東京カテドラル「オルガン・メディテーション」2026年11月予習ガイド|スペイン・イタリアからバッハへ

東京カテドラル聖マリア大聖堂の外観

東京カテドラル聖マリア大聖堂で、2026年11月13日に「オルガン・メディテーション」が開かれます。演奏はオルガニストの今村初子。曲目には、スペインのフランシスコ・コレア・デ・アラウホとパブロ・ブルーナ、イタリアのジローラモ・フレスコバルディ、ドイツのヨハン・セバスティアン・バッハが並びます。

4人の生年は1583年から1685年まで。17世紀前半のスペインとローマで発達した鍵盤音楽から、18世紀ドイツのコラール前奏曲へと時代を進むプログラムです。スペイン・オルガンの分割レジスター、カトリックのミサ、聖母マリアの連祷、ルター派コラールという異なる伝統が4曲に現れます。

2026年11月のオルガン・メディテーション

東京カテドラルの「オルガン・メディテーション」は、晩の祈りとオルガン音楽による瞑想の時間として一般に開かれている催しです。現在のマショーニ・オルガンが設置された2004年から続き、原則として1月と8月を除く毎月第2金曜日に開催されています。

項目内容
開催日2026年11月13日(金)
開場18:00
開演18:30
終演予定19:20
会場東京カテドラル聖マリア大聖堂
演奏今村初子
入場料無料
備考オルガンの維持と催しの支援のため献金を受け付けています
東京カテドラル聖マリア大聖堂 2026年11月オルガン・メディテーションの公式チラシ
2026年11月13日開催「オルガン・メディテーション」公式チラシ。演奏:今村初子。/東京カテドラル聖マリア大聖堂・カトリック関口教会

演奏曲は次の4曲です。

  • フランシスコ・コレア・デ・アラウホ《オルガン技法》より第53番「第2旋法による2声の高声部のためのティエント」
  • ジローラモ・フレスコバルディ《音楽の花束》「使徒のミサ」より「聖体奉挙のためのトッカータ」
  • ヨハン・セバスティアン・バッハ《いと高きところにいます神にのみ栄光あれ》BWV662
  • パブロ・ブルーナ「聖母マリアの連祷による第2旋法のティエント」

前回の2026年10月「オルガン・メディテーション」はバッハから19世紀、20世紀までを横断する選曲でした。11月は時代をさかのぼり、17世紀スペインとイタリアのオルガン文化を中心に据えています。

演奏者・今村初子

今村初子いまむら はつこは、ボストンのニューイングランド音楽院に留学し、スペイン政府の奨学金を得て国立サラマンカ大学、ダロッカ国際古楽アカデミー、北ドイツ国際オルガンアカデミーなどで研鑽を積んだオルガニストです。

東京カテドラルの公式案内によると、サラマンカ大聖堂で国際親善協会主催のオルガンリサイタルを3回行い、イタリアやアメリカでも演奏しています。ピストイア賞、ゲラルデスキ賞、白川賞、白川特別賞、岐阜市芸術文化奨励賞を受賞。現在は中部学院大学オルガニスト・同大学講師、日本基督教団金城教会オルガン講師を務めています。

2026年8月にはサラマンカホールの「オルガンウィーク2026」でミニコンサートに出演し、ユース向けオルガンワークショップの講師も担当しました。スペインでの研鑽歴を持つ演奏者が、コレア・デ・アラウホとブルーナというイベリア半島の作品を東京カテドラルで取り上げるプログラムです。

東京カテドラルのマショーニ・オルガン

東京カテドラル聖マリア大聖堂では、2004年にイタリアのマショーニ社製「Op.1165」が設置されました。信者席後方のバルコニーに置かれ、公式サイトはクリアな音色と大聖堂の豊かな残響を特徴として紹介しています。

このオルガンは伝統的なメカニカル式を基本とし、歴史的オルガン建造の伝統を踏まえて設計されました。典礼と演奏会の双方で使うことが想定されています。今回のプログラムでは、17世紀スペインのティエント、ローマの典礼用トッカータ、バッハのコラール前奏曲という異なる伝統の作品が同じ楽器で演奏されます。

クラシック音楽の時代区分や基本的なジャンルは、内部記事「クラシック音楽とは?」で詳しく紹介しています。

4人の作曲家を時代順に見る

4人を生年順に並べると、フレスコバルディとコレア・デ・アラウホがほぼ同世代で、ブルーナが約30年後、バッハがさらに70年余り後に生まれています。

作曲家生没年主な活動地今回の曲
ジローラモ・フレスコバルディ1583–1643フェラーラ、ローマ「聖体奉挙のためのトッカータ」
フランシスコ・コレア・デ・アラウホ1584–1654セビリア、ハエン、セゴビア第53番「第2旋法による2声の高声部のためのティエント」
パブロ・ブルーナ1611–1679ダロカ「聖母マリアの連祷による第2旋法のティエント」
ヨハン・セバスティアン・バッハ1685–1750アイゼナハ、アルンシュタット、ヴァイマル、ライプツィヒなど《いと高きところにいます神にのみ栄光あれ》BWV662

