2026年11月3日(火・祝)、ゆる歴史散歩会の13人で、埼玉県和光市の理化学研究所(理研)和光地区一般公開に参加しました。企画名は「渋沢栄一から、ニ号研究、ニホニウムまで!年に一度の理研・研究所探検」。最大の目当ては東地区の仁科RIビームファクトリー(RIBF)の巨大地下施設です。東京近郊にこんな大きな施設があることにみな驚き、物理や研究が好きな参加者は特に喜んでいました。
駅から西門まで徒歩約20分。10時30分頃に到着し、受付が終わったのは10時50分頃でした。銀杏並木が美しく色づく構内を通り、受付後は仁科RIBFへ直行しました。
理化学研究所について
理化学研究所は、物理・化学・生命科学・情報科学など多様な分野を扱う自然科学の総合研究機関です。創立は1917(大正6)年3月20日。当初は東京・駒込に研究所が置かれ、戦後の組織再編を経て、1960年代から和光への移転が進みました。
創立の発端は、科学者・実業家の高峰譲吉による1913年の「国民科学研究所」構想。渋沢栄一は実現を支援し、資金や協力者を集める役割を担いました。原子核研究では、1937年に日本初のサイクロトロンを完成させた仁科芳雄の仕事が節目になります。太平洋戦争中、陸軍の依頼によって原子爆弾の可能性を探る「ニ号研究」が行われた歴史もあります。戦後は研究設備と組織の再建が進み、現在の加速器研究につながりました。
創立から戦後再編は理研の歴史、戦時中の経緯はニ号研究・F研究の解説、渋沢の活動は渋沢栄一が形づくった東京でも紹介しています。
理化学研究所 和光地区一般公開 2026
2026年11月3日のテーマは「未来の科学者、集合!」。理研の公式案内によると、研究展示や講演など計63出展が用意されました。開場は10~16時(最終受付15時30分)、参加無料・事前申込制。受付は西門に限られ、南門は開放されませんでした。

西門には113番元素ニホニウムの記念碑があり、科学研究のまち・和光らしい入口です。入場すると、秋の日差しを受けた銀杏並木が目に飛び込んできました。受付を待つ列も伸びており、私たちは20分ほどで受付を終えました。

東・中央・南の各地区で多数の展示が開かれましたが、今回の13人の企画では東地区の地下施設を優先。イベント終了後には、希望者がほかの展示も楽しみました。一般公開の入場方法や公開範囲は開催年によって変わるため、次回訪問時は理研公式の開催案内を参照してください。
仁科芳雄と仁科RIBF
仁科芳雄(1890~1951)は日本の原子核物理学の先駆者です。1937年に完成させたサイクロトロンは、電気を帯びた粒子を磁場の中で繰り返し加速し、原子核を調べるための装置でした。現在の仁科加速器科学研究センターは、その研究の系譜を受け継いでいます。
RIビームファクトリー(RIBF)は、原子核のビームを生み出し、短時間で別の原子核に変化する不安定な原子核などの性質を調べる研究施設です。私たちは仁科RIBFの入口から入り、地下約15メートルのB1Fまで階段を下りました。


地下の実験室では、巨大な加速器と検出装置が連なっています。職員の解説や各所の説明パネルを頼りに、粒子の加速、選別、測定という研究の流れをたどりました。
史上最強の超伝導リングサイクロトロン
最初に見た超伝導リングサイクロトロン(SRC)は、RIBFの重イオン加速を担う中核設備です。理研の公式施設紹介によると、純鉄の遮蔽構造を備えた総重量約8,300トンの装置。重い原子核を光速の約70%まで加速できます。「史上最強」という紹介は、重いイオンを曲げる磁石の強さ(ビーム偏向能力)に由来します。

サイクロトロンは、磁場で粒子の進行方向を曲げ、電場で繰り返しエネルギーを与えます。SRCでは超伝導磁石で強い磁場を作り、分厚い鉄の構造で外部への影響を抑えています。超伝導方式は、必要な電力を大幅に抑えられる点でも重要です。


巨大な機器の横に見学通路が続き、配管や配線、重厚な遮蔽構造を間近に見られました。職員の方が装置を指しながら説明してくれるため、資料の図面だけでは想像しにくい実物の規模が伝わります。


