聖イグナチオ教会の歴史と4つの聖堂|四ツ谷の建築・ステンドグラス・見学案内

JR四ツ谷駅前に建つカトリック麹町教会は、「聖イグナチオ教会」の名で親しまれています。曲線を描く主聖堂、旧聖堂のステンドグラスを受け継ぐマリア聖堂、土壁と水を取り入れたザビエル聖堂、地下のクリプタという4つの祈りの空間があります。現在の建物は1999年に完成しましたが、教会の歩みは1936年にさかのぼります。

聖イグナチオ教会の歴史|戦災と再建を経た四ツ谷の教会

前身は、1936年に現在の千代田区六番町に設立された「幼いイエズスの聖テレジア教会」です。東京大司教区の小教区教会として、地域のカトリック信徒の信仰生活を支えました。

1945年5月25日の東京大空襲で聖堂が焼失すると、上智大学のクルトゥルハイム聖堂が臨時の教会となりました。その後、ミサは大学講堂でも行われました。1947年には麹町教会の司牧がイエズス会に委託され、現在の場所に新聖堂を建てる計画が進みました。

1949年4月17日、ロヨラの聖イグナチオに奉献された聖堂の献堂式が行われました。戦後の資材不足のなかで再建された旧聖堂には、海外の信徒から贈られた祭壇やステンドグラスも使われました。それらの一部は、現在の建物にも残されています。

やがて建物の老朽化と信徒の増加から建て替えが検討され、1991年の設計競技で坂倉建築研究所の案が選ばれました。1999年に現聖堂が完成し、6月6日に献堂式が行われています。新しい建物は2001年の建築業協会賞(BCS賞)を受賞しました。

教会名の由来|イグナチオ・デ・ロヨラとザビエル

教会の名前になったイグナチオ・デ・ロヨラ(1491~1556年)は、カトリック修道会「イエズス会」の創立者の一人で、初代総長です。イエズス会は1540年に教皇の認可を受け、教育、宣教、福祉などの活動を世界に広げました。

日本史でよく知られるフランシスコ・ザビエル(1506~1552年)もイエズス会の創立期の仲間でした。ザビエルは1549年に鹿児島へ到着し、日本にキリスト教を伝えました。聖イグナチオ教会には、この2人の名が主聖堂以外の空間にも受け継がれています。

隣接する上智大学もイエズス会とゆかりの深い大学です。大学は1913年に開校し、教会とは別の組織として教育活動を行っています。四ツ谷駅前には、カトリックの教育と祈りの拠点が隣り合っています。

1999年の教会建築|楕円形の主聖堂と4つの空間

現聖堂を設計したのは坂倉建築研究所です。主聖堂を中心に、マリア聖堂、ザビエル聖堂、地下のクリプタ、信徒会館などが配置されています。大規模な礼拝、少人数の祈り、葬儀や追悼といった用途に応じて、異なる規模と意匠が採用されました。

現代のカトリック教会では、司祭だけに視線を集める配置よりも、信徒が共に典礼に参加できる空間が重視されます。主聖堂の祭壇を囲む座席配置にも、そうした考え方が反映されています。建物全体は、空や緑にも開かれた構成となっています。

聖イグナチオ教会の主聖堂と地下聖堂がある建物の外観
主聖堂と、その地下にクリプタがある建物の外観。

4つの聖堂と見どころ

主聖堂|祭壇を囲む700席と蓮の花の天井

中心となる主聖堂は楕円形で、固定席は700席です。教会では、この形を生命と復活を象徴する卵になぞらえています。祭壇はイエスと弟子たちの「最後の晩餐」の食卓を意識したもので、聖堂の最も低い位置に置かれました。

信徒席や聖歌隊席などは、祭壇を囲むように放射状に配置されています。壁面を支える12本の柱はイエスの12使徒を表し、蓮の花をかたどった天井から自然光が入ります。楕円の壁に設けられた12枚のステンドグラスには、自然界のさまざまな情景が描かれています。

正面の壁に掲げられているのは、両腕を広げた復活のキリスト像です。十字架上で苦しむ姿を中心に据える教会堂とは異なり、復活したキリストを表しています。祭壇と座席、光の入り方、像の位置をあわせて見ると、建築と信仰の関係が分かります。

