板橋の象牙彫刻の歴史|櫻井實の根付と「招き猫」に残る細密彫刻の技術

板橋区の文化財マップには、職人の技術として「象牙彫刻」が掲載されています。平成16年度(2004年度)に区の登録無形文化財(工芸技術)となった技術で、保持者の一人として櫻井實(さくらい・みのる)の名前が知られています。板橋区立郷土資料館には、櫻井が制作した象牙彫刻「招き猫」が収蔵されています。

江戸時代の根付から発展した彫刻

江戸時代の着物には現代の洋服のようなポケットが少なく、煙草入れや印籠などの小物を帯から下げる習慣がありました。紐の先に付けて小物が抜け落ちるのを防ぐ留め具が「根付(ねつけ)」です。根付には木や角、象牙などが用いられ、小さな形の中に人物や動物などを彫り込む工芸が発達しました。

明治時代以降は身に着ける根付に加えて、置物や装身具としての細密彫刻も作られるようになりました。工芸としての象牙彫刻には、立体の形を整える技術と、表面に細かな模様を彫り込む技術の両方が必要です。

櫻井實が手掛けた根付・置物・能面

櫻井實は板橋区で活動した牙彫の職人で、根付や置物、アクセサリーなどの制作に携わりました。牙彫は象牙などを彫る工芸で、櫻井は手で彫刻刀を扱い、動物の毛並みのような細い線を表す「毛描き(けがき)」の技術に優れていました。

能面のように表情が重要な作品の制作でも高度な技能を発揮し、後進の指導にも携わりました。東京都は平成23年度(2011年度)、櫻井を東京都優秀技能者「東京マイスター」として表彰しています。表彰記録には桜井牙彫製作所(板橋区)に所属していたことも記されています。

郷土資料館に残る象牙彫刻「招き猫」

板橋区立郷土資料館の収蔵品には、櫻井實が平成時代に制作した象牙彫刻「招き猫」があります。招き猫は商売繁盛などを願って飾られる縁起物で、櫻井の作品では細かな毛並みを彫る技術が生かされています。

郷土資料館の資料目録には、制作した人物と時代が記載されています。手で彫った線の密度や動物の姿の表現は、当時の職人がどのような彫刻技術を持っていたかを伝える具体的な資料です。収蔵品の展示状況は企画展や収蔵展示によって変わります。

板橋の無形文化財と伝統工芸

板橋区が無形文化財として登録しているのは、制作された特定の置物だけでなく、その作品を作るために必要な職人の工芸技術です。近隣には染色や提灯の文字描きなどを伝える職人もいます。早川俊男と江戸手描提灯の歴史、江戸手描友禅と寺澤森秋の歴史で、板橋に受け継がれた異なる工芸技術を紹介しています。

参考資料