【開催レポート】西新井大師で年末詣で|大師線・山門・塩地蔵を巡る足立区歴史散歩

迎春の額が掲げられた西新井大師山門

2023年12月30日、10名で東京都足立区の西新井大師を訪れ、年末詣でと周辺散策を行いました。東武大師線で大師前へ向かい、門前の参道から山門をくぐり、塩地蔵、鐘楼堂、大本堂など境内の見どころを巡る歴史散歩です。

年の瀬らしく境内では迎春のしつらえや露店の準備が進み、新年を迎える空気のなかで、寺の歴史と「西新井」という地名の由来にも触れながら歩きました。この記事では、当日の写真とともに、西新井大師の由緒や建築、境内で注目したい場所を紹介します。

今回のコース概要

西新井駅 → 東武大師線 → 大師前駅 → 門前参道 → 西新井大師山門 → 塩地蔵 → 鐘楼堂 → 大本堂 → 境内散策

西新井大師の最寄りは東武大師線の大師前駅です。大師線は西新井―大師前間を結ぶ短い路線で、現在の路線は1931年に「西板線」として開業しました。戦時中の休止を経て1947年に営業を再開し、現在も参詣の足として利用されています。

東武大師線の8000系車両と西新井駅ホーム
西新井駅から大師前駅へ向かう東武大師線。西新井大師への鉄道アクセスを担います。

大師前駅から門前参道へ

大師前駅を出ると、西新井大師の門前町へ入ります。駅名そのものが「西新井大師」の門前を示す名称で、寺と鉄道の結びつきが分かりやすい場所です。

西新井大師の門前参道を歩く参加者
大師前駅から西新井大師へ。門前の参道を歩いて向かいました。

この日は12月30日。参道には年末年始の参拝者を迎える準備が見られました。

西新井大師の歴史|弘法大師の開創伝承から現在まで

西新井大師の正式名称は五智山 遍照院 總持寺(ごちさん へんじょういん そうじじ)といい、現在は真言宗豊山派に属する寺院です。寺の公式案内と足立区の資料では、創建は平安時代初期の天長3年(826)と伝えられています。2026年には開創1200年を迎えました。

天長3年(826)に伝わる弘法大師と疫病退散の縁起

足立区が紹介する寺伝によれば、当時この地域で悪疫が流行していた際、弘法大師こうぼうだいし空海が当地に立ち寄ったとされます。空海は観音像と自身の像を彫り、観音像を本尊とし、自身の像を枯れ井戸に安置して祈祷したところ、井戸から清らかな水が湧き、悪疫がおさまったと伝えられています。村人たちはこれに感謝して堂を建て、弘法大師像と観音像をまつったことが、現在の總持寺の始まりとされています。

この由緒から、西新井大師は厄災消除を願う寺として信仰を集めるようになりました。現在も本尊として十一面観世音菩薩と弘法大師をまつり、厄除け祈願で広く知られています。公式サイトでは「関東厄除け三大師」の一つとされ、江戸時代から特に女性の厄除け祈願所として名を馳せたと紹介されています。

寺の縁起が「西新井」という地名にもつながる

創建伝承は、寺の歴史だけでなく地域名の由来にも結びついています。空海が祈祷した井戸が堂の西側にあったため、「西新井」という地名が生まれたと伝えられています。境内には現在も地名の由来とされる「加持の井戸」があり、寺の縁起と地域の歴史を結ぶ場所になっています。

つまり西新井大師は、地域にある一寺院というだけでなく、「西新井」という土地の名前そのものを説明する伝承を持つ存在です。門前町が形成され、のちに大師前駅や東武大師線が参詣の交通を担うようになったことを考えると、寺を中心に地域の景観や交通が形づくられてきたことが見えてきます。

江戸時代から残る文化財に見る寺の発展

長い歴史を伝える具体的な遺構の一つが山門です。足立区の文化財資料では、總持寺山門は江戸時代後期の建造物で、区指定有形文化財となっています。二階建ての楼門で、区内唯一の楼門であることも評価されています。上層中央には五智如来を安置していた須弥壇しゅみだんが残り、寺の格式を今に伝えます。

また、境内の三匝堂さんそうどうは足立区登録有形文化財で、区の文化財一覧では天保5年(1834)の創建と伝えられ、明治17年(1884)に改築された建物とされています。こうした江戸後期から明治期にかけての建造物が残ることで、平安時代の開創伝承だけではなく、近世以降に寺が発展してきた歴史もたどれます。

現在の大本堂と、現代まで続く厄除け信仰

現在の大本堂は昭和47年(1972)に落慶した建物です。境内には歴史的な山門や三匝堂と、昭和期に整備された大本堂などが共存しています。西新井大師の歴史は、創建当時の建物がそのまま残るという形ではなく、信仰を受け継ぎながら堂宇を整え、時代ごとの建築を重ねてきた歴史として見ることができます。

現在も護摩による厄除け祈願をはじめ、さまざまな祈願や年中行事が行われています。2026年に開創1200年を迎えた西新井大師は、弘法大師と疫病退散の伝承を起点に、江戸時代の厄除け信仰、門前町の形成、近代の鉄道による参詣、そして現在の祈願寺へと歴史をつないできました。今回の散歩でも、山門、加持の井戸、大本堂などを順に見ることで、その長い時間の重なりを現在の境内でたどることができます。

