国立印刷局東京工場を見学する前に|北区西ケ原で学ぶお札の製造と偽造防止技術

2026年9月10日13:40から、東京都北区西ケ原にある国立印刷局東京工場を見学します。東京工場は、私たちが日常的に使う日本銀行券を実際に製造している工場です。見学では、ガラス越しにお札の印刷現場を見ながら、製造工程や偽造防止技術を学べます。

お札はどこで作られ、誰が発行するのか。なぜ北区に国立印刷局の施設が集まり、現在の一万円札に北区と縁の深い渋沢栄一しぶさわ えいいちが描かれているのか。工場見学の前に知っておきたい背景をまとめます。

国立印刷局東京工場とは

国立印刷局東京工場は東京都北区西ケ原2-3-15にあり、日本銀行券、収入印紙、各種証券類を製造しています。官報、国会会議録、法律案、予算書、決算書などの国会用製品も扱う、社会の基盤を支える製造拠点です。

「お札を作る場所」と「お札を発行する場所」は役割が分かれています。日本銀行券を製造するのが国立印刷局で、国立印刷局から納入された銀行券を発行するのが日本銀行です。

東京工場の見学で見られるもの

通常の見学は約90分です。国立印刷局の業務を紹介する映像が約30分、2階の見学廊下からお札を印刷する作業場を見る時間が約20分、展示室で製造工程や偽造防止技術を学ぶ時間が約30分という構成です。

製造現場はガラス窓越しの見学です。展示室には体験装置があり、1億円の重さを体験しながら記念撮影できるコーナーも用意されています。生産状況によって機械が停止している場合もあります。

お札ができるまで

国立印刷局では、お札の用紙やインキ、原図、原版の作製から印刷、検査、仕上げまでを一貫して行っています。

用紙には、みつまたやアバカなどが使われます。紙料を網の上に薄く流してすき、すき入れを施して乾燥させた後、印刷に使う大きさに断裁します。

図柄の制作では、専門職員である工芸官が原図を描き、ビュランという彫刻刀で金属板に細かな点や線を刻んで原版を作ります。彩紋と呼ばれる複雑な幾何学模様にはコンピュータも使われます。

印刷工程では、裏面、表面の順に図柄を印刷し、ホログラムを貼付。記番号や印章を加え、断裁後に一枚ずつ検査します。合格したお札は枚数を確認し、1000枚ずつの束に仕上げられて日本銀行へ納入されます。

新しいお札の偽造防止技術

2024年7月3日に発行が始まった現在の一万円券、五千円券、千円券は「F券」と呼ばれます。一万円券の表面は渋沢栄一しぶさわ えいいち、五千円券は津田梅子、千円券は北里柴三郎きたさと しばさぶろうです。

F券には、肖像の周囲に細密な連続模様を表現する「高精細すき入れ」と、立体的な肖像が回転して見える3Dホログラムが採用されています。国立印刷局によると、この3D技術の銀行券への採用は世界初です。

ほかにも、触るとざらつきを感じる深凹版印刷、傾けると文字が現れる潜像模様、ピンク色の光沢が見えるパールインキ、カラーコピーでは再現しにくいマイクロ文字、紫外線で一部が発光する特殊発光インキなどが組み合わされています。

千円券の裏面には、葛飾北斎かつしか ほくさいの「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が使われています。券種ごとに図柄、寸法、識別マークの位置も変えられています。

日本で近代的な紙幣を作るまで

国立印刷局の始まりは1871年、大蔵省に設けられた紙幣司です。同年に紙幣寮へ改称されました。当時の日本では近代的な紙幣を大量に製造する技術が整っておらず、明治政府はドイツやアメリカへ紙幣製造を依頼していました。

国内で技術開発を進め、1877年には国産第1号の近代的な紙幣「国立銀行紙幣(新券)一円」を製造しました。紙幣の国産化には、印刷だけでなく用紙、インキ、原版、精密加工などの技術基盤が必要でした。

1883年には官報第1号を製造。1898年には大蔵省印刷局と内閣官報局が統合され、紙幣と政府刊行物を担う印刷機関として発展しました。2003年に現在の独立行政法人国立印刷局となっています。

北区は日本の近代製紙が育った場所

北区の王子・西ケ原周辺は、近代日本の製紙史を知るうえで重要な地域です。1875年、国立印刷局につながる抄紙局しょうしきょくが王子に設置され、翌1876年に操業を始めました。現在の国立印刷局王子工場につながる施設です。