16世紀末から18世紀にかけての西洋音楽全体の流れは、「西洋音楽史まるわかりガイド」で時代順にたどれます。

ジローラモ・フレスコバルディ

ジローラモ・フレスコバルディは1583年、イタリアのフェラーラに生まれました。ルッツァスコ・ルッツァスキに学び、1608年にローマのサン・ピエトロ大聖堂のオルガニストとなります。トッカータ、リチェルカーレ、カンツォーナなど、17世紀鍵盤音楽の主要ジャンルで大きな影響を残しました。

1635年に刊行された《Fiori musicali(音楽の花束)》は、日曜日、使徒、聖母マリアの三つのミサを中心に構成されたオルガン曲集です。今回演奏される「聖体奉挙のためのトッカータ」は「使徒のミサ」に含まれます。

《音楽の花束》は後世のドイツにも伝わり、バッハは1714年に自ら筆写しました。今回のプログラムで並ぶフレスコバルディとバッハには、実際の受容史にも接点があります。

フランシスコ・コレア・デ・アラウホ

フランシスコ・コレア・デ・アラウホは1584年にセビリアで洗礼を受けたスペインのオルガニスト、作曲家、音楽理論家です。1599年にセビリアのサン・サルバドル教会のオルガニストとなり、のちにハエン大聖堂、セゴビア大聖堂で活動しました。

1626年、アルカラ・デ・エナーレスで《Facultad orgánica(オルガン技法)》を刊行しました。作品集と理論書を兼ねた大著で、ティエントを中心とする作品と、奏法や装飾、記譜法などの解説を収めています。今回の第53番は「Tiento de medio registro de dos tiples de segundo tono」です。

パブロ・ブルーナ

パブロ・ブルーナは1611年、スペイン北東部アラゴン地方のダロカに生まれました。生後間もなく視覚を失い、「ダロカの盲人」と呼ばれました。16歳だった1627年に故郷ダロカの教会のオルガニストとなり、1679年に亡くなるまでその職を務めました。

ダロカで活動を続けながら、17世紀スペインを代表するオルガニストとして名声を得ました。作品にはティエント、分割レジスターを生かす作品、聖歌旋律を基礎にした曲が残されています。

ヨハン・セバスティアン・バッハ

ヨハン・セバスティアン・バッハは1685年、ドイツのアイゼナハに生まれました。アルンシュタット、ミュールハウゼン、ヴァイマルでオルガニストを務め、北ドイツのオルガン音楽も学びながら、コラール前奏曲、前奏曲とフーガ、トリオ・ソナタなど多くのオルガン作品を残しました。

ヨハン・セバスティアン・バッハの肖像
ヨハン・セバスティアン・バッハ。エリアス・ゴットロープ・ハウスマン画、1748年。Public Domain/Wikimedia Commons

今回のBWV662は、晩年にまとめられた「18のコラール」BWV651–668に含まれるコラール前奏曲です。17世紀スペイン、イタリアの作品に続いて聴くと、同じ教会オルガンが地域ごとに異なる様式へ発展したことを具体的に比較できます。

コレア・デ・アラウホ《オルガン技法》第53番

第53番の原題は「Tiento de medio registro de dos tiples de segundo tono」。日本語にすると「第2旋法による、分割レジスターの二つの高声部のためのティエント」に近い意味です。

ティエントは、16世紀から17世紀のイベリア半島で発達した器楽ジャンルです。複数の声部が一つの主題を模倣しながら進む対位法を基礎にし、曲が進むにつれて細かな音型や装飾が広がります。

「medio registro」はスペインの歴史的オルガンに特徴的な分割レジスターを指します。一つの音栓(レジスター)を鍵盤の低音側と高音側に分け、同じ鍵盤上で左右の手に別の音色を割り当てられる仕組みです。「dos tiples」は二つの高声部を意味し、第53番では高音側の二声が目立つ音色で動き、低声部がそれを支えます。

分割点は多くの場合、中央のCとC♯の間に置かれました。第53番では、この仕組みを使って二つの高声部を低声部から音色の上でも分けます。

フレスコバルディ《音楽の花束》「聖体奉挙のためのトッカータ」

《音楽の花束》は1635年にヴェネツィアで刊行されたオルガン曲集で、「日曜日のミサ」「使徒のミサ」「聖母マリアのミサ」という三つの典礼的なまとまりを持ちます。今回の「Toccata per l’elevatione」は「使徒のミサ」の中に置かれています。

聖体奉挙は、カトリックのミサで聖別された聖体が掲げられる場面です。フレスコバルディの奉挙用トッカータは、速い技巧を前面に出すタイプのトッカータと異なり、持続する和音、半音階的な動き、不協和音から協和音への移行によって静かな緊張を作ります。

《音楽の花束》には、ミサの各場面で演奏するカンツォーナ、リチェルカーレ、トッカータなどが組み込まれています。

バッハ《いと高きところにいます神にのみ栄光あれ》BWV662

BWV662は、ドイツ語コラール「Allein Gott in der Höh sei Ehr」をもとにしたコラール前奏曲です。このコラールはラテン語典礼の「Gloria in excelsis Deo(いと高きところには神に栄光)」と結びつくドイツ語讃美歌で、16世紀にニコラウス・デキウスが整えた旋律と歌詞が広まりました。

