【開催レポート】文系でも楽しめる数学体験館へ|秋山仁さんの展示と球充填問題を体験

東京理科大学神楽坂キャンパスにある秋山仁の数学体験館入口 イベント
秋山仁の数学体験館入口。館内は撮影禁止のため、外観写真を掲載しています。

2026年7月11日(土)14時から、東京理科大学神楽坂キャンパスにある数学体験館で、ゆる歴史散歩会の見学イベントを開催しました。参加者は19名。数学が得意な人、苦手な人、好きな人、嫌いな人まで、さまざまな参加者が集まり、実際に展示へ触れながら数学の面白さを体験しました。

館内は写真撮影禁止のため、この記事では外観写真のみを掲載しています。ただし、展示は見るだけではなく、動かす、転がす、組み立てる、比べるといった体験型のものが多く、数式だけでは分かりにくい内容を直感的に理解できました。東京理科大学の学生が各展示を丁寧に解説してくれたこともあり、難しい理論を身近に感じられる見学になりました。

新宿区神楽坂にある数学体験館

数学体験館は、東京理科大学神楽坂キャンパスの近代科学資料館地下1階にある体験型施設です。東京理科大学栄誉教授の数学者・秋山仁さんの指導のもと、2013年に開館しました。子どもから大人まで、数学を「見て、触れて、試して、納得する」ことを目的とした展示が並んでいます。

館内は「数学体験プラーザ」「数学工房」「数学授業アーカイブス兼サロン」の3つのエリアで構成されています。特に数学体験プラーザには、曲線、図形、立体、確率、最適化などを題材にした模型や装置があり、学校で学んだ知識が実際の現象とどうつながるのかを確かめられます。

今回は東京理科大学の学生が展示ごとに説明してくれました。専門用語を並べるだけではなく、装置を動かしながら「なぜこうなるのか」を順序立てて教えてくれたため、とても分かりやすかったです。学生時代に勉強した内容が登場すると、「懐かしい」「こんな仕組みだったのか」と参加者同士の会話も弾みました。

東京理科大学の歴史と『坊っちゃん』

東京理科大学の前身は、1881年に創設された東京物理学講習所です。若い理学士たちが「理学の普及」を目指して設立し、1883年に東京物理学校へ改称しました。明治期の日本で自然科学教育を広げる重要な役割を担った学校です。

1906年には、牛込神楽坂に東京物理学校の木造校舎が完成しました。現在の近代科学資料館は、その旧校舎の外観を復元した鉄筋コンクリート造の建物です。往時の雰囲気を残す正面外観の地下1階に、今回訪れた数学体験館があります。

1906年に建設された旧東京物理学校木造校舎の外観を復元した近代科学資料館
旧東京物理学校の木造校舎外観を復元した近代科学資料館。地下1階に数学体験館があります。

東京物理学校は夏目漱石の小説『坊っちゃん』とも関わりがあります。東京理科大学の沿革では、三代目校長の中村恭平が夏目漱石と親交を持ち、『坊っちゃん』の主人公が物理学校出身として描かれた背景にも、その関係があると紹介されています。文学作品の主人公が学んだ学校のモデルと、現在の東京理科大学の歴史が神楽坂でつながっている点も興味深いところです。

秋山仁さんが形にした「見える数学」

秋山仁さんは、テレビや一般向け講演などを通じて数学の魅力を広く伝えてきた数学者です。以前から名前を知っている参加者が多い一方、若い世代には馴染みが薄いという声もありました。

近年はNHK・Eテレ「3か月でマスターする 数学」に出演し、数学教育者の横山明日希さん、教育系YouTuberのヨビノリたくみさんとともに、中学校数学を中心としたテーマを分かりやすく解説しました。歴史的背景や生活とのつながりを交えながら数学を捉え直す番組で、数学体験館の展示思想にも通じる内容です。

秋山さんが大切にしてきたのは、数式だけでは伝わりにくい数学の美しさを、模型や装置を通して目に見える形にすることです。実際に展示を体験すると、難しい定理が「なぜそうなるのか」を手や目で確かめられます。数学を暗記科目ではなく、発見する学問として感じられる空間でした。