横から見上げる眺めと上から見渡す眺めで、印象が大きく変わります。私たちが特に驚いたのは、この巨大な研究装置群が東京近郊の地下に収まっていることでした。
超伝導RIビーム分離生成装置 BigRIPS
続くBigRIPSは、加速した原子核を標的に衝突させたときに生じる多様な原子核から、研究したい種類を選び出す大型装置です。RIは放射性同位元素のこと。原子番号が同じでも中性子の数が異なる同位体があり、その中には非常に不安定なものもあります。

理研によると、BigRIPSには二つのステージがあります。第1ステージでは核反応で生まれた粒子を集め、大まかに分離します。第2ステージでは一つひとつの粒子を識別し、実験装置へ送り出します。大きな超伝導電磁石を並べるのは、目に見えない原子核の進行方向を制御し、目的の粒子を効率よく選ぶためです。
見学中は超伝導コイルや粒子検出器の説明もありました。装置の表示には「位置検出器」「スリット」「エネルギー減衰板」などの名前があり、位置や飛行の情報を組み合わせて粒子を見分ける様子が伝わります。職員の解説と豊富な説明パネルのおかげで、初めての人にも研究の道筋を追える展示でした。
大きな「核図表2026」では、原子核が陽子と中性子の数によって配置されていました。元素を原子番号で並べる周期表とは異なり、同じ元素の複数の同位体も一目で見渡せます。BigRIPSで発見された新同位元素が色分けされ、まだ調べられていない原子核の世界の広さを感じました。
1/1000秒の超高精度質量測定
別のエリアでは、1,000分の1秒ほどの短時間で原子核の質量を高精度に測る研究に触れました。理研は2022年、「稀少RIリング」で粒子を約2,000周、約0.7ミリ秒飛行させ、周回時間の差から原子核の質量を測る成果を発表しています。測定時間の短さと精度の高さは別の指標であり、寿命の短い粒子を調べるために両方が必要です。
質量は、星の内部や中性子星の合体で重い元素が生まれる仕組みを考える手掛かりです。加速器で作ったビームをBigRIPSで選び、測定装置へ送る連携によって、めったに現れない短寿命の原子核まで研究できます。当日の説明では、この種の設備が動くのは年に2回程度と聞きました。大きな建設・維持コストを必要とする施設だけに、稼働機会の少なさにも驚きました。
地下で見た別の研究装置・SAMURAI
地下では「SAMURAIで斬る」と掲げた大型実験装置の展示も見かけました。RIBFには粒子を作り分ける装置のほか、その粒子を使って原子核の構造や反応を調べるための装置があります。大きな磁石や検出器の姿を通して、研究目的に応じてさまざまな実験設備を使い分けていることが分かりました。
新元素ニホニウムの発見
113番元素「ニホニウム(Nh)」の展示では、その発見までの道のりを紹介していました。元素は原子核の陽子の数で決まり、113番元素は陽子113個の原子核を持ちます。理研の森田浩介らの研究グループは、亜鉛(原子番号30)の原子核をビスマス(原子番号83)に衝突させて、極めて低い確率で起こる融合反応を長年追い続けました。
2004年7月に初めて合成に成功し、2005年と2012年にも観測。崩壊によって生まれる原子核をたどる検証を重ね、2015年に発見者として認定されました。2016年11月30日、元素名「ニホニウム」と元素記号「Nh」が正式決定。日本の研究グループが命名した元素が世界共通の周期表に加わりました。
ニホニウムの発見実験に使われたのは、先ほどのSRC本体ではなく、別の重イオン線形加速器「RILAC」です。さらに原子核の反応生成物を見分ける装置も用いられました。現場の写真や解説を見ながら、複数の施設がそれぞれの研究課題を担っていることを学べました。
参加後のひとときと関連案内
13人で訪れた理研の一般公開。地上の銀杏並木から地下の巨大加速器へ、目に入る景色が一変しました。研究好きの参加者が職員の解説を楽しむ姿も印象的でした。イベント後は希望者でほかの展示にも足を運びました。
渋沢栄一の足跡を街でたどるなら王子・飛鳥山の歴史散歩もおすすめです。今後の企画はゆる歴史散歩会のイベント一覧をご覧ください。
歴史スポットを自分で探すときはTimeWalkもご利用ください。現在地や指定地点の近くにある歴史スポットを地図で探し、自分で歴史散歩を楽しめるWebアプリです。理研の研究施設内は通常の自由散策とは異なるため、見学時は公式案内に従ってください。
