藝祭「開口一番」とは?御輿・法被の歴史と2024・2025・2026年の記録

藝祭2026の開口一番に並ぶ4基の御輿

東京藝術大学の学園祭「藝祭げいさい」初日。上野公園へ4基の巨大な御輿みこしが現れ、学生たちが自作の法被はっぴをまとい、音楽と振付を重ねて競い合います。これが「開口一番」です。

御輿の造形は美術学部生が中心となり、構成・振付・楽曲制作や演奏は音楽学部生が中心となって進めます。入学したばかりの1年生が学科の境界を越えて4隊を組み、ひと夏を費やして一つの世界をつくる。藝祭のなかでも、東京藝大らしさが最も濃く表れる催しの一つです。

1903年から続く藝祭と御輿の歴史には、制作方法や表彰の仕組み、上野の街との関係が重なっています。東京藝術大学周辺の歴史は、上野公園の外周を歩く歴史散歩でも詳しく紹介しています。上野キャンパスに残る岡倉天心像やロダン作品などは、東京藝術大学の銅像・記念像28体で人物と作者からたどれます。

藝祭の「開口一番」とは?

開口一番は、藝祭初日に上野恩賜公園の竹の台広場で行われるオープニングイベントです。1年生は美術・音楽の学科を組み合わせた4隊に分かれ、それぞれが制作した御輿と法被を使ってパフォーマンスを披露します。

東京藝術大学美術学部正門と大学美術館
東京藝術大学美術学部正門と大学美術館。撮影:Kakidai/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

藝祭実行委員会の説明では、御輿は美術学部生を中心に制作し、音楽学部生を中心に構成・振付・使用楽曲の作曲や演奏を組み立てます。法被も各隊がテーマに合わせてデザインし、布選び、印刷、裁断、縫製まで手がけます。

初日の午前には御輿パレードが行われ、4基が上野公園へ到着した後に開口一番が始まります。御輿を「作品」として静かに眺める展示とは異なり、担ぎ手の動き、音、衣装、物語が同時に立ち上がるのが開口一番の特徴です。

開口一番の基本情報|いつ・どこで行われる?

  • 開催時期:例年9月上旬、藝祭初日
  • 主会場:上野恩賜公園・竹の台広場(噴水前)
  • 参加:東京藝術大学の学部1年生を中心とする4隊
  • 内容:御輿パレード、開会、4隊のパフォーマンス、表彰
  • 観覧:上野公園内の会場で観覧

2026年の藝祭は9月4日(金)から6日(日)までの3日間、上野キャンパスと上野の街を舞台に開催。公式サイトは第79回と案内しています。開口一番は初日の主要行事として位置づけられています。

藝祭2026「開口一番」|4隊の御輿とコンセプト

2026年の藝祭テーマは「コイ、コガレ」。4隊はいずれもこの言葉から着想しながら、まったく異なる御輿と法被を設計しました。9月4日の開口一番は、10時の御輿パレードに始まり、11時30分からサンバ演奏、学長挨拶、委員長挨拶へ続きました。4隊のパフォーマンス後、12時45分から授賞式が行われ、13時に終了しました。

2026年9月4日の実際のスケジュール

時刻内容
10:00御輿パレード
11:30開口一番開始/サンバ演奏/学長挨拶/委員長挨拶
11:40御輿パフォーマンス① 油画・建築・打楽器・指揮・オルガン・古楽・声楽チーム
11:55御輿パフォーマンス② 彫刻・先端芸術表現・音楽環境創造・ピアノ・管楽チーム
12:10御輿パフォーマンス③ デザイン・芸術学・作曲・弦楽チーム
12:25御輿パフォーマンス④ 日本画・工芸・邦楽・楽理チーム
12:45授賞式
13:00開口一番終了

① 油画×建築×打楽器×指揮×オルガン×古楽×声楽|亀と万年の繁栄

「万年」の長寿を象徴する亀を軸に、崩れない繁栄への祈りを造形しました。法被には縮緬や亀の意匠、金の組紐などが用いられ、御輿の主題を衣装側から支えます。

② 彫刻×先端芸術表現×音楽環境創造×ピアノ×管楽|ガチョウと水

複数の異なる意志がぶつかり、その摩擦が熱狂へ変わるという構想です。法被はガチョウの動きに合わせて揺れる水を抽象化し、青地にシルバーの印刷を重ねて波のきらめきを表しました。

③ デザイン×芸術学×作曲×弦楽|月と軌道

月へ向かう憧れを、衛星やロケットの軌道へ広げた構想です。満ち欠けする月と、その周囲をめぐる軌道を法被にも取り込み、「見上げる憧れ」を前へ進む力に変えています。

④ 日本画×工芸×邦楽×楽理|月兎

月に棲む兎の伝承を核にした御輿です。法被では「月見」をモチーフに、伝承の月兎と、現代に月を見上げる人間を結びました。暗い夜と月光という明快な対比が、御輿と衣装の両方に通っています。

4隊の御輿パフォーマンスをフル動画で見る

11時40分から12時25分まで、4隊が15分刻みで登場した御輿パフォーマンスの全編です。御輿の動き、法被、楽曲、掛け声、隊列の変化を通して、4隊それぞれの演出を続けて見比べられます。