今回楽しんだ展示

サイクロイド曲線

サイクロイド曲線は、円が直線上を滑らずに転がるとき、円周上の一点が描く軌跡です。教科書では式や図で見ることが多い曲線ですが、実際にボールを転がす装置を使うと、その性質を直感的に理解できます。

見た目には遠回りに見える曲線でも、条件によっては直線より早く到達することがあります。参加者は、どのコースを通ったボールが先に着くかを予想しながら実験し、結果を見て驚いていました。

カテナリ曲線

懸垂線けんすいせんとも呼ばれるカテナリ曲線は、両端を固定した鎖やひもが自重で垂れ下がったときにできる曲線です。一見すると放物線に似ていますが、数学的には異なる性質を持ちます。

建築や橋の形にも関係する曲線であり、実物の鎖や模型を通じて見ると、身近な構造物と数学のつながりがよく分かりました。公式だけでは難しく感じる内容も、実際の形として見ると理解しやすくなります。

学生の解説で難しい理論が身近に

展示には難しい理論も多く含まれていましたが、東京理科大学の学生が、それぞれの装置を動かしながら解説してくれました。数学が得意な人だけでなく、苦手意識のある人も、まず触って結果を見ることで自然に内容へ入っていけます。

イベントは約1時間半でしたが、終了後も参加者は各自で館内を回り、気になった展示を試していました。限られた時間で一通り見るだけでは足りないほど内容が充実しており、何度訪れても新しい発見がある施設です。

球充填(細密収納)問題とは

今回、主催者にとって特に新しい学びになったのが「球充填問題」です。これは、同じ大きさの球を重ならないように空間へ詰めるとき、どのような配置が最も多く詰められるかを考える問題です。八百屋でオレンジを積む場面を想像すると分かりやすいでしょう。

3次元空間では、オレンジをずらしながら積み重ねるような配置が非常に高密度になることが知られています。しかし数学者は、さらに4次元、8次元、24次元といった高次元空間でも、最も効率のよい配置を探してきました。

2022年にフィールズ賞を受賞したウクライナ出身の数学者マリナ・ヴィヤゾフスカ教授は、8次元空間において「E8格子」と呼ばれる非常に対称性の高い配置が最密充填であることを証明しました。さらに共同研究によって、24次元空間では「リーチ格子」が最適であることも証明されました。

球を詰めるという一見単純な問題が、高次元空間、対称性、数論、モジュラー形式へとつながっていく点が、この問題の奥深さです。ヴィヤゾフスカ教授の証明は、長年解けなかった問題に対して、非常に洗練された数学的手法を与えたことで高く評価されました。

数学体験館では、こうした最新の数学ニュースにもつながるテーマを、まず「ものをどう詰めるか」という身近な問いから理解できます。主催者も何度か訪れていましたが、今回初めて球充填問題を知り、新しい収穫になりました。

まとめ|数学は触ってみると面白い

今回の数学体験館見学では、数学を「問題を解く教科」としてではなく、「見て、触って、考える体験」として楽しめました。サイクロイド曲線やカテナリ曲線、球充填問題など、一見難しそうな内容も、実物の模型や装置を通して見ることで理解しやすくなります。

数学が得意な人には新しい見方があり、苦手な人には苦手意識をやわらげる入口があります。学生による丁寧な解説もあり、参加者からは、学生時代の内容が懐かしかった、実際に触ると面白かったという感想が聞かれました。

東京理科大学の歴史や、夏目漱石『坊っちゃん』とのつながり、旧東京物理学校校舎を復元した建物も含めて楽しめる、神楽坂ならではの知的な見学先です。

ゆる歴史散歩会では、東京周辺の歴史スポットや文化施設を、初心者にも分かりやすく巡る街歩き・見学イベントを開催しています。一人参加の方も多く、歴史や数学に詳しくない方でも気軽に参加しやすい雰囲気です。