バブル崩壊後の金融・会計不祥事史|1990~2026年、事件は制度をどう変えたか

2018年の東京証券取引所メインルームと円形の電光掲示板

1997年11月、北海道拓殖銀行と山一證券が相次いで経営の行き詰まりを表面化させました。大手金融機関は簡単には倒れないという戦後日本の感覚が崩れた時期です。

それから約30年。2026年には、ニデック、エア・ウォーター、KDDI、I-ne、ジェイ・イー・ティなど、上場企業の会計・開示・内部管理をめぐる問題が東京証券取引所の措置対象となりました。Abalanceには上場廃止が決定されています。

同じ「不祥事」でも、1990年代と2020年代では問題の場所が違います。

1990年代には銀行・証券会社の融資、損失補填、不良債権、金融機関破綻が中心でした。2000年代には決算書と監査、2010年代には経営目標や企業文化、2020年代にはIT、市場操作、保険代理店、銀証間の情報管理、グループ子会社の内部統制へ論点が広がりました。

35年間で、金融行政の重点は金融機関の安定から、市場の公正、顧客保護、内部統制へ広がりました。

明治から現代までの金融危機と制度改革の通史は、「事件・危機・不祥事から読む日本の金融史」でたどれます。

35年間の全体像|「金融機関を守る」から「市場と内部統制を守る」へ

時代表面化した主な問題制度・監督の焦点
1990年代前半損失補填、不正融資、バブル崩壊市場の公正、融資審査、不良債権
1995~2000年住専、金融機関の連続破綻破綻処理、公的資金、金融監督
2000年代虚偽開示、粉飾、監査法人問題企業開示、監査、内部統制
2010年代損失隠し、運用偽装、不正融資ガバナンス、組織文化、顧客保護
2020年代システム障害、相場操縦、保険、情報管理IT・市場・グループ統治
2025~26年大型会計不正、子会社管理、上場審査内部管理体制、取締役会、グループガバナンス

金融システムの発達とともに、不祥事が発生する場所と監督の焦点も変わってきました。

1990年代前半|バブルの陰で何が起きていたのか

1980年代後半、株価と地価は急上昇し、土地を担保とした融資が膨張しました。大企業が銀行借入以外の資金調達を広げる一方、銀行は不動産、ノンバンク、中小企業などへ融資先を広げます。

バブル形成と不良債権問題の背景は、「戦後日本の成功はなぜバブルと長期停滞を生んだのか」で詳しく扱っています。

証券会社の損失補填

1991年、大手証券会社が特定の大口顧客などに損失を補填していた問題が大きく表面化しました。

株式投資では利益と損失を投資家が負うことが市場の前提です。一部顧客だけ損失を埋めれば、同じ市場に参加する投資家の公平性が崩れます。

証券取引法が改正され、損失補填等への規制が強化されました。1992年には証券取引等監視委員会が発足します。大蔵省による業界監督とは別に、市場での不公正取引や開示違反を監視する仕組みが強化された転換点です。

証券会社の制度と山一證券の歴史は、「証券会社とは何か」で詳しく扱っています。

尾上縫事件と金融機関の巨額融資

バブル期には、一個人や特定企業への巨額融資が金融機関の審査・牽制機能を問う事件も生みました。

料亭経営者の尾上縫おのうえ ぬいをめぐる事件では、金融機関から巨額の株式投資資金が流れ、偽造された預金証書も利用されました。イトマン事件では不動産や絵画取引などをめぐる不透明な資金の流れが問題となります。

事件ごとの手口は異なりますが、資産価格が上がり続けるという期待、業績拡大を優先する経営、融資審査や取締役会の牽制不足が共通の背景として現れました。

バブルが崩壊して資産価格が下がると、こうした融資は不良債権へ変わっていきます。

1995~2000年|金融機関が次々と倒れた

大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件

1995年、大和銀行ニューヨーク支店で、長期間にわたる無断取引と巨額損失が表面化しました。

長期間不正を発見できなかった内部管理、海外拠点の監督、損失発覚後の報告対応までが問われました。

日本の銀行監督に対する海外当局の信頼にも影響し、日本の金融行政が国際的な基準で監督体制を見直す必要性を強く意識する事件となりました。

住専問題|誰が損失を負担するのか

住宅金融専門会社、いわゆる住専は、バブル期に不動産関連融資を大きく増やしました。地価が下落すると巨額の不良債権を抱えます。

1995~96年の処理では公的資金の投入が大きな政治問題になりました。金融会社の損失処理に税金を使うことへの反発が強く、金融システムを守るために公的資金を使うこと自体への抵抗が残りました。