2026年の授賞式をフル動画で見る

4隊のパフォーマンス終了後、12時45分から行われた授賞式の全編です。各賞が読み上げられ、受賞隊が決まっていく当日の進行をそのまま確認できます。

終了後の撮影タイム|4基の御輿を近くで見る

13時の開口一番終了後には、4基の御輿を撮影する時間が設けられました。激しく動くパフォーマンス中とは違い、造形や彩色、御輿ごとの輪郭を近い距離から見られる様子を収録しています。

開口一番の見どころ|御輿・法被・音楽が一つになる

開口一番の第一の見どころは、巨大な御輿が「動く」ことです。道路展示では細部の造形を近くから観察できますが、開口一番では担ぎ上げられ、回転し、隊列が組み替わり、音楽とともに作品の印象が変化します。

第二は法被です。御輿と同じテーマを別の媒体へ移し替えるため、色、柄、素材、印刷方法まで各隊で異なります。2025年の公式案内では、法被はデザインから縫製まで学生が一着ずつ手作業で制作すると紹介されました。

第三は音楽と構成です。音楽学部生が中心となって楽曲、演奏、振付をつくるため、同じ「巨大造形」の競技でも、4隊の表現は劇、祭礼、ダンス、演奏会のように大きく違います。御輿・法被・音・動きの対応を見ると、各隊が何を作ろうとしたのかが分かりやすくなります。

なぜ藝大生は御輿を作る?藝祭と開口一番の歴史

藝祭げいさいの源流は、東京藝術大学美術学部の前身・東京美術学校が1903年に開催した「第一回美術祭」です。東京藝術大学アーカイブセンターの「藝祭100年の歴史展」は、現在の御輿パレードが明治期の美術祭で行われた「仮装行列」に由来するとしています。

1913年の東京美術学校
1913年の東京美術学校。現在の東京藝術大学美術学部の前身です。Wikimedia Commons/Public Domain

現在の御輿は、学生たちが毎年新しい造形を生み出す藝祭独自の文化です。現在は発泡スチロールによる造形が中心ですが、1979年度の資料では木材で骨組みを作っていたことが確認できます。

パレードの先頭を彩る「藝大サンバ・パーティ」の演奏は1980年から始まりました。御輿、法被、サンバ、上野の街という現在の景観は、明治以来の行列文化に、時代ごとの学生文化が重なって形づくられています。

2020・2021年のコロナ禍を経た2022年には、御輿制作の技術継承そのものが課題になりました。藝祭実行委員会は、2019年に実際の御輿を制作した世代が卒業するため、先輩から後輩へ直接ノウハウを渡せる「ラストチャンス」と説明しています。毎年新作を壊して終わる御輿文化は、作品そのものより、作り方と記憶を人から人へ渡すことで続いてきました。

東京美術学校が置かれた上野一帯は、江戸時代には寛永寺の広大な寺域でした。上野戦争後、公園・博物館・学校が集まる近代文化地区へ転換していきます。土地の変化は上野公園と徳川将軍家でもたどれます。

御輿はどう作る?マケットから巨大造形まで

制作は入学後の早い時期から始まります。4隊はまずテーマとデザインを練り、小型模型の「マケット」を制作します。2026年も仮マケットを作り、検討を重ねた本マケットと実物制作を並行して進めました。

現在の御輿は発泡スチロールを大きく切り出し、削り、接着し、表面を整え、塗装して形をつくる方法が中心です。見た目の迫力だけでなく、人が実際に担いで動かせる重さと構造が必要になります。

2025年に注目を集めた「藝大門担ぎ蛙」は、デザイン・芸術学・作曲・弦楽チーム約118人のうち約50人が御輿制作に関わったと制作取材で紹介されています。御輿係と法被係に分かれつつ、音楽系の学生も造形を手伝い、学科横断の制作が進みました。

開口一番では何を競う?11の賞と表彰の仕組み

4隊のパフォーマンス後には複数の賞が授与されます。賞の数や名称は年度によって変わります。2025年に東京藝術大学公式が掲載した受賞記録を数えると、開口一番で授与された賞は11です。

  • KOMOGOMO展賞
  • 藝育会賞
  • 江戸川区あーとtoともに賞
  • 岡倉天心おかくらてんしん・北茨城市長賞
  • 上野観光連盟賞
  • 神田明神賞
  • サイバーエージェント賞
  • マケット賞
  • 藝祭委員賞
  • 上野6丁目商店街賞
  • 学長賞

「岡倉天心・北茨城市長賞」は、東京美術学校校長を務めた岡倉天心と、日本美術院が活動拠点を置いた北茨城市との縁から設けられています。上野6丁目商店街の賞には、受賞御輿が後日商店街を渡御するという役割もあります。2025年公式サイトでは、初日の審査で上野6丁目商店街連合会賞を受賞した科の御輿が、藝祭最終日に商店街を渡御すると案内されました。

