東京大学駒場キャンパスの歴史と建築ガイド|旧制一高・駒場農学校・旧航空研究所を歩く

東京大学駒場Ⅰキャンパス1号館。旧第一高等学校本館の時計台と正面のアーチ

東京大学の駒場には、二つの時計台があります。駒場Ⅰキャンパスの1号館は旧制第一高等学校の本館、駒場Ⅱキャンパスの13号館は東京帝国大学航空研究所の旧本館です。いずれも昭和初期に建てられ、国の登録有形文化財として残っています。

駒場Ⅰには旧一高の講堂や図書館、農学校時代を記念する石碑があり、駒場Ⅱには航空研究のために建てられた実験棟と風洞があります。

駒場Ⅰと駒場Ⅱ――二つのキャンパスの成り立ち

駒場Ⅰキャンパス(目黒区駒場3-8-1)は教養学部・大学院総合文化研究科の拠点です。その東西に延びる道筋は、農学教育の時代にさかのぼります。1878年、内務省の農学校が新宿から駒場へ移転しました。1882年に駒場農学校となり、のちに東京帝国大学農学部へ発展しました。

1935年、駒場にあった農学部と、本郷の北側にあった第一高等学校(一高)が校地を交換しました。農学部は現在の弥生キャンパスへ移り、一高が駒場に入りました。一高のための本館、講堂、図書館などは、移転に先立って建設されています。戦後、一高の廃止と新制東京大学の発足を経て、その校舎は教養学部へ受け継がれました。

一方、駒場Ⅱキャンパス(目黒区駒場4-6-1)は、旧東京帝国大学航空研究所の施設を引き継ぐ研究拠点です。1923年の関東大震災で被災した航空研究所は駒場で再建され、1930年に移転を完了しました。現在は先端科学技術研究センターと生産技術研究所などが置かれています。

本郷の大学建築全体の変遷は、東京大学本郷キャンパス建築ガイドで紹介しています。1935年の校地交換は、本郷・弥生と駒場を結ぶ出来事です。

駒場Ⅰの象徴――旧一高本館と時計台

正門の先に立つ1号館は、1933年竣工の旧第一高等学校本館です。中央の時計台、赤茶色のスクラッチタイル、正面入口の連続アーチが特徴で、2000年9月26日に国の登録有形文化財となりました。旧一高時代には教室のほか、校長室や職員室も置かれていました。

東京大学駒場Ⅰキャンパス1号館の時計塔を見上げた外観
1号館の時計塔。2013年撮影。ossan-arrow/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)。

建築計画を主導したのは、内田祥三うちだよしかずです。内田は本郷の安田講堂や総合図書館にも関わり、震災後の大学施設を鉄筋コンクリート造で整えました。駒場の1号館でも本郷に通じる力強い外観が採用されています。内田ゴシックの建築群と比べると、設計思想のつながりが分かります。

東京大学公式のキャンパスツアーでは、1号館屋上の南西角に建設当時のものとみられる三角点が残ることも紹介されています。

900番教室と駒場博物館――柏とオリーブの建築

900番教室(旧一高倫理講堂)

1号館の西側に立つ900番教室は、旧一高の倫理講堂です。正面の三連アーチと上部の円形装飾が目を引きます。円形装飾の中央には、4枚の柏の葉で形づくられた十字の意匠があります。柏は旧一高の校章に使われた植物の一つです。

東京大学駒場Ⅰキャンパスの900番教室。旧一高倫理講堂の正面外観
900番教室(旧一高倫理講堂)。2018年撮影。Kakidai/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)。

1969年には、作家の三島由紀夫と東京大学全学共闘会議の学生との討論会がここで開かれました。現在も講堂として使われる建物に、戦後の学生運動の記憶が重なっています。

駒場博物館(旧一高図書館)

1号館を挟んで900番教室と向かい合うのが、旧一高図書館を活用した駒場博物館です。正面にはオリーブの葉4枚を組み合わせた十字形の装飾があります。900番教室の柏と対になる意匠で、旧一高の校章に用いられた二つの植物がキャンパスの両側に配置されています。

