銀行から融資を受けるとき、銀行は借り手の収入、自己資金、物件価格、家賃収入、担保価値を調べ、返済できるかを判断します。
スルガ銀行の投資用不動産融資では、この審査を通すために通帳残高、所得資料、売買契約書、レントロールなどが作り替えられました。不動産業者だけでなく、一部の銀行員も改ざんを認識し、働きかけた事例が認定されています。
2019年にスルガ銀行が公表した全件調査では、投資用不動産融資37,907物件のうち7,813物件、20.6%で改ざん・偽造等が確認されました。不正確認案件の債権額は約5,538億円です。問題はシェアハウス「かぼちゃの馬車」から始まり、アパート・マンションを含む投資用不動産融資全体へ広がりました。
- 30秒でわかるスルガ銀行不正融資事件
- スルガ銀行はどんな銀行だった?
- 「かぼちゃの馬車」とは何だった?
- 2018年、家賃保証が止まり問題が表面化
- 問題は投資用不動産融資全体へ広がった
- 何を改ざんしたのか
- 通帳を改ざんすると、なぜ融資額が増える?
- 所得資料を高く見せると返済能力が膨らむ
- 二重売買契約書は何のために作られた?
- レントロールを改ざんすると担保評価まで上がる
- 銀行員は改ざんを知っていた?
- 「99%審査」とは何だった?
- 審査担当者も不自然さに気づいていた
- 危険な業者を把握しても取引が続いた
- なぜ銀行全体で止められなかった?
- 「抱き合わせ販売」も行政処分の対象になった
- 金融庁はなぜ6か月の新規融資停止を命じた?
- シェアハウス融資は約2,036億円まで膨らんだ
- シェアハウス問題はどう救済された?
- アパマン問題はなぜ長期化した?
- 2026年3月、600物件の民事調停手続が終了
- 2026年9月も返済条件の協議は続く
- スルガ銀行は現在どうなっている?
- ライブドア・オリンパス・東芝・ニデックと何が違う?
- 年表
- 参考文献
30秒でわかるスルガ銀行不正融資事件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社会問題化 | 2018年 |
| 発覚の入口 | スマートデイズのシェアハウス「かぼちゃの馬車」 |
| 主な問題 | 審査資料の改ざん・偽造、審査の形骸化、営業優位のガバナンス |
| 全件調査対象 | 37,907物件 |
| 不正確認 | 7,813物件(20.6%) |
| 不正確認案件の債権額 | 約5,538億円 |
| シェアハウス | 1,647物件中886物件で不正確認(53.8%) |
| シェアハウス以外 | 36,260物件中6,927物件で不正確認(19.1%) |
| 行員関与 | 指示・示唆等35人、改ざん認識のまま融資40人 |
| 金融庁行政処分 | 2018年10月5日 |
| 新規投資用不動産融資停止 | 2018年10月12日~2019年4月12日 |
| 2026年9月時点 | 600物件の民事調停手続は終了。一部の返済条件協議は継続 |
スルガ銀行はどんな銀行だった?
スルガ銀行は静岡県沼津市に本店を置く地方銀行です。1895年に創業し、2000年代には個人向けローンへ特化した独自のリテール戦略で高い収益性を実現しました。
2003年には一橋ビジネススクール系のポーター賞を受賞しています。個人市場への特化、従来の銀行が扱いにくかった顧客ニーズへの対応、独自商品・サービスが評価されました。

2003年のポーター賞は、当時の個人向け金融戦略を評価したものです。その後、2010年代に投資用不動産融資へ大きく傾き、営業目標と審査の関係が崩れていった経緯が事件の背景になります。
「かぼちゃの馬車」とは何だった?