山門|彫刻にも注目したい足立区指定文化財

参道の正面に立つ山門は、江戸時代後期に建立された楼門です。足立区の指定有形文化財で、区内唯一の楼門とされています。左右には金剛力士像が立ち、建物には十二支、獅子頭、龍などの彫刻が施されています。

迎春の額が掲げられた西新井大師山門
江戸時代後期建立の西新井大師山門。年末らしく「迎春」の額が掲げられていました。

当日は門に「迎春」の額が掲げられ、年末らしい姿になっていました。軒下や木彫の細部まで見上げると、建築としての見どころが増えます。

塩地蔵|塩を供える独特の信仰

山門を入ってほど近い場所にある塩地蔵は、特にいぼ取りに霊験があると伝えられる地蔵です。

西新井大師の塩地蔵
境内の塩地蔵。いぼ取りに霊験があると伝えられています。

像の表面が白く見えるのは、参拝者が供える塩によるものです。壮大な建築だけでなく、こうした祈りの形が同じ境内に残っていることも見どころです。

鐘楼堂|大晦日に響く鐘

鐘楼堂は、年末という今回のテーマに特に合う場所でした。西新井大師では大晦日の深夜0時から、新年を迎える鐘の音が響きます。

西新井大師の鐘楼堂と参加者
境内の鐘楼堂。大晦日には新年を迎える鐘の音が響きます。

私たちが訪れたのはその前日の12月30日。翌日に迎える年越しの景色を想像できるタイミングでした。

境内の石造物や像を見ながら歩く

境内には、本堂や山門以外にも石造物、仏像、堂宇が点在しています。散歩では目立つ建物だけでなく、足元や建物の脇にある造形にも目を向けました。

西新井大師境内の石を支える童子像
境内を歩きながら、石造物や像など細部の意匠にも目を向けました。

公式の境内散策マップには、水洗い地蔵、大日如来像、三匝堂、四国八十八箇所お砂踏み霊場、弘法大師立像、十三重宝塔など、多数の見どころが示されています。

大本堂|十一面観音と弘法大師をまつる中心堂宇

境内の中心となる大本堂は、昭和47年(1972)に落慶した建物です。本尊の十一面観世音菩薩と弘法大師をまつっています。

五色幕が掛けられた西新井大師大本堂
西新井大師の大本堂。現在の本堂は昭和47年に落慶しました。

年末のこの日は五色の幕が掛けられ、新年を迎える準備が進んでいました。なお、西新井大師では12月30日・31日はお護摩祈願が休止となるため、参拝日によって行事や受付内容が異なります。

西新井大師の香炉を囲む参加者
大本堂前の香炉で、年末の参拝を行う参加者の様子。

「西新井」の地名は境内の井戸に由来する

足立区と寺の案内では、弘法大師が祈祷した井戸が堂の西側にあったことから「西新井」と呼ばれるようになったと伝えています。境内には現在も「加持の井戸」があり、公式境内案内でも地名の由来となった井戸として紹介されています。

寺の縁起に登場する井戸と方角が地域名の由来として語り継がれている点は、街歩きで知っておきたいポイントです。

境内を巡って分かる、西新井大師の広がり

本堂への参拝後も境内を歩きました。西新井大師には多数の仏像や小堂があり、庭や池、樹木の景観も含めて散策できます。

西新井大師境内の仏像と参加者
境内の諸仏を巡りながら、西新井大師の信仰と見どころをたどりました。

寺は「関東花の寺百か寺」の東京1番札所でもあり、牡丹を中心に、梅、桜、藤など四季の花が楽しめます。

西新井大師境内の池と庭園
西新井大師の境内には池や樹木もあり、参拝とあわせて散策を楽しめます。

年末詣でで見えた、新年を迎える寺の風景

散策の終盤には、境内に露店が並び、新年を迎える準備が着々と進んでいました。初詣の最盛期とは異なる、年末ならではの風景です。

年末の西新井大師境内に並ぶ露店と参加者
年末の境内には新年を迎える準備が進み、露店の間を歩きながら散策を締めくくりました。

イベント名には「参拝者数ランキング5位」とありますが、初詣の参拝者数や順位は集計媒体・年によって数字が異なるため、本記事では特定順位を史実として扱わず、多くの参拝者が訪れる寺院であることを押さえるにとどめます。

西新井大師を歩くときのポイント

大師前駅から門前参道を経て境内へ入り、山門の木彫、塩地蔵、鐘楼堂、加持の井戸、大本堂と、由緒の異なる見どころを順番に見ると理解しやすくなります。年末年始は通常期と参拝時間や祈願予定が異なり、正月は大変混雑します。寺には一般車用駐車場がないため、訪問前には公式サイトで最新情報をご覧ください。

TimeWalkで周辺の歴史スポットを探す

ゆる歴史散歩会のWebアプリ「TimeWalk」では、現在地や指定地点の近くにある歴史スポットを地図で探し、自分で歴史散歩を楽しめます。

現在地から歩ける史跡を地図で探す

まとめ

今回の年末詣では、西新井大師への参拝だけでなく、大師線、門前町、山門、塩地蔵、鐘楼堂、地名の由来となった井戸などを一続きに見て歩きました。新年直前の境内は、迎春の飾りや露店の準備が進み、普段とは違う季節感があります。

ゆる歴史散歩会では、地域の風景を見ながら、その土地の歴史や文化を初心者にも分かりやすく楽しめる街歩きを開催しています。

参考資料