2006年1月18日、東京証券取引所は取引時間中に株式など全銘柄の売買を停止しました。注文が急増し、システムの処理能力を超えるおそれが生じたためです。東証によれば、株式の現物全銘柄をこうした形で停止したのは初めてでした。
その引き金となったのが、2日前の1月16日に東京地検特捜部がライブドア本社などへ行った強制捜査です。ライブドア事件では、本体の粉飾決算と、子会社ライブドアマーケティングを巡る偽計・風説の流布という二つの旧証券取引法違反が刑事裁判で審理されました。
実際には約3億円の経常赤字だったライブドアの連結決算が、なぜ約50億円の経常黒字として公表されたのか。まず事件の仕組みから見ていきます。
赤字3億円が黒字50億円に化けた「粉飾決算」の仕組み
一つ目の事件は、ライブドア本体による有価証券報告書の虚偽記載です。
2004年9月期の実際の連結経常損益は約3億1,278万円の赤字でした。しかし、有価証券報告書には50億3,421万1,000円の経常黒字と記載されました。この差を生んだ中心が、次の二つの処理です。
自社株の売却益を売上に計上した
ライブドア側は、投資事業組合などを介してライブドア株を売却して得た37億6,699万6,000円を連結売上高に含めました。証券取引等監視委員会は、これを「売上計上の認められない自社株売却益」の計上としています。
架空売上を計上した
さらに、実体のない取引によって7億円と8億8,000万円、合計15億8,000万円の架空売上を計上しました。
37億6,699万6,000円の自社株売却益の不正計上と15億8,000万円の架空売上が、赤字決算を大幅な黒字に見せる中心となりました。
子会社を舞台にした「偽計・風説の流布」
二つ目は、子会社ライブドアマーケティングを巡る偽計・風説の流布事件です。
ライブドアマーケティングは、出版社マネーライフを株式交換で完全子会社化すると公表しました。しかし証券取引等監視委員会によれば、マネーライフは実質的にはすでにライブドアが買収済みでした。それを新たな株式交換による買収であるかのように公表したことが問題となりました。
この株式交換ではマネーライフの企業価値を過大に評価した交換比率が使われ、ライブドアマーケティング株について1株を100株にする大規模な株式分割も公表されました。さらに、第3四半期には架空売上を計上し、本来は赤字だった業績を黒字化したという虚偽の情報を発表しました。
証券取引等監視委員会は、一連の公表によってライブドアマーケティングの株価を上昇させ、その株式を売却して利益を得ようと企てたものとして告発しています。株式交換で投資事業組合側が取得した株式は市場で売却され、得られた資金の大部分がライブドア側へ還流しました。
トップは不正を知らなかったのか?
事件の仕組みを踏まえると、次に問題となるのが、当時の代表取締役だった堀江貴文氏が不正を認識していたのかという点です。
一審の東京地裁は、堀江氏が元取締役らと共謀して一連の不正に関与したと認定しました。東京高裁も、粉飾決算について故意や共謀がなかったとする堀江氏側の主張を退け、一審判決を支持しました。2011年4月25日に最高裁が上告を棄却し、懲役2年6月の実刑判決が確定しています。
確定した刑事裁判では、堀江氏が幹部らと共謀して一連の不正に関与したと認定されています。

なぜ不正を止められなかったのか
事件では、投資事業組合と監査のあり方も問題になりました。
投資事業組合そのものは、企業投資などに使われる合法的な仕組みです。ライブドア事件では、ライブドア側と密接な組合を介在させたことで、株式の保有主体や売却資金の流れが外部から見えにくくなっていました。
また、ライブドアの監査を担当していた港陽監査法人の公認会計士も責任を問われました。公認会計士・監査審査会の資料では、2004年9月期の監査について、公認会計士1人が虚偽のある財務書類を故意に虚偽のないものとして監査証明したとして登録抹消となり、別の公認会計士らも業務停止処分を受けています。港陽監査法人は2006年6月30日に解散しました。
強制捜査から東証の全銘柄売買停止へ
2006年1月16日、東京地検特捜部がライブドア本社などへ強制捜査に入りました。市場では翌日から売り注文が急増し、1月18日午後2時25分時点で注文は約700万件、約定は約400万件に達しました。
東証はシステムの処理能力を超えるおそれがあるとして、午後2時40分から株式など全銘柄の売買を停止しました。東証の当日の説明では、株式の現物全銘柄を取引時間中に停止した初のケースでした。
ライブドア株はその後、2006年4月14日に上場廃止となりました。
ニッポン放送買収は別の出来事
2005年に大きく報じられたニッポン放送株の大量取得とフジテレビを巡る経営権争いは、企業買収を巡る出来事です。堀江氏らが有罪となったライブドア本体の虚偽記載や、ライブドアマーケティングを巡る偽計・風説の流布とは別の事案です。

事件後に残ったもの
ライブドア事件は、財務情報の信頼性、監査、株式分割、取引所システムなど、当時の株式市場が抱えていた複数の問題を一度に表面化させました。
西武鉄道やカネボウなどの会計・開示問題、国際的な監査制度改革などを背景に制度見直しが進んでいた時期にライブドア事件が起こり、市場の公正性や企業情報の信頼性をめぐる問題が改めて強く意識されました。
堀江元社長が収監に向けて出頭した当時の映像
次の動画は、懲役2年6月の実刑判決が確定した堀江元社長が、収監に向けて東京高検へ出頭した当時の様子を伝えています。
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