問題発覚の入口となったのが、スマートライフ、後のスマートデイズが展開した女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」です。
会社は個人投資家へシェアハウスを販売し、物件を借り上げて入居者へ転貸するサブリース方式を採用しました。長期の家賃保証を掲げたため、購入者から見ると、家賃収入で銀行ローンを返済する投資として設計されていました。購入資金の多くを融資したのがスルガ銀行です。
第三者委員会によると、同行が把握したスマートライフ関連は981物件で、865物件を横浜東口支店が取り扱っていました。
2018年、家賃保証が止まり問題が表面化
2018年1月、スマートデイズはオーナーへの家賃保証を支払えなくなりました。家賃収入が止まっても銀行への返済義務は残り、巨額の借入を抱えたオーナーの問題が社会化します。同年5月、スマートデイズは破産手続開始決定を受けました。
その後の調査で、融資の入口となる審査資料に大量の改ざん・偽造があったことが明らかになります。
問題は投資用不動産融資全体へ広がった
2019年、スルガ銀行は投資用不動産融資を全件調査しました。対象は37,907物件です。
| 区分 | 調査対象 | 不正確認 | 割合 |
|---|---|---|---|
| シェアハウス | 1,647物件 | 886物件 | 53.8% |
| シェアハウス以外 | 36,260物件 | 6,927物件 | 19.1% |
| 全体 | 37,907物件 | 7,813物件 | 20.6% |
不正が確認された7,813物件の債権額は、シェアハウス約1,110億円、シェアハウス以外約4,427億円、合計約5,538億円でした。5,538億円は、不正確認案件について銀行が保有していた債権額を示します。
7,813は不正が確認された物件数です。調査対象全体は37,907物件で、債務者数とは別の集計です。
何を改ざんしたのか
| 資料 | 改ざんの効果 |
|---|---|
| 預金通帳・残高資料 | 自己資金を実際より多く見せる |
| 源泉徴収票・所得資料 | 返済能力を高く見せる |
| 売買契約書 | 物件価格を実際より高く見せる |
| レントロール | 家賃・入居率を高く見せる |
| 賃貸借契約等 | 実際より高い収益があるように見せる |
全件調査では、自己資金資料の改ざん・偽造等が5,183物件で確認されました。同じ物件に複数種類の不正が重なるため、手法別件数を足して総物件数にすることはできません。
通帳を改ざんすると、なぜ融資額が増える?
1億円の投資用物件に、銀行が1,000万円の自己資金を求めたとします。実際の預金残高が200万円なら条件を満たしません。通帳コピーを1,200万円へ書き換えれば、書類上は条件を満たします。
業者などが一時的に資金を口座へ入れ、残高確認後に引き出す「見せ金」も同じ目的で使われました。自己資金は、価格下落や空室が起きたときに借り手がどこまで損失を負担できるかを見る重要な審査材料です。
所得資料を高く見せると返済能力が膨らむ
年収も借入可能額へ影響します。年収700万円を、源泉徴収票などで1,200万円に見せれば、銀行の審査上は返済余力が大きく見えます。
第三者委員会は、確定申告書や源泉徴収票の数字、フォント、切り貼りの痕跡、通帳への給与振込額との矛盾などを検証しています。
二重売買契約書は何のために作られた?
二重売買契約とは、実際の売買に使う契約書と、銀行へ提出する契約書で異なる価格を記載する方法です。
実際の売買価格が8,000万円なのに、銀行向け契約書を1億円とします。銀行が価格の90%を融資すると仮定すれば、8,000万円なら7,200万円、1億円なら9,000万円となります。銀行が高い価格を前提に審査すれば、借り手の自己資金を少なく見せたり、実際の購入価格を超える融資につながったりします。
レントロールを改ざんすると担保評価まで上がる
レントロールは、賃貸物件の各部屋について家賃、入居状況、契約条件などをまとめた一覧です。投資用不動産の審査では、将来得られる家賃収入から物件価値を求める「収益還元法」が使われます。
年間純収益500万円、還元利回り5%なら、単純計算の物件価値は1億円です。家賃や入居率を高く見せて年間純収益を750万円にすれば、同じ5%で1億5,000万円になります。
金融庁は、実勢より高い賃料・入居率への改ざんにより収益還元法の評価額を膨らませ、多額の融資が実行された事例を認定しています。
銀行員は改ざんを知っていた?
金融庁は、投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が、通帳、所得資料、二重契約、レントロール等の不正を明確に認識、または相当の疑いを持ちながら業務を進めたと認定しました。一部には不動産業者へ改ざんを促したり、自ら改ざんしたりした事例もありました。
2019年全件調査では、資料を作出・改ざんしたり、改ざんを指示・示唆した行員が35人。改ざんを認識しながら融資を実行、または実行しようとした行員が40人と整理されています。
行員の関与形態は案件ごとに異なり、不動産業者による改ざんに加えて、一部行員の指示・示唆や認識した上での融資実行が確認されました。
「99%審査」とは何だった?
