CFAとは何か|ベンジャミン・グレアムから始まった金融プロ資格の歴史

1929年の株価大暴落後、ニューヨーク証券取引所前に集まる群衆

1963年6月15日、米国で最初のCFA試験が行われました。受験者は284人。米国内25会場と、英国へ向かう客船RMSクイーン・メリー号で実施され、船上では1人が受験しました。投資知識を共通試験と職業基準で確かめる制度が、ここから始まりました。

2018年にロングビーチで撮影された客船RMSクイーン・メリー
RMSクイーン・メリー(2018年)。撮影:Thcipriani/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。1963年の試験中を写した写真ではなく、保存船の現況写真です。

CFAは「金融のパスポート」と呼ばれることがあります。国際的な共通知識を示す資格であり、各国の金融業務免許とは別です。共通試験と倫理規範が必要とされた背景には、1929年の市場危機、ベンジャミン・グレアムとデイビッド・ドッドによる証券分析の体系化、専門職団体の形成がありました。

まず30秒でわかるCFA

CFAはChartered Financial Analystの略で、CFA Instituteが運営する投資分析・資産運用分野の国際的な専門資格・称号です。株式、債券さいけん、デリバティブ、オルタナティブ投資、企業分析、ポートフォリオ管理、経済、会計、定量分析、職業倫理を横断して学びます。

  • Level Iは基礎知識を理解し、説明する段階
  • Level IIは事例やデータを分析し、評価する段階
  • Level IIIは複数分野を統合し、運用方針へ適用する段階

CFAは各国法令上の業務独占資格とは別の、民間の専門資格です。投資助言、証券営業、ファンド運営などには別途免許・登録が必要で、採用や収入は職歴や実績にも左右されます。主な対象分野は、資産運用、株式・債券リサーチ、機関投資家、ポートフォリオ管理などです。

CFA以前、証券分析はどのような仕事だったのか

20世紀初頭にも、企業の決算、資産、配当、社債の返済能力を調べる投資家や銀行家はいました。しかし、企業情報の開示、会計基準、市場監督、分析教育は現在ほど標準化されず、相場観と企業価値を調べる証券分析の境界も職業制度として未確立でした。

証券分析しょうけんぶんせきとは、株式や債券などの発行体の財務状態、事業、経済環境、契約条件、リスクを調べ、価格が根拠に照らして妥当かを判断する仕事です。当時は、優れた実務を共有知識として教え、能力と倫理を評価する仕組みが未成熟でした。

1929年の大暴落と、市場の信頼を作り直す動き

1929年の株価大暴落と、その後の世界恐慌は、市場への信頼を大きく揺るがしました。米国では1933年証券法が証券の募集・販売に関する情報開示を整え、1934年証券取引所法が流通市場の監督枠組みを築き、同年に証券取引委員会(SEC)が設置されました。SECは投資家保護、公正で効率的な市場、資本形成を使命に掲げています。

制度改革で企業情報の開示と市場監督の土台が整いましたが、適切な投資判断には、数字を読み、前提を問い、顧客と自分の利益が衝突するときに行動を律する専門家が必要でした。世界恐慌はCFAの直接原因ではなく、情報開示・投資家保護・合理的分析・職業倫理を求める長期的な流れの背景となりました。

市場の熱狂と崩壊が制度をどう変えるかは、日本のバブル経済はなぜ生まれ、なぜ崩壊したのかでも別の時代の例としてたどれます。

ベンジャミン・グレアムと証券分析の体系化

ベンジャミン・グレアムとデイビッド・ドッドは、1920年代にコロンビア・ビジネス・スクールで、企業の資産、利益、財務状態を調べ、市場価格と本源的価値の差を考える方法を教えました。二人が1934年に共著した『Security Analysis』は、証券分析を調査と論証によって学べる専門技術として示した古典です。

1950年に撮影された投資家・証券分析家ベンジャミン・グレアムの肖像
ベンジャミン・グレアム、1950年。撮影者不詳/Wikimedia Commons/Public Domain。

グレアムは、公開情報から企業価値を検討し、市場価格との隔たりを論じる手続きを教育可能にしました。ドッドは講義内容の整理と著作の共同制作を担った共著者であり、証券分析の体系化は二人の仕事でした。

CFA Instituteの公式史は、専門能力を試験で認定する構想の源流をグレアムにたどっています。制度化には、各地のアナリスト協会、教育者、実務家が共通基準を合意し、運営組織を作る必要がありました。

