体育館の天井近くを、学生が自ら設計・製作した飛行機が旋回します。別の機体は救援物資を狙った場所へ落とし、着陸して回収し、もう一度飛び立ちます。マルチコプターや飛行船も同じ会場に現れ、操縦者が手を離した状態で飛行する機体もあります。
「全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」は、日本航空宇宙学会が主催する学生向けの航空工学コンテストです。2026年の第22回大会には、全国の大学・専門学校・高専・高校から100を超えるチームがエントリーしています。
競技では、機体を軽く作る設計、安定して飛ばす操縦性、荷物を扱う機構、自律制御、チームで一つの機体を完成させる開発力までが評価されます。
全日本学生室内飛行ロボットコンテストとは
大会の目的は、学生が飛行ロボットの設計・製作を通して航空宇宙工学の知識を深め、プロジェクト遂行能力とチームワークを身につけることです。飛行ロボットの普及と実用化、日本の航空産業を担う人材育成も開催目的に掲げられています。
主催は一般社団法人日本航空宇宙学会。東京都大田区と特定非営利活動法人大田ビジネス創造協議会(OBK)が共催し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と一般社団法人日本UAS産業振興協議会が後援しています。
完成した機体は実際に体育館内を飛び、離陸、旋回、物資投下、回収、運搬、着陸などの課題に挑みます。設計した機体が本番環境でどこまで仕事をこなせるかが得点に結びつきます。
2006年、第1回は「床の文字を読み取る」競技だった
第1回大会は2006年1月15日、大田区産業プラザPiOで開催され、全国の大学・高専などから22チームが参加しました。
対象は重さ150グラム以下の飛行機、または長さ1.5メートル以下の飛行船。機体に超小型カメラを取り付け、展示ホールの床に置かれた紙の文字を読み取る競技でした。災害時の状況把握や自然環境観測などへの応用も開催当初から意識されていました。
2026年には、救援物資の投下・回収、貨物運搬、自動飛行、完全自律飛行などへ競技が広がっています。「室内を飛ぶ小型機を学生が自作し、実際の仕事を想定した課題に挑む」という核は、第1回から続いています。
飛行機・マルチコプター・飛行船が同じ大会に集まる
飛行ロボットには複数の形式があります。固定された翼で揚力を得る飛行機は長い距離を効率よく飛びやすく、複数のローターを回すマルチコプターは垂直離着陸や空中停止を得意とします。飛行船は浮力を利用して空中にとどまり、ハイブリッド機は複数の飛行方式を組み合わせます。

2026年の統合部門では、こうした異なる形式の自作機体が同じ部門に参加し、飛行性能、操縦性、自律性、ミッション遂行能力を総合して競います。
体育館という限られた空間では、低速で安定して旋回し、決められた場所へ物資を運び、最後に安全に帰還する能力が重要になります。
2026年は4部門|中心は「統合」と「完全自動」
2026年の第22回大会は、統合部門、完全自動部門、ユニークデザイン部門、ビギナー部門の4部門で行われます。
| 部門 | 主な内容 | 初めて見る人が分かりやすい点 |
|---|---|---|
| 統合部門 | 救援物資投下を中心に、宙返り、物資回収、貨物運搬、自動飛行など | 成功・失敗が目で分かりやすく、機体形式の違いも大きい |
| 完全自動部門 | 競技開始から着陸静止までハンズオフ。旋回、8の字、滑空、投下、着陸など | 自律制御だけでどこまで飛べるか |
| ユニークデザイン部門 | チーム自身が機体とミッションを考案 | 独創的な機体形式や課題が現れやすい |
| ビギナー部門 | 救援物資投下と、軽量構造、手放し飛行、宙返り、水平旋回など | 飛行ロボット競技の基本構造を追いやすい |
2025年までは一般部門、自動操縦部門、マルチコプター部門などに分かれていました。2026年は複数の機体形式を横断する統合部門へ再編され、自律飛行を専門に競う完全自動部門が独立しました。
救援物資を「落とす・拾う・運ぶ」
統合部門のメインミッションは救援物資の投下です。指定エリアへ向かい、搭載した物資を狙った場所へ投下します。その後、宙返り、物資回収、貨物運搬、自動飛行などのサブミッションに挑戦します。
無動力滑空では、プロペラなどの推進力を使わずに飛行を続けます。物資回収では投下した救援物資や高い場所に置かれた物資を回収し、貨物運搬では荷物を別の場所へ運びます。自動水平旋回や自動8の字飛行では、機体に搭載したセンサーと制御システムが飛行を担います。
同じ競技でも、翼の形、荷物をつかむ仕組み、投下装置、自動飛行の方法はチームごとに異なります。
完全自動部門は「離陸から着陸までハンズオフ」