銀行の営業担当は融資を増やす立場ですが、審査部は返済能力、担保価値、資料の不自然さを独立して確認し、危険な案件へブレーキをかける部門です。
第三者委員会によると、資産形成ローンは2015年の取扱開始から2017年度上期まで、審査部へ上程された案件の半期ごとの承認率が常に99.0%を超えていました。金融庁もシェアハウス向け融資について、審査部がほぼ全件、99%を承認していたと認定しています。
99%の母集団は審査部へ上程された案件です。営業段階の否決や、稟議申請を撤回した案件などは含まれません。それでも審査部の本部決裁で否決された案件がごく少数だったことを第三者委員会は問題視しました。
審査担当者も不自然さに気づいていた
第三者委員会には、審査担当者がレントロールの賃料と実際の募集賃料の乖離、年収に比べて不自然に多い金融資産、シェアハウスの空室リスクなどへ疑問を持っていた記録があります。
疑義を示しても営業側から反論され、最終的に融資が押し通される例が続きました。途中からは自己資金の確認資料を審査部へ送らず、営業店側で確認する運用にも変わっています。審査部では疑義を把握しても、営業から独立して融資を止める力が弱くなっていました。
危険な業者を把握しても取引が続いた
第三者委員会は、スマートライフが2015年に表向き取引禁止となった後も、別会社を介するなどして実質的な取引が続いた経緯を確認しました。審査担当者も「かぼちゃの馬車」の表示などからスマートライフ案件が続いている疑いを持っていました。
金融庁も、不芳情報を理由に取扱停止となった業者について、営業店が迂回取引を行った事例を認定しています。リスク情報を得ても取引停止を徹底できない管理態勢がありました。
なぜ銀行全体で止められなかった?
高い営業目標とプレッシャー
第三者委員会は、過大な業績目標と達成への過度なプレッシャーを原因の一つに挙げました。融資件数と金額を伸ばす営業が強く評価され、審査やコンプライアンスより営業数字が優先されやすい環境になりました。
審査部の独立性が弱まった
疑義を示した審査担当者が営業側から押し切られ、審査部へ送る資料自体も簡素化されました。営業と審査の力関係が崩れ、上程案件のほぼ99%が承認される状態へ近づきました。
内部監査が急増する信用リスクを捉えきれなかった
内部監査は事務手続や個別のルール違反確認に偏り、投資用不動産融資が急増して貸出ポートフォリオ全体のリスクが高まっていることを十分に検証できませんでした。
取締役会と経営管理
金融庁は、取締役会が貸出ポートフォリオの構造やリスクを十分に把握せず、特定役職員へ営業方針を委ねていたことを問題視しました。営業、審査、リスク管理、内部監査、取締役会という複数の防御線が同時に弱くなったことが事件の核心です。
「抱き合わせ販売」も行政処分の対象になった
金融庁の行政処分は、審査資料の改ざんに加え、投資用不動産ローンとカードローン、無担保ローン、定期預金、保険などを実質的にセットで販売する行為も対象としました。
融資を受けるために顧客へ経済合理性の乏しい商品を組み合わせる取引が確認され、信用リスク管理だけでなく顧客保護と顧客本位の業務運営も問われました。
金融庁はなぜ6か月の新規融資停止を命じた?
2018年10月5日、金融庁はスルガ銀行に業務の一部停止を含む業務改善命令を出しました。2018年10月12日から2019年4月12日まで、新規の投資用不動産融資と、一定の新規住宅ローンを停止しました。
処分理由は、審査資料の改ざん、営業職員の関与、審査機能の弱体化、顧客保護、信用リスク管理、経営管理、ファミリー企業向け融資、法令遵守態勢など銀行全体へ及びます。
金融庁は経営責任の明確化、債務者への返済条件変更や元本一部カットを含む対応、信用リスク管理、内部監査、コンプライアンス、ガバナンスの抜本的改善を求めました。日本の金融不祥事を年代の中で見る場合は、1990年代から現在までの金融・会計不祥事史で位置づけを確認できます。
シェアハウス融資は約2,036億円まで膨らんだ
第三者委員会が整理した2018年3月末のシェアハウス等関連ローン残高は約2,035億8,700万円でした。上位10店舗だけで残高の99.2%を占める極端な集中も確認されています。
融資を増やせば銀行の利息収入は増えます。しかし返済能力、物件価格、家賃収入を正しく審査できなければ、借り手の返済困難と銀行の信用コスト増加が同時に起こります。
シェアハウス問題はどう救済された?
シェアハウス問題では、東京地方裁判所の民事調停などを通じて大規模な解決が進みました。一定の条件の下で、解決金とローン債務を相殺し、物件と債権を第三者へ移す一括譲渡方式などが採用されました。
シェアハウス以外のアパート・マンション向け融資では、銀行、不動産業者、債務者それぞれの関与や物件価格の事情が案件ごとに異なり、個別の調整が必要になりました。
アパマン問題はなぜ長期化した?
