歌川広重 江戸のベストアングル|3大シリーズ・展示替え・見どころを解説

歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》The Met所蔵

東京国立博物館で2026年9月29日に始まる特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」は、歌川広重うたがわひろしげの風景画を、三つの代表シリーズを軸にたどる展覧会です。核となるのは、同館が新たに受贈した内山晋うちやますすむ旧蔵の浮世絵1,025点。東博では初となる本格的な広重展です。

最大の特徴は、《東海道五拾三次》《木曽海道六拾九次》《名所江戸百景》の三大シリーズを、会期を三期に分けてそれぞれ全点公開することです。訪れる時期によって主役が完全に入れ替わるため、どの期を見るかで展覧会の印象も変わります。

アイキャッチに使用している《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》はThe Metropolitan Museum of Art所蔵の別所蔵本です。本展出品作とは異なる個体です。

歌川広重「江戸のベストアングル」とは

広重は江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。四季、雨や雪、朝夕の光、人びとの往来を風景の中へ組み込み、場所の空気まで感じさせる名所絵で人気を得ました。東京国立博物館は、広重の魅力として天候や時刻の変化、人びとの姿、卓越した画面構成を挙げています。

本展の出発点は、2026年に同館が受贈した内山晋旧蔵の浮世絵1,025点です。内山は静岡県出身の収集家で、学生時代に故郷の江尻・清水湊を描いた広重作品を手にしたことから収集を始めました。のちにボストン美術館や大英博物館で浮世絵を見た経験を経て、広重を中心とする質の高いコレクションを築きました。

作品の美しさとともに、一人の収集家が何を見つめ、どのような作品を残したのかまで視野に入る点が、本展を通常の名品展と異なるものにしています。

三大シリーズは会期ごとに完全入れ替え

三大シリーズは同時には並びません。会期中に全作品が二度入れ替わり、各期の主役が変わります。

展示期期間全点公開されるシリーズ見方の軸
1期9月29日~10月25日東海道五拾三次街道、旅、宿場
2期10月27日~11月23日木曽海道六拾九次山間の街道、季節、旅人
3期11月25日~12月20日名所江戸百景江戸の都市景観、大胆な構図

三期を通して鑑賞すると、旅の風景から江戸の都市景観へ、広重の画面づくりがどう変化したかを比較できます。東京国立博物館は三期を回れる一般観覧券3枚セットも用意しています。

1期|《東海道五拾三次》は旅の時間を描く

1期の中心は《東海道五拾三次とうかいどうごじゅうさんつぎ》です。江戸の日本橋から京都へ続く東海道を題材に、宿場、川越え、峠、海辺、雪や雨を描きます。名所の姿だけでなく、荷を担ぐ人、旅人、駕籠、茶屋などを配し、道を移動する身体感覚を画面へ持ち込んだシリーズです。

広重は晴天の絶景に加え、雨、雪、薄明、風といった一瞬の条件も風景の主役にしました。宿場を順番に追うと、江戸から京都へ進む距離と季節の変化が一つの旅として立ち上がります。

2期|《木曽海道六拾九次》で山の街道を見る

2期の《木曽海道六拾九次きそかいどうろくじゅうきゅうつぎ》は、中山道の宿場をたどるシリーズです。渓谷、山道、木曽路の集落など、東海道とは異なる地形が前面に出ます。旅人の小さな姿と大きな自然を対比させた画面も多く、街道そのものの厳しさや静けさが伝わります。

東海道と中山道を続けて見ると、広重が同じ「街道」を一つの型で描いていないことが分かります。海辺と山間、平地と峠、開けた眺望と閉じた谷筋。その土地の条件に合わせて視点を変えています。

3期|《名所江戸百景》で現在の東京とつながる

3期の《名所江戸百景めいしょえどひゃっけい》は、晩年の広重が江戸の名所を描いた大作です。近景の物を画面いっぱいに置き、その向こうに名所を見せる大胆な構図や、縦長画面を生かした高低差が特徴です。

代表作《大はしあたけの夕立》では、雨脚を斜線で刻み、橋を急ぐ人びとを一瞬の天候の中に捉えます。描かれた新大橋は現在の橋と位置が異なります。ゆる歴史散歩会の清澄白河から人形町への散歩記事では、旧新大橋跡と《大はしあたけの夕立》の場所を現在の隅田川沿いから紹介しています。

作品の場所を現在の東京へ重ねられることが、《名所江戸百景》の大きな魅力です。橋や川筋が変わっていても、隅田川、上野、浅草、日本橋など、地名と都市の骨格は今もつながっています。

広重を見る前に知りたい浮世絵の仕組み

浮世絵版画は、絵師が版下絵を描き、彫師が版木を彫り、摺師が色を重ね、版元が企画と販売を担う分業で生まれました。同じ図柄でも摺りの時期や保存状態によって色や細部が異なります。

広重を含む江戸の主要な浮世絵師をまとめて知るなら、東京都美術館の「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱」解説で、北斎、歌麿、写楽、国芳らとの違いを比較できます。

内山晋はなぜ広重を集めたのか

内山晋は1893年に静岡県で生まれました。東京国立博物館によると、学生時代に故郷の江尻・清水湊を描いた広重作品を購入し、浮世絵収集の入口となりました。海外で大規模な浮世絵コレクションを見た後、本格的に収集を進めます。

内山は美人画や役者絵より名所絵を好み、とりわけ広重の静かな抒情性に惹かれました。収集作品を出版や展覧会で紹介し、浮世絵研究と普及にも関わりました。今回の受贈によって、そのコレクションが東京国立博物館でまとまって保存・公開されます。

開催情報・料金

展覧会名特別展 内山晋コレクション受贈記念「歌川広重 江戸のベストアングル」
会期2026年9月29日(火)~12月20日(日)
会場東京国立博物館 本館A室
開館時間9:30~17:00。金・土曜など一部日程は20:00まで
休館日月曜日、10月13日、11月24日、12月15日。例外開館日あり
一般料金1,500円(前売1,300円)
大学生500円。キャンパスメンバーズ会員校の学生は無料
障害者手帳等本人と介護者1名は無料。チケット購入・来館予約不要
事前予約不要。混雑時は入場待ちの場合あり

開館日や夜間開館には例外があります。来館日の詳細は東京国立博物館の公式ページで確認できます。

参考資料