この経験は、後に大手銀行や証券会社まで危機に陥った際の政策判断にも影を落とします。

1997年|北海道拓殖銀行、山一證券

1997年11月、北海道拓殖銀行が経営破綻し、山一證券は自主廃業を決めました。

北海道拓殖銀行は戦後初の都市銀行破綻となりました。北海道経済への影響も大きく、銀行が地域経済の資金循環を支える存在であることが改めて意識されます。

山一證券では、巨額の損失を簿外で先送りしていた問題が表面化しました。

かつて山一證券本社が置かれた茅場町タワー
かつて山一證券本社が置かれた茅場町タワー。写真は2012年撮影。Harani0403/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0。

1965年の証券不況では、山一證券は日本銀行の特別融資で救済されています。1997年には同じ会社が市場から退出しました。日本の金融行政が「個別金融機関を救う」方式から、「必要なら退出させながら金融システム全体を守る」方向へ移る象徴的な対比です。

北海道拓殖銀行や山一證券などの破綻は、「倒産の歴史」でも詳しく扱っています。

1998年|長銀・日債銀と公的管理

1998年には日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が特別公的管理に入りました。

旧日本長期信用銀行の後身である新生銀行の旧本社ビル
新生銀行旧本社ビル。旧日本長期信用銀行の後身にあたる新生銀行が使用した建物。写真は2006年撮影。Lombroso/Wikimedia Commons/Public Domain。

同年、金融再生法や金融機能早期健全化法などが整備され、金融機関の破綻処理と資本注入を制度化する仕組みが強化されます。

金融機関を一社ずつ裁量的に支えるのではなく、一定のルールに従って破綻処理・資本増強を行い、預金者や決済機能を守る体制へ転換していきました。

大蔵省から金融監督庁、金融庁へ

1990年代には金融機関だけでなく、監督する行政への信頼も揺らぎました。不良債権問題、金融機関の相次ぐ破綻、金融行政をめぐる不祥事などが重なります。

1998年6月、大蔵省から民間金融機関の検査・監督機能を分離する形で金融監督庁が発足しました。2000年には金融庁となります。

金融庁の誕生には、金融自由化、バブル崩壊、不良債権、金融危機、行政への信頼低下が重なりました。監督機能の独立性と透明性を高める行政改革が進みました。

2000年代|問題は「決算書と監査」に移った

金融危機が収束に向かう一方、上場会社が公表する財務情報を信用できるのかという問題が前面に出てきます。

西武鉄道|大株主情報と有価証券報告書

2004年、西武鉄道では有価証券報告書の大株主情報などをめぐる虚偽記載が問題となりました。

企業の決算数字だけでなく、誰が株式を持ち、会社を支配しているのかという情報も投資判断の基礎です。資本市場では企業情報全体の正確さが求められることを示した事件でした。

カネボウと中央青山監査法人

カネボウでは、業績の悪化した子会社を連結の対象から外すなどして財務内容を良く見せる会計処理が問題となりました。監査を担当していた公認会計士も刑事責任を問われ、中央青山監査法人には業務停止処分が行われました。連結外しと監査法人の関与、上場廃止までの経緯はカネボウ粉飾決算事件の詳細で整理しています。

会社が財務諸表を作り、独立した監査人が検証するという制度では、監査人が会社側を適切に牽制できることが前提です。カネボウ事件は、作成者だけでなく監査側の責任まで問う代表的な事件になりました。

監査法人の制度史は「BIG4とは何か」、海外の代表的な監査崩壊は「アーサー・アンダーセンはなぜ消えたのか」で扱っています。不正会計の手口とJ-SOX・監査の仕組みは「不正会計はなぜ繰り返される?」で比較しています。

ライブドア|市場が読む数字そのものを操作する

2006年のライブドア事件では、自社株式の売却益を売上に含めることや架空売上の計上などが問題となりました。赤字約3億円を黒字約50億円として示した決算、投資事業組合、株式交換、東証全銘柄停止までの経緯はライブドア事件の詳細で整理しています。

