雅楽天神会とは?創立の歴史・雅楽の演目・定期演奏会を解説

京都御所の一般公開で演奏される雅楽の楽人たち

笙の柔らかな和音に、篳篥の強い旋律、龍笛の伸びやかな音が重なります。埼玉県川口市で活動する雅楽天神会ががくてんじんかいは、1979年に創立された民間の雅楽団体です。2026年11月5日(木)の第34回定期演奏会では、楽器の合奏を聴く管絃と、武具を用いて舞う「陪臚」を披露します。

雅楽天神会とは――1979年に川口で生まれた雅楽団体

雅楽天神会ががくてんじんかいは1979年、埼玉県川口市で創立されました。創立時には元宮内庁楽部楽長の安倍季昌氏を主任講師に招き、雅楽の普及と国際文化交流を活動の柱に据えました。

寺社の祭礼や祝賀会での演奏に加え、小・中・高校での雅楽教室、川口市内の音楽教員向け講習会、カルチャーセンターでの指導などを続けてきました。2000年にはイラン大使館で演奏し、2002年にはペルー共和国東京総領事館の独立記念日コンサートに出演。2006年には埼玉県の「文化ともしび賞」を受賞しました。

2012年の新聞記事では、当時の会長・大谷喜代治氏が、若い頃にロックやポップスを演奏し、その後、東京の小野雅楽会で雅楽を学んだ経歴を語っています。2026年の団体公式プロフィールには会長として大谷忠平氏が記されています。

現在も川口市を拠点に活動し、市外や東京都からも会員が参加しています。団体では楽器経験を問わず会員を募集し、無料体験や個人・グループ稽古も案内しています。

第34回定期演奏会――2026年11月5日の開催概要

第34回雅楽天神会ががくてんじんかい定期演奏会は、第80回記念川口市文化祭の参加行事です。改修を終えた川口総合文化センター・リリアの音楽ホールで開催されます。

項目内容
日時2026年11月5日(木)13:30開場・14:00開演
会場川口総合文化センター・リリア 山伸サステインホール(音楽ホール)
所在地埼玉県川口市川口3-1-1
アクセスJR川口駅西口から徒歩約1分
入場無料・事前申込不要
主催・演奏雅楽天神会

当日のプログラムは、管絃「黄鐘調音取」「拾翠楽」「西王楽破」「鳥急」、舞楽「陪臚」、終演の「太食調音取」「長慶子」の順です。雅楽天神会の公演案内と川口市文化祭の案内に開催情報が掲載されています。

管絃と舞楽――音を聴く雅楽、舞を見る雅楽

雅楽は、日本古来の歌舞と、大陸や朝鮮半島などから伝わった音楽・舞が日本で受け継がれ、宮廷文化の中で発展した伝統芸能です。演奏形式には器楽合奏の管絃かんげん、舞を伴う舞楽ぶがく、歌を中心とする歌謡があります。

管絃では笙しょうが幾つもの音を同時に響かせ、篳篥ひちりきが旋律を力強く奏でます。龍笛りゅうてきは広い音域を行き来し、琵琶や箏、鞨鼓かっこ、太鼓、鉦鼓しょうこなどが加わります。舞楽では舞人の動きと音楽が一体となり、装束や武具、舞の型にも目が向きます。

雅楽の歴史を古代からたどるには、関連記事「日本音楽史まるわかりガイド」が役立ちます。宮中に伝わる雅楽の公開演奏については「宮内庁の秋季雅楽演奏会」で紹介しています。

江戸時代の摺物に描かれた舞楽舞台の太鼓と笙、兜
舞楽の舞台に置かれた太鼓・笙・兜を描く江戸時代の摺物。柳々居辰斎作。メトロポリタン美術館蔵/Wikimedia Commons(CC0)。

2026年の管絃4曲――平安宮廷に伝わる旋律

黄鐘調音取――最初に響く音の輪郭

黄鐘調音取おうしきちょうのねとりは、雅楽の調子の一つである黄鐘調に入る前奏曲です。音取では各楽器が短い楽句を奏で、これから続く曲の音の世界を整えます。笙、篳篥、龍笛が順に加わり、異なる音色の輪郭が浮かび上がります。

拾翠楽――宮廷の祝宴と海辺の風景

拾翠楽じゅすいらくは、平安時代の宮廷行事と結びつく唐楽の曲です。仁明天皇の時代、大嘗会の祝宴で宮殿前に海浜を模した景観を設け、この曲が演奏されたという伝承があります。砂や石、草木、船を配した空間で音楽が奏されたとされ、宮廷の祝祭と音楽の関わりを伝えます。現在は管絃曲として演奏されます。

