2026年10月3日から12月20日まで、東京都庭園美術館で「マリメッコ展 模様のちから」が開催されます。1951年創業のマリメッコが生み出してきた3,500種類以上のプリントを、ドレス、ファブリック、原画やスケッチ、制作資料、映像インスタレーションからたどる展覧会です。
花柄や色彩の人気に加え、図案が布になり、布が服や室内へ広がっていく過程が大きな見どころです。そこに注目すると、マリメッコが「模様」を一つの製品ではなく、暮らしを組み立てる仕組みとして育ててきたことが分かります。会場は1933年竣工の旧朝香宮邸。アール・デコの室内装飾とマリメッコのプリントを同じ空間で見る点も、東京会場ならではの特徴です。
マリメッコ展「模様のちから」は何を見る展覧会?
展覧会の中心は、完成した商品よりも「プリントがどう生まれ、どう使われてきたか」にあります。巡回展公式サイトは1960年代から近年までの約70点のドレスを紹介すると案内し、東京都庭園美術館は東京会場について「60点を超えるドレス」としています。会場ごとの展示内容を含む表現の違いはありますが、多数のドレスを通してプリントとシルエットの関係を追う構成は共通しています。
もう一つの柱がプリントメイキングです。自然や日常から得た着想がスケッチ、切り絵、原画などになり、工場で色と版を調整しながら布へ移されます。本展では制作資料に加え、ヘルシンキのプリント・ファクトリーを題材にしたplaplaxの映像インスタレーション、皆川 明による新作インスタレーションも展示されます。
展覧会名の「模様のちから」は、模様の美しさから、図案、印刷、服の形、室内での使われ方までを含む主題です。それらを連続して見ることで、平面のデザインが暮らしの中で機能するまでの工程が主題になります。
1951年創業―アルミ・ラティアが布から始めたブランド
マリメッコは、戦後復興期のフィンランドで1951年に誕生しました。創業者アルミ・ラティアと夫ヴィリヨ・ラティアが関わっていたプリント会社Printexでは、大胆な色と図案の布をつくっていましたが、当初は買い手が用途をイメージしにくいという課題がありました。
そこで布を服に仕立て、使い方そのものを見せます。マリメッコの会社資料によると、リイッタ・インモネンがPrintexの布を使ったシンプルな服をデザインし、1951年5月20日にヘルシンキで最初のファッションショーを開催しました。反響を受け、同年5月25日にMarimekko Oyが商業登記されています。
ブランド名のMarimekkoは「マリのドレス」を意味します。服は布の用途を示すだけでなく、大きなプリントを身体の動きとともに見せる媒体になりました。本展が掲げる「ドレスをキャンバスに」という発想は、この出発点とつながっています。1950年代後半には海外展開が進み、1960年にはジャクリーン・ケネディが7着を購入したことも国際的な知名度を高める契機になりました。
「ドレスをキャンバスに」―約70点で見るプリントと服
マリメッコのプリントは、壁に掛ける一枚絵として完結しません。大きな柄を布の幅いっぱいに展開し、それを服へ仕立てることで、着る人の姿勢や動きに合わせて見え方が変わります。巡回展では、1960年代から近年までのドレスとファブリックを並べ、同じブランドの中でプリントとシルエットがどう変化したかを見せます。
代表的な図案が、マイヤ・イソラの《ウニッコ》です。1964年、アルミ・ラティアが小さく写実的な花柄に消極的だったなか、イソラは花を大きく単純化し、手描きの勢いを残す図案を生み出しました。同じ1964年の《セイレーニ》《カイヴォ》も本展の主要作品として案内されています。花、波、水のような自然の要素をそのまま写すのではなく、反復できる形へ置き換えるところにマリメッコの特徴があります。
アンニカ・リマラのドレスでは、プリントと衣服の形を別々に見るのではなく、一つの設計として捉える視点が有効です。本展には《イソ ライネ》と《ナッピメッコ》など、図案とドレスの組み合わせが複数紹介されます。大柄の配置、服の余白、身体が動いたときの柄の切れ方まで含めて、布のデザインが衣服へ変わる過程を比較できます。
模様はどう生まれる?スケッチから布までのプリントメイキング
プリント制作は、デザイナーが図案を描いた時点では終わりません。マリメッコでは、手描き、デジタル制作、写真、切り絵、植物など、デザイナーごとに異なる方法で原案が生まれます。そこから布として繰り返せるリピートへ整え、色や版の仕様を詰めて印刷へ進みます。現在のヘルシンキ工場には、カラーラボ、製版、印刷、仕上げ、品質検査などの工程があります。
この工程では、図案を拡大したときの見え方、色数、布の上で繰り返したときのつながり、製品にしたときの配置まで調整が必要です。Aalto Universityの研究では、マリメッコでの制作を題材に、プリントデザインと製品デザインの対話が最終製品にどう影響するかが検討されています。図案と製品の形を往復しながら設計する点は、展覧会の「制作過程」を理解する手がかりになります。
《ウニッコ》のように手描きの痕跡を残す図案も、布へ量産するには版と色の精密な調整が欠かせません。手仕事の揺らぎを工業生産の工程へ組み込み、反復可能なプリントに仕上げるところに、マリメッコのプリントメイキングの特徴があります。
3,500種類以上を生んだデザイナーと「生きたアーカイブ」
マリメッコでは、1951年以降に3,500種類を超えるプリントがつくられてきました。マイヤ・イソラだけでも500種類以上を手がけています。過去の図案は保管されるだけでなく、新しい配色や異なる製品に合わせて再び使われます。1964年の《ウニッコ》が現在も衣服やバッグ、食器などへ展開されるのは、その代表例です。