株式市場では、決算書や適時開示の情報を基に多数の投資家が価格を判断します。虚偽の開示は、会社と投資家の問題にとどまらず、市場価格の形成そのものに影響します。

金融商品取引法とJ-SOX

2006年に金融商品取引法が成立し、証券取引法を発展させる形で市場ルールが再編されました。2008年度からは内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXが本格適用されます。

経営者が財務報告に係る内部統制を評価し、監査人がその評価を監査する仕組みです。

相次ぐ開示問題、資本市場の国際化、企業統治強化などの流れの中で、企業自身が正しい財務報告を作る仕組みまで監督対象になりました。

2007年の公認会計士法改正では、監査法人への課徴金、業務改善命令、有限責任監査法人制度なども整備されました。

2010年代|ガバナンスと企業文化が焦点になる

内部統制報告制度や監査法人への規制が強化された後も、経営トップ、取締役会、監査、営業文化の実効性が問われる大型不祥事が相次ぎました。

オリンパス|長期間の損失隠し

2011年、オリンパスで長年にわたる投資損失の処理問題が表面化しました。1,177億円の「飛ばし」、国内3社・Gyrus関連取引、監査法人、上場維持判断はオリンパス損失隠し事件の詳細で整理しています。

有価証券、企業買収、のれんなどを使って損失を先送りしていた構造が問題となり、経営トップを牽制する取締役会、監査、企業統治の実効性が問われました。

2009年に撮影された渋谷区幡ヶ谷のオリンパス旧本社
2009年のオリンパス旧幡ヶ谷本社。撮影:Kamemaru2000/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0。

会社の技術・事業の歴史と事件後の再編は、「オリンパスの歴史」でも詳しく扱っています。

オリンパス問題などを背景に、監査基準側でも不正リスクへの対応強化が進み、2013年には「監査における不正リスク対応基準」が設定されました。

AIJ投資顧問|年金運用の数字を信用できるか

2012年にはAIJ投資顧問による年金資産運用問題が表面化しました。

顧客である年金基金などに示されるファンドの基準価額や運用実績が適切でなければ、基金側は資産状況を判断できません。

企業の決算書とは別に、資産運用会社が顧客に提供する運用情報をどう検証するかという監督課題が浮かび上がりました。偽の基準価額、約1100億円の損失、厚生年金基金への影響はAIJ投資顧問事件の詳細で整理しています。

東芝|強い業績目標と会計処理

2015年の東芝問題では、工事損失引当金の過少計上、売上の過大計上、費用等の過少計上などが認定されました。

問題の背景では、経営目標を達成する圧力と、それを止める取締役会・内部統制・監査の働きが問われました。「チャレンジ」と2,248億円の利益過大計上、監査・ガバナンスの経緯は東芝の不正会計問題の詳細で整理しています。

川崎市幸区にあるラゾーナ川崎 東芝ビルの外観
ラゾーナ川崎 東芝ビル(2024年)。撮影:Akonnchiroll/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。

経営者による内部統制の無効化や監査への情報不足は、J-SOXと監査制度の実効性を弱めます。

大手監査法人の組織運営にも注目が集まり、2017年には「監査法人のガバナンス・コード」が公表されました。

スルガ銀行|不正融資と営業文化

2018年、スルガ銀行の投資用不動産融資で、賃料、入居率、預金残高、所得確認資料などの改ざんが多数確認されました。37,907物件の全件調査、99%超の審査承認、金融庁処分、2026年まで続く返済協議はスルガ銀行不正融資事件の詳細で整理しています。