藝祭2025「開口一番」|雨の中で4隊が競演

2025年の藝祭テーマは「たまゆら」。9月5日(金)の初日は台風接近で荒れた天候となりましたが、上野公園で開口一番が行われました。

時刻内容
10:00御輿パレード第1陣
11:00御輿パレード第2陣
12:00開口一番開始、サンバ演奏・挨拶・テーマ楽曲披露
12:20デザイン・芸術学・作曲・弦楽
12:35彫刻・先端芸術表現・音楽環境創造・管楽・ピアノ
12:50油画・建築・打楽器・指揮・オルガン・古楽・声楽
13:05日本画・工芸・邦楽・楽理
13:20授賞式
13:45終了

2025年の4基

  • 日本画・工芸・邦楽・楽理:太平と調和をもたらす神獣「麒麟」
  • 彫刻・先端芸術表現ほか:提灯と金魚、水面の光を組み合わせた「祭と夢幻」
  • デザイン・芸術学・作曲・弦楽:東京藝大の門を背負い、蛙が跳ねる「藝大門担ぎ蛙」
  • 油画・建築・声楽ほか:大樹や苔、悠久の時間を主題とした御輿

公式受賞記録では、日本画・工芸・邦楽・楽理が学長賞と上野6丁目商店街賞、デザイン・芸術学・弦楽・作曲が岡倉天心・北茨城市長賞など4賞、彫刻系が2賞、油画・建築系が3賞を受賞しました。別企画の法被関連賞を含めて「藝大門担ぎ蛙」が6冠と紹介された制作取材もあり、御輿本体、マケット、法被など複数の評価軸が並行していることが分かります。

藝祭2024「開口一番」|孔雀・閻魔大王・獏・ガルーダ

2024年の藝祭テーマは「えん」。9月6日(金)に上野恩賜公園・竹の台広場で開催されました。10時と11時にパレードが出発し、12時に開口一番、12時20分から御輿パフォーマンス、13時20分に表彰式、13時40分に終了という進行でした。

  • 日本画・工芸・邦楽・楽理:繁栄と自由への祈りを込めた「孔雀」
  • 油画・建築・声楽ほか:罪と救済の両面を持つ「閻魔大王」
  • デザイン・芸術学・作曲・弦楽:悪夢を食べ、無病息災をもたらす「獏」
  • 彫刻・先端芸術表現ほか:希望の翼を持つガルーダ「希翼天翔御輿」

受賞は、日本画・工芸・邦楽・楽理が上野6丁目商店街連合会賞とマケット賞、デザイン・芸術学・弦楽・作曲が藝育会賞、江戸川区あーとtoともに賞、神田明神賞、彫刻系が岡倉天心・北茨城市長賞、上野観光連盟賞、藝祭委員賞、油画・建築系がKOMOGOMO展賞と学長賞でした。2024年は10賞、2025年は11賞となり、賞の構成が毎年固定ではないことも分かります。

開口一番を初めて見るなら、どこに注目する?

御輿全体の形を見たい場合は、4基が並ぶ場面と各隊の演技開始直後が分かりやすい時間です。細部は開口一番後の道路展示の方が見やすく、パフォーマンスでは「どう動かすか」に注目すると違いが際立ちます。

法被は背面だけでなく、隊列が反転した瞬間や袖が動いたときに柄の構成がよく見えます。楽曲や掛け声と御輿の動きが一致する場面も多く、動画で振り返ると現地では見逃した演出を拾えます。

混雑や見え方は天候と年度の運営で変わります。公式タイムテーブルと会場案内を確認し、開口一番だけでなく午前の御輿パレード、終了後の道路展示まで組み合わせると、作品を「動き」と「造形」の両方から見られます。

開口一番の後も続く|法被コレクション・展示・上野の渡御

開口一番の後も、御輿は展示や渡御で登場します。2025年は初日15時ごろから藝大前道路で御輿を展示し、2日目には上野公園・袴腰広場で法被コレクション、最終日には上野6丁目商店街で受賞御輿の渡御が行われました。

2026年も、開口一番に加えて法被コレクション、御輿・法被展示、上野の商店街との企画が案内されています。初日に遠くから見た巨大造形を後日近くで見直すと、塗装、表面処理、継ぎ目、法被の印刷など、演技中には見えなかった制作の痕跡がよく分かります。

藝祭と開口一番に関するよくある質問

開口一番は何時ごろ行われますか?

開始時刻は年によって変わります。2024年は12時開始・13時40分終了、2025年は12時開始・13時45分終了、2026年9月4日は11時30分開始・13時終了でした。

御輿は開口一番以外でも見られますか?

近年は藝大前道路での展示があります。2025年は初日15時ごろから道路展示が予定され、2日目・3日目も展示時間が設けられました。

なぜ4チームなのですか?

1年生が美術学部と音楽学部の複数学科を組み合わせ、4隊を編成するのが現在の基本形です。各隊で造形系と音楽系の役割が交わるため、御輿・法被・楽曲・演技を一体で制作できます。

賞は毎年11個ありますか?

賞の数と名称は年度で変わります。東京藝術大学の公式受賞記録では2024年は10賞、2025年は11賞でした。

参考資料