吉祥寺駅から徒歩約10分の井の頭自然文化園は、日本の動物を中心に展示する都立施設です。園内には、長崎の《平和祈念像》を制作した北村西望のアトリエと実寸大石膏原型、童謡詩人・野口雨情が使った書斎「童心居」も残されています。
井の頭自然文化園は本園と分園に分かれている
井の頭恩賜公園内にある井の頭自然文化園は、動物園(本園)と水生物園(分園)の二つの区域に分かれています。本園にはリスの小径、ニホンカモシカなどの動物展示、資料館、彫刻園、童心居があります。分園では水生物館と水辺の鳥を見学できます。入園券は共通で、本園と分園の間は園外を徒歩約5分移動します。
公式案内によると、飼育動物約160種のうち約140種が日本産です。ツシマヤマネコの飼育研究やアマミトゲネズミの繁殖など、日本の野生動物の保全にも取り組んでいます。展示動物や公開状況は公式サイトで案内されています。
1942年開園――自然科学を学ぶ「文化園」の歴史
井の頭恩賜公園は1917年に開園しました。1934年に井の頭池の中之島に小動物園ができ、1936年には淡水魚を扱う水生物館が設けられました。1942年5月17日、「井の頭恩賜公園自然文化園」が開園します。上野動物園からキリン2頭が移り、自然科学の研究を目的とした資料館も設けられました。当時の「文化」には教養の意味があり、動物・植物・水生生物の観察を通じて自然科学を学ぶ施設として構想されました。
1943年、東京都制の発足に伴って「東京都井の頭自然文化園」となりました。同年、戦時下の猛獣処分でホッキョクグマ1頭、ツキノワグマ2頭、ラクダ3頭が処分されました。1945年1月から9月ごろまでは事実上の休園状態となりました。
戦後は1947年に水生物館が再開し、1951年には第1回野外彫刻展が開かれました。1954年には上野動物園からアジアゾウの「はな子」が移り、2016年に69歳で亡くなるまで親しまれました。北村西望は1953年にアトリエを建て、1958年に石膏原型など350点余りの作品とアトリエを寄贈しました。野口雨情の書斎「童心居」は1959年に移築されました。水辺の施設では1958年に日本初の水生植物園が完成し、1975年に新しい水生物館が開設、1997年に改修後の水生物館が再開しています。
動物園の見どころ――リスの小径と身近な野生動物
ニホンリスを間近に見る「リスの小径」
「リスの小径」は、ニホンリスが暮らす空間の中を来園者が歩く展示施設です。木を登る姿や地上で活動する様子を間近に観察できます。1985年に「リスの森構想」が始まり、1989年に小径の一部が完成、1992年に施設が完成しました。春には巣箱から顔を出す子リス、夏には樹上の巣づくり、秋にはクルミを地中に隠す行動、冬の繁殖期にはリス同士が追いかけ合う姿が見られます。リスへの給餌や接触は禁止されています。
日本の動物と希少種の保全
本園ではニホンカモシカなどの日本産動物を展示しています。2006年からツシマヤマネコの飼育を始め、2007年には一般公開を開始しました。アマミトゲネズミは2020年から飼育し、2023年に繁殖に成功、2025年から一般公開しています。野鳥の森・和鳥舎ではウグイス、メジロ、フクロウ、ハヤブサ、ヤマドリなどを展示しています。ヤマドリの雄には長い尾羽と目の周囲の赤い皮膚があります。
同じ展示区域では小笠原諸島固有の陸産貝類カタマイマイを展示しています。飼育個体の殻に識別番号を付け、近縁個体同士の繁殖を避けて遺伝的多様性を管理しています。2011年公開の「いきもの広場」は野生の生き物が集まる環境を整え、季節ごとの生物を観察する場所です。2021年には環境省から「希少種保全動植物園等」の認定を受けました。資料館1階にはネズミ類や特設展示があり、「こんにちはモルモット」はウェブ予約制のふれあいプログラムとして実施されています。
北村西望の彫刻園――長崎の平和祈念像が生まれた場所
本園の彫刻園には、長崎市の平和公園にある《平和祈念像》の実寸大石膏原型があります。北村西望は巨大な原型を制作するため、1953年に園内へ木造アトリエを建設しました。1954年に原型が完成し、1955年には長崎で青銅像が除幕されました。1958年、西望は原型を含む作品群とアトリエを東京都へ寄贈しました。