西王楽破――仁明天皇に結びつく曲

西王楽破さいおうらくのはは、仁明天皇が作曲し、犬上是成が舞を作ったと伝えられます。古くは序と破を持つ舞楽曲でしたが、現在は破の部分が管絃として伝わっています。曲名の「破」は、古典音楽の構成に用いられる「序・破・急」の一つです。

鳥急――極楽の鳥・迦陵頻に由来する曲

鳥急とりのきゅうの「鳥」は、仏教で極楽浄土に住むとされる迦陵頻かりょうびんに関わります。雅楽には鳥の姿を模した童舞「迦陵頻」も伝わりますが、第34回では鳥急が管絃の曲として並びます。黄鐘調に移された楽曲の系統として伝承されています。

舞楽「陪臚」――楯・鉾・太刀を手に舞う武舞

陪臚ばいろは、雅楽の舞楽に伝わる勇壮な武舞です。伝統的な形式では4人の舞人が楯たてと鉾ほこを持って登場し、途中で太刀を抜いて舞います。太刀を納めて武具を持ち直す所作まで、音楽の進行と結びついています。

起源は奈良時代の天平8年(736年)に渡来した僧・仏哲らが伝えた林邑楽りんゆうがくの系統とされています。林邑は現在のベトナム中南部に関わる歴史的な地名です。陪臚は右方の舞に分類され、裲襠装束りょうとうしょうぞくを用いる伝統があります。華やかな装束と武具の動きには、古代のアジア交流の記憶が残っています。

1984年に撮影された舞楽「林歌」の舞姿
舞楽「林歌」の舞姿(1984年)。写真:Mikomaid/Wikimedia Commons(CC BY 2.5)。

写真は舞楽「林歌」の例です。第34回で演じられる「陪臚」では、楯・鉾・太刀を使う武舞特有の動きが見どころとなります。2026年10月の國學院大學「観月祭」では、同じ「陪臚」が管絃で演奏されました。雅楽の舞を別の場で見る機会として、乃木神社「第五十二回管絃祭」の解説にも舞楽の演目が紹介されています。

終演の太食調音取と長慶子

舞楽の後は太食調音取たいしきちょうのねとりに続いて、長慶子ちょうげいしが演奏されます。長慶子は平安時代の音楽家・源博雅みなもとのひろまさの作と伝えられる曲です。

古くから参会者が退出する際の音楽「退出音声まかでおんじょう」として用いられ、現在も雅楽の演奏会を締めくくる曲として親しまれています。力強い武舞のあと、軽快な旋律へと移り、演奏会を結びます。

過去の定期演奏会――2024年・2025年の会場と2012年の演目

雅楽天神会ががくてんじんかいの定期演奏会は、川口市文化祭の参加行事として続いています。2024年から2026年までは、会場が毎回異なります。

回・開催日会場開場/開演
第32回・2024年10月10日(木)川口市立南平文化会館ホール17:30/18:00
第33回・2025年9月30日(火)川口市立西公民館13:30/14:00
第34回・2026年11月5日(木)川口リリア 山伸サステインホール13:30/14:00

第32回・第33回ともに入場無料で案内されました。川口リリアは2024年から大規模改修のため休館し、演奏会は市内の文化会館や公民館で行われました。2026年にはリニューアルしたリリアの音楽ホールへ戻ります。

さらに古い2012年9月の第27回演奏会では、管絃「拾翠楽」、舞楽「胡飲酒破」、インド舞踊との共演「菩薩序」が紹介されています。2026年のプログラムにも拾翠楽があり、同じ楽曲が時を隔てて再び演奏されることになります。

初めての雅楽鑑賞――音色と舞の違い

管絃の冒頭で流れる音取では、笙の重なり合う響き、篳篥の太い旋律、龍笛の高く抜ける音が少しずつ合奏を形づくります。舞楽の「陪臚」に入ると、音楽の拍と舞人の足運び、楯や太刀の所作が結びつき、舞台の印象が大きく変わります。最後の「長慶子」には、退出の音楽として受け継がれた軽やかな終幕の趣があります。

雅楽の保存・伝承を担う宮内庁式部職楽部の演奏は1955年に国の重要無形文化財に指定され、2009年には雅楽がユネスコ無形文化遺産の代表一覧表に記載されました。川口で開かれる雅楽天神会の無料公演も、古代から受け継がれた音楽に触れる機会となります。

関連資料・出典

画像資料:アイキャッチは京都御所での雅楽演奏(2013年、Miya.m/Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0)。本文の舞楽写真はMikomaid/Wikimedia Commons(CC BY 2.5)、摺物は柳々居辰斎作・メトロポリタン美術館蔵(CC0)。