金融庁は、相当数の営業職員が不正を認識または疑いながら業務を行い、一部では銀行員自身が改ざんを促したり行ったりした事例も認定しました。

強い営業目標、審査部門の牽制、内部監査、経営管理、組織文化までが問題となりました。

1990年代の不正融資と比較すると、約30年後にも「数字を達成する圧力」と「牽制部門が止められるか」という問題が繰り返されています。

かんぽ生命・日本郵便|顧客保護と営業目標

2019年には、かんぽ生命保険と日本郵便による保険商品の不適正な募集が問題となりました。

契約乗換えによって保険料の二重払い、無保険期間など顧客に不利益を生じさせた事例が確認され、金融庁は業務停止命令・業務改善命令を出しました。

金融商品を販売する現場で顧客本位の業務運営が行われているかも、監督の大きな論点になりました。

2020年代|不祥事はIT・市場・保険・情報管理へ広がる

みずほ銀行|システム障害も金融ガバナンスの問題になる

2021年、みずほ銀行ではATM停止などを含むシステム障害が繰り返し発生しました。

金融庁はシステムの技術的問題だけでなく、再発防止策を実行できる経営管理態勢、組織間の連携、ガバナンスを問題にしました。

銀行業務がデジタル化した時代には、ITシステムの安定稼働自体が預金・決済の信用を支える金融インフラになります。

SMBC日興証券|相場操縦

2022年、SMBC日興証券ではブロックオファー取引に関連し、複数の上場株式の価格を維持する目的で違法な買付け等を行ったとして、行政処分につながりました。10銘柄への自己勘定買付け、社内監視、刑事裁判までの経緯はSMBC日興証券相場操縦事件の詳細で整理しています。

1991年の損失補填問題から約30年が経過しても、証券市場では「公平な価格形成を誰が守るのか」が変わらない核心です。

ただし監視手段は大きく進歩し、取引データを用いた市場監視、証券取引等監視委員会、取引所自主規制など複数の監視層が機能する時代になっています。

ビッグモーターと損保ジャパン|代理店との関係まで問われる

2023~24年には、ビッグモーターをめぐる自動車保険金不正請求問題と、損保ジャパンの対応が大きな問題になりました。

金融庁は損保ジャパンとSOMPOホールディングスに業務改善命令を出し、保険金支払管理、代理店管理、経営管理態勢などの抜本的な改善を求めました。

販売代理店、修理業者、グループ会社など、顧客接点を含む取引網全体の管理が金融監督の対象になりました。

大手損保4社の保険料調整

同時期、大手損害保険会社4社では企業向け保険の保険料等を事前に調整する行為が広範に確認されました。

金融庁は2023年12月に4社へ業務改善命令を出しました。特定の担当者だけの問題ではなく、企業営業部門を中心に広く反復・継続していたこと、政策保有株式や営業協力など企業間関係、営業目標、コンプライアンス意識など構造的な問題が指摘されました。

ビッグモーター問題と保険料調整問題を受け、損害保険業の構造的課題について有識者会議・金融審議会で制度見直しが進みます。

2025年に保険業法が改正され、大規模乗合保険代理店の体制整備義務、保険会社による代理店管理、過度な便宜供与などの規制が強化されました。改正法は2026年6月1日に施行されています。

事件から制度改正までの流れが最も明確に追える近年の例です。

MUFG|銀行と証券の間で顧客情報をどう守るか

2024年、三菱UFJ銀行とグループ証券会社の間で、法人顧客の非公開情報を不適切に共有した事例が確認され、行政処分につながりました。

金融グループが銀行・証券を横断してサービスを提供するほど、顧客情報を共有する便利さと、顧客の同意・利益相反を管理する必要性がぶつかります。

金融グループが巨大化した時代ならではの内部管理問題です。

野村證券|国債先物市場の相場操縦

2024年には野村證券による長期国債先物取引で相場操縦が認定され、証券取引等監視委員会が課徴金納付命令を勧告しました。

国債先物のような専門的な市場でも、取引の公正性が監督対象です。

金融取引が高度化しても、「市場価格を人為的にゆがめない」という基本原則は変わりません。

2025~2026年|大型会計不正が再び問う内部統制

2000年代に内部統制報告制度が始まり、監査法人のガバナンスも強化されました。それでも2025~26年には、複数の大手・上場企業で会計・開示・内部管理の問題が表面化しました。

ニデック|M&Aで広がったグループを誰が統制するのか

ニデックは2025年9月、グループ内の不適切な会計処理の疑義について第三者委員会を設置しました。

2026年4月17日の最終報告では、国内外の複数拠点で多数の会計不正が認定されました。

主な手法には、 ・棚卸資産の評価損計上の回避 ・実現確度の低い計画を用いた固定資産の減損回避 ・本来費用処理すべき支出の資産計上 ・収益として認められない項目の計上 などが含まれます。

東京証券取引所は、経営トップによる過度な業績プレッシャー、監査等委員会・経理・内部監査等の牽制機能不全、M&A後のグループ会社管理の弱さ、会計監査人への不誠実な対応などを問題として挙げました。

