成績でした。危機や景気後退が経済学をどう変えたかは経済危機とマクロ経済学の変化でも扱っています。
10年先を予測するとどうなる?
RIETI Discussion Paper 19-J-058は、経済産業省が2006年と2007年に実施した「日本経済の長期展望に関する調査」を事後評価しています。回答者は主に日本経済学会所属の経済学者と民間エコノミストで、10年先と30年先の成長率などを予測しました。
2026年時点で完全に答え合わせできるのは10年間予測です。30年間予測は観察期間の途中です。世界金融危機の影響が大きかった2008・2009年度を実績計算から除いても、実質GDP成長率は約0.5ポイント、名目GDP成長率は約1.3ポイントの上方バイアスでした。
大学等の経済学者は民間エコノミストより長期GDP予測の上方バイアスが0.2~0.3ポイントほど小さく、マクロ経済学・経済成長論を専門とする回答者は他分野より約0.2ポイント大きいという結果も出ています。ただし調査は2回分で、一般化には範囲の限界があります。
一般の人が専門家より当たったこともある
森川正之の「国民の中期経済成長予測」は、2016年時点の一般国民の予測を2016~2022年で事後評価しています。国民の平均予測はゼロ成長に近く、結果として政府、民間エコノミスト、企業より高い精度になりました。
この結果は、2016年時点の一般国民の平均予測が結果的に実績へ近かったことを示します。COVIDの影響がなかったと仮定した計算でも、民間エコノミストや企業と同程度の絶対予測誤差でした。低い成長率を置いた予測が大きなショックの後に相対的に当たりやすくなった一例で、一般国民の予測能力を専門家より高いと一般化する根拠には乏しい結果です。
FRBはパンデミック後インフレをどう外した?

Federal Reserve Board staffのPeneva、Rudd、Villarは2025年のFEDS paperで、米国経済再開後のインフレについて規模と持続性の両方を大幅に過小予測したと振り返りました。比較可能な過去のepisodeがほとんどなかったことも、予測を難しくした要因です。
その後、product marketとlabor marketの需給、新しい種類のデータを予測判断へ取り入れるなど、forecasting proceduresを変更しています。外れた事実だけでなく、原因検証と手続き変更まで含めると、予測は固定されたモデルの出力ではなく更新される実務だと分かります。
ここではFederal Reserve Board staff forecastと、FOMC参加者が公表するSummary of Economic Projections(SEP)を分けて考える必要があります。さらにFOMCの政策決定は、どちらの予測とも別の意思決定です。
ECB史上最大の1四半期先インフレ予測誤差
ECBは2022年第1四半期のheadline HICP inflationについて、2021年12月projectionとの差が2.0ポイントになったと分析しました。1998年のstaff projections開始以来、最大のone-quarter-ahead inflation forecast errorでした。
ECBはunprecedented energy price dynamicsやsupply bottlenecksなどを原因として分析しています。モデルだけの失敗として切り分けるより、前提条件と経済環境が急変した結果として読む方が資料の整理に沿っています。
2026年6月のECB staff projectionsではbaselineに加えてmilder、adverse、severeなど複数のalternative scenariosを示しています。各scenarioには確率を割り当てておらず、未来を一つの経路に固定するより、前提条件ごとの経路を比較する設計です。
英中銀は予測の仕組み自体を見直した
Bank of Englandは2023年、Ben Bernankeへ独立レビューを依頼し、2024年4月に12のrecommendationsを公表しました。中心は、data・software・modelsなどのforecasting infrastructure、MPCの意思決定を支えるrisk・uncertainty・structural changeの扱い、public communicationの三領域です。
Bankは12項目すべてへのactionを表明しました。2026年1月のForecast Evaluation Reportでは、2015~2025年などの比較でBank forecastsはaverage external forecastersや複数のmodel-based alternativesと比べてat least as accurateだったと報告しています。一方、近年のinflationとwage growthのforecast errorsは unusually large and persistent でした。
この結果では、中央銀行と民間の優劣は対象期間・指標・比較相手で変わります。
IMFの予測はどこまで使える?