証券アナリストを「専門職」にする

専門職には、共有する知識、教育、能力評価、継続的な基準、倫理規範が必要です。CFAは医師や弁護士のような法的業務独占資格とは異なり、共通知識と行動基準を持つ職業共同体を作る制度です。

CFA Instituteの公式年表によれば、1947年、米国の複数のアナリスト協会がNational Federation of Financial Analysts Societiesを形成しました。地域ごとに活動していた専門家が、教育と職業基準を共同で考える基盤です。1962年には資格認定を担うInstitute of Chartered Financial Analystsが設立され、翌年の試験へつながりました。

共通試験と職業共同体による行動基準の導入により、証券アナリストは経験を自己申告する仕事から、知識と行動を第三者に評価される専門職へ移行しました。

1963年、最初のCFA試験

1963年6月15日の第1回試験には284人が参加し、米国内25会場とRMSクイーン・メリー号上で実施されました。初期の受験者は、すでに実務経験を持つ投資専門家が中心でした。その後、段階別試験やカリキュラムが整備されました。

試験は、企業分析、経済、会計、資産評価、運用、倫理について共有すべき範囲を示し、専門能力を第三者が評価する仕組みを作りました。

なぜCFAは倫理を重視するのか

CFA制度の特徴は、金融知識の広さだけでなく倫理を中心に置くことです。公式史では1969年に最初のStandards of Professional Conductが採択されました。現在のCode of Ethics and Standards of Professional Conductも、専門職としての誠実性、顧客への忠実義務、調査の合理的根拠、利益相反の開示、市場の公正性などを求めています。

金融では、専門家と顧客の間に知識差があります。専門家は他人の資産を扱い、未公表情報に接し、推奨によって価格や取引へ影響を与え得ます。この情報の非対称性じょうほうのひたいしょうせいが、職業倫理を必要とする理由です。

  • 顧客より自社に有利な商品を勧めるなら、顧客への忠実義務が問われます。
  • 未公表の重要情報を使って取引すれば、市場の公正性を損ないます。
  • 自分が保有する銘柄を隠して推奨すれば、利益相反りえきそうはんの不開示に当たります。
  • 良い運用成績だけを選んで見せれば、実績表示が誤解を招きます。
  • 他人の分析を自分の成果として発表すれば、盗用に当たります。
  • 十分な調査根拠なしに推奨すれば、勤勉さと合理的根拠を欠きます。

職業倫理は、開示された情報を扱う専門家の行動を信頼できるものにする仕組みです。法律が最低線を示しても、複雑な利益相反や新技術の利用では、誰の利益を優先するかを専門家自身が判断する必要があります。

CFAはどのように世界資格へ広がったのか

金融市場が国境を越え、投資家が海外の企業や債券へ資金を配分するようになると、共通カリキュラムと英語による試験は国際的な比較可能性を持ちました。1987年にはシンガポールで北米外の協会が設立され、2004年には組織名がCFA Instituteとなりました。2021年には試験がコンピューター方式へ移行し、試験運営も世界規模の環境へ変化しました。

国際的に認知される資格と、各国法令に基づく免許は別です。CFAのカリキュラムや倫理基準は国をまたいで共有できますが、投資助言、金融商品の販売、ファンド運営、監査などには国・地域ごとの登録や資格が必要な場合があります。

現在のCFAでは何を学ぶのか

2026年7月確認のCFA Programは、3段階の試験と各LevelのPractical Skills Module(PSM)で構成されます。PSMは動画、演習、ケースなどを通じて実務技能を学ぶモジュールで、試験結果を受け取るには、各Levelで少なくとも一つを修了する必要があります。

段階中心となる力学び方のイメージ
Level I基礎知識の理解用語、計算、制度、分析の基本を説明する
Level II分析と評価企業や証券の事例・データを読み解く
Level III統合と適用顧客目的や制約を踏まえ運用方針へ結びつける

科目は倫理、定量分析、経済、財務諸表ざいむしょひょう分析、企業発行体、株式、債券、デリバティブ、オルタナティブ投資、ポートフォリオ管理です。Level IIIではポートフォリオ・マネジメント、プライベート・ウェルス、プライベート・マーケッツの専門パスがあります。PSMには金融モデリング、Python、データサイエンスとAI、アナリスト技能など、Levelと試験期に応じた実務テーマが用意されています。