マリア聖堂|1949年のステンドグラスを受け継ぐ祈りの場

教会の正門を入って右手、2階に見える円屋根の建物がマリア聖堂です。聖母マリアの名を持ち、座席は180席。結婚式や葬儀などにも使用されています。

マリア聖堂の祭壇と十字架、上部の菱形窓
マリア聖堂の祭壇と十字架。

正面の大きなステンドグラスには、教会名の由来となった聖イグナチオが描かれています。聖母マリアを描いた作品と間違えやすい場所ですが、ここにあるのは1949年の旧聖堂正面から移された聖イグナチオの姿です。戦後の再建から現在の教会へ、信仰の記憶が受け継がれています。

マリア聖堂の円形ステンドグラスと木製の会衆席
マリア聖堂の円形ステンドグラスと会衆席。

ザビエル聖堂|土壁と水面に表れた日本的な空間

ザビエル聖堂は80席の小さな聖堂です。壁には藁すさを混ぜた土壁が使われ、日本の建築にも通じる素材と落ち着いた色調でまとめられています。大きな主聖堂とは異なり、静かな祈りに向いた空間です。

特徴的なのは、聖堂の内外に連なる池と水面の反射です。洗礼盤から湧く水が池につながり、その揺らぎが光を反射して室内に映るよう設計されています。洗礼は、キリスト教で信仰生活の始まりを示す儀式です。水を建築の中心的な要素にした理由も、この信仰上の意味と結びついています。

クリプタ(地下聖堂)|死者の追悼と旧聖堂の記憶

主聖堂の地下にあるクリプタは、40席の祈りの空間です。「クリプタ」は地下聖堂を意味し、この教会では亡くなった人々を記念して祈る場所となっています。主聖堂の復活の象徴と地下の追悼空間は、キリスト教の死と復活への信仰を建築的につないでいます。

地下へ下りる階段には、1949年の旧聖堂から受け継がれた7枚のステンドグラスが置かれています。クリプタの祭壇にも旧聖堂で使用された祭壇が再利用されました。建物が新しくなっても、礼拝で使われた品々が残されているのが特徴です。

クリプタへ下る螺旋階段と旧聖堂由来のステンドグラス
クリプタ(地下聖堂)へ下る螺旋階段。上部には旧聖堂から受け継がれたステンドグラスが並びます。

クリプタは追悼と祈りのための場所です。訪問時は使用状況に配慮し、立ち入りできる範囲を教会の案内で確認してください。

ミサとは何か|初めて教会を訪れる人のために

ミサは、カトリック教会で行われる中心的な礼拝です。聖書の朗読、説教、祈り、聖歌などに続き、イエスの最後の晩餐を記念する感謝の典礼が行われます。聖イグナチオ教会では日本語のほか、英語、スペイン語、ベトナム語など複数の言語によるミサが行われ、国際的な共同体を形づくっています。

信者以外もミサに参列できます。参列するときは席で静かに過ごし、立つ・座るなどの動作は周囲の様子を見ながら無理のない範囲で参加できます。ミサ中の聖体拝領は、原則として準備を整えたカトリック信者が受けるものです。教会内の係員の案内を優先してください。

見学方法とマナー|祈る人のための空間を訪ねる

聖イグナチオ教会では、初めて訪れる人に向けた案内も行っています。通常は毎月第2日曜日に教会案内ツアーが設けられ、主聖堂前のツアーデスクで当日申し込む方式です。開催日、受付時間、定員は変更される場合があるため、訪問前に教会公式の案内を確認してください。

4つの聖堂はそれぞれ礼拝や祈り、儀式に使用されます。すべての聖堂が常時公開されているわけではないため、団体で見学する場合は教会へ事前に相談することをおすすめします。祈っている人や儀式の妨げにならないよう、聖堂内での会話を控え、写真撮影は教会の指示に従ってください。祭壇付近や立ち入り制限のある場所へ入らないようにしましょう。

見学中は、主聖堂の低い祭壇と12本の柱、マリア聖堂の旧聖堂由来のステンドグラス、ザビエル聖堂の土壁と水、クリプタに残る旧祭壇という違いに注目すると、現代建築と戦後史の両方に触れられます。

所在地とアクセス

名称:カトリック麹町 聖イグナチオ教会
所在地:東京都千代田区麹町6-5-1
最寄り駅:JR中央線・総武線、東京メトロ丸ノ内線・南北線「四ツ谷駅」下車すぐ
電話:03-3263-4584

ミサの時間や教会行事、見学ツアーの実施状況は、聖イグナチオ教会公式サイトで確認できます。四ツ谷周辺の散歩では、四谷見附や須賀神社、神宮外苑を巡る歴史散歩、紀尾井町と上智大学周辺の散歩も関連するテーマです。

参考資料