完全自動部門では、競技開始から着陸して静止するまで、すべてハンズオフ飛行で行います。課題には水平旋回、8の字飛行、上昇旋回、無動力滑空、物資投下、着陸などがあります。
手動操縦なら、機体が傾いた瞬間に操縦者が修正できます。完全自動では、センサーから機体の状態を読み取り、制御プログラムが姿勢や飛行経路を修正し続けます。
2024→2025→2026で競技はどう変わったか
直近3大会では、自律飛行とミッション遂行能力を競技へ深く組み込む方向に制度が変化しています。
| 大会 | 主な部門・変化 |
|---|---|
| 2024年・第20回 | 一般・自動操縦・マルチコプター・ユニークデザインに加え、ビギナー部門を新設。一般部門1位は東京農工大学「Anteriore」 |
| 2025年・第21回 | 一般部門とビギナー部門にもハンズオフ飛行のミッションを導入。一般1位は「Narval」5990点、自動操縦1位は「2NAa」3040点、マルチコプター1位は「ベンゼン」4210点 |
| 2026年・第22回 | 統合・完全自動・ユニークデザイン・ビギナーの4部門へ再編。異なる機体形式を横断して飛行性能、操縦性、自律性、ミッション遂行能力を競う |
前年大会の結果から見る第22回大会の注目校
2026年は部門構成が変わるため、2025年の順位は各校の得意分野を知る参考にします。今年の順位予想とは切り分け、2025年大会で上位入賞や各種賞を獲得し、2026年にも統合部門へ出場する学校を中心に紹介します。2026年9月14日に公式エントリー一覧を再確認した時点で、統合部門には71チームが掲載されています。
東京農工大学|前年一般部門1・2位、複数部門で上位
東京農工大学は2025年一般部門で「Narval」が5990点で1位、「Gull⁻¹」が5575点で2位となりました。2023年は「Black Wing」、2024年は「Anteriore」、2025年は「Narval」が一般部門1位で、東京農工大学勢は3大会連続で一般部門を制しています。2025年は自動操縦部門「KsenosⅡ」も3000点で2位、マルチコプター部門「D-Anteriore」も3615点で2位でした。
審査員講評では「Narval」がANA賞(ベストパイロット賞)に選ばれ、自動水平旋回に加え、投下救援物資回収と高所物資回収を成功させた点が評価されています。ユニークデザイン部門の「Reincarnation」はハマ賞を受賞し、円筒状の主翼を回転させてマグヌス効果で揚力を得る機体として、安定飛行と宙返りが評価されました。「XMQ-1」はOBK賞を受賞し、大直径のメインローターと小直径ローターを組み合わせた安定飛行が評価されています。
2026年統合部門には「胡蝶蘭」「Papillon」「skyline-94」「天廻」「Volans」「Black balancer」「彩雲」がエントリーしています。
金沢工業大学|前年マルチコプター部門優勝
2025年マルチコプター部門では「ベンゼン」が4210点で1位でした。金沢工業大学の公式発表によると、決勝では高所物資運搬、大型物資運搬、8の字飛行、AutoFLIPなどを成功させています。自作フライトコントローラーやESCを機体中央に固定して軽量化し、フレームにはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用するなど、制御と構造の両面に特徴がありました。
2026年統合部門には「Air Hose One」「ベンゼン改」「ライト-O」がエントリーしています。「ベンゼン改」は前年優勝機「ベンゼン」と共通する名称を持ちます。
東京都立産業技術高等専門学校|前年自動操縦部門優勝
2025年自動操縦部門では「2NAa」が3040点で1位となり、東京農工大学「KsenosⅡ」の3000点を40点差で上回りました。一般部門の「Noah」も決勝へ進出しています。審査員講評では、飛行船型機「フカヒレ」の飛行の様子を想像しやすく伝えたポスターが宇推くりあ賞を受賞しました。
2026年統合部門には「Flying!フカヒレ」「16」「Seraph」「HOHOJIRO」「Mentai2」「なんでもいいしずく」がエントリーしています。前年の自動操縦部門王者を出し、2026年も複数機を投入する学校です。
東北大学|一般上位に加え、特徴的な機体設計で複数受賞
2025年一般部門では「Ɛï3༄(バタフライエフェクト)」が2895点、「C号」が2640点で、帰還機の順位では4位と5位に入りました。「Ɛï3༄」は主翼前方下面のM字形状の前翼によって高い機動性と縦安定性を実現した点が評価され、SUBARU賞を受賞しています。
ユニークデザイン部門の「ふらっぴんぐ・たん」は、6枚の翼を制御して通常飛行と羽ばたき飛行を安定して行った点が評価され、ボーイング・ジャパン賞を受賞しました。2026年統合部門には「神ヒコーキ」「[Alcyon]」「IBIS」がエントリーしています。