ニデック株式は2025年10月28日に特別注意銘柄へ指定され、2026年4月30日には上場契約違約金9,120万円の徴求が決定されています。

京都市南区のニデック本社・中央開発技術研究所
ニデック本社・中央開発技術研究所(2012年)。撮影:J o/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0。

ニデックでは、経営トップの業績プレッシャー、現場の会計処理、経理・監査・取締役会の牽制、M&A後のグループ管理が一連の内部統制問題として表面化しました。

発端から最終報告、純資産への影響額、監査・内部統制の評価はニデック会計不正の詳細で整理しています。

2026年9月4日には、会計問題とは別に品質不適切行為の調査結果も公表され、グループ全体で844件が認定されました。会計問題とは別の調査であり、企業統治の改善が複数領域にまたがっています。

エア・ウォーター|トップの業績圧力と調査妨害

エア・ウォーターでも2026年、不適切な会計処理について特別調査委員会の報告が公表されました。

在庫の過大計上・評価損先送り、売上の過大・先行計上、引当金の計上回避、資産性のない支出の資産計上などが問題となりました。

JPXは、経営トップによる過度な業績プレッシャー、取締役会・監査役会・管理部門・内部監査部門の機能不全、M&Aで拡大したグループ全体の統制不足に加え、監査法人や調査委員会への虚偽説明、資料・データ改ざん、調査妨害まで指摘しています。

2026年5月1日に特別注意銘柄に指定され、上場契約違約金9,120万円が徴求されました。在庫・売上・費用処理から内部監査、M&A後の子会社管理までの詳細は「エア・ウォーター不適切会計問題とは?」で整理しています。

ニデックと並べて読むと、グループ企業の拡大に内部管理体制が追いつかなかった問題が共通していることが分かります。

KDDI|子会社の架空取引が巨大企業の連結決算へ波及

KDDIは2026年3月、子会社の広告代理店事業で実体のない架空取引が行われていたことなどを受け、過年度決算を訂正しました。

東京証券取引所によると、訂正により2023年3月期から2026年3月期第2四半期までの開示で、売上高、営業利益、親会社株主に帰属する利益が累計で大幅に過大計上されていたことが明らかになりました。

東証は2026年4月30日、改善報告書の提出を求め、上場契約違約金9,120万円を徴求しました。

大企業では親会社本体の経理だけでなく、連結対象となる子会社の取引実態をどこまで把握できるかが財務報告の信頼を左右します。

I-ne、JET|上場・市場区分変更の審査時点まで遡る

2026年6月、I-neとジェイ・イー・ティには、宣誓書違反による再審査の猶予期間入りと上場契約違約金の徴求が決定されました。

I-neでは関連当事者に該当する取引先との商標権取引等をめぐり、関連当事者取引の注記や内部管理が問題となりました。

ジェイ・イー・ティでは上場準備や予算達成への強いプレッシャーの下、収益認識要件を満たさない売上の前倒しなどが行われたことが認定されました。

上場申請時に提出した宣誓書や、上場審査に使われた財務情報・内部統制の説明まで審査対象となっています。

ENECHANGE|虚偽記載への課徴金

2026年6月、証券取引等監視委員会はENECHANGEの四半期報告書等の虚偽記載について、課徴金納付命令を勧告しました。

2020年代後半も、開示書類の正確性を監視する仕組みは現役です。SESCによる課徴金勧告、金融庁による処分、JPXによる上場規則上の措置は、それぞれ異なる役割を持っています。

Abalance|上場廃止決定まで進んだ内部管理問題

2026年1月、Abalanceは特別注意銘柄に指定されました。

東証は、グループガバナンス、関連当事者取引管理、海外子会社からの情報収集、適時開示、会計に係る内部統制などに問題があると判断しました。

会社は改善計画を策定しましたが、元代表取締役会長兼CEOに事実上集中した権限からの脱却や、国内・海外部門の管理体制の抜本的な再編について実施困難との見解を示しました。

2026年8月25日、東京証券取引所は、内部管理体制等が適切に整備・運用される見込みがなくなったとして上場廃止を決定しました。

2026年9月8日現在は整理銘柄指定期間中で、上場廃止予定日は9月26日です。有償支給取引から第三者委員会・検証委員会、改善計画、上場廃止決定までの経緯は「Abalance上場廃止はなぜ?」で詳しく整理しています。