シェアハウス以外の投資用不動産融資には、銀行側の関与が確認された案件、不動産業者が資料を改ざんした案件、債務者側の認識が争点となった案件、物件を高値で購入した案件などが混在していました。
案件ごとの事情を調整するため、2022年から債務者側と銀行側の民事調停が続きました。
2026年3月、600物件の民事調停手続が終了
2026年3月17日までに、民事調停の対象となった600物件すべてで、調停成立または調停外和解等が成立しました。裁判所は同日、約4年間続いた民事調停手続を終了しました。
600物件の内訳は、解決金支払い対象193物件と、解決金支払い対象外407物件です。2026年5月資料では、193物件に対する解決金総額は121億円とされています。
2026年9月も返済条件の協議は続く
民事調停の終了と、個々のローン返済条件の確定は別の段階です。解決金支払い対象外407物件のうち、2026年5月20日時点で返済プランまで含む示談が成立したのは164物件でした。残る243物件は相談中でした。
2026年9月8日時点でも、金融庁は「スルガ銀行との返済協議に関する情報提供窓口」を設け、調停条項に沿う返済プランの協議が円滑に進んでいない債務者から情報提供を受け付けています。
現在地は「600物件の民事調停手続は終了したが、一部の具体的な返済条件協議は続いている」です。
スルガ銀行は現在どうなっている?
スルガ銀行は銀行として事業を継続しています。事件後は営業と信用リスク管理の分離、不動産評価・業者管理の見直し、内部監査・コンプライアンス、取締役会の監督機能などを再構築してきました。
投資用不動産融資も再開しています。2026年5月28日の決算説明資料では、2025年度の投資用不動産ローン新規実行額は1,034億円、2026年度計画は1,000億円です。
事件後の焦点は、投資用不動産への融資そのものをなくすことではなく、営業、審査、信用リスク管理、顧客保護を分離して機能させることへ移っています。銀行監督や金融行政の歴史は、事件と危機から見る日本金融史で詳しく扱っています。
ライブドア・オリンパス・東芝・ニデックと何が違う?
| 事件 | 中心問題 |
|---|---|
| ライブドア | 虚偽の財務情報と株式市場を利用した証券事件 |
| オリンパス | 過去の投資損失を長期間隠した会計事件 |
| 東芝 | 業績圧力と複数の不適切会計 |
| ニデック | 多拠点に広がる会計・内部統制問題 |
| スルガ銀行 | 銀行の融資審査、営業、信用リスク管理、顧客保護の崩壊 |
スルガ銀行事件の中心は銀行自身の決算操作ではなく、顧客へ貸す際の審査と信用リスク管理です。借り手が返せるか、物件に価値があるか、資料が正しいかを確認する銀行機能そのものが弱くなりました。
年表
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 2003年 | スルガ銀行がポーター賞受賞 |
| 2010年代 | 投資用不動産融資を拡大 |
| 2015年頃 | スマートライフ関連シェアハウス融資が拡大 |
| 2018年1月 | スマートデイズが家賃保証支払いを停止 |
| 2018年5月 | スマートデイズ破産手続開始、スルガ銀行が第三者委員会設置 |
| 2018年9月7日 | 第三者委員会調査報告書公表 |
| 2018年10月5日 | 金融庁が行政処分 |
| 2018年10月12日 | 新規投資用不動産融資の停止開始 |
| 2019年4月12日 | 6か月の停止期間終了 |
| 2019年5月 | 37,907物件の全件調査結果を公表 |
| 2020~2022年 | シェアハウス債務者の一括解決が進む |
| 2022年 | アパマン問題の民事調停開始 |
| 2026年3月17日 | 対象600物件で調停成立・和解等、民事調停手続終了 |
| 2026年5月20日 | 407物件中164物件で返済プランまで含む示談成立、243物件は相談中 |
| 2026年9月 | 金融庁の返済協議情報提供窓口が継続 |
参考文献
- スルガ銀行 第三者委員会「調査報告書」(2018年9月7日)
- 金融庁「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」(2018年10月5日)
- スルガ銀行「投資用不動産融資に係る全件調査」(2019年5月15日)
- スルガ銀行「アパマン問題の解決に向けた進捗状況について」(2026年3月18日)
- スルガ銀行「アパマン問題の解決に向けた進捗状況について」(2026年5月25日)
- スルガ銀行「2025年度(2026年3月期)通期決算説明会」(2026年5月28日)
- 金融庁「金融サービス利用者相談室/スルガ銀行との返済協議に関する情報提供窓口」
- スルガ銀行「コーポレートガバナンス」
- ポーター賞「スルガ銀行株式会社」