旧図書館は戦後に教養学部図書館として使用され、その後は事務室や展示室となりました。2003年の内部改修を経て、現在は美術・自然科学などの展示を行う駒場博物館です。展覧会期間中は無料で入館できる催しがあります。開催内容と開館日は駒場博物館公式サイトで案内されています。

旧一高の教育と生活を伝える建物

101号館とファカルティハウス

101号館は、旧一高の特設高等科に使われた2階建ての校舎です。旧制高校への編入を前に留学生が学んだ施設で、戦前の留学生教育の一端を伝えています。

900番教室の西方にあるファカルティハウスは、旧一高同窓会館の洋館です。2004年に改修され、昭和初期の洋館を現在の用途に引き継いでいます。庭には旧一高の外国人教師だったアリベーとプッチールの銅像が置かれています。両像は一高が本郷にあった時代に建立され、駒場への移転とともに運ばれました。

庭には一高の寮歌にちなむ「嗚呼玉杯ああぎょくはい之碑」も残ります。学校の建築だけでなく、教員や寮生が培った文化を伝える場所です。

農学校から一高へ――駒場に残る史跡

駒場農学碑と銀杏並木

900番教室の西側には、1936年建立の「駒場農学碑」があります。1935年に農学部が弥生へ移った翌年、駒場で続いた農学教育を記念して建てられました。東京大学農学部の歴史写真館には除幕式の記録も公開されています。

構内を東西に通る銀杏並木は、駒場農学校時代から続く道筋に重なります。道の東端近くには、農学部時代の計量器の蓋部分が残されています。旧一高の校舎が並ぶ現在の景観の下に、農学部以前の土地利用が刻まれています。

東京大学駒場Ⅰキャンパスのイチョウ並木
駒場Ⅰキャンパスの銀杏並木。2021年撮影。Tokyo538/Wikimedia Commons(CC0 1.0)。

護国旗の紋章、オリーブ、旧学生寮の痕跡

1号館北側の中庭入口にあるアーチの上には、旧一高の校旗「護国旗」と同じ紋章をかたどった銅製装飾があります。1号館の南東角には、旧一高関係者の斎藤阿具がヨーロッパから持ち帰ったオリーブの木と、「橄欖かんらん」と刻まれた石碑があります。

コミュニケーションプラザの中庭には、かつての一高中寮の柱位置を示す埋設照明があります。多目的ホール付近には、学生寮と校舎を結んだ地下道の入口壁の一部が移されました。学生が寄宿して学んだ旧制高校の生活空間を伝える遺構です。

駒場Ⅱ――航空研究所の時計台と研究施設

駒場Ⅱの歴史的建築は、航空研究所の移転計画から生まれました。戦前に建てられた1号館、13号館、14号館、17号館が残り、研究施設の用途の違いが外観にも表れています。

13号館(旧航空研究所本館)

1929年竣工の13号館は旧航空研究所の本館です。上方が少しすぼまった時計台は左右非対称で、外壁には赤茶色のスクラッチタイルが貼られています。入口の太い石柱と水平線を強調した外観には、第一次世界大戦後のドイツで展開した表現主義建築の影響があります。2000年9月26日に国の登録有形文化財となりました。

大学の建築計画を主導したのは内田祥三うちだよしかずですが、駒場Ⅱの建物の意匠には、建築家の岸田日出刀きしだひでとが強く関わったと東京大学の公式解説は紹介しています。本郷の内田ゴシックに見られる尖頭アーチとは異なる、幾何学的な形と横長の線が特徴です。

東京大学駒場Ⅱリサーチキャンパスにある研究施設の外観
駒場Ⅱリサーチキャンパスの研究施設。2008年撮影。Jun Ohwada/Wikimedia Commons(CC BY 2.0)。

