王子駅の周辺には、滝、神社、川、公園が歩いて巡れる距離に集まっています。現在の街並みの下には、武蔵野台地の崖線と石神井川がつくった地形があり、その上に江戸の行楽地、明治の公園、近代産業の歴史が重なっています。
2023年12月2日のゆる歴史散歩会では、名主の滝公園から王子稲荷神社、王子神社、音無親水公園を経て飛鳥山へ向かいました。紅葉の季節に歩いたルートですが、王子の成り立ちをたどる歴史散歩として一年を通して楽しめるコースです。
王子・飛鳥山はなぜ江戸の行楽地になったのか
王子は、武蔵野台地の東端と低地が接する場所です。崖線から湧く水と石神井川が景観をつくり、江戸時代には滝、桜、紅葉を楽しむ行楽地として知られました。石神井川は王子付近で「音無川」と呼ばれ、春の桜、夏の滝浴び、秋の紅葉が人々を集めました。
さらに王子神社と王子稲荷神社が信仰を集め、18世紀には八代将軍徳川吉宗が飛鳥山を桜の名所として整えます。自然の地形、寺社参詣、花見が近い範囲にそろったことが、王子を江戸近郊の代表的な行楽地へ育てました。
名主の滝公園|王子七滝の面影を残す
名主の滝は、安政年間(1854~1860年)に王子村の名主だった畑野孫八が自邸に開いたことに始まります。明治中頃に所有者となった垣内徳三郎によって庭園として整備され、戦災後の再整備を経て現在の区立公園となりました。
王子周辺にはかつて「王子七滝」と呼ばれる七つの滝がありました。現在まで残るのは名主の滝だけです。園内の男滝は約8mの落差があり、武蔵野台地の縁で水が低地へ落ちていた王子の地形を実感できます。
名主の滝公園では再生整備が進められており、男滝は2025年8月4日から2028年3月末まで停止予定です。園内は一部を除いて散策できます。
王子稲荷神社|狐が集まる町の伝承
王子稲荷神社は、江戸時代から関東の稲荷信仰の中心として多くの参詣者を集めました。王子には、大晦日の夜に関東各地の狐が集まり、装束を整えて王子稲荷へ参詣したという伝承があります。

狐たちが集まったとされる榎と狐火の伝説は、歌川広重の「名所江戸百景」にも描かれました。現在も大晦日の「王子狐の行列」へ受け継がれ、王子の地域文化を象徴する物語になっています。
王子神社|「王子」という地名の始まり
王子神社は、中世の領主・豊島氏が熊野信仰に基づいて紀州熊野三山の若一王子を勧請した神社です。この地域は古くは岸村と呼ばれていましたが、神社にちなみ王子村と呼ばれるようになりました。現在の「王子」という地名につながる神社です。

江戸時代には徳川将軍家からも崇敬され、八代将軍吉宗は飛鳥山を王子権現へ寄進しました。王子神社と飛鳥山は、現在も音無親水公園を挟んで歩いて行き来できる距離にあります。
音無親水公園|石神井川の旧流路を歩く
音無親水公園は、石神井川の旧流路に整備された公園です。王子付近の石神井川は音無川と呼ばれ、江戸時代から桜、青楓、滝浴び、紅葉の名所として親しまれました。

戦後、市街化に伴う水質悪化と洪水対策から河川改修が進み、昭和30年代以降、飛鳥山の地下に2本のトンネルを通して流路を短絡しました。取り残された旧流路を利用して整備されたのが現在の親水公園です。江戸の景勝地だった川と、現代の治水が同じ場所で重なっています。
飛鳥山公園|徳川吉宗が育てた花見の名所
徳川吉宗は享保5・6年(1720・1721年)、飛鳥山に合わせて1,270本の桜を植えました。桜が育った元文2年(1737年)には飛鳥山の地が王子権現社に下され、山上に飛鳥山碑が建立されました。
寺社の境内などに限られがちだった江戸の花見に対し、飛鳥山は庶民が酒宴や散策を楽しめる開放的な行楽地として発展しました。明治6年(1873年)には、上野、芝、浅草、深川とともに公園に指定され、日本最初期の公園の一つとなりました。
現在の飛鳥山公園には、桜や飛鳥山碑に加え、紙の博物館、北区飛鳥山博物館、渋沢史料館が集まります。江戸の花見から近代産業まで、王子の歴史を一か所でたどれる公園です。
渋沢栄一と飛鳥山|邸宅と近代製紙
渋沢栄一は飛鳥山に邸宅「曖依村荘」を構えました。その跡地は現在の飛鳥山公園の一部となり、園内には大正期の建物である晩香廬と青淵文庫が残っています。いずれも国の重要文化財です。

晩香廬は1917年、渋沢の喜寿を祝って清水組から贈られた洋風茶室で、内外の賓客を迎える場として使われました。青淵文庫は渋沢の傘寿と子爵昇格を祝って贈られ、1925年に竣工しています。

王子は渋沢が関わった近代製紙業の重要拠点でもあります。1872年に抄紙会社の設立が計画され、1874年に王子への工場建設が決まり、1875年に操業を開始しました。1876年に製紙会社、1893年に王子製紙へと名称を変え、日本の近代製紙を支えました。渋沢と王子の関係は、渋沢栄一が形づくった東京|日本橋・兜町・王子・飛鳥山を歩くでも詳しく紹介しています。
あすかパークレール|崖線を上る「アスカルゴ」
飛鳥山公園の東側には、無料の公園モノレール「あすかパークレール」があります。車両の愛称は「アスカルゴ」。王子駅中央口付近から飛鳥山の山頂側まで、武蔵野台地の段差を短い距離で上ります。

名主の滝や音無川を歩いてから飛鳥山へ上ると、王子の地形がよく分かります。低地の水辺と高台の行楽地が隣り合うことが、この町の歴史を形づくってきました。
2023年12月2日に歩いたルート
ゆる歴史散歩会では、次の順番で王子から飛鳥山周辺を歩きました。リンク先は各地点のGoogleマップです。
名主の滝で王子の地形を見て、二つの神社で信仰と地名の歴史をたどり、音無親水公園から飛鳥山へ上る流れです。北とぴあの展望ロビーまで足を延ばすと、歩いてきた王子の街を高い位置から見渡せます。
王子をもう少し歩く
飛鳥山周辺には、近代製紙のほかにも醸造試験所、地層、鉄道、飛鳥山碑など多くの歴史が残っています。周辺をさらに歩くなら、醸造試験所、地層、神社、飛鳥山など王子の歴史をめぐるお散歩もあわせてどうぞ。