2018年のrecession研究では、IMF forecastと民間予測の見逃し方がかなり似ていました。2025年のIMF Working Paperは150カ国超・10以上のmacroeconomic variablesを対象にWorld Economic Outlook forecastsを分析し、newsへのoverreactionが見られ、forecast horizonが長いほど強まる傾向を報告しています。
こちらもIMF Working Paperで、著者の研究です。国際機関の予測にも一定の癖と誤差があり、民間との比較でも優劣は時期や指標で変わります。
専門家でも予測を外す7つの理由
- COVID、戦争、災害、金融危機など事前に知りにくい大ショック
- 平常時から景気後退へ入る転換点
- 極端な動きを十分大きく予測しにくい平均回帰的な傾向
- 原油、為替、金利など前提条件の外れ
- 供給・労働・消費構造など経済構造そのものの変化
- forecast horizonが長くなること
- newsへの反応が遅い、または過剰になる情報処理の癖
予測誤差は、予測者の能力に加えて、予測時点で利用できた情報、前提条件、データ改定、構造変化にも左右されます。
「予測が外れた」と評価する前に見る3点
- どの時点の予測か:前年4月と当年10月では情報量が違う
- 何を前提にした予測か:金利、原油、為替などconditioning assumptionsを確認する
- 何を実績値としたか:GDP速報、二次QE、最新改定値で採点結果が変わる
同じ「外れた」という言葉でも、前提条件が外れた場合と、前提がほぼ合っていたのにモデル関係が外れた場合では意味が違います。
経済予測は一点ではなく「幅」で読む
Federal ReserveのJuly 2026 Monetary Policy Reportは、2006~2025年夏のvarious private and government forecastersの過去のprojection errorsから、歴史的な誤差レンジを示しています。出所はFOMC参加者だけではなく、民間・政府を含む複数の予測者です。
| 指標 | 2026 | 2027 | 2028 |
|---|---|---|---|
| 実質GDP成長率 | ±1.7 | ±1.8 | ±2.2 |
| 失業率 | ±0.9 | ±1.4 | ±1.9 |
| 消費者物価 | ±1.0 | ±1.6 | ±1.4 |
| 短期金利 | ±0.7 | ±1.8 | ±2.3 |
単位は%ポイントです。一定の仮定の下では、こうしたhistorical error rangeから作る範囲にactual outcomesが約70%の確率で入ると説明されています。たとえばGDP成長率を3%とprojectした場合、current yearは1.3~4.7%、second yearは1.2~4.8%、third yearは0.8~5.2%という幅になります。
現在の経済環境が過去20年平均と大きく違う場合、このhistorical intervalにもずれが生じます。幅そのものにも前提があるという読み方が必要です。
2026年の日銀予測もこれから答え合わせ
日本銀行のJuly 2026 Outlookでは、Policy Board Membersの中央値で実質GDP成長率をFY2026 +0.6%、FY2027 +0.8%、FY2028 +0.8%、CPI(除く生鮮)をFY2026 +2.5%、FY2027 +2.4%、FY2028 +2.0%と見込んでいます。
これは2026年7月時点の予測です。今後の成長率、物価、金利環境がどう推移したかによって、数年後に同じ基準で実績と比較できます。現在の日本銀行の金融政策や、円安と物価の関係を見る際にも、見通しと実績を分けることが重要です。
経済予測にできること・できないこと
実績を並べると、政府、中央銀行、民間の優劣は時期や指標で変わります。平常時の短期予測には情報価値があり、期間が長くなるほど誤差が増え、景気後退、金融危機、パンデミック、急激なインフレなどの転換点で弱さが目立ちます。
予測は、条件付きで政策や市場の経路を比較し、リスクの幅を可視化し、外れた後にモデルとデータのどこを直すか判断するためにも使われます。経済学の実用性を制度設計、政策評価、資源配分、金融市場の分析まで広げると、予測以外の役割も見えてきます。具体例はノーベル経済学賞は何の役に立った?で紹介しています。