作品はイ長調で、楽譜にはAdagioの指示があります。装飾されたコラール旋律がソプラノ声部に長く歌われ、その下で二つの内声と足鍵盤が独立して動きます。コラール旋律を単純に和音で支える形よりも、各声部の線を細かく聴き分けられる書法です。

フレスコバルディの曲がカトリックのミサに結びつく一方、BWV662はルター派のコラールを器楽化しています。宗派と地域は異なっても、礼拝で歌われる旋律をオルガン作品へ取り込む発想が両者を結んでいます。

パブロ・ブルーナ「聖母マリアの連祷による第2旋法のティエント」

原題は「Tiento de segundo tono por Gesolreut sobre la Letanía de la Virgen」。第2旋法を基礎に、聖母マリアの連祷に結びつく旋律を展開するオルガン曲です。

連祷は、呼びかけと応答を繰り返す祈りの形式です。ブルーナの作品では旋律素材が繰り返し現れ、その周囲に別の声部が重なります。反復される旋律を軸にしながら、音型や声部の組み合わせが変化していきます。

ブルーナはコレア・デ・アラウホより一世代若く、同じ17世紀スペインのオルガン文化を受け継ぎました。プログラムの冒頭と最後にスペイン作品が置かれるため、コレアの精密な分割鍵盤書法とブルーナの連祷に基づく展開を一夜の中で聴き比べられます。

ティエント、分割レジスター、聖体奉挙――今回出てくる7つの言葉

用語意味今回のプログラムとの関係
ティエント16~17世紀のイベリア半島で発達した対位法的な器楽ジャンルコレア・デ・アラウホ、ブルーナ
メディオ・レジストロ鍵盤の低音側と高音側で別のレジスターを使う分割奏法コレア第53番
ドス・ティプレススペイン語で「二つの高声部」コレア第53番
第2旋法近代の長調・短調以前に用いられた教会旋法・旋法体系の呼称コレア、ブルーナ
聖体奉挙カトリックのミサで聖別された聖体が掲げられる場面フレスコバルディ
コラール前奏曲ルター派の讃美歌旋律をもとにしたオルガン曲バッハ BWV662
連祷呼びかけと応答を反復する祈りの形式ブルーナ

「第2旋法」は、近代の長調・短調が定着する以前の旋法体系に属する呼称です。コレアとブルーナの作品名には、同じ「第2旋法」という語が現れます。

スペイン、ローマ、ドイツ――4曲をつなぐ礼拝とオルガン

コレア・デ・アラウホとブルーナのティエントは、スペインの歴史的オルガンが持つ分割鍵盤と旋法の文化から生まれました。フレスコバルディのトッカータはローマのカトリック典礼の中で演奏される音楽として書かれ、バッハのBWV662はルター派コラールの旋律をオルガン作品へ広げています。

同じ「教会のオルガン音楽」でも、スペインでは鍵盤を左右に分けて音色を対話させ、ローマではミサの特定場面に合わせて音楽を置き、ドイツでは会衆が歌うコラール旋律を多声的に展開しました。11月の4曲は、17世紀から18世紀にかけてヨーロッパ各地で育った三つの実践を一つのプログラムに集めています。

参考文献

  1. 東京カテドラル聖マリア大聖堂・カトリック関口教会「2026年11月オルガンメディテーション」
  2. 東京カテドラル聖マリア大聖堂・カトリック関口教会「オルガンメディテーション」
  3. カトリック東京大司教区「新パイプオルガン計画 ~スケジュール~」
  4. カトリック東京大司教区「新パイプオルガン計画 ~プレリュード~」
  5. サラマンカホール「オルガンウィーク2026 夏休み!子どもオルガン探検&ミニコンサート」
  6. サラマンカホール「オルガンウィーク2026 ユースのためのオルガンワークショップ」
  7. Treccani「Frescobaldi, Girolamo」
  8. CiNii Books「Fiori musicali : (1635)」
  9. Frederick Hammond「The Fiori Musicali of 1635」
  10. Biblioteca Nacional de España「Francisco Correa de Arauxo」
  11. Westfield Center「Correa de Arauxo, Facultad orgánica (1626)」
  12. Lexique musical de la Renaissance「Facultad Orgánica」
  13. Centro Nacional de Difusión Musical「Juan de la Rubia, órgano」
  14. Institución Fernando el Católico/Pedro Calahorra「Canto gregoriano alternado con versos para órgano」
  15. IMSLP「Tiento de secondo tono por gesolreut sobre la Letanía de la Virgen」
  16. Bach-Archiv Leipzig「Johann Sebastian Bach – A chronology」
  17. bwv.info「BWV 662 Allein Gott in der Höh sei Ehr」
  18. Bach Cantatas Website「Chorale Melody: Allein Gott in der Höh sei Ehr」