ニデック会計不正事件|世界No.1モーターメーカーで純資産1,607億円減、監査法人は「意見不表明」

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これは、世界No.1の総合モーターメーカーを名乗るニデックで、会計不正の修正により連結純資産が約1,607億円減る見込みとなり、監査法人が決算に意見を出せず、東証から特別注意銘柄に指定されるまでに至った物語です。

発端は中国子会社の約2億円の会計処理でした。ところが調査を広げると、在庫や固定資産の評価損の先送り、費用の資産計上、売上・収益の過大計上などが多数の拠点で見つかり、過年度修正による連結純資産への累計マイナス影響は約1,607億円に達する見込みとなりました。さらにPwCは2025年3月期決算に監査意見を出せず、東証はニデックを特別注意銘柄に指定しました。世界規模の上場メーカーで、決算の信頼性そのものが揺らいだことが、この事件が大きく報じられた理由です。

序章|世界企業へ成長したニデックで、数字への圧力と管理の弱さが重なった

ニデックは1973年に京都で創業し、精密小型モーターで世界市場を切り開きました。海外展開とM&Aを重ね、車載や家電・産業用まで事業を広げ、事件前には世界各地に多数の子会社を抱える大手モーターメーカーへ成長していました。

その成長を長く率いた創業者の永守重信氏は、各事業に高い業績目標を求め、短期間で結果を出す経営を徹底しました。第三者委員会は、これが次第に各事業の実力とかけ離れた「非現実的な業績目標」と強い達成圧力につながり、経理や内部監査も経営トップから独立して異論を出しにくい状態になったと認定しています。

一方、M&Aで増えた国内外の子会社では、経理体制や内部統制にばらつきが残り、本社との情報共有も十分ではありませんでした。利益目標を強く求める力に対して、それを止める仕組みが追いつかない。この状態が続くなか、2019年度から具体的な会計不正が社内で見つかり始めます。

京都市南区のニデック本社・中央開発技術研究所
ニデック本社・中央開発技術研究所(2012年)。撮影:J o/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0。

第1章|2019年度から、会計不正はすでに繰り返されていた

ニデックグループでは2019年度以降、棚卸資産や売上の過大計上、売掛金回収を目的とした発注水増し、固定資産実査結果の改変、循環取引など、複数の会計不正が社内で発覚していました。問題が見つかるたびに個別対応は行われましたが、同じ種類の不正を生む原因まで掘り下げる調査にはつながりませんでした。

内部監査部門は個別事件ごとに特別監査を行っていました。ところが第三者委員会によると、内部監査側は「本社からの強い業績プレッシャー」が不正の根本原因の一つだと認識しながら、そこへ切り込むことを避けていました。調査も決算日程を遅らせないことが優先され、別拠点へ調査範囲を広げるような深掘りは抑えられました。

さらに、不正事案の概要は監査役会や監査等委員会へ報告されても、業績プレッシャーが共通原因であることは十分に共有されませんでした。個々の不正は処理されても、次の不正を生む経営の仕組みが残ったため、同じグループ内で問題が繰り返されました。

第2章|1,662億円の「負の遺産」を、利益目標に合わせて処理した

2023年初め、ニデック本社は各事業・グループ会社に問題資産などの洗い出しを求めました。社内で「負の遺産」と呼ばれた申告額は、1回目が約476億円、2回目が約1,186億円、合計約1,662億円に達しました。

本来なら、資産価値が失われた時点や会計基準上必要な時点で処理する必要があります。ところが第三者委員会の報告では、2022年度の通期営業利益を1,000億円以上に保つ方針が先に置かれました。1,662億円を一度に処理すると目標を割り込むため、約566億円を2022年度第4四半期に処理し、残る約1,096億円は後年度に「自助努力」で処理する計画となりました。2022年度の営業利益は1,001億円でした。

第三者委員会は、会計基準に従って処理額や時期を決めるのではなく、業績目標から逆算して損失処理を振り分けた点を問題視しました。永守氏は「負の遺産」の処理後に業績がV字回復するストーリーとするよう指示し、2023年1月13日には処理を第4四半期に行うよう指示したと報告書に記載されています。