1990年代には、大手銀行・証券会社を救済するのか、破綻処理するのかが金融行政の最大問題でした。

2026年には、上場会社の内部管理体制を市場が信用できるのか、改善の見込みがない場合に上場市場から退出させるのかが問題になっています。

「市場の信用を守る」という目的は共通していますが、その対象は金融機関そのものから、企業の財務報告・内部統制・グループ経営へ広がりました。

35年間で何が変わったのか

1990年代から2026年までの事件を並べると、不祥事の中心が移ってきたことが分かります。

時代代表的な問題監督が守ろうとしたもの
1990年代前半損失補填、不正融資市場の公平、融資審査
1997~98年金融機関破綻預金、決済、金融システム
2000年代虚偽開示、監査不祥事財務情報、投資家
2010年代損失隠し、不正融資、運用偽装企業統治、顧客資産
2020年代前半IT障害、相場操縦、保険問題デジタル金融、市場、顧客保護
2025~26年大型会計不正、子会社管理内部統制、グループガバナンス、上場市場の信用

1992年の証券取引等監視委員会、2008年度のJ-SOX、監査法人のガバナンス強化と制度は段階的に更新されました。2025~26年の事例では、取締役会、経理、監査、内部監査、営業現場、子会社管理が制度を実際に機能させられるかが改めて問われました。

主要事件・制度の年表

年事件・制度
1991大手証券会社の損失補填問題、金融機関の不正融資問題
1992証券取引等監視委員会発足
1995大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件
1995~96住専問題
1997三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券の経営問題
1998長銀・日債銀の特別公的管理、金融監督庁発足
2000金融庁発足
2004西武鉄道の有価証券報告書問題
2005カネボウ会計不正問題
2006ライブドア事件、金融商品取引法成立
2007公認会計士法改正
2008内部統制報告制度が本格適用
2011オリンパス問題発覚
2012AIJ投資顧問問題
2013監査における不正リスク対応基準
2015東芝会計問題
2017監査法人のガバナンス・コード
2018スルガ銀行不正融資問題
2019かんぽ生命・日本郵便の不適正募集問題
2021みずほ銀行のシステム障害と行政処分
2022SMBC日興証券の相場操縦問題
2023大手損保4社の保険料調整問題
2024損保ジャパン・SOMPO行政処分、MUFG銀証情報共有問題、野村證券国債先物相場操縦
2025保険業法改正、ニデック特別注意銘柄指定
2026改正保険業法施行、ニデック・エア・ウォーター・KDDI等へのJPX措置、I-ne・JET再審査猶予期間、Abalance上場廃止決定

参考文献

  1. 財務省「平成財政史」
  2. 金融庁「金融行政のあゆみ」
  3. 証券取引等監視委員会「証券取引等監視委員会について」
  4. 証券取引等監視委員会「告発事件の概要一覧表」
  5. 金融庁「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」
  6. 金融庁「日本郵政グループに対する行政処分について」
  7. 金融庁「みずほ銀行及びみずほフィナンシャルグループに対する行政処分について」
  8. 証券取引等監視委員会「SMBC日興証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」
  9. 金融庁「大手損害保険会社に対する行政処分について」
  10. 金融庁「損害保険ジャパン及びSOMPOホールディングスに対する行政処分について」
  11. 金融庁「三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券及び三菱UFJ銀行に対する行政処分等について」
  12. 証券取引等監視委員会「野村證券株式会社による長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について」
  13. 金融庁「令和7年保険業法改正に係る政令の公布及びパブリックコメント結果」
  14. 金融庁「令和7年改正保険業法に係る監督指針改正」
  15. ニデック「会計に関する第三者委員会の調査結果を踏まえて」
  16. ニデック「事案の概要」
  17. 日本取引所グループ「上場契約違約金の徴求:ニデック」
  18. 日本取引所グループ「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求:エア・ウォーター」
  19. 日本取引所グループ「改善報告書及び上場契約違約金の徴求:KDDI」
  20. 日本取引所グループ「宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求:I-ne」
  21. 日本取引所グループ「宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求:ジェイ・イー・ティ」
  22. 証券取引等監視委員会「ENECHANGEに係る虚偽記載の課徴金納付命令勧告」
  23. 日本取引所グループ「上場廃止等の決定:Abalance」
  24. 日本取引所グループ「特別注意銘柄一覧」
  25. 日本取引所グループ「上場契約違約金徴求会社一覧」