同じ王子では、渋沢栄一しぶさわ えいいちらが設立を進めた抄紙会社も1870年代に近代的な洋紙生産を始めました。のちの王子製紙です。官営の紙幣用紙と民間の洋紙産業が近い地域で発展し、王子は日本の近代製紙を代表する土地になりました。

王子の製紙業と渋沢栄一の関係は、渋沢栄一が形づくった東京|日本橋・兜町・王子・飛鳥山の近代都市史で詳しく紹介しています。飛鳥山周辺の史跡は、王子・飛鳥山を歩く歴史散歩でもたどれます。

東京工場と王子工場の違い

北区には国立印刷局の「東京工場」と「王子工場」があります。今回見学する東京工場は西ケ原2丁目にあり、日本銀行券や収入印紙、官報などを製造しています。

王子工場は王子1丁目にあり、現在は郵便切手や各種証券類などを製造しています。1875年に設置された抄紙局の系譜を引くのはこちらの王子工場です。

東京工場の現在地につながる施設は1931年に落成した滝野川分室で、2014年に虎の門工場と滝野川工場を統合して現在の東京工場が設置されました。

2026年の東京工場見学|予約・受付・当日の条件

見学日 原則として毎週火曜日・木曜日(祝日、年末年始などを除く)
開始時間 10:00、13:40
所要時間 約90分
定員 1回40人
対象 原則小学生以上
料金 無料
予約 インターネットによる事前予約制。見学者全員の氏名・年齢・住所の登録が必要
13:40枠の来場時間 13:20~13:30
本人確認 高校生以上は、公式が指定する身分証明書の原本による本人確認があります
手荷物 受付で手荷物検査。見学時はビデオ視聴室内のロッカーを使用
途中退場 セキュリティ上、見学途中の退場は不可
撮影・録音 許可された場所以外は禁止
飲食・喫煙 見学中は一部を除き飲食不可。見学施設内に食事・喫煙場所はありません
移動 階段を使用する場所があります
案内 日本語のみ

13:40開始の見学では13:20~13:30の来場時間が指定されており、それ以前は待機場所がありません。受付では予約確認メールの代表者名・予約番号を確認できる画面または印刷物が必要です。

高校生以上は本人確認と手荷物検査があります。公式ページが例示する身分証明書には、マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、顔写真付き学生証、障害者手帳などがあります。コピーは対象外です。

国立印刷局はセキュリティ上、不特定多数を対象に参加者を募集する形態のツアー等を受け付けていません。見学者全員の氏名・年齢・住所は事前登録制です。

アクセスで間違えやすいのは入場門

東京工場の住所は東京都北区西ケ原2-3-15です。東京メトロ南北線西ケ原駅1番出口から徒歩約1分、JR京浜東北線上中里駅から徒歩約10分です。

工場見学の入場口は、花と森の東京病院側にある「南門」です。JR線路沿いの東門からは入場できません。自家用車、バイク、自転車での来場にも対応しておらず、事前許可を受けた団体バスのみ工場内の駐車場を利用できます。

見学前にお札を一枚見ておく

工場へ行く前に手元のお札を見ると、現場で確認したいポイントが具体的になります。肖像周辺の高精細すき入れ、角度で動いて見える3Dホログラム、指で触ったときの深凹版印刷、細かなマイクロ文字などは、製造工程と結びつけて見ると理解しやすい部分です。

王子駅近くの「お札と切手の博物館」では、歴代のお札や切手、印刷技術、偽造防止技術を体系的に見ることができます。以前訪れた様子は、旧古河庭園からお札と切手の博物館などを巡った記事に掲載しています。

西ケ原・王子の歴史を地図でたどる

国立印刷局の周辺には、飛鳥山、旧渋沢庭園、紙の博物館、お札と切手の博物館など、近代日本の紙・産業・金融史につながる場所が集まっています。王子の醸造試験所・飛鳥山・洋紙発祥の碑を巡った散歩記録では、王子の近代産業史を現地の史跡とともにたどれます。

TimeWalkは、現在地や指定地点の近くにある歴史スポットを地図で探せるWebアプリです。西ケ原・王子・飛鳥山周辺の予習や見学後の散歩に使えます。工場内部の見学は、国立印刷局が設定した見学ルートで行われます。

参考情報

※見学条件は2026年9月10日時点の国立印刷局公式情報をもとにしています。