第3章|在庫・設備・費用・売上を動かし、利益をよく見せた

最終報告で認定された会計不正は一つの手口に限られません。国内外の多数の拠点で、棚卸資産の評価損回避、固定資産の減損回避、費用の資産計上、引当金・債務の過少計上、売上・収益の過大計上などが確認されました。

存在しない協力金で原価を減らす

中国のニデックテクノモータ(浙江)では、業績目標を達成するため、仕入先から合計1,000万元の特別協力金を得るよう購買担当へ指示した事例が認定されました。実際には合意が成立していない仕入先についても協力金が得られるように扱い、売上原価を減額しました。原価が下がれば、その分だけ利益は大きく見えます。

費用を先送りし、減損を避ける

標準原価差異では、業績目標を達成するために処理期間を通常より長くした事例が認定されました。本来その期に費用として出るコストを後へ送れば、現在の利益は増えます。固定資産の減損テストでも、実現可能性の低い売上計画を含めるなどして減損を回避した事例がありました。

第4章|創業者への権限集中で、経理も内部監査も止められなかった

第三者委員会は、今回の会計不正の第一の原因として「過度な業績プレッシャー」を挙げました。実力や事業環境と離れた非現実的な目標がトップダウンで設定され、達成へ向けた強い圧力が事業本部や子会社へ伝わっていました。その起点として報告書が名指ししたのが、創業者の永守重信ながもり しげのぶ氏です。

第三者委員会は、永守氏が今回発見された個々の会計不正を指示・主導した事実は確認していません。一方で、特命監査の報告を通じ、本来すぐ是正すべき会計不正を計画的に処理する例があることを把握しながら受け入れており、一部の会計不正を容認したと評価しました。さらに、高すぎる業績目標を求め続け、「負の遺産」を業績評価から切り離して処理する案も退けたことから、最終報告は「今般発覚した会計不正について最も責めを負うべきなのは、永守氏」と結論づけています。

経理部門も牽制役になり切れませんでした。CFOや経理部門まで業績達成の責任を負い、事業部門や子会社の経理が不正に関与しただけでなく、本社経理が関与した事例も見つかりました。過去に外部法律事務所が、子会社経理から本社経理への直接報告体制を提言していましたが、実現していませんでした。

内部監査部門は、会計不正が頻発する根本原因を業績プレッシャーだと認識しながら、その問題への追及を回避しました。常勤の監査等委員の一部も高すぎる業績目標が背景にあると理解していましたが、永守氏の経営スタイルを正面から疑問視することは難しいと考えていました。社外役員には「負の遺産」の実態や共通原因が十分に共有されず、監督機能が働くための情報そのものが不足していました。

M&Aを重ねて事業を拡大する一方、買収後のグループ会社の管理体制も統一されていませんでした。東証は、こうしたグループ管理の弱さと、経営トップの過度な業績プレッシャー、経理・内部監査・監査等委員会の牽制不全が重なり、長期間にわたる重大な内部管理体制の不備につながったと認定しています。

第5章|中国子会社の約2億円の疑義から全社調査へ、PwCは「意見不表明」

転機は2025年7月22日でした。中国子会社ニデックテクノモータ(浙江)で、仕入先から得るとされた約1,000万元(当時約2億円)の「購買一時金」をめぐる会計処理に疑義が浮上します。調査を進めると別の不適切処理を示す資料も見つかり、ニデックは9月3日に独立した第三者委員会を設置しました。調査対象は中国子会社の一案件からグループ全体へ広がりました。

その最中の9月26日、2025年3月期を監査したPwC Japan有限責任監査法人は、連結財務諸表について監査意見を表明しない「意見不表明」としました。内部統制監査も意見不表明です。

デロイト、PwC、EY、KPMGのBIG4四大会計事務所のロゴ
BIG4を構成するデロイト、PwC、EY、KPMGのロゴ。Tillich P./Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。