難しさは高度な数学だけではなく、範囲の広さ、英語の長い事例、複数知識の統合、倫理判断にあります。CFA Instituteは、合格者が各Levelで平均300時間超を学習したと報告していますが、必要時間は経歴と英語力で変わります。

試験に合格しただけではCFAを名乗れない

受験登録条件と、正式なCFA charterholderになる条件は異なります。

Level Iへ登録する条件

2026年7月時点の公式条件では、学士号取得、一定の在学条件、または職歴と高等教育の組み合わせなど、複数の経路があります。職歴・教育の組み合わせを用いる経路では、4,000時間を最低3年間で積むという基準があります。この登録要件では、投資関連以外の職歴も対象です。

正式な称号を得る条件

  • Level I・II・IIIの試験を完了する
  • 各Levelで必要なPSMを修了する
  • 最低4,000時間を最低36か月で積んだ適格な実務経験を持つ
  • その仕事が投資判断に直接関わるか、判断を支える成果物を生み出す
  • 会員申請、推薦、倫理規範への遵守などを満たす

称号取得用の実務経験は受験前、受験中、合格後のいずれでも対象になり得ます。正式なCFA charterholderとなるのは、3試験の合格に加えて実務経験と会員要件を満たした後です。Level I合格者を「CFA Level 1」や「CFA資格者」と呼ぶのも不正確で、「CFA Program Level I合格」などと表現します。

難易度、合格率、費用はどの程度か

2026年7月にCFA Instituteの公式資料を確認したところ、2017~2026年の10年平均合格率はLevel Iが40%、Level IIが45%、Level IIIが51%です。各段階の受験者は同じ集団ではないため、三つの率を掛けた値は「最終合格確率」とは異なります。

2026年試験から、3段階の試験登録料合計は早期登録で3,520米ドル、通常登録で4,600米ドルです。現地税、再受験、日程変更、教材や予備校の費用は別途必要です。旧制度の一回限りの入会金は2026年料金では0ドルになっています。

どの仕事で評価されやすいのか

CFAの知識が直接結びつきやすいのは、資産運用会社、株式・債券リサーチ、ポートフォリオマネージャー、年金などの機関投資家、ウェルスマネジメント、プライベートマーケット、リスク管理です。企業価値評価、資産配分、運用実績の測定、顧客目的の整理といった仕事がカリキュラムに近いためです。

投資銀行でも評価材料になり得ますが、M&Aや資金調達では案件経験、会計、財務モデリング、法務理解、営業・交渉力も重要です。

日本ではCFAとCMAがなぜ並んでいるのか

日本では、国際的なCFAと、日本証券アナリスト協会のCMAが並んでいます。CFA Society Japanは1999年に発足しました。一方、日本のCMA制度は1977年に始まり、国内市場、企業分析、証券投資の専門教育を長く担ってきました。CIIAは各国の国内資格を土台に国際共通知識を認定する枠組みで、日本ではCMA資格者が受験対象となります。

英語で国際共通カリキュラムを学ぶCFA、日本語と日本市場の制度・実務に近いCMA、国内資格を基礎に国際認定へ進むCIIAでは、対象と経路が異なります。

1910年の資料に掲載された明治期の東京株式取引所の外観
明治期の東京株式取引所(1910年)。The Liberal News Agency/Wikimedia Commons/Public Domain。1878年の開業当日ではなく、1910年刊行資料に掲載された外観です。

制度史を場所から考えるなら、東京の兜町かぶとちょう茅場町かやばちょうが入口になります。東京株式取引所、銀行、証券会社、企業金融の集積を歩くと、分析専門職が必要になった市場の実体が見えてきます。背景は渋沢栄一が形づくった東京、現地案内は日本橋、日本のウォール街・兜町、八重洲の歴史散歩日本橋~茅場町~人形町の歴史を巡る夜散歩につながります。企業金融の担い手を広く見るには、財閥とは何かも参考になります。

CFA・CMA・CIIA・MBA・公認会計士・FPの違い

制度中心目的向く領域注意点
CFA投資対象の分析と資産運用運用、リサーチ、機関投資家各国の法的免許ではない
CMA日本市場を軸にした証券分析国内金融、企業分析CFAとの単純な上下関係ではない
CIIA国内資格を基礎に国際共通知識を認定国際的な分析業務日本ではCMA資格者が対象
MBA経営全般を体系的に学ぶ経営、事業、組織資格試験ではなく学位
公認会計士財務情報の監査と会計監査、会計、保証業務法定監査を担う国家資格
FP個人・家庭の生活設計支援家計、保険、税、相続機関投資家向け分析とは目的が違う