アーカイブを再利用する仕組みがあるため、同じ図案でも「制作年」と「現在の製品」は一致しないことがあります。本展で年代を見るときは、図案が最初に生まれた年、ドレスが制作された年、後年の再解釈を分けて見ると流れが整理しやすくなります。たとえば《ウニッコ》はマイヤ・イソラによる1964年の図案ですが、クリスティーナ・イソラによる2003年の展開も展示情報に記されています。
2009年のマイヤ・ロウエカリ《シイルトラプータルハ》、2022年のアンッティ・ケッキ《セッペル》など、新しい世代の図案も紹介されます。年代の異なる作品を並べることで、特定の一人の作風ではなく、複数のデザイナーがブランドのプリント文化を更新してきたことが分かります。
日本とマリメッコ―脇阪克二・石本藤雄から皆川明へ
日本との関係も本展の見どころです。脇阪 克二は1968年から1976年まで、さらに2001年にもマリメッコのプリントを制作しました。本展では脇阪の《カタラ》と、リーサ・スヴァントによるドレス《リエユ》(1970年)の組み合わせが紹介されます。日本人デザイナーの仕事が、フィンランドのブランド史の中に早い時期から組み込まれていたことが確認できます。
石本 藤雄も1970年代から長くマリメッコで図案を手がけました。1978年の《Suvi》《Taiga》《Talkoot》などが公式アーカイブに残り、後年にも数多くのプリントを制作しています。日本とフィンランドの関係を、近年の北欧人気から始まったものとして見ると、この長いデザイン交流を見落とします。
2026年の本展では、皆川 明がゲストとして参加します。皆川はマリメッコとの対話を重ね、本展のための新作インスタレーションを制作しました。過去の日本人デザイナーの参加と、現在の皆川による協働を同じ展覧会で見ることで、ブランドが外部の作り手を迎えながら更新されてきた歴史が見えます。
プリント・ファクトリーを映像で見る意味
ヘルシンキのプリント・ファクトリーは、マリメッコが「図案の会社」で終わらない理由を示す場所です。デザイナーやアーティストだけでなく、色を調整し、版を準備し、布へ刷り、仕上がりを確認する職人が同じ制作体系を支えています。マリメッコ自身も、この工場をブランドの創造の中心と位置づけています。
本展では、plaplaxが工場を題材にした映像とプロジェクションによるインスタレーションを制作しています。工場でプリントが生まれるプロセスを、映像とプロジェクションによって空間的に表現する展示です。スケッチや原画とあわせて見ると、一枚の原案が複数の工程を経てプリントへ変わる流れを追えます。
旧朝香宮邸のアール・デコとマリメッコ
東京会場の本館は、1933年に竣工した旧朝香宮邸です。文化庁の国指定文化財等データベースでは、設計を宮内省内匠寮工務課、設計担当技師を権藤 要吉、主要室の内装設計をフランス人装飾家アンリ・ラパンとしています。2015年に重要文化財へ指定されました。
外観は装飾を抑えていますが、内部にはガラス、照明、壁画、金属工芸、家具などが組み合わされ、濃密なアール・デコ空間がつくられています。ラパンは主要室の内装に関わり、正面玄関ではルネ・ラリックのガラス作品が使われるなど、建築と装飾美術が一体になっています。
マリメッコのプリントと旧朝香宮邸には、時代も地域も異なる一方、模様を生活空間の中で使うという共通点があります。ドレスでは模様が身体を包み、旧朝香宮邸では壁面、扉、照明、家具などが空間を形づくります。東京都庭園美術館が本展で「建築の細部に息づく模様」を掲げるのは、作品だけでなく会場そのものを比較対象にできるためです。
開催概要|日時指定予約制・料金・休館日
| 展覧会名 | マリメッコ展 模様のちから |
|---|---|
| 会期 | 2026年10月3日(土)~12月20日(日) |
| 会場 | 東京都庭園美術館 本館+新館 |
| 住所 | 東京都港区白金台5-21-9 |
| 開館時間 | 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで) |
| 夜間開館 | 11月6日・13日・20日・21日・27日・28日、12月4日・5日は20:00まで |
| 休館日 | 月曜日。ただし10月12日、11月23日は開館し、10月13日、11月24日は休館 |
| 観覧料 | 一般1,400円、大学生1,120円、高校生・65歳以上700円。中学生以下無料 |
| 予約 | 日時指定予約制。来館前のチケット購入が必要 |
料金の減免、団体料金、フラットデー、夜間開館日の割引などには個別条件があります。チケット販売状況を含め、来館前に東京都庭園美術館の公式ページで最新情報を確認してください。
参考文献・公式資料
- 東京都庭園美術館「マリメッコ展 模様のちから」
- 「マリメッコ展 模様のちから」公式サイト
- 「マリメッコ展 模様のちから」見どころ・展示構成
- 「マリメッコ展 模様のちから」開催概要
- Marimekko “Our story”
- Marimekko “How the classic Unikko pattern was born”
- Marimekko「Katsuji Wakisaka(脇阪克二)」
- 東京都庭園美術館「旧朝香宮邸の内装にかかわった人々」
- 文化庁「国指定文化財等データベース 旧朝香宮邸 本館」
- Aalto University, “Kuvio edellä – Painokangaskuvioiden ja tuotesuunnittelun välinen dialogi kuosien suunnitteluprosessissa”
- Marimekko “Careers at Marimekko – Printing factory”
- Marimekko Annual Report 2010