1号館(旧風洞実験棟)と木製3m風洞

1930年竣工の1号館は風洞実験棟です。風洞は人工的に空気の流れをつくり、航空機の翼や機体に働く力を調べる実験装置です。建物の内部には巨大な木製の3m風洞が残り、2019年には日本航空協会の「重要航空遺産」に認定されました。

この風洞は、長距離飛行記録を樹立した「航研機」の研究や、戦後の国産旅客機YS-11の開発に関わりました。航空機だけでなく、車両やスポーツに関する実験にも使われてきました。設備の詳細は先端科学技術研究センターの風洞施設案内で紹介されています。

17号館・14号館と斯波忠三郎顕彰碑

17号館は1929年竣工の実験施設で、北東の角に連続する横長のガラス窓が特徴です。近代的な鉄筋コンクリート建築では、採光のための窓を横方向に大きく取る設計が可能になりました。14号館も旧航空研究所時代の建物として残ります。

構内には、航空研究所の駒場移転に尽くした斯波忠三郎しばちゅうざぶろうを顕彰する1935年建立の碑があります。研究所の施設整備と運営に関わった人物を記念する史跡です。

近代建築から現代の研究キャンパスへ

駒場Ⅱでは1990年代以降に研究施設の再整備が進みました。2001年には生産技術研究所が六本木から移転しています。先端研3号館は小嶋一浩ら、4号館は原広司らが設計に関わった建築です。昭和初期の研究所本館と平成期の校舎が同じ構内に並びます。

航空研究所の建物を活用しながら新しい研究施設を整備してきた経緯は、先端研の公式「建物探訪」に詳しくまとめられています。東京大学の研究組織の戦後史については、戦争と東京大学の記事にも関連する記述があります。

キャンパス周辺に残る農学校と前田家の歴史

駒場Ⅰの南西にある駒場野公園には、農学校で農芸化学を教えたオスカー・ケルネルの名にちなむ「ケルネル田圃」があります。農学校時代の水田研究に由来し、駒場で農学を学んだ時代を伝える場所です。

駒場Ⅱの近くには、旧前田侯爵家本邸を保存した駒場公園があります。1926年の前田家と東京帝国大学の土地交換を背景に、前田家が本郷から駒場へ移り、1929年に洋館、1930年に和館を完成させました。こちらは大学の敷地外にある国の重要文化財です。大学と前田家の関係は大正期の本郷を古地図でたどる記事にもつながります。

見学・アクセス

  • 駒場Ⅰ:東京都目黒区駒場3-8-1。京王井の頭線・駒場東大前駅から徒歩圏内。個人・少人数の構内見学は申し込み不要です。15名以上を目安とする団体見学は事前申請と許可が必要です。
  • 駒場博物館:無料の展覧会があります。開館日時は展覧会により案内されます。公式の展覧会予定で確認できます。
  • 駒場Ⅱ:東京都目黒区駒場4-6-1。研究施設の建物内部や木製3m風洞は、特別公開の機会などに見学できる場合があります。先端科学技術研究センターの案内が参考になります。
  • 構内の位置:東京大学の公式キャンパスマップに建物の位置が掲載されています。

旧一高の時計台と講堂の外観をたどる散策は駒場Ⅰでまとまり、航空研究所の研究棟を見比べる散策は駒場Ⅱが中心になります。建物内への立ち入りにはそれぞれの施設の公開条件が適用されます。

よくある質問

駒場キャンパスに国の登録有形文化財はありますか?

駒場Ⅰの1号館(旧一高本館)と、駒場Ⅱの13号館(旧航空研究所本館)が国の登録有形文化財です。どちらも時計台を備えています。

旧制第一高等学校の建物は何が残っていますか?

1号館、900番教室、旧図書館を活用した駒場博物館、101号館、旧同窓会館洋館のファカルティハウスが残ります。

旧航空研究所の風洞は見学できますか?

木製3m風洞は駒場Ⅱの1号館に残り、特別公開などで見学機会が設けられる場合があります。一般向け公開の日時は主催機関の案内で確認できます。

参考資料