名古屋大学|順位以上に技術評価の高かった機体
2025年一般部門の「そらかぜ」は3800点、「偏り丸」は2600点を記録しました。両機は未帰還だったため、正式な順位では帰還機より下に位置します。一方、「そらかぜ」は大きな上反角と高アスペクト比主翼を備え、約20秒の無動力滑空を実現した点が評価され、エアバス・ジャパン賞を受賞しました。
「偏り丸」は左右非対称の機体に操縦アシストを実装し、宙返りと自動8の字飛行を披露した点が評価され、JUTM賞を受賞しています。2026年統合部門には「遥風」「対称丸」「うみさご」がエントリーしています。「偏り丸」と「対称丸」は名称上の対比も目を引きます。
東京海洋大学|前年一般部門3位
2025年一般部門では「トリフネ」が3485点で3位でした。一般部門の表彰台は1位・2位が東京農工大学、3位が東京海洋大学です。2026年統合部門には「YYKS」と「海風」がエントリーしています。
鳥取大学|前年自動操縦部門3位
2025年自動操縦部門では「T-sparrow」が975点で3位でした。2026年統合部門には「DUNE TD-03」「Reve」「ホ26」がエントリーしています。前年に自動操縦部門で表彰台に入った学校として補足しておきたい存在です。
9月20日の統合部門では、前年とは異なる競技形式の中で、これらの学校がどのような機体とミッション構成で挑むかも注目点になります。
初めて観戦するなら統合部門が流れを追いやすい
統合部門では、救援物資の投下、回収、貨物運搬、宙返り、自動飛行など、成功と失敗が視覚的に分かりやすい課題が続きます。2026年9月20日は10時から15時30分ごろまで統合部門の予定です。
11時30分から14時30分の約3時間だけ訪れる場合も統合部門の時間帯に入り、複数チームの飛行を比較できます。同じ競技構造を各チームが繰り返すため一定の反復はありますが、機体形式、ミッション選択、成功・失敗、飛行特性、回収機構などに差が出ます。14時30分退出の場合は、15時30分ごろ開始予定の閉会式・表彰式より前の退出になります。
2026年大会のタイムスケジュール
| 日 | 予定 |
|---|---|
| 9月19日(土) | 12:00開場、12:30競技開始予定、13:00ユニークデザイン部門、15:00完全自動部門、16:00ビギナー部門、17:00終了予定 |
| 9月20日(日) | 10:00開場・統合部門開始、15:30閉会式・表彰式、16:30終了予定 |
競技の進行によって時刻は前後する可能性があります。
9月20日の公式ライブ配信では、会場外からも統合部門と表彰式の進行を確認できます。
会場は蒲田駅から徒歩約2分
会場は日本工学院専門学校蒲田キャンパスの日本工学院アリーナ(東京都大田区西蒲田5-23-22)です。JR京浜東北線、東急池上線、東急多摩川線の蒲田駅西口から徒歩約2分です。
一般観覧は無料で、事前申込は不要です。当日会場で受け付けます。一般観客は競技時間中に入場できます。9月18日はチーム・観覧者とも入場不可です。
- 途中入場:競技時間中に可能
- 途中退出:公式案内に個別記載なし
- 座席・立ち見、満席時の扱い:公式案内に具体的な記載なし
- 写真・動画撮影:一般観覧者向けの具体的なルール記載なし
- 小学生・中高生などの年齢制限:公式案内に記載なし
- 上履き:2026年9月14日時点の公式観覧案内に持参指定なし
- 駐輪場:OBKが駐輪場なしと案内
蒲田周辺の通史は「蒲田はなぜ映画と工場と夜の街になったのか」で紹介しています。同日に街を歩く場合は「100年前、蒲田は『映画の都』だった」も参照できます。
大田区で始まり、大田区で続いてきた大会
第1回の会場は大田区産業プラザPiOでした。2026年の第22回は、同じ大田区の日本工学院アリーナで開かれます。大田区は羽田空港を擁し、現在の大会でも共催者として参加しています。
日本の航空技術の歩みは「日本の航空技術史|初飛行・YS-11・HondaJet・SpaceJetをわかりやすく解説」で時代を通して紹介しています。航空機の整備・製造現場については「ANA Blue Hangar Tour(機体工場見学)にいってきました!」も関連します。
まとめ
2006年の第1回は、150グラム以下の飛行機や飛行船にカメラを載せ、床の文字を読み取る競技から始まりました。2026年の第22回では、飛行機、マルチコプター、ハイブリッド機、飛行船が救援物資の投下・回収・運搬、自動飛行、完全自律飛行へ挑みます。
2026年大会は9月19日・20日に日本工学院アリーナで開催されます。9月20日の統合部門では、異なる機体形式と多様なミッションを長時間比較できます。