意見不表明は、財務諸表が「不適正」と結論づけた不適正意見とは異なります。第三者委員会の調査が続き、財務諸表全体へ重要かつ広範な影響を及ぼす可能性がある中で、監査意見を形成するための十分で適切な証拠を得られなかったという判断です。

第三者委員会はPwCの監査そのものを調査対象としていません。ただし、ニデックの役職員が会計監査人へ不正確・ミスリーディングな情報を与え、都合のよい見解を引き出そうとした事例や、虚偽説明、必要書類の隠蔽を認定しています。報告書には、PwC京都を「説得しやすい相手」「与しやすい相手」と捉えていたことを示す証拠もあったと記されています。

2018年の東京証券取引所メインルームと円形の電光掲示板
東京証券取引所のメインルーム(2018年)。撮影:Kakidai/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。

東京証券取引所は2025年10月28日、ニデック株を特別注意銘柄に指定しました。監査法人が決算に意見を出せず、内部管理体制の改善が強く求められる状態だと市場運営者から判断されたことになります。

その後、第三者委員会が2026年2月27日に示した時点では、認定した会計不正・誤謬などによる2025年度第1四半期末の連結純資産への累計マイナス影響は約1,397億円でした。追加調査を反映した4月17日の最終報告では約1,607億円へ増えています。これは横領額や架空売上の総額ではなく、不正・誤謬を修正した場合に連結純資産へ及ぶ累計影響です。

最終報告は別に、各年度で会計不正等によって動いた金額を積み上げた参考値「グロス影響」を約4,498億円と算出しました。同じ影響が複数年度にまたがる場合も含むため、1,607億円とは意味の異なる数字です。

4月30日、東証は長期間にわたる極めて重大な内部管理体制の不備によって市場の信頼を損なったとして、上場契約違約金9,120万円の徴求を決定しました。

2026年9月9日時点でも特別注意銘柄の指定は続いており、東証の審査状況は「改善中」です。

終章|「新生ニデック」は、強すぎる業績圧力を変えられるか

ニデックは2026年1月に改善計画を提出し、4月17日の最終報告を受けて4月27日に改訂版を公表しました。実現可能な業績計画への見直し、経理機能と事業管理機能の分離、経理の二重レポートライン、内部監査の強化、M&A後の統合管理、社外取締役による監督強化などを進めています。

同社は企業文化改革も掲げ、「もの言えぬ風土」からの脱却を進めています。2026年9月には、会計とは別の品質調査でもグループ全体で844件の品質不適切行為が認定されました。会計不正と品質不適切行為は別事件ですが、会社は両方を含むガバナンス改革を「REDEFINED ニデック」として進めています。

今回の事件で問われたのは、会計ルールの知識だけではなく、強い創業者の下で高い目標を追う経営を、会社が大きくなった後も誰がチェックするのかという問題でした。過去の不正を何度も把握しながら根本原因へ手を入れられなかった事実を考えると、再生の成否は、経理・内部監査・取締役会が経営トップの意向から独立して異論を出せる仕組みを実際に機能させられるかにかかっています。

関連する解説記事

参考資料

  1. ニデック「会計に関する第三者委員会の調査結果を踏まえて」
  2. ニデック「事案の概要」
  3. ニデック「第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領及び当社の対応に関するお知らせ」(2026年4月17日)
  4. 会計に関する第三者委員会「調査報告書(最終報告)」(2026年4月17日)
  5. ニデック「2025年3月期 有価証券報告書の連結財務諸表に係る監査報告書の意見不表明及び内部統制監査報告書の意見不表明に関するお知らせ」
  6. 東京証券取引所「特別注意銘柄の指定:ニデック」(2025年10月27日)
  7. 東京証券取引所「上場契約違約金の徴求:ニデック」(2026年4月30日)
  8. 日本取引所グループ「特別注意銘柄一覧」
  9. ニデック「改善・対策について」
  10. ニデック「最新IR資料」