違いは難易度の序列ではなく、誰のために何を判断・支援するかです。公認会計士は財務情報を監査し、CFAは投資対象として企業を評価します。MBAは経営全般を学ぶ学位で、FPは家庭の生活設計を支援します。

「金融のパスポート」という説明はどこまで正しいか

国際共通カリキュラム、英語試験、共通の倫理基準、各地の会員ネットワークという意味で、「金融のパスポート」は分かりやすい比喩です。国を越えて知識基盤を説明し、専門家同士が同じ概念で話す助けになります。

CFAは採用や業務権限を保証せず、各国の投資助言、証券営業、ファンド運営などの規制業務には別の免許・登録が必要な場合があります。国際的な共通言語として機能しますが、法的な業務権限は各国の免許・登録で定まります。

AI時代にもCFAは必要なのか

AIは、財務データの収集、文書要約、モデル作成、銘柄スクリーニングを高速化しています。CFA ProgramもPython、データサイエンス、AIを含む実務モジュールを取り入れ、分析手段の変化へ対応しています。手作業で数字を集める能力だけの価値は相対的に下がる可能性があります。

AIの出力でも、入力情報の信頼性、モデルの前提、顧客目的、利益相反、説明責任の検証が必要です。分析が高速化するほど、結果を検証し、誰の利益を優先するかを判断する職業倫理の役割は残ります。

よくある質問

CFAは日本語で受験できますか

いいえ。CFA Programの試験は英語です。金融英語だけでなく、長い事例を時間内に読む力が必要です。

大学を卒業していなくても受験できますか

可能な経路があります。在学条件、または職歴と教育の組み合わせなど、登録時点の公式要件を満たす必要があります。

金融業界で働いていなくてもLevel Iを受験できますか

登録要件の経路を満たせば可能です。登録要件では、投資関連以外の職歴も対象です。ただし、称号取得には投資判断に関係する適格実務経験が必要です。

Level I合格だけでCFAを名乗れますか

正式な称号は、全試験、実務経験、会員要件を満たした後に用います。Level I合格者は「CFA Program Level I合格」などと表現します。

CFAは国家資格ですか

CFA Instituteが運営する民間の国際的専門資格・称号です。各国の免許・登録とは別の制度です。

CFAと日本のCMAはどちらが上ですか

国際共通性、言語、日本市場との近さ、目指す職種で選びます。

英語力はどの程度必要ですか

試験は英語で、専門用語と事例文を正確に読む必要があります。受験条件は英語試験スコアではなく、学歴・在学条件・職歴などで定められます。

働きながら取得できますか

多くの受験者が仕事と両立しますが、各Levelで平均300時間超という合格者報告もあり、複数年の計画が現実的です。

投資銀行に入るために必須ですか

職種によっては評価材料になります。採用では、案件経験、会計、モデリング、営業・交渉力なども重視されます。

取得後も会費や倫理上の義務がありますか

会員資格を維持するための会費があり、倫理規範と職業行為基準への遵守が求められます。金額は地域や会員区分で変わるため、申請時の公式表示を確認します。

まとめ

CFAは、証券分析の体系化、専門職団体の形成、共通試験と倫理基準の整備を経て成立した国際的な専門資格・称号です。

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参考文献

  1. CFA Institute, “History”
  2. CFA Institute, “CFA Program Marks 60 Years”
  3. CFA Institute, “CFA Program”
  4. CFA Institute, “CFA Exam Dates and Fees”
  5. CFA Institute, “Exam Results and Pass Rates”
  6. CFA Institute, “CFA Program Curriculum”
  7. CFA Institute, “Practical Skills Modules”
  8. CFA Institute, “CFA Program Policies”
  9. CFA Institute, “How to Become a CFA Charterholder”
  10. CFA Institute, “Membership Application Resources”
  11. CFA Institute, “Code of Ethics and Standards of Professional Conduct”
  12. Columbia Business School, “History of Value Investing”
  13. U.S. Securities and Exchange Commission, “Statutes and Regulations”
  14. CFA Society Japan, “Who We Are”
  15. The Securities Analysts Association of Japan, “CMA Program”
  16. The Securities Analysts Association of Japan, “CIIA Program”