彫刻館A館には高さ9.7メートルの石膏原型があり、表面の加工跡や鋳造のための分割線を確認できます。B館には美術学校時代から戦前・戦中の作品、アトリエ館には制作に使われた建物と道具が残ります。園内では屋外を含め常時約200点の西望作品が展示されています。彫刻館A館・B館・アトリエ館の内部は撮影禁止で、屋外作品は撮影可能です。
西望は戦前に軍人の騎馬像や政治家の肖像を制作し、戦後に《平和祈念像》を手がけました。作品と経歴については「北村西望とは|生涯・代表作・平和祈念像」に詳しい記録があります。
野口雨情の書斎「童心居」――吉祥寺に残る童謡の記憶
童心居(どうしんきょ)は、『赤い靴』『しゃぼん玉』『七つの子』などを作詞した野口雨情の書斎です。雨情は1924年に吉祥寺へ移り住み、この書斎で創作を続けました。建物は1959年に雨情会から寄贈され、文化園へ移築されました。庭には水琴窟があります。公式の施設案内によると、室内は予約制の有料貸出施設としても利用されています。
雨情の生涯と童謡・民謡の作品については「野口雨情とは|童謡・民謡と吉祥寺の童心居」で扱っています。
水生物園――井の頭池の自然を学ぶ
分園の水生物館には日本の淡水魚、カエルなどの両生類、水生昆虫、水生植物を展示しています。水辺の鳥の展示ではオシドリ、ニホンコウノトリ、クロツラヘラサギ、ミゾゴイなどを観察できます。ミゾゴイは日本で繁殖する絶滅危惧種で、森林に暮らすサギの仲間です。
井の頭池では水を抜いて池底の泥や外来魚などに対処する「かいぼり」が行われてきました。文化園の年表には2013年、2015~2016年、2018年の実施記録があります。
入園料・無料開園日・アクセス
通常の開園時間は9時30分~17時、入園は16時までです。休園日は原則月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)と年末年始です。入園料は一般400円、中学生150円、65歳以上200円で、小学生以下と都内在住・在学の中学生は無料です。最新の運用は公式の開園時間・料金案内に掲載されています。
全員無料の開園日は5月4日(みどりの日)、5月17日(開園記念日)、10月1日(都民の日)です。開園記念日が月曜日の場合は翌5月18日が無料開園日となります。5月5日はすべての中学生が無料になります。首都圏の施設の無料日情報は東京無料日カレンダーにも掲載しています。公式年表によると、2018年には開園時間を3時間延長する「秋の夜長の自然文化園」が初開催されました。夜間公開は特別企画として開催され、日程と公開区域は実施年ごとの公式案内に掲載されます。
JR中央線・総武線、京王井の頭線「吉祥寺駅」公園口から徒歩約10分です。本園には正門と弁天門、分園には七井門があります。住所は東京都武蔵野市御殿山1-17-6。専用駐車場はありません。入口や本園・分園の間の経路は公式アクセス案内に掲載されています。
見学前によくある質問
本園と分園は同じ入園券で見られますか
はい。共通の入園券で見学できます。両区域の間は徒歩約5分で、他方の園への入園は16時までです。
平和祈念像の原型はどこにありますか
本園の彫刻館A館にあります。原型を制作した建物はアトリエ館として残っています。屋内は撮影禁止です。
無料開園日にも彫刻園や水生物園に入れますか
無料開園日も本園・分園の通常の展示を見学できます。施設ごとの公開時間は異なり、リスの小径・彫刻館A館・B館・アトリエ館・資料館への入場は通常16時30分まで、水生物館は16時45分までです。展示休止やイベントによる変更は公式案内に掲載されます。
参考資料・公式情報
- 井の頭自然文化園「井の頭自然文化園について」(施設の歴史・年表・飼育方針)
- 井の頭自然文化園「北村西望の彫刻園」(作品・原型・撮影ルール)
- 井の頭自然文化園「童心居」(野口雨情の書斎)
- 井の頭自然文化園「園内利用施設のご案内」(公開時間・水生物館)
- 井の頭自然文化園「野鳥の森・和鳥舎」(日本の野鳥・カタマイマイの展示)
- 井の頭自然文化園「水辺の鳥たち」(水鳥・ミゾゴイの展示)
- 井の頭自然文化園「開園時間・休園日・入園料」
- 井の頭自然文化園「交通アクセス」
- 東京動物園協会「ZOO IS THE PEACE――井の頭自然文化園